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初めての恋はオンライン

作者: 薬指の社

「ふふふふふ……」

 思わず気持ちの悪い笑みが出てきてしまう。

 今日は記念すべき彼女との初デートだ。先週にはわざわざ今日のために服を買ってきた。今もこうして鏡の前で歯を磨き、優しい笑顔作りの練習をしている。

 時計を見ると待ち合わせまで二時間。

「よし!」

 そろそろ行くか。

 僕は歯磨きを切り上げ自分の部屋へ向かった。部屋につくと机にまっすぐ向かい、ゲームハードを持ち上げ軽い動作確認を行う。

 ……ゲーム起動。

「ようこそ 白馬の竜騎士 様」

 数秒の暗転の後、僕はVRMMO『VRギャルGame』の世界での自室のベットに横たわっていた。

 かなり安めのマンションの一角で特別な家具があるわけでもなく、かなりぼろい。彼女をこの部屋に呼ぶことは当分の間ないだろうから投資はしてこなかったが、今日を境に僕たちの関係は急速に発展するはずだ。来月までにはいつでも呼べるように引っ越そう。

 そのために今日は絶対に成功させねば。

 二時間前といっても時間が有り余っているわけではなかった。このあとはダンジョンに潜って初デート記念のプレゼントを用意するつもりだった、それも普段なら絶対に潜らない上のレベルのダンジョンの最下層のアイテムだ。いつもとは一味違うプレゼントを手に入れるために急がなきゃいけない。

 装備を現時点の最強装備に変更し、回復アイテムを用意する。

「おっす!」

 リア友のETONからだった。こいつには今日が初デートであると告げている。

「本当に俺が手伝わなくてもいいのか?」

「今日は大切な日だから俺一人で行く」

「氷の神殿はかなりの高レベルマップだぞ? 正直、今のお前が一人で行くのは無謀だし、失敗したら何をプレゼントするんだ? 代用品は準備してあるのか?」

「もし……失敗したら、そのときは事情を話して謝る」

「お前のその純粋さが彼女に受け入れられたんだろうな。まぁ名前は厨二病だけどね」

 ちなみに俺の名前は白馬の竜騎士。

「それは、言わないで……」

 ごめんなさい、去年の僕は厨二でした。一年間あまりにも痛い言動のせいでこの恋愛ゲームでろくな恋愛ができない一年間を過ごしたのだ。ETONなんて詳しくは教えてくれないが彼女が4人もいるらしい。レベルも装備も俺より弱いのに、弱いのに!

「じゃあ、行くよ。大勝負に」

「ん? あぁ、頑張れ! 俺は落ちるわ」

「了解、今度彼女を紹介するよ」

「OK! 約束な」

「勝利も約束してやるよ」

「邪竜剣でも使うのか?」

「うるせーよ。そんなスキルは無い。俺の厨二心の中にしかな」

 そして俺は飛び出した。氷の薔薇を入手するために。

   ******   

「はぁはぁ……」

 ついに僕はボスの部屋の前にたどり着いた。

 道中ですでに回復アイテムの大半を使い果たし、時間もダンジョンに入って一時間ほど経過している。

 本当ならもっと休みたいところだが時間がない。僕はゆっくりとボスの部屋の扉を開けた。

「ふぇー」

 僕の視界でボスを捕らえるのと同時にボスが咆哮した。

 現れたボスはアイスドラゴンと表記されているが、見た目は完全にホワイトタイガーもうドラゴン要素はまったく見られず、四足歩行している。

 僕は剣を構える。攻略サイトでボスの動きは頭に入っている。

 うまくいけば道中の雑魚敵よりも簡単に倒せるはずだ、アイスドラゴンの物理攻撃を剣で受け流し、口から吐き出される氷のブレスを横に跳んで回避する。

 よし、いける。思ったよりアイスドラゴンの動きは遅いし、氷のブレスも意外と範囲が狭い。

 氷のブレスの後の硬直時間にすかさず剣を振り下ろす。

 減ったのかが疑わしいほどごく少量のHPバーが削られた。

 時間はかかりそうだが行ける!

 ゆっくりと、そして着実にアイスドラゴンのHPを削っていき、半分以上がなくなった。対する俺はほとんど攻撃を受けてないに等しい。

 俺は定石通りに剣を振りかざす、アイスドラゴンの横に見事命中し、僕は一歩後ろに下が――。

「っんが……」

 アイスドラゴンの前足が僕を吹き飛ばした。エリアの隅まで引き飛ばされ、僕のHPが半分ほど削れていた。

 急いで回復アイテムを取り出し、同時にアイスドラゴンの動きを観察する。目の色が変わっていた、黒から赤に、一部のボスモンスターに見られる特徴だ、一定の体力を削ると姿が大きく変わって、凶暴性が増す。

 HPの減り方を見る限り攻撃力はあがってない、動きが速くなるタイプだ。

 サイトにはなかった情報だが、動きが早くなるだけならやりやすい、一段ギアをあげるだけで対処は簡単だ、そしてドリンク型の回復アイテムを口に運ぶ。

「うっ……」

 このゲームはほかのVRMMOに比べて痛覚が敏感になっている、『恋の痛みを知ってるあなたは物理的な痛みをもろともしません』というキチガイじみた公式ホームページのセリフの通り無駄にリアルな痛みを体感できる。日本にはMが多いのか、それが『恋』のシステムを抜きにしてもこのゲームが人気になっている一因となっているらしい。

 HPが一度に半分削られた時の痛みは生半可なものではなかった。

 けっこうやばいかも。

 アイスドラゴンが僕に視点を合わせてこちらに突進してくる。

 痛みを堪えつつジャンプで回避、そのまま回復アイテムを一気に喉に流し込む。ちなみに味は感じない。

「負けるか!」

 勢いをつけたジャンプ切り、剣の速度が速ければ比例してあたえるダメージも大きくなる。

「くそっ」

 毒状態の時のように痛みが継続していて長期戦には時間も体も耐えられそうにない。

「とどめ、だ!」

 渾身の切り上げがアイスドラゴンの前足とぶつかる。

 ……重い。

 アイスドラゴンが咆哮する。死ぬ直前の最後の力か……。

「プログラムのくせに」

 口を大きく広げたアイスドラゴンと目が合った、口からは白い煙があふれ出ていた。

 氷のブレスだ!

 気が付いた時にはすでに氷のブレスが吐き出され再び僕は吹き飛ばされる。

 左腕が……とっさに防いだ左腕が凍っていた。

 くそっ、終わりか。

 アイスドラゴンは瀕死の状態のまま僕のほうにゆっくりと向かってきていた。

 綾乃さん。ごめん。綾乃さんはダンジョンに潜ったことがない。初めて会ったときも戦闘が怖いらしくダンジョンに潜らずに人との会話や、職人スキルで服を作った利益でほのぼの生活をしていた。

 そんな綾乃さんに服の素材集めを依頼したり依頼されたりしている間にいつのまにか僕は彼女を好きになっていた。

 やっとの思いで告白してやっと一回だけおためしデートの約束をしたんだ。

 綾乃さんは優しいから無理しなくても怒ったりはしないだろうな……。

 そういえばETONとも約束したっけ、あとで謝らないと。

 ちらりとアイスドラゴンを見る。意外と遠くにいる。ゆっくりゆっくりと歩いていて止まっているみたいだ。

 綾乃さん約束を破るのは怒るかも、怒るってことにしよう。

 バグかなんなのかしらんがアイスドラゴンが止まって見えるんだ。

「人生最大の悪あがきだ」

 利き腕は凍ってないんだよ。右腕でしっかりと剣を握り直す。

「久しぶりに使ってやるよ。我が秘奥義『邪龍昇進我端永逝剣』スーパーウルトラアルティメット綾乃さんLOVEポーションエクストラバージョン!」

 防御も回避も一切せずに思い切り踏み込んでジャンプする。これでアイスドラゴンが死ななければ俺の負けだ。

「我が剣の前でチリとなれ!」

 ただただ力ませに切りつけた。

   ******   

 実にかっこいい必殺技で見事死闘に勝利した僕は……待ち合わせのレストランの前で悶えていた。

 厨二は出さないと決めていたのに……誰にも見られていないのが不幸中の幸いだった。

「よし!」

 僕は気を取り直してスーツの襟を正す。ここに来る前に装備を紺のスーツに変更していた。

 デートコースはプレイヤー経営のレストラン。

 それ以上のプランは何も無いが、それなりの値段の店だからか、カップルの記念日とかによく利用されているらしい。初のデートには十分だと判断した結果だった。

 このゲームは味覚が無いのでレストランは純粋に店の雰囲気を楽しむ場所だ。

 店に入ると流石は人気の店、それなりに混んでいた。

 綾乃さんは少し奥の席で背筋を伸ばして座っている。実に可憐だ。

「ごめん、待ちました?」

 生涯で言ってみたい言葉ベスト四位(僕調べ)を見後に口にし、目標の第一段階をクリア。

 今日の綾乃さんは黒いワンピースで落ち着いた感じの衣装だった。長い髪と完璧にマッチしていてそれはそれはかわいかった。

「いえ、私も今来たところです」

「それは、よかったです」

 そう言って腰かける。

「今日はスーツなんですね」

「あ、はい!」

 綾乃さんはニッコリと微笑んでいる。綺麗だ。そして声は美しい。

「凄い、似合ってますよ」

「あ、ありがとうございます」

 服装を褒める作戦が……まさか先手をとられるとは。

「綾乃さんも凄いお綺麗ですよ」

「ふふ、ありがとうございます」

 いえいえと縮こまりながら答えた。

 どうしよう、プレゼントのことで頭が一杯で話すことを考えてなかった……何を何をーー。

「いいお店ですね」

「あ、そうですね」

「よく来るんですか?」

「いえ、始めてきました。だからこんな緊張しちゃって」

 スーツを少し持ち上げる。少し堅すぎる服だったかも。

「騎士くんらしくていいと思いますよ」

 もう一度微笑んだ。

 こんな人の前だとうまく話せない。どうにかしにゃにゃ。

「あ、あの!」

 綾乃さんは僕の大きな声にも驚かず首を少し傾けた。

「こ、これプレゼントです」

 うって変わってわあっと綾乃さんは驚いた表情を見せる。

「嬉しいです。これって氷の薔薇ですよね? アイスドラゴンなんて強くなかったですか?」

「かなり強かったです。でも綾乃さんに喜んでもらいたくて」

「本当に嬉しいです。ありがとうございます」

 喜んでもらえて何よりだった。

「どうやって倒したんですか? 竜人剣でも使ったんですか?」

「りゅ竜人剣?」

 なんだその激しくそそる技は。

「あ、いや、あの男の子ってそういうの好きなのかなーって、違うんです。ゲームのスキルがどんなのあるのかなんて知らなくて……」

 女子って男子はみんな厨二だと思ってるのか? まあ、いいか。

「と、とりあえずこの薔薇は一生大事にしますね」

「その……氷の薔薇はあと数時間で溶けてなくなってしまうんです」

「そうなんですか? ならその数時間は大事にしないといけませんね」

   ******   

 そんな感じでサプライズは成功した。

 デートの内容は今となってはほとんど覚えてないけど、なんとか最後までいい雰囲気で 氷の薔薇溶けてしまうまで続いた。

「……てな感じだったよ」

「よかったな」

 会話の相手はETONだった。

「そういえばさ、綾乃さんなんでアイスドラゴンなんて知ってたんだろうね?」

「は? んなもんたまたまだろ!」

「いきなりテンションあがったな?」

「え? そんなことはいいんだ。それより今度ちゃんと紹介しろよ」

「わかってるって、第一お前と綾乃さんが奇跡かと錯覚するほど同じ時間にログインしないのが悪いんだよ。真逆だよプレイ時間が」

「悪かったな、深夜のログインで」

 ETONとも少し前までは昼間も一緒に冒険に出掛けていたが、最近は深夜に活動しているらしくあまり一緒に冒険にできてない。

 僕が綾乃さんと行動してるってのも理由のひとつだけどな!

「そういえばさ、逆じゃなくて似てるところあるよね」

「俺と綾乃が?」

「呼び捨てすな!」

 ビシッっと突っ込みを入れておいた。

「ほら『竜人剣』なんてお前と同じくらいの厨二ボキャブラリーじゃん」


end


作者である僕は小説でのVRMMOがあまり好きでは無いのですが、友人の後押しと、一度はVRMMOを書いてみよう! そんな感じで出来上がった作品です。

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― 新着の感想 ―
[一言] これからの展開が気になる設定で面白いです。 ただ誤字脱字が気になるので、もう一度見直してみてはどうでしょう。 続きも頑張ってください。
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