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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第5章依頼の日々編
79/94

5-7

 ヴェスバーナ暦1998年秋期1月29日 朝 遺跡都市カルリス


 朝食を終えたユーリは、依頼板を見ていた。そんなユーリにメルラがしなだれかかる。色々と豊かなメルラの肢体が触れたり、甘く芳しい良い香りが香る。

 普通の精神力の男ならばコロッと逝ってしまうだろうが、麻理という年中迫って来るような女と同居していたユーリに隙はなかった。

 更に女として至高とも言える身体を持ちながら女としての自覚が薄いエレンと旅したことによりユーリの精神力は並みではなかった。


「邪魔だからやめてくれ」

「ねぇ、主様。このまま襲ってくださってもよろしいんですのよ?」

「襲わん」

「ふう、手強いですわね。まあ、その方が燃えるというもの。オトすのも一興というものですわ」


 そんなことを呟くメルラを無視してユーリは、依頼書を見ていく。血盟(クラン)のメンバーが気にしていないあたり、馴染んでいる。

 それで掲示板には、魔獣の討伐依頼。特殊な薬草などの採集依頼。荷や要人の護衛依頼。古代建築などの調査依頼。

 今日もまた多種多様な依頼が来ていた。


「さて、何をしようか。…………これにするか」


 討伐依頼『盗賊騎士の討伐』

 依頼者:セリカ・ネラル

 依頼内容

 会った時に詳しく説明する。集合中央広場。


 盗賊騎士とは、その名の通り、盗賊行為を行う騎士のことである。本来ならば領民を守るはずの騎士が、村や街、旅人、行商人、商隊(キャラバン)を襲い、略奪し、殺しを行うのだ。

 なまじ力を持った存在であるが故に出だしが出来ず街道の危険の一つとなっている。また、商人を捕らえ、身代金を要求したりなど、力だけでなくある程度の知も有しているのも厄介だ。

 更に悪いことに私闘(フェーデ)という制度がある。自らの権利を侵害された者が、決闘を行い、その権利を奪い返すことを許可する制度だ。戦いたくない者は、賠償金を支払い、許してもらう。

 盗賊騎士は、この制度を悪用し、「名誉を傷つけられた」等の適当なことを言い、難癖をつけ金品を奪い取る。明確に示された制度なだけに逆らえる者はいない。

 つまり、考えなしの普通の盗賊なんかよりもよっぽど厄介な連中というわけである。

 実は、このカルリス周辺にはこの手の(やから)が実に多い。その原因は、領主であるエラウド・ガーニーにある。

 このエラウド・ガーニーであるが、非常にゲスと評判である。奴隷を侍らせ、恋人は金。賄賂や横領は当たり前。そんなエラウドの下には、類は友を呼ぶ、ではないが、同じようなゲスな輩が集まるのだ。

 依頼になっている盗賊騎士達もこのような連中の一部である。

 そんな裏事情は知らないが、ユーリは、騎士が盗賊行為を行っているということで、噂に聞くゲスな領主のせいだろうか、ということを考える。

 考えていると流れるような黒緑の髪を棚引かせ、黒と赤の紅葉を模した柄の改造された戦着物(いくさきもの)を来た奏がやって来る。


「ユーリ殿、拙者も御一緒しても良かろうか?」


 奏は、依頼書を見て流暢な言葉遣いで言った。


「ん、まあ、構わない」


 ユーリはそれに、流暢な訛り一つない緋ノ本津國語(、、、、、、)で返す。

 緋ノ本津國(ひのもとつくに)語。奏の出身地の言葉。アグナガルド語ともエストリア語とも大きく異なる言葉。強いて言えば日本語に近い言語だ。

 例え何語であろうとも、言語の加護を持つユーリは、相手に合わせてどんな言語でも会話が可能。奏はアグナガルド語を話すと、片言気味になったり、正確に伝わらなかったりするのでそちらの言語で話しているのだ。

 それでも以前の辻斬りは素である。勘違いであったり、ニュアンスが正確に伝わらなくて辻斬りに思ってしまったわけではない。奏の素である。


(かたじけ)ない」

「なら、(わたくし)も行きましょうか」


 当然のようにメルラもついて来ようとするが、


「お前、ギルドに登録してないだろ」


 ギルドの依頼は冒険者試験を受けて登録として登録された冒険者しか受けることは出来ない。もし、勝手に受けた場合、受けた方は勿論、受けさせた方も厳重に処罰され、二度とギルドの敷居を跨ぐことは叶わない。

 その為、冒険者登録を行っていないメルラは、ユーリ達と依頼を受けることが出来ないのだ。


「ふう、人間の考えは、いつも面倒くさいですわね。何故、回りくどく考えるのですかね」

「さあな」

「行くとしよう」


 メルラとユーリの問答には興味ないのか奏はさっさと血盟拠点(クランハウス)を出て行こうとする。


「まて、お前、依頼者と会う場所しらないだろ」


 ユーリもそれをやれやれと追った。


********


 指定された場所に行くと、女がいた。遊女のような派手な装いをした、生真面目でクールなキャリアウーマン的な印象を受ける女。


「こちらへ」


 そんなちぐはぐな女は、ユーリ達が依頼を受けた冒険者であることを確認して、そう言い歩き出した。

 とにかくついて行くユーリと奏。女は何も言わず足早に歩いていく。どこに向かっているのだろうか。

 向かうのは、カルリスを縦断する大通りよりを越えて西地区。

 雰囲気がガラリ、と変わる。

 東側が質素ならば、西は豪華。ただ組み積み上げて作り上げただけの質素な石造りの建物はなりを潜め、絢爛豪華で煌びやかに輝くような建物が視界を埋め尽くす。

 それに比例し、街行く人も趣を変える。煌びやかに着飾り露出度が高くひらひらの服を来た女や、ギラギラとギラつく欲望を目に宿す男ばかりが目に付くようになる。

 ここは、歓楽街。飲食店、風俗店、賭場。ここには何でもある。領主により運営される公営の遊び場である。

 自らが運営し、抑圧しないことで抑圧されて起きる不正、不具合をなくし、問題を起きないようにする。かつて領主エラウドが行ったことにより、この歓楽街は治安が良く活気で溢れている。

 腐ってはいるが、カルリスを一代で発展させた手腕は伊達ではないのだ。


 さて、ユーリ達が最終的にやって来たのは、そんな地区にある娼館の1つ。客の様々なニーズに応えることで有名で、客層は広い。


「ご案内します」


 愛想もなく女は、そう言ってユーリ達を中へ招き入れ、個室に入る。


「さて、では、依頼の話をしましょう」


 扉を閉め、鍵をかけた瞬間、女は居住まい正しユーリ達にそう言った。


「やっぱりか」

「? 何がだ」


 ユーリは、技能(スキル)『直感』により、女が依頼者本人、またはその関係者だと推測したのだ。それは、今当たっていたことが証明された。


「はい、私が依頼者のセリカ・ネラルと申します。このような店で申し訳ないが、このような店の方が、機密性は高いので」


 娼館には、様々な客が訪れる。お忍びの貴族であったり。王族であったり。ギルドの幹部であったり。あまり、娼館などに大手を振って訪れることが出来ないような人々達も訪れる。

 そんな人達の為に、娼館は機密性が高い。貴族の争いに巻き込まれれば、娼館もただでは済まない。それを防ぐ為に、娼館の機密性は想像以上に高いのだ。

 そして、セリカは、カルリス騎士団の一員である。しかも、帝都にある騎士育成の為の学園を卒業したエリートである。近衛騎士になる前の経験を積むという意味で、帝都から派遣されてきたは良いが、この現状を目の当たりにし、何とかしたいとギルドに依頼したのだ。


「わかった。それで? 盗賊騎士達をどこで倒す」


 盗賊行為を行っているとは言え国に認められ、領主の庇護下にある騎士を街中で相手取るのは論外である。逆にユーリ達の方が捕まりかねない。

 国にも法はある。特にアグナガルドは、盗賊行為などに対する罰は厳しい。

 だが、爵位持ちの貴族である領主が治める領地一つ一つまでにそれが徹底されているかと言われればそうは言えない。

 アグナガルドは大陸のほぼ半分という広大過ぎる国土を持つ。そんな広大過ぎる国土全てに1人の皇帝の目を光らせることはできない。

 それは、領主が治める領地は領主に一任されているも同義。その為、一部の領地では後ろ暗いことが行われていたりする。ここもそういう領地なのだ。

 更に言えば、実は、この盗賊騎士も領主の差し金であったりする。わざと襲わせ、そういった輩がいるとして、討伐する為の資金と様々補償金などを国から騙し取っているのだ。

 そんなブラック全開な領主の膝下であるカルリスでは、当然動けない。動くならば街の外となる。


「知り合いの商人に金目の物を運ぶように金を積みました。騎士団に噂が流れるようにしたので、その商隊(キャラバン)を護衛すれば問題はないかと」

「なるほど」

「作戦を説明します」


 作戦は至ってシンプルだ。ユーリ達が盗賊騎士と戦って時間を稼ぐ。倒しはしない。ユーリ達が倒しても、身柄はそのまま領主預かりになり、罪を償ったという文書だけが出され、裏で帳消しにされる。

 それを防ぐ為、帝都にいる騎士団の監査役を呼び、救援として監査役と共に盗賊騎士を捕縛。監査役が内情を帝都に報告し、正式にキチンと処罰させる。

 ユーリ達の役割は、囮と時間稼ぎの陽動。責任重大な役回りである。倒さず倒れず、荷を奪われず、セリカ達が到着するまでの時間を稼ぐのだ。結構、難しい。


「わかった。奏もわかったか?」

「…………」


 少しの間のあと黙っていた奏は頷いた。たぶんわかってないなと思いながらユーリは、依頼の詳細を確認していった。


********


 カルリス騎士団騎士団長ハルゲン・ハーゼン。

 カルリス騎士団の団長であり、カルリスを騒がせる盗賊騎士の筆頭である。

 であるが、いつもいつもそんなことをしているわけではない。盗賊騎士とは言え、ハルゲンは騎士だ。それも騎士団長。

 騎士として最低限の仕事はしている。そうでなければ職務怠慢で今の立場からおろされる。

 それはハルゲンの望むところではない。この騎士団長という役職は、かなり旨いのだ。

 そんなハルゲンは、カルリス騎士団本部で、椅子にふんぞり返って座っていた。仕事は部下に割り振っているため、自分のやることはない。

 下級貴族の出で騎士になるべく育てられた為に、特に趣味がないハルゲンは、ただ座って目の前で仕事をしている部下を観察する。

 盗賊行為をする仲間もいれば、そうではないのもいる。特にセリカ・ネラル。帝都から派遣されてきたエリート。性格は騎士学園出たてにありがちなド真面目の堅物だ。学園で純粋培養された騎士の典型。それも特級。

 だが、それに比例して実力の方も悪くない。将来は、優秀な近衛になるだろう。出世は間違いない。

 だからこそ、ハルゲンは惜しいと思う。余計なことをしなければ、優秀な近衛になれただろうに、と。

 真面目過ぎるのだ、セリカ・ネラルは。だからこそ盗賊騎士を許せない。

 コソコソ動いているのをハルゲンは知っている。なぜなら、かつてハルゲン自身が通った(、、、)道だからだ。自分と同じ匂い。同族の行動は、何とも分かりやすい。

 かつて、ハルゲンがまだ新人であった頃は、セリカのようなドが付くほどの真面目だった。

 セリカのようにカルリスに来た時は、同じように変える為に動いた。だが、失敗した。

 ハルゲンは左目を失うだけでは済んだが、セリカはそうもいかない。経験者が未経験者に負ける道理などないのだ。

 騎士団に流れる商人が金目のものを輸送するという噂。仕掛けてくるのならばここだ。その方法は、冒険者を囮にして、監査官によるその場のでの捕縛。


(事前に、潰すのも良いが、ここは乗ってやるとしよう)


 この短期間のうちに呼び寄せられる監査官などたかが知れている。十中八九呼ばれているのは、ハルゲンの時と同じ監査官。未だ現役なのは確認済み。結果は変わるが、結末は、変わらない。


(まあ、せいぜい、頑張るこった。どうせ、この流れは変わらん。変わるのなら、オレは、こんなところにはいない)


遅くなりました。

申し訳ありませんが、今月はリアルが忙しい為、更新が遅くなります。



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