オワリノハジマリ
※ヲトノハナシ・オワリノハジマリ
私は今滅び行く世界を目前にし不思議な気分でいる。悲しくも嬉しくもさらに言うならば怒りさえも無い。なにも感じない、絶望の中にいる。
「せめて、あの時……」
まぁ、こんなことを今更言ったところで何になるのだ。仕方無いことさ。しかしまぁ、せめてでもあの時に戻れたならば。あの人たちが居た、あの時に。彼らの記憶が私の脳裏を駆け巡る。
「これが、走馬灯ってやつなのかな」
私はその一言を最後にちっぽけで貧弱な、それでも生きていた命を落としたのだった。
そうだ。あの人達と会ったのは何時かの夏の日だった。何の代わり映えもないあの日に彼等と出会った。なにも知らない私を『友達』にしてくれたんだ。私の名前は……?私の名前はなんだ?なにも思い出せない。当然か。死んでしまったのだから。
―「え…」
じゃあ、私が今見ているこの景色はなんなのさ。これも走馬灯か?私は今、何かの建物のなかに居る。何の目的で建てられた建物かは解らないし最も興味は無いのだけれど。
「って言うか何で私に体あんのさ。」
そう。私は死んだのだ。確かにあの時死んだはずなのだ。其なのになぜ私には体がある?これは神の祟りか?なにもできなかった私にたいしての醜悪な嫌がらせか?
―彼等ならば、こんなこと分かりきっているのだろうな。
彼等、そう。彼等ならば……
「彼等……誰だ。」
不味い…思い出せない……もしこれが神の随分と餓鬼臭い嫌がらせであるならばバッチリ覚えているのだろうな。うん。私はどういった人間で、彼等とは誰なのかを。しかしどうだ?なにも思い出せない。私は謎の建物のなかに立ち竦む。不味い。此のままでは頭が滅入ってしまう。外に出よう。階段を降り恐らく玄関?であるとされる開閉式のドアの、ノブをガチャリ。
「何故だ、懐かしいな。」
??
なぜ懐かしい。私は振り返り今まで居た建築物を眺めた。家と言うよりは小屋のような。しかしまぁ二階建ての小屋と言うのもなかなかに珍しい。
―まぁ私が知ったことじゃないが
私はその場を後にした。外は思いきりの雑音で埋め尽くされている。案の定、煩い。五月蝿い。何かしらの耳栓が欲しいよ。全く。
「なんだろ、これ。」
私が着用していた(何故だ)ジャージのポケットの中にはイヤホンとMP3プレーヤーが入っていた。何故、私はこんなものを持っていたのだろう。例にたがわず思い出すことは難を極める。
―私は、どうしてしまったのだろう。
私は暫く考えることを止め、ひたすらに歩いた。何処に行こうとしている訳じゃないけど今歩いているこの道が何故だろう。凄く懐かしいの。そして、それこそ何かに導かれるかのようにある一軒の建物に辿り着いたのだった。
「ここ、なんなんだろ…」
随分と立派な建物。取り敢えず(??)中に入ってみることとしよう。
コンコン
ドアを二回ノックする私。
「すみません、何方かいらっしゃいませんか。」
返事はない、代わりに聞こえてくるのは心地の良い音楽。ここは、レコーディングでもしてる建物なのだろうか。
「すみません。」
再びノックし声をかけた私(しつこいな、私)
そんな私に帰ってきた返事、それは
「どしましたぁ。」
随分と随分と軽いのりのそれはそれは胡散臭いお返事だった。
「あの、ここはどういった目的の建物なのですか。」
自らの疑問を投じる。
「はぇ。」
……ん?
この人大丈夫かな。不味いな、ここくらいしか何て言うか宛がない(??)のだ。
「ここは、ある音について調べている団体の本部でして。何か音にたいしての困ったこととかありますか。」
「特にな……」
ある…のか?
あの、やけに周りの音を煩く感じてしまうあの感じ。音にたいする悩み、あるな。
「そういや、一つだけあります。周りの音が煩くて五月蝿くて、耳から離れないんです。まるで、こびりついているかのように。」