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「すべてを話せ」

「新崎結女……? あの女が、メフィスト……!」

「鬼島首相が!? なんでっ!?」

「……九龍直也……貴様!!」


「おいおい葵!! どうなってんだよ!? 全部説明しろ!」


 ハジメ達一行がダムの堤体から離脱し、森の中に駆け込むまで。

 葵が漏らす一言一言に、ハジメは気が気ではなかった。

 魂の繋がりが強化されて、葵は武士の置かれた状況をリアルタイムで把握しているのだ。


「ごめん翠姉、ハジメ! 私やっぱり武士のところに行く! 九龍と武士が戦おうとしてる!」

「はあ?」

「あの野郎、いつの間に……!」


 迫る正体不明の軍用ヘリの一団から身を隠す為に、悪魔の正体を追った武士と別れ、ダムの堤体から森に身を隠したハジメたち。

 その際、潜在的な敵である紅華の動向には気を配ったものの、九龍の動向に対しては警戒を欠いていた事をハジメは悔やむ。


「待て葵、だったら俺も行く!」

「あたしも!」


 ハジメが抱えていた神楽の体を下ろし、翠もその横でチャリッと腰に差した碧双刃を鳴らしたその時。


「待て、貴様ら」


 唐突に、茂みの奥から一人の女兵士が現れた。


「まったく、多少腕が上がったところで中身がガキのままか」


 北狼・零小隊と同じ森林迷彩姿であるその兵士の姿に、灯太を抱えていた紅華がギョッとして振り返り、朱焔杖を構える。

 術者である神楽が意識を失い、気配を断つ秘術は行使されていない筈なのに、兵士が声を掛けるまでその場の誰も彼女の接近に気が付けなかったのだ。


「……テメエ、さっきの声の奴か! 兄貴をどうした!」


 デザートイーグルの銃口を女兵士に向け、ハジメが叫ぶ。

 だがその銃は、ハジメの横に立つゴスロリ少女の手によって抑えられた。


「ハジメ止めて。銃を下ろして」

「翠っ……なにしやがる」

「引き金を引く前に、確実にハジメが殺されるから」

「はあ!?」


 冷や汗を流しながら翠は、驚愕とも得心とも歓喜とも警戒ともとれるような複雑な表情で、女兵士を睨みつけている。

 その隣で葵も、同じような表情を浮かべていた。


「師匠……」

「紅葉師匠。やっぱり死んでなかったんすねってヒィッ!!」


 間合いを一瞬で詰めた兵士は、突き出した肘打ちを翠の目の前数センチで止めてみせる。


「勝手に殺すな、ガキども」


 刃朗衆における葵と翠の直属の上官であり、戦闘技術の師匠。

 一年前、刃朗衆の里が北狼の襲撃を受けた際に行方不明となっていた彼女、紅葉はニヤリと笑った。


   ***


「無手で俺と戦うつもりか。霊波天刃はどうした。命蒼刃は?」


 備前長船を上段に構えたまま、直也が問う。


「ここに飛ぶ前、葵ちゃんに預けてきました。でも安心してください。ちょっとズル(﹅﹅)かもしれないけど……」


 言いながら、武士は拳を前に差し出す。

 蒼いオーラが拳から吹き出し、一瞬で収束。霊波天刃と同様の光の刀を形成した。


「純粋に僕と葵ちゃんの力とは言えませんが、コレで相手をします」

「……深井の時のように、命蒼刃の力だけで相手をするというのか。ずいぶん偉くなったものだな、田中」

「――っ!!」


 ギャリィィン!!


 『魂の先読み』による剣の軌跡が見えなければ、武士にその初太刀を受けることはできなかった。

 縮地の如く間合いを詰めた直也の袈裟切りを、武士の霊波天刃が辛うじて止めている。

 本来、触れた瞬間に刀身を大きく弾く霊波天刃だが、その力を直也は膂力で抑え込んでいた。


「く……」

「もう忘れたのか田中。その力と戦うのは二度目だ。一度見た技は俺には通じない」


 直也は一瞬、腕の力を抜く。

 そして霊波天刃により弾かれる力を利用して、直也は自分の体を支点に半回転し、逆方向から斬り上げた。


「うわっ……」


 ギィン!


 予想しない方向からの斬撃を武士は辛うじて弾くが、その弾く力をまたも利用して、直也は体ごと一回転。武士を背面から斬りつけた。


「つっ…」


 武士は前方に飛んで上半身が両断されるのを避けるが、背中を大きく斬られ、鮮血が舞う。

普通ならそれで戦闘不能の致命傷。だが蒼い光が瞬いて、傷は一瞬で治癒される。


 織り込み済みの直也は、即座に追撃を仕掛けた。

 武士は先読みで弾くが、繰り返し直也は弾かれる力を利用して剣閃を複雑に変化させる。


 直也自身も意図しない方向から繰り出される、連続した斬撃。

 先読みが通じない攻撃に、葵の反射神経を獲得している武士はなんとか反応するものの、すべてを受けきることは不可能だ。

三撃のうち一撃、二撃のうち一撃と、その身を徐々に切り刻まれていく。

 即座に治癒するものの、ダメージを負ったその一瞬に更に連撃を加えられ、武士はどんどん追い詰められていく。


「何をしている田中! さっきのように空を飛んだらどうだ! 朱焔杖の熱線を止めたバリアは張ってみせろ! お前程度の人間の力で、俺と戦えると思っているのか! 結女さんを殺した異世界の精霊の力とやらを、使ったらどうだ!」


 腕を斬り飛ばされ、脚を斬り飛ばされ、地面に打ち倒される武士。

 次は頭を斬り飛ばそうと、直也が大きく刀を振りかぶる。


「ダメだ、母さん!!」


 叫んだ武士の両瞳が輝く。

 屹立する蒼い光柱に、直也は触れるや否や大きく跳ね飛ばされた。


「……ごめんなさい、九龍先輩」


 光の中で立ち上がる武士の腕も脚も、完全回復している。

 髪は逆立ち蒼く輝き、瞳は青く燃え、逆巻く風が武士を中心に吹き荒ぶ。

 それは人間であり得る筈のない、異形の姿。


「……それでいい。化け物は化け物らしくしていろ」


 飛ばされた直也は跳ね起き、再び刀を構え直す。


「教えてもらうぞ。結女さんと同じだという、その力の正体を」


 直也の呟きに、二人の戦いを見ていた鬼島がニヤリと笑った。


  ***


「葵。念話とやらのリンクは切れるか? 今はこちらの話に集中しろ」

「けど、師匠……」

「黙れ。今の田中武士が、人間一人にどうこうできる存在でないことはお前が一番分かっているだろう」


 今すぐにでも飛び出しそうな勢いだった葵に、紅葉はピシャリと言い放つ。


「不死身の体に、お前の体術。それに霊波天刃と先読みの目。その上で空を飛び、朱焔杖の熱線も止める力も持つとなれば、相手が誰であっても負ける方が難しいだろう」

「なんか……すげえチートなキャラになったな、武士……」


 改めて列挙された武士の力に、ハジメは率直な感想を漏らす。


「けど、武士はアーリエルさんの力を使わないで戦うことに拘ってる。それに鬼島首相が同じ場所にいる。武士が絶対に大丈夫なんて言いきれない!」


 反論する葵の言葉を聞いて、翠が目を白黒させる。


「葵ちゃん葵ちゃん、あーりえるって誰? ってか鬼島がここに来てるっつーの!?」

「あああ! もう状況がわかんねー! やっぱ全員で一気に突っ込もーぜ!」


 半ば自棄になったハジメに、紅葉が脛に蹴りを入れた。


「バカが。神楽の罠に集団で突っ込んで壊滅しかけた愚を、また繰り返すつもりか」

「ってーな! 翠たちの師匠だかなんだか知らねえけど、何様だテメーは!」

「あっバカ…」


 翠が止める間もなく、紅葉の胸ぐらを掴もうとハジメが手を伸ばした瞬間。


「えっ……?」


 ハジメの視界が180°回転する。

気づけば紅葉の遥か後方に投げ出され、背中を地面にしたたかに打ちつけていた。


「あ、あれ? なん……」


 何が起こったのか理解ができないハジメ。

 黙して状況を見守っていた紅華は、ただハジメの腕に片手で触れただけにしか見えなかった紅葉が、大して力も込めずハジメを投げ飛ばしたその力量に、彼女がこの場の面子でもっとも手強い相手であることを理解する。


「お前はそこで黙って聞いてろ、御堂ハジメ」


 言い捨てると、紅葉は刺すような鋭い視線で葵を射抜いた。


「……葵」


 かつて訓練で毎日のように受けてきた。有無を言わせないプレッシャー。

 葵は懐かしい感覚を覚えると共に、紅葉の言葉に従う以外の選択肢がないことを知る。


「<偽りの英雄>と繋がって知ったことを、すべて話せ。田中武士の力はいったい何だ? アーリエルとは何者だ? そして巫婆フーポウ……田中武士が悪魔メフィストと呼んだ存在。全部を説明しろ」


   ***


わたし(﹅﹅﹅)の事を知りたいの? 九龍直也」


 武士の口調が変わり、その表情も柔らかい女性のものに変化する。

 髪と瞳を蒼く輝かせながら、武士は……<アーリエル>は笑った。


「……正体を現したな、化け物」


 油断なく刀を構えながら、直也は吐き捨てる。

 後ろでは、鬼島大紀が二人の会話を見守っていた。


「そうだね。わたし(﹅﹅﹅)は確かに、あなた達この世界の人間にとっては化け物。メフィストと同じね」

「結女さんはこの世界の人間だ。貴様とは違う」

「本当にそう思っているのなら、どうしてわたし(﹅﹅﹅)の事を知りたいの?九龍直也、あなたもメフィストの支配を受けながら、心のどこかで分かっていたのでしょう? 新崎結女の異能に。人外の能力に」

「……」

「全部を話します、九龍先輩。それに鬼島首相」


 武士の面影を取り戻し、話を黙って聞いていた鬼島にも話しかける。


「あなた達が争う必要はない。すべては異界からやってきて、ゲームのようにこの世界を弄んだ悪魔・メフィストフェレスの歪んだ欲望が原因なんです」


  ***


「白坂さん? どうして……」


 御堂継が、驚愕に目を見開く。

 インカムを奪っていった北狼・零小隊の女兵士に言われた通り、白坂に背負われてダムの管理棟までやってきた継は、信じがたい物を目にしていた。


「こっちっす……」


 ダムの周辺まできた白坂は急に虚ろな目になり、継を背負ったまま管理棟の中へと入っていった。

 森の中を車椅子で移動できるはずもなく、継は白坂に頼る以外に移動手段がない。

何を言っても反応のない白坂にされるがまま、継が連れていかれたのはダム管理棟の一室。

そこには、北狼の零小隊が持ち込んだと思われる機材が山積みされていた。


「魂を奪われし人形の如きつわもの。山々の加護の折り、水の集いし其の場所に携えてきたるは、稲妻を従えし黄王の雷槍……」

「白坂さん、その言葉は……」


 予言。

 白霊刃の予言。

 彼の名前は、「白」坂剛志。

 御堂征次郎は何故か、特筆した戦闘力もない彼をこの戦いに同行させた。

 女兵士が漏らした、「御堂征次郎がもっとも隠したい血脈」という言葉。


 継の中で、パズルのピースが組み上がっていく。


「……これっす」


 白坂が機材の山から持ち出したのは、大人の身長程はあろうかという、長方形のケース。

 ナンバー式のロックが掛かっていたそれを、白坂は何の問題もなく解除する。

 その中から現れたのは。


「白坂さん? どうして……」

「黄雷槍。雷を制し、電子の世界を支配する九色刃っす」


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