日常という変化
約一月が過ぎた。
その間日常とかけ離れた日常が繰り広げられた。
猪を解体したり、燻製にしたり、寝床になる小屋を作ったり、熱を出して死にかけたり、熊に襲われたり、地図を作ったり、化け物に襲われたり、燻製にしたり、ウサギっぽい何かに襲われたり、燻製にしたり、……って後半襲われたり燻製にしたりしか憶えがない。
ほぼ痛みは無くなってきた。けど、傷後がまだ生々しく残っている。柳吉は、これ傷残るなー治っても。とか言っていた。へこむ。
街道を見つけた。会議を開いた。
「さて、アイアイはどうしたらいいと思う?」
「パンダか!いい加減別の呼び方にしてくれ、毎度訂正すんのしんどい。……誰か通りかかるのを待つに一票」
「ガァ!」
ぼくらの後方に行儀良く座っている大きなクマは大人しく返事をした。彼に襲われた時柳吉は互角の闘いを繰り広げ、ついには家来にしてしまった。彼はクマの事をアイアイと呼ぶ。
「おいおい、今はアイアイに聞いたんだぜ?アイちゃんちゃんじゃねーよ。アイちゃんちゃんには道見つけた時きいたろ?」
やめろ恥ずかしいから。名前言わなきゃ良かった。こいつ面倒くさい。むっし!と薫製肉をかじる。味ってか素っ気しかない。
「ガァガルル、ガァガァ」
「なる程ね。妙案だ」
うんうん、と神妙に頷いているが、相手はクマである。
わかっているのかなこいつ。
「オレは直ぐにでも準備してから街道を行くのが良いとおもうが、二人の意見も尊重しよう」
二人じゃないし。一頭はうんうん頷いている。お前言葉わかるのか……。
「一週間待とう!その間鳴子と立て看板を置いて通る人を待つ!」
クマがばしんばしん拍手を打つ。クマって呼ぶのやめようかな。明らかにぼくの知ってるクマと違う。あー異世界にいるんだなーっと、改めて実感した。
その晩の事だった。
二つの月は満ちて、辺りの獣は煩いほど騒いでいた。
からん、と鳴子がなった。
柳吉が真っ先に起きた。つられてぼくも街道へと向かう。
深夜の訪問客にはろくなのがいない。
……不吉をもたらす。そんな予感がした。
クマの背中に乗って着いた先には、横転した馬車があった。馬は死んでいるようだ。
その周囲では映画のワンシーンみたいに剣劇が繰り広げられていた。今にも馬車は制圧されそうになっている。だが、護衛ふたりが必死で守っていた。
どごん!と土煙を上げて多勢と馬車との間に到着した。
「柳吉!見っ参!!」
「馬鹿か!?」
クマが唸り声を上げる。多分何となく。どちら側が僕らの味方かわからないけど、目の前の敵意に反応したんだと思う。
「よーし、双方武器をひけぃ!攻撃してきた奴から敵とみなす!」