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「炎神VS二丁拳銃」

(……言わんこっちゃない! バカ姉貴が!)


 儀式場の隅に座り込んだ灯太が、内心で毒づく。

 御堂組の時沢顕悟と言えば、彼らが擁する戦闘集団の中でもトップクラスの実力者だ。

 その影の名声は御堂組組長の懐刀として広く知れ渡っており、如何に紅華が九色刃の超常能力を持つとはいえ、容易に勝てる相手ではない。

 その時沢に対して正面から決闘を挑むなど、愚かにも程があった。


(自分の手で憎い相手を正面から屈服させたいとか、単細胞直情型脳筋バカ姉貴め……。そこに御堂のダブルイーグルも加わるとか、これじゃあ……)


 管理者として卓越した魂の力のコントロール能力を持つ灯太は、朱焔杖の力を遠隔操作する事ができる。

 紅華の状況を正確に把握し、彼女の反応が及ばない部分までフォローできるのだ。

 この能力を持ってして、紅華と灯太は麒麟でトップクラスの戦闘力を得ていた。


 そして灯太は今も、時沢とハジメを相手にする紅華のフォローをしている。


(こっちは御堂征次郎を急襲したつもりでも、奴らは対朱焔杖の防御策を講じている……。ボクがフォローしなきゃ、バカ姉貴一人じゃ……)


「……おい、オニイチャン。そろそろ、儀式始められるけど?」

「うるさい、黙っていろ! 儀式は延期だ!」


 背後から神楽に声を掛けられるが、それどころではない灯太は余裕のない叫びを返す。


「灯太君。儀式の延期は構わないが、説明してくれないか」


 ただ事ではない様子の灯太に、直也も不審に思い声を掛ける。

 しかしさすがの灯太も、直也や神楽に対し状況を誤魔化しながら紅華のフォローはできなかった。


「……少し放っておいて下さい。どうせ薄々は察しているんでしょう? 後で説明します」


 言い捨てると、紅華の戦闘に意識を集中する。

 今ここで紅華に何かあっては、朱焔杖の契約を解除する意味など無いのだ。


 焦る灯太に、困惑する直也。

 そしてその二人を、神楽はひどく愉快そうに眺め続けている。


 ***


「時沢さん!!」


 自分を庇って炎を浴び、地面に転がった時沢にハジメは駆け寄る。


「ハジメさん、逃げて……下さい、組長を……」

「あんたを置いていけるかよ!」


 時沢は、辛うじて特別製の防火布を纏って飛び込み、ダメージは最小限に食い止めている。

 しかし、露出していた両脚の膝から下は重度の火傷を負い、立ち上がれるような状態ではなかった。

 手にしていたイングラムもバレルが熱で歪み、発砲不能な状態となっている。

 また超難燃性アラミド繊維の防火布も、二度の朱焔杖による攻撃を防ぎほぼ炭化しており、三度目の炎には対応できそうになかった。


「安心しろ、御堂ハジメ。二人とも逃がすつもりはない」


 炎を纏った戦女神が、冷酷に言い放つ。

 目を瞑り、また見開いて、ハジメに問いかけた


「……他の刃朗衆はどうした? 貴様のように、どこぞに潜んで隙をうかがっているのか?」

「よく言うぜ。テメエにあんな火傷を負わされて、昨日の今日で動ける訳がねーだろうが」


 昨日のホテルでの戦闘で、紅華自身の手により葵と翠は深刻なダメージこそ回避できたものの、露出していた皮膚の表面が火傷を負い、今の時沢と同様に戦闘不能状態に陥った。


 そう、紅華には認識されているはずである。


「……そうよ。心配性過ぎるのよ、灯太は」


 急に、それまでのトーンと異なった柔らかい口調となる紅華。


「なんだ?」


 違和感を抱くハジメだが、些細な事に構っている暇はない

 先程撃ち尽くしたデザートイーグルの弾丸を、手早くマガジンごと入れ替える。


「……!」


 殺気に反応し、ハジメは横っ飛びにジャンプした。

 コンクリートの地面を熱線が走り、それまでハジメが居た場所に一条の痕跡を残す。


「よく躱した」

「くそったれが!」


 ガンガンガン!!


 双砲が火を噴くが、またも朱焔杖の炎盾に阻まれる。


「無駄だ。もう『炎盾』の守りに隙はない。そんな豆鉄砲が届くものか」

「50口径のマグナム弾を豆鉄砲呼ばわりかよ……アレが間に合っていれば、テメエなんざ!」

「何か策があったのか? ……わかっているよ灯太。もう遊びは終わり。さっさとコイツらを消し炭にして、御堂征次郎を連れて行くから」

「させっかよ!!」


 ハジメが弧を描くように走り出す。

 後を追うように、朱焔杖の熱線が閃いた。

 その薙ぎ払いを、ハジメは咄嗟に前転して頭上にやり過ごす。


 ガンガンガン!!


 三連射。炎盾で阻まれる。

 再び閃く熱線。バク転で回避し、


 ガンガンガンガン!!


 四連射。炎盾の前には通じない。

 三度閃く熱線。横っ飛びでハジメは更に回避した。


「……驚いたな。まさか、貴様にも魂の軌跡が見えるのか?」

「冗談。武士みてーなビックリ人間と一緒にすんな」

「ならば、なぜ躱せる?」

「テメーが大した敵じゃねえからだよ」

「……」


 一連の攻防で、ハジメは確信していた。

 朱焔杖は、熱線を放ちつつ炎盾を展開することができない。

 つまり、こちらの銃撃を防いでいる間には攻撃されないということだ。

 そして、こうして正面から対峙して熱線が放たれるタイミング。

 それはハジメがこれまで何度も経験してきた、銃を持つ敵を相手にした時とほぼ変わらなかった。

 ましてハジメも、九龍直也ほどではないにしても殺気に反応することができるのだ。

 九色刃の攻撃は魂の力が使われる以上、必ず殺気が発せられる。

 こちらの銃撃で紅華の攻撃タイミングを制限し、経験則と放たれる殺気を頼りに大きく回避行動を取る。

 かなりギリギリではあったが、熱線を避けることは可能だった。


「さすがは『ダブルイーグル』というわけか。面白い」

「!!」


 ハジメが弾かれるように駆け出す。

 二条、三条と連続して閃く熱線。


「くっ……!!」


 ガンガンガンガンガン……!!!


 辛うじて回避、デザートイーグルによる銃撃。

 連射の間は熱線は止むものの、こちらの攻撃が通らなければ、それ以上打つ手はない。


 ガキンガキンッ……


 弾切れの空しい音が、ハジメの二丁の愛銃から響いた。


「さあ、どうする御堂ハジメ? 次のリロードを待ってやる程、私は優しくないぞ」

「なめんな!!」


 ハジメは横へ駆け出しながら、ボタン操作でマガジンを放出した後、二丁拳銃を宙空に放り投げる。

 そのまま両手で腰に手を回し、予備マガジンを抜こうとした。

 二丁拳銃の空中リロードだ。


「ふざけた真似を……!」


 だが、如何にハジメのリロード技術が卓越しているとはいえ、その隙を見逃すほどに紅華は甘くない。

 駆けるハジメには回避できても、宙を飛ぶ拳銃には熱線の回避運動など不可能だ。

 朱焔杖の熱線が、二丁のデザートイーグルを狙う。


 一条目の熱線が銃に直撃する。

 そして、二条目の熱線も正確に放たれようとしたその瞬間。


「甘え!!」


 ハジメが腰から抜いたのは交換マガジンではなく、既に装填済みの新たな二丁のデザートイーグルだった。


「―っ!!」


 ガンガンガン!!


 熱線とほぼ同時に、新たな銃が連射される。


(――姉貴っ!!)


 この場にいない管理者の意志が、朱焔杖の力を熱線攻撃より炎盾の防御に優先させる。

 しかし、初弾の防御には間に合わなかった。


「ぐぅっ!!」


 紅華の肩を掠めるように被弾する。

 掠めただけでも、50口径のマグナム弾による衝撃は通常の拳銃の比ではない。

 弾かれるように紅華の体は吹き飛び、朱焔杖が手放され地面に転がった。


「おおおおおっ!!」


 ガンガンガン!!!


 ハジメは雄叫びと共に倒れた紅華に突進しながら、二丁拳銃を連射する。

 だが地面に転がった朱焔杖から、管理者の意志でなおも炎盾が展開された。


(直接手にしてなくてもバリア張れんのかよ!? けどっ)


 銃撃は防がれているが、炎盾の効果範囲は紅華が朱焔杖を手にしていた時よりも明らかに小さい。

 光幕の小ささにそれを察したハジメは、転がる朱焔杖の反対側に回り込みながら、紅華に接近する。


「……このっ!!」


 その隙に、倒れた紅華は転がった朱焔杖に手を伸ばした。

 見えない糸で引かれるように朱焔杖は宙を飛び、紅華の手に収まる。


「――っなんだそれ!?」


 手品のような朱焔杖の挙動に、ハジメは驚愕する。


「ハァッ!!」


 紅華の猛烈な朱焔杖の一撃が、ハジメの頭部を襲った。


 ガキィ!!


 直接の打撃攻撃を、ハジメは左のデザートイーグルの砲身で受け止める。

 同時に至近距離で右の銃口を紅華に向けた。

 紅華は杖の逆の先端を跳ね上げ、その銃口を逸らす。

 ガァン!!

 放たれた右の銃弾が、紅華の髪を掠めて宙を飛ぶ。

 至近距離となったハジメが、左の蹴りで紅華を蹴飛ばし距離を取ろうとする。

 紅華はその蹴りを右膝でガード。

 とっさにハジメは左の銃を捨て、朱焔杖を掴むと、引き寄せながら紅華の頭に頭突きをかました!!


「ぐっ……、このっ!!」


 そのまま朱焔杖を奪い取ろうとしたハジメだったが、紅華は予想以上の膂力で朱焔杖を手放さない。

 今度は逆に紅華が朱焔杖を引き寄せ、そのままハジメに頭突きを仕返した!!


「がっ……! てめえ!!」

「いいかげんにしろ!! この御堂組がぁ!!」


 朱焔杖から猛烈な熱風が吹き荒んだ。


「うおあっ!!」


 左手に火傷を負い、手放した直後に衝撃波のような熱風が襲って、ハジメの体は弾け飛んだ。


「熱つっ……!!」


 チリチリと燃える服を、転がって消すハジメ。

 近接戦闘中の熱風攻撃は、使い手の集中力の問題でその熱量は遠距離攻撃時よりかなり低減していた。

 そうでなければ、ハジメは今頃消し炭になっていただろう。


「はあっ……はあっ……お前達が初めてだよ、朱焔杖相手に、ここまで戦えた奴は」


 コンクリートの地面を転がるハジメを見下ろして立ち上がり、紅華は朱焔杖を構え直す。


「だが、これで終わりだ」

「……くそが」


 距離を保ち、朱焔杖の狙いがハジメに定められた。

 服についた火は消したが、全身に熱波を受けたハジメのダメージは大きく、これまでのような回避行動はもう不可能だった。

 右手にはまだデザートイーグルが握られているが、右腕にもかなりの火傷を負っている。

 朱焔杖の熱線よりも早く銃口を向けられる可能性は、限りなく低いだろう。


「最後に、言うことがあれば聞いておいてやる。御堂ハジメ」

「……お優しいことで。なら、最後にひとつだけ」


 膝をついて紅華を見上げるハジメが、ニヤリと悪どい顔つきで目を細めて笑った。


「御堂組や刃朗衆の事はバカにしても、俺たちのことは甘く見んじゃねえ」

「……なに?」


(姉貴っ!!!)


 灯太の念話の声に、紅華は反射的に振り返る。

 その眼前に。


「翠お姉さん参上ぉ!!」


 ゴスロリ少女が持つ一振りの曲刀が、迫っていた。


「クッ!」


 ガキィン!

 驚異の反射神経で身を引きながら、紅華は朱焔杖で必殺の斬撃を受け止める。


「誰に断ってハジメに火ぃつけてんだ、この放火魔女ぁああ!!」


 気配を消して背後からの斬撃を受け止められた翠だったが、動ずることなく碧双刃の湾曲を利用して、体重を乗せて朱焔杖を引き寄せた。


「このガキっ……!」

(ダメだ姉貴っ!!)


 ガンガンガンガン!!!


 目の前の翠を燃やそうと意識を向けた紅華だったが、灯太によりその力は背後の炎盾に集中される。

 直後、背後からハジメのデザートイーグルが火を噴いた。

 銃弾は炎盾で防がれるが、当然前方の翠に対しては無防備になる。


「貴様らっ……!」

「くらえ、必殺のっ……ムーンサルトキック!!!」


 碧双刃の湾曲で引っかけた朱焔杖を中心に、体を引き寄せながら鉄棒の逆上がり要領で、翠の体が一回転する。


「がぁっ!!」


 強烈な翠の蹴りが、紅華の顔面を捉えた。

 紅華は背中から倒れ込み、朱焔杖は翠がそのまま翠が引き寄せ、その手の内に収まった。


「ハジメに火を点けるのは、お姉さんの役目って決まってんのよ」

「何が誰の役目だっておい!?」


 ヒュンヒュンと左手で碧双刃を振り回し、右手で奪い取った朱焔杖を肩に乗せポーズを取る翠。

 聞き逃せない台詞に、ハジメは思いっきり突っ込まざるを得なかった。



「……痛っ」

「ハジメ、大丈夫!?」


 突っ込んだ勢いで火傷が痛み、ハジメは顔をしかめる。


「大丈夫だ。てか翠、碧双刃の片割れはどうした!?」

「いや、それは、その」


 一本の碧双刃しか持っていない翠を見て、ハジメは問い質す。

 翠は答えに窮するが、問いかけたハジメがその追及より先にすべきことを思い出した。


「待て、話は後だ。翠、ぜってー朱焔杖を放すなよ」

「え? う、うん」


 ハジメは倒れたままの紅華に銃を向ける。


「紅華。これぐらいでくたばるテメエじゃねーだろ。起きやがれ」


 ゆっくりと体を起こす紅華。

 肩を震わせ、声に出さず笑っているようだった。

 髪が顔にかかり、その表情は見えない。


「……何がおかしい? 朱焔杖はこっちの手の内だぞ」

「……それで?」

「投降しろと言っている」

「武器を奪って、それで優位になったつもりか……これで甘く見るなと言う方が、無理というものだろう?」


 ニヤリと笑う紅華の言葉に、ハジメはハッとする。


「……翠っ!!」


 振り返り、背後に立っていた翠の手から朱焔杖を奪い取って放り投げる。


「えっ!?」


 絶対に放すなと言われた朱焔杖を当のハジメに奪われ、一瞬混乱する翠。

 直後、放り投げられた朱焔杖から熱風が吹き荒んだ。


「ぐああっ……!」

「ハジメっ!!」


 熱風から庇うように、ハジメが翠を抱え込む。

 熱風に曝されて、燃え上がりこそしないが無視できない熱量に、ハジメは耐える。

 放り投げられた朱焔杖は、熱波を発しながら不自然な軌道を描き、またしても紅華の手の中に収まった。


「なっ……嘘でしょ!?」


 重力を無視した朱焔杖の動きに驚愕する翠。

 その前で、ハジメは手にしたデザートイーグルを紅華に向けて発砲した。

 炎盾が発生し、熱風が吹き止む。


「来い翠!!」


 その隙に、ハジメは全身を焼く痛みに耐えながら、翠の手を引いて階下に通じる階段へと駆け込んだ。


 脚を焼かれ、動くことのできない時沢を屋上に残して。


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