彼女との出会い
連載版です。短いです。
今年も一面が白い世界に変わる。
山奥にあるクルルガ村は、その寒冷な気候のために冬の訪れが早い。四つの季節の内、冬が最も長い期間を占めるのだ。
そんな冬季の間は畑仕事を中断し、村人は狩りに勤しむ。近くの山へ毎日登っては、その時遭遇した獲物を狩って捌く。毛皮は梺の町へ売りに行き、金へと変える。獲物の身は干し肉にして保存食にし、油は燃料に変える。作物を売ることが出来ないため、村人たちはこうして冬を越すのだ。
俺は早くに両親が山の事故で亡くなった。
だから、九歳で両親が亡くなってからの十年間はずっと一人で暮らしている。最初は冬を越すのも大変だったが、今では一人で山に登って獲物を狩って生活できるほどになった。早くに独り者になってしまった俺を、村人たちは何かと気にかけてくれ良くしてくれる。だから、今の生活に不満を抱いたことは無い。
今日も一人山に登って、一頭のシカを狩ってきた。冬になると、この辺りの山ではシカがよく捕れる。
俺は帰ってから捌く段取りを考えながら、山を下っていた。
「ん…?なんだ、あの穴」
ふといつもの帰路を歩いていた時、常には無かった一つの大きな洞穴を見つけた。
しかも奥へと続いているらしい。
俺は獲物が早くに捕れて時間が余っていたのと、ほんの好奇心からその穴へと近づいた。
洞穴の中には一人の少女がいた。
大きな岩に横たわる彼女は、ぱっと見俺と同い年くらいか少し若く見える。
長い漆黒の髪が岩全体に絨毯のように広げられ、同じく長い睫で縁どられた瞳は固く閉じられていた。こんなに寒い冬なのに、彼女の顔には生気が満ち溢れ、雪よりも白い肌が透けるように輝いている。
俺は呼吸をするのを忘れた。
今までの人生で、彼女ほど美しい女は見たことが無かった。
だから、何でこんなところで薄着で人が眠っているのか疑うよりも先に、俺は吸い込まれるように眠る彼女の薄桃色の唇に口づけた。
「ん…?」
抜けるような吐息で我に返り、急いで彼女から身を離す。もしかしたら口づけたことがバレてしまうのではないかと冷や冷やしたが、ゆっくりと起き上がった彼女からはその様子はない。
固く閉じられていた瞳がぱちっと開き、何かを探すように視線を彷徨わせた後。
俺を捉えた瞳と目があった。黒曜石のような瞳がじっと俺を見つめ、すぐに嬉しそうに弧を描く。
「ありがとう。あなたが、私の運命の人なのね」
「は…?」
俺は、正直に言うと頭のイタイ女なのかと思った。それか、寒さで頭がいかれてしまったか。
ともかく、俺は目の前にいる彼女が目を覚ましたことへの安堵と驚きから、なるべく平然を装う努力をした。
「お前…一体何者なんだ?どうしてこんなところにいる?」
緊張しながらもそう問えば、彼女は少し困ったように微笑む。
「ごめんなさい。私にも…何も分からないの」
そう言って少し悲しそうに瞼を伏せる彼女を見ていられなくて。
「なら…、取りあえず俺の家に行こう」
気が付いたら、自身の口からついそんな言葉が飛び出していた。
「え…?いい、の?」
驚いたように目を見開き、震える声で問う彼女に俺は「別に構わない」とだけ言うと、捕ったばかりの獲物を肩に担ぎ彼女に手を差し出す。事情はよく分からないが、このままこの寒い場所に彼女を置いていくことはどうしても憚れた。
いや…、どうしても彼女をここに置いていきたくなかった。
縋るような瞳に、一緒に来いという提案に嬉しそうに微笑む彼女。
俺は…きっと、この瞬間に彼女に心を奪われたのだ。