とりあえず異世界というのはわかった。
空には巨大な月と小さな月。
配列の違う星々。
遮る邪魔な灯りは無く、自身の輝く力で闇夜を照らしていた。
ここ最近ずっと空も何も見ていなくて、殆ど違和感を感じとれなかった。そういえばそんな空じゃなかったような。
夢遊病のように毎晩外を歩いていたのに、見ていたのは足下だけで、見上げる事もしなかった。
暗すぎるから。
ぼんやりした頭で考える。
いつ此処に来たっけ?後方の林の中にアスファルトが無い。ぐらつく気分だ。
怖いのは苦手だ。
よくわからない生き物の声が時々聞こえてくる。なんでぼくは此処にいるんだ?
枝を踏む音が辺りに響く。其方に向くと大きな白い犬がそこにいた。吠えられた。ガァアア。
正直現実感が無くて恐怖よりも驚きが先にきた。社会見学の時に見た狼の剥製に似ているなとその時思った。襲ってきた。
とっさに左腕を前に出すと噛みつかれた。
衝撃と痛みでぼんやりしていた思考がクリアになった。
「わ、アアアアア!!!??」
必死にふりほどこうとしたけど、牙は食い込む。更に爪で身体や右手を切り裂かれる。死ぬかもしれない。嫌だ!視界の隅に何かが飛んできた。
「オラァ!」
ギィャン。
狼の悲鳴と共に横に吹っ飛ばされた。
食い込んだ牙が腕を抉る。
グルルルル。突然の介入に狼がうなる。
「大丈夫か!?」
木の棒を握った少年がそこにいた。
見たことがない制服。けど、多分同い年だとおもう。
そこまで確認したら、急に左腕が熱で爆発しそうになった。声も出せない。
「ったく何なんだここは、月が2つあるわ、狼はいるわ、なぁ?悪だぜおい!」
同意するけど、返事が出来ない。呻いた。
「っと、やばそうだな。早く手当てしねぇと」
そういって、そいつは呼吸を整えた。雰囲気がガラッとかわる。全身が刀になったみたいに。
「たたっ斬る」
僕を助けた一撃は手加減していたんだと判った。
白い狼の頭は爆散した。痛みを忘れて思わず見入ってしまった。
「っし、立てるか?」
首を横に振る。痛みで動くどころじゃ無い。
「傷口を洗わないと化膿する。近くに川があったから、そこまで行こう。足は大丈夫みたいだな。立てよ」
こんな痛いのに立てるわけ無いだろ!と、思ったら尻を蹴られた。
「まだ狼はいる。さっきのは偶々一匹だけだったんだ。ここにいたら死ぬ」
「痛……立て……無……い」
っち、と舌打ちが頭上から聞こえた。痛みと悔しさで涙目になる。なんでこんな扱いを受けなきゃなんないんだ。胸倉を掴まれ立たされた。
「川は直ぐそこだ。行くぞ」
僕は呻きしか返せなかった。