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お待たせしました。
ポイントも感想もいただきました。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
おかげさまでユニークが1000、ポイントが100超えました。ありがとうございます。
では続きをどうぞ。
ヴェスバーナ暦1998年春期2月13日 朝 スニアの村
目を開ければユーリの視界には見覚えのない木の天井が広がっていた。
壁の隙間からは日の光が入って来ている。それが異世界、スニアの村の宿屋の部屋だとすぐにわかった。
朝になっているのはホテル【ホライゾン】で、異世界に入ったら朝になっているようにしていた為だ。
「……ちゃんと寝た感じがあるんだな」
日本では夜、寝る時に入ったが大丈夫なようだ。きちんと一晩寝た感覚があった。疲れもとれているようである。
「さて、まずはどうすっかな。……」
ベッドに座ってこれからどうするかを考えるユーリ。とりあえず元の世界に帰るのは3日後なので、この3日間の予定を考えることにする。
目下、やるべきことは実力上げと金策、この2つである。
実力上げは純粋に死なないように。金策は必要な物を揃える為と、生活するためにだ。
宿屋の宿泊代を考えるとルード銀貨8枚では少ないだろうと考える。やはり簡単な方法は魔獣を倒して、その素材を村で売ることだろう。実力上げもできて一石二鳥だ。
やることが決まったユーリはマントをまとい、腰に剣を差して部屋を出た。まずは朝食。腹拵えからである。腹が減っては戦はできぬというやつだ。
一応乱れたシーツやらベッドやらを片付け部屋を出る。宿泊の札を下ろし、さっさと階段を降りた。酒場は昨夜とは打って変わって静けさが覆い閑散としている。
「おっ! あんたも起きたかい! 早く座んな。朝食はできてるよ!」
降りた途端、朝っぱらというのに昨夜とまったく勢いの変わらない豪快なミレアの声が飛ぶ。
断る理由もないし元から朝食を食うつもりなのでユーリは彼女が指したカウンターの席に座る。座った椅子は妙にガタガタしていた。
ユーリが妙にガタガタする椅子を、待っている間手持ち無沙汰なので意味もなくガタガタさせながら料理を待っていると、目の前に料理が並べられる。
質素な木製の食器類には野菜のサラダと薄めのスープに2個のパンがのせられていた。質素なものであったが、文句を言う気概はユーリにはないので黙って食べ始める。
野菜は瑞々しくシャキシャキで、何もつけなくても野菜そのものの味でおいしかった。のだが、ユーリには少し物足りなかった。
現代っ子としてはドレッシングが欲しい所である。それでもまだマシな方でどちらかと言えばパンの方が酷い。固く味気ない。
仕方がないので、ひたすら噛んで食べていた。スープに付けて食べれば良いことに気がついたのは食べ終わった後である。後悔先にたたず、あとの祭りだ。
食べ終わった後はやはり全体的に物足りないというのがユーリの評価だ。香辛料などだ未だ貴重品な時代の異世界なのだから仕方ないのだが。
わかっていたのに心構えが出来ていなかった。次からは覚悟しようと思ったユーリである。
「ご馳走様っと」
「食べたかい! で、これからどうすんだい?」
「しばらくはここにいようかと」
「そうかい。まあ、自由さね。泊まるなら金を払ってくれよね」
「ああ、とりあえず3日くらい泊まりたい」
「あいよ。祭り以外に来た久しぶりの客だからね。ルード銀貨4枚にまけてやるさね」
「助かる」
ユーリは4枚の銀貨を払い、出掛けると行って外へ。向かったのランブズ雑貨店へ。必要なものを買うのだ。
「らっしゃい! おっ! 昨日の旅人じゃねえか! 買いに来てくれたのか!」
「あ、ああ」
割りと朝早い時間だから開いていないとユーリは思ったのだが、扉を開ければそんなことはなく、威勢の良い声が響く。朝から元気の良いことで、と思いつつ商店の中へ。
店内は相変わらずで、所狭しと商品の並べられた陳列棚が置いてある。昨日は良く見ていなかったが、今回はきちんと買う気なので、必要と思われる物を見ていく。色々とあったが値札はなかったが商標はあったので商品の名前はわかった。
10分ほど店内を物色し、色々試して見て、ユーリが買うと決めたものはお金を入れるための丈夫な皮の袋を3つほどと革の水筒、ただの布5枚、火口箱、一応のランタン、野営用の木製のコップと皿、あとは薄手だが丈夫そうな毛布。
これらは一応、ユーリの知識において必要だと思われたものの一部だ。実際はもう少し何かいるのかもしれないが、金が足りるかわからないのでこれくらいにしておく。3日経ったら調べようと心に決めた。
ユーリはそれらの商品を持ってカウンターに持って行った。
「おう、これたくさんだな! ちょっと待ってな、今計算するからよ!
…………。よし、祭り以外で来た久しぶりのお客さんだからなまけにまけて、全部でルード銀貨1枚とケルシュ銅貨50枚にしといてやるぜ! この前はカマイタチの鎌尾を売ってもらったから多少はサービスもプラスだ!」
「そうか。これで頼む」
「毎度! しばらく村にいるんだろ? 一応名のっとくぜオレはダンガよろしくな!」
ユーリが出したのはルード銀貨2枚。店主――ダンガはお釣りとしてケルシュ銅貨を50枚渡した。
銅貨にはユーリにはわからなかったが何かの花が刻まれていた。それらを全て買ったばかりの少し大きめの皮袋に入れる。
残りのルード銀貨2枚は別の皮袋に入れてポーチの中へ入れておく。もう1つの皮袋はあると思われる金貨用である。他の商品も同様に入れ、店を後にした。
それからユーリは村を少し歩いて見ることにした。村の気配からスニアの村はそれほど大きな村ではないことがわかっていたので、外にでかける前に当面の拠点の地理位は把握しておこうと思ったのだ。
「あ! 旅人の兄ちゃんだ!!」
「剣持ってるよ! 凄い凄い!!」
「あんたら少しは落ち着きなさいよ。みっともない」
その時、そんな子供たちの声が響いてきた。そちらを見ると、男の子二人と女の子一人がはしゃいで走ってきていた。別に悪意はないようなので、ユーリはそのまま迎える。
ちなみにもし悪意があったら子供でもぶっ飛ばす気だった。子供でも容赦のないユーリである。子供は嫌いとまでは行かないが好きでもないのだ。あまり関わりあいになりたくないらしい。外道なのかヘタレなのか。
「なんだ?」
「なあなあ! 兄ちゃん旅人なんだろ? どうしてこんな村に来たんだ!」
「剣見せてください!」
「ちょっと、あんたらいきなり失礼すぎ、落ち着きなさい。
本当、こいつらがすみません」
やってきた男の子の内、頬にちょっとした傷のあるはつらつとした元気のよさそうな男の子が言った。それに続けて、もう1人のちょっと内気そうな茶髪の男の子と、紅一点でなにやら二人を呆れた目で見ている、明らかに三人組のリーダーであろう将来かなりの美人になりそうな金髪の女の子も口を開いた。女の子の方は質問要望ではなかったが。
全員がユーリの主観ではだいたい小学中学年くらいの年齢だ。村を訪れた旅人が珍しいようである。それで質問してきたのだがユーリそっちのけで女の子の言葉に元気のよさそうな男の子が反応する。
「何だと!」
「何よ! だいたい知らない人に会うときはまずあいさつからでしょ! それもせずにいきなり質問とか村の品位を疑われるわよ!」
「ひんい、ってなんだよひんいって! 食えるのか?
だいたい、いつもいつもお前の言ってることまったく意味わかんえよ。兄ちゃんだって気にしてないようだぜ? なあ?」
「内心では思ってるかもしれないじゃない! それに失礼よ! そうですよね!」
二人の言い争いを内気な男の子と終わるまで見ていようと傍観を決め込んでいたユーリに話が振られる。しかも、一番来て欲しくないタイミングで。
こんなときどう答えるかなどユーリが知るはずない。仕方がないので、無難に二人とも落とすことにした。喧嘩両成敗というやつだ。いや、何か違うか? まあ、いいか。
「気にはしてないが、まあ、確かに失礼かもな」
「むう」
「むう」
ユーリの返答に同じような反応を示した元気そうな男の子と金髪の女の子。気にしてないと言った時は元気そうな男の子の顔が明るくなり、女の子の顔が暗くなり、失礼と言った時はその逆で女の子の顔が明るくなり、元気そうな男の子の顔が暗くなった。
そして、最終的には二人ともむう、と同じ反応をしていた。
馬鹿で単純そうな男の子と、どこかで教育でも受けているのか頭のよさそうな女の子の反応が同じことと、コロコロと変わる表情に笑顔になるユーリ。
子供とあまり関わりたくないと思っていたが、これからはちょっとだけなら関わって見るのも面白いかもしれないと思った。
というわけで先ほどの質問や要望には答えてあげることにする。
「でも良いぞ。少しなら出来ることならやってやるし、答えれることなら答えてやるよ。俺はユーリだ」
「やったー! ニーナは聞くなよ!」
「べ、別に聞きたいことないし。
えっと、一応自己紹介しておきますね。何も質問しませんけど。私はダンガの娘でニーナと言います」
「俺はキムナクの息子のジッド! ちなみに兄ちゃんが使ってる宿屋の息子な。母ちゃんおっかなかったろ。
でこっちが、クロアだ」
「どうも、アルニムの息子のクロア、です」
自己紹介をしたユーリと三人。この世界では苗字というか、ファミリーネームというか、日本でいうところの姓を名乗ることを許されるのは、それなりの身分と権力を持つ、貴族や聖職者、王族などの特権階級に限られる。
そのため平民や商人、奴隷などの一般階級から下階級の者は、個人として自身を表す時には~~の息子や~~の娘などという名乗り方をするのが一般的である。まあ、名乗らない人もいるので、あまり気にすることでもない。
しかし、なんとも世間――いや世間というよりは村か――は狭い? このような所で良く利用している――というよりそこ以外利用していない――雑貨店の娘と宿屋の息子と鉢合わせてしまうとは。
(あのむさいオッサンからどうしてこんな可愛い子が生まれるんだ? 母親か? 遺伝子って不思議だ)
しかしそんなことよりもそんなくだらないことを思っていた。あと商売人の娘ならば多少は教育を施されていても不思議ではないかと納得もした。
さてとりあえずは全員の名前もわかったところで質問タイムが始まる。ユーリはある程度はどんなことが来るかは予想が出来そうなので、一応カバーストーリ的なものを用意することにした。
短時間であるが、物語の創造などユーリに取っても作者にとっても朝飯前である。朝飯はついさっき食ってきたばかりであるが。
「さっきも言ったけど何で村に来たんだ? この村なんもないぜ?」
先ほども聞こえた予想通りの質問だ。
「俺ってまだ駆け出しだからな。この辺りで実力あげようと思ってね」
「ふ~ん、そうなのか。いつまでいるんだ?」
「とりあえず3日かね」
どうやらあの答えで問題はないようだ。ジッドもニーナもクロアも疑ってはいない。子供なのだから疑うこともないだろうに余分なことを考えるユーリであった。
次に質問、というか要望を伝えたのはクロアだ。
「あ、あの剣見せてもらってもいいですか?」
「近くで見るだけならな」
「はい!」
了承すれば嬉しそうな顔になるクロア。ジッドもワクワクとしている。ニーナも興味があるようで、そのような視線をユーリに向ける。ユーリは剣を抜いて三人の前に掲げてよく見えるようにしてやった。
3人はすげーやかっこいいなど賞賛の言葉をかけてくるので、多少くすぐったかった。それに設定で手に入れた武器をほめられているので、どうにも微妙な感覚だった。
「もう良いか?」
しばらく見せた後に、聞いてもう十分ですと言われたので剣を仕舞う。その後もジッドやクロアの他愛もない質問に答えていく。それを聞いてジッドとクロアは非常に楽しそうであった。ニーナはそれをなにやら複雑な表情で見ていた。
実は聞きたかったニーナであった。なのでしばらくそれが続くとニーナが少し顔を朱に染めながら、もじもじしとしながらユーリの前にやって来る。
「えと、えっと……」
「どうした?」
ちょっと黙ったと思ったら意を決したように言った。
「……私も、質問していいですか?」
どうやらニーナも色々と聞きたかったらしい。一見楽しそうに話をするユーリたちを見て自分も話を聞いて見たくなったようだ。だが、ああいった手前聞きにくかったのだろう。それでも聞きたかったので意を決して話しかけてきたということだろう。当然ジッドはバカにしていた。
本人のユーリはここでいいと答えるのはいいが、ここで彼は少し苛めて見たいという気持ちに駆られた。こういった反応をする女の子は弄ると面白いのだ。と、柄にもないことを思ったのだが、やめておくことにした。
人様の子供だ。しかも雑貨店の。泣かれて親にでもいわれたら雑貨店が利用できなくなる可能性がある。それに、親しくしておけばサービスしてくれる可能性もある。それに女の子の相手はユーリ
は苦手なのだから無理はしないに限る。
「いいぞ。おっと、そうだ。その代わりだが、少し村を案内してくれ」
「はい」
満点の笑顔が咲いた。言って良かったと思った。子供でも可愛い子の笑顔は良い物である。決してロリコンではないとだけ言っておこう。それから3人の質問に嘘と創作を織り交ぜつつ答えて、3人が満足したこところで、村を回ることとなった。その時に回っていると子供が増えたのは良い思い出(?)である。
ユーリが把握したことによれば、スニアの村はこのあたり一帯では大きな村の部類にはいるらしい。形で言えば井戸のある広場を中心に少しいびつな長方形状に広がった村だ。
村の中心付近に民家が少しと酒場とランブズ雑貨店があり、ただの民家と違い、豪華な村長の家も近くにあった。小さいながらも教会もある。
「あら、ニーナちゃん、ジッド君に、クロア君じゃない。おはよう。こんな朝から三人でどうしたの?」
教会の前に来たところでおっとりしたシスターに出会った。
「おい、シスターの姉ちゃん。今、旅人を案内してるんだぜ」
「あらあら、珍しい」
そこで、シスターはユーリに気が付いたように礼をした。
「ようこそ、旅人さん。小さな村ですが、ゆっくりしていってくださいね。トルレアス様は、いつでもあなたを見守っていますよ。小さな教会ですけど、相談を承っていますので、気軽にどうぞ」
「これはご丁寧にどうも」
「いえいえ」
などと会話したのち、仕事があるシスターと別れ、案内は続く。
村の北側には2本の道と呼んでもよいのかわらかないほど使われていない獣道があり、一方は山へ続き森へ続いていた。
南側には申し訳程度に整備された道と畑が広がっており、その先は平原と森が続くばかりだ。盗賊のアジトが近いので大丈夫かと聞いたら絶対大丈夫とニーナが答えたので、何かがあるようでもある。
そんなニーナの説明を聞きながら、または3人で楽しく話しながら、ユーリは村を見て回った。一回りして井戸の前に来た所で、これから出かけるということで、3人と別れたのだった。
「さて、どこに行くかね」
ユーリは井戸で水を革の水筒に詰めながら考える。どこに行くかの選択肢は平原か森、または山だ。とりあえず山はなかった。いつ盗賊と出くわすかもしれない山には入りたくはない。それにカマイタチ以外とも戦ってみたかったのだ。というわけで平原か森。
「今日は森に行くかね。で、明日は平原だな。とにかく実力上げだ」
よし! と気合を入れたユーリは村の北側へと向かい、ニーナに教えられた森まで続く道へと入って行った。村から離れてしばらくすると騒がしいほどに魔獣の気配を感じた。どうにも普通ではなく何か殺気立っているようにも感じられた。
「意外に多いな? それに何か変だし。どういうことだ?」
ユーリにはわからないが、原因はまごうことなくコイツである。先日ユーリがロングホーンボアを倒した影響である。ロングホーンボアはこの辺り一帯の魔獣のボスと言える存在だったのだ。つまりボスを倒したことにより次のボスになろうと魔獣たちが騒いでいるである。この時はいつも以上に魔獣が多くなり、危険になる。
しかし、逆にこれは好都合である。短期間で実力をあげることが出来る可能性があるのだ。ユーリの思考はこっちであった。この世界の常識を知らないのだから当たり前だ。
「なら、この辺り一帯。倒せるだけ倒すか!」
剣を抜き放ったユーリは森の中へ魔獣の気配がする方へと駆け出した。その顔は笑っていた。魔獣を殺すことは今でもあまり良い感情はないが、異世界での生活が本格的に始まったということが嬉しかったのだ。
その日ユーリは楽しさと興奮で日が暮れるまで魔獣を狩り続けていたのであった。他人に言わせれば馬鹿以外のなにものでもない。だが、ユーリはそれでも楽しそうであった。
読んでいただきありがとうございます。
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あとこんなキャラ出してという案があれば申して下さい。出すかもしれません。男、女問いません。何でもござれ。
あ、男キャラなら言われたらいずれ絶対出します。
あと、作者は豆腐メンタルなので批評はソフトにお願いします。豆腐メンタルですみません。
では、また次回も会えることを祈ってます。