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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第4章護衛と出会い編
59/94

4-7

 ヴェスバーナ暦1998年夏期1月27日 早朝 職人都市グランディア


 石造りの巨大な城壁に囲まれた職人の住む職人都市。それがグランディアであった。街の入り口には2体の武骨な魔導鎧(ソールアルミュール)が配備されている。

 重厚な門をくぐれば、煙突から煙を上げる石造りの街並みが視界に広がり、耳にはトンテンカントンテンカンと金槌を打つ小気味の良い音が入って来る。

 露天には、様々な輝きを放つ装飾品や、無骨な輝きを放つ多様な武具、異様な空気を放つ意味不明な物などが並んでいた。


「フフフ、どうかしらグランディアの街並みは?」


 自慢げな顔で言うアリス・イン・ワンダーランド。


「凄いな」


 ユーリは、問いにただ凄いとしか言えなかった。


「フフン、そうでしょうそうでしょう。

 ……さて、これにて護衛は終了よ。帽子屋さん」


 イカレた帽子屋(ザ・マッドハッター)がアリスの命令で報酬を持って来る。報酬として35,000ロクーナ。既に100,000ロクーナ貰っているため、現在135,000ロクーナ所持している。数ヶ月は働かなくてもやっていける金額だ。エストニア王国貨幣を両替することも考えていたが、しなくてもやっていけそうである。

 ユーリは、金の半分をグランディアまで来る時に立ち寄った時に購入した折り畳み式の財布に収めて、残り半分を更に半分に分け、一方はもう一つの財布に入れて魔法のポーチの中に入れて、残りは別の場所に隠す。具体的には靴底などである。

 金は、金庫など強固なセキュリティーがある場所以外は、一カ所にまとめてはならない。分けておけば、盗まれた際の被害を減らすことができるし、有事の際に対応することができる。


「確かに、じゃあ――」

「まあ、お待ちになりなさいな」


 依頼も終わったので、とりあえず今日の宿を早めに探しておこうとユーリが別れを告げようとする前に、アリスは彼を引き止める。

 立ち止まったユーリにアリスは、言葉を続けた。


「フフフ、とりあえずおめでとうと言っておきましょうか」

「何?」

「あらあら、意味が分からないという顔ね。フフッ、まあそうよねぇ。だって説明してませんものね」


 1人でクスクスと楽しそうに笑うアリス。対するユーリは、彼女が笑う度に怪訝な表情が深まっていく。

 当人のアリスは姿勢を整え、笑みを潜め、スカートの裾を摘み軽く上げ、片足を斜め後ろ内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、御辞儀する。


「改めて自己紹介をしましょうか。わたしは、アリス・イン・ワンダーランド。ワンダーランド伯爵家の1人娘で、ギルドの審査官をしているわ。

 色々あったけど、Cランク適性があるとわたしは判断し、ユーリ、あなたをCランク冒険者として認可致します」

「は?」


 思わず、何の意志もない意味のない唖然とした言葉が口から出てしまったが、それも仕方のないことだろう。誰だってそうなる。

 そんなユーリに、アリスが説明を始めた。


「クスクス、冒険ギルドではね、DランクからCランクに上がる時に、実は試験があるのよ。誰にも知られないように隠された試験がね。

 Cランクからは街中での雑用依頼が姿を消して、護衛依頼が解禁され、更に今までのランクからは考えられないほど依頼難易度が上がる。言わば上位ランクなのよ。Cから上はね。

 だからこそ、Cランク以上にあがる冒険者には、ある程度の力を持っていなければならない。それを選定するための審査官を護衛させる試験なのよ」


 つまり、アリスがユーリに近付いて護衛依頼をしてきたのは、偶然でも何でもなく故意によるものだったのだ。そして、問題なくユーリは試験に合格できた。


「もし守りきれなかったらどうするんだ?」

「あらあら、問題ないわよ。わたしはお兄さんならできると思っていたし。そんなミスを兎さんや猫さんがやるわけないじゃない」

「それじゃあ」


 仕組まれていた。

 それを知ったユーリには、怒りなどよりもまず納得が来た。あっさりと納得できた。アリスが今まで盗賊や魔獣に襲われた時には妙に冷静で、キーリアたちに襲われた時は取り乱していた理由がわかったからだ。


「フフッ、思ったよりも冷静ね。まあ、お兄さんならそうよね。はい、これ」


 そう言って渡される革表紙の本。読みなさいと言われたので読むと、冒険者マニュアルその2であった。上位ランクに関することがかかれている。

 言い忘れていたが、この世界の識字率は低いが、冒険者は冒険者選抜試験に合格した時点で字が読めぬ者は、読めるように勉強させられる。そのため冒険者たちは識字率が高い。このようなマニュアルを渡されても無問題だ。


「これにて説明終わり。晴れてお兄さんはCランク冒険者を名乗れるわ。でも、まだまだこれからなのを努々忘れないようにね。

 ああ、もし魔導鎧を修理するならローエン工房を訪ねなさい。偏屈お爺さんだけど良い腕をしているわ。

 さて、帽子屋さん」

「はいはい、アリス・イン・ワンダーランド」

「猫さん」

「…………」

「兎さん」

「そうですね」

「じゃあ、さようなら。また会いましょう」


 綺麗な御辞儀をした後、アリスは優雅に街の中へ消えて行った。


********


 アリスと別れたユーリは、まずはギルドグランディア支部へ向かうことにし、早朝で未だ人混みの少ない大通りを行く。通りに建ち並ぶ店々からは、金槌などの音が響いていて耳に小気味良い。

 グランディアでは職人たちの職人組合の力が強い為、ギルドの規模は少々小さめとなっている。ただエストニアの首都リバーナと違いギルドが大通りから外れているということはなかった。

 そんなどこか職人芸や職人技を感じられるギルドへ足を踏み入れる。内装もまた職人的な造りをしていた。

 依頼板(クエストボード)を見ると、そこそこの依頼が張り出されており殆どは、材料の採取依頼であったり、配達依頼ばかりであった。非常に職人都市らしい。

 依頼を受ける前に受付に向かう。この辺りの情報を仕入れることにした。


「すみません」

「何でしょうか」


 答えてくれた受付はいつも通り、今までの受付と同じ顔をしていた。


「あの間違っていたらすみませんが、妹かお姉さんですか?」

「いきなり何を言い出すのかと思えば、下らないことですか。……はい、姉共がお世話になっておりました。リン、末妹です」


 ギルド七不思議(?)。受付の1人が皆同じ顔の姉妹たちであること。始めこそ驚いたが、ユーリも、もう慣れた。


「それで、何か御用でしょうか」

「この辺りの情報を」

「下らないことを聞くただの屑ではなかったのですね。評価を上方修正致します」


 これと似たようなやり取りを前にした気がした。

 そんなことをユーリが考えている間にリンが受付から二冊の本を出してくる。


「……お望みの情報は、魔獣の情報は此方を、近隣に関する情報は此方を御覧下さい」


 受付カウンターに置かれた二冊の本を手に取り、談話スペースに持っていく。誰もいない端の席で読み進める。

 魔獣はパラパラと流し読みした限り土属性系統の魔獣が多いようであった。次いで火属性系統の魔獣が多い。なぜなら、鉱石などを掘り出す鉱山が近場に多いことや、グランディアから北に幾らか行くと活火山があるからだ。

 戦い方を考える必要がある。土属性系統の魔獣は総じて防御力が高い。剣で倒せないことはないだろうが、弱点などに適切な攻撃が求められる。火属性系統の魔獣は、基本的に燃えているため近接戦闘は避けられている。下手に攻撃すれば火傷を負う。

 下調べは大事だなと思いながら、ページを捲り読み進めて行く。記憶すべき所を記憶していく。


「よし、次は近辺の情報だな」


 魔獣関連の本を閉じて、リンから受け取ったもう一冊の本を開く。それにはグランディア近辺の地理や迷宮(ダンジョン)に関する正確な情報が載っていた。

 グランディア近辺は草原が基本だが、少し離れると鉱山や森が広がる。鉱山が多いため、必然鉱山都市が多く各地の村々から出稼ぎに来ている人々がいる。グランディアとその近辺には合計で迷宮が4つほどあり、ランクは比較的高い。アンデッド系の魔獣が出ることがあるので注意が必要。祝福はないため、トルレアス神教にあった死亡しても教会に戻る、といったことはない。

 シグドやキーリアについての最近の情報はなかった。また何かやるつもりかは知らないが今度こそは、と頭の片隅に留めることにする。


「……まあ、こんなものだろ」


 本を閉じる。読んでいる間に結構な時間が経っていたようだ。窓から入って来る光は淡くなり、建物内の魔導灯に光が灯っていた。


「終わり?」


 本を返そうと立ち上がりかけたところで、隣から声をかけられる。水色の髪をした軽装甲装備の糸目の優男がいた。柔和な笑みを浮かべている。


「ああ、……何か用か?」


 警戒するユーリ。

 初対面から笑みを浮かべて話しかけて来た人物など怪しいことこの上ないだろう。警戒するなという方が無理な話だ。


「そんなに警戒しなくても何もしませんわ。むしろギルド内で何かできる人がいるのなら紹介してほしいわ」

「それもそうか」


 言わばそれは警察の中で盗みを働くのと同義だ。だが、そうだからといって警戒をまったくしなくても良いということにはならない。だから、警戒を最低限にして、話を聞くことにした。


「何の用だ?」

「いやね。私リーと言うんですけどねぇ、あなた結構な実力者でしょう?」

「嫌味か?」


 技能(スキル)【解析】を行っても、目の前の男の実力(レベル)はわからない。それはつまり、男の方がユーリよりも実力(レベル)が高いということに他ならない。それが、結構な実力者でしょう、と言ってくれば嫌味だと思うのは当然だ。


「いや、ゴメンゴメン」


 そこに割り込まれる声。声の主は、黒髪に青い瞳のユーリと同い年か少し高いくらいの少年。解析するまでもなく、圧倒的な実力を持っていることが直感的にわかった。


「リーさんも悪気があるわけじゃないんですよ。ほら、リーさんって胡散臭いから、嫌味に聞こえるだけでね。実力(レベル)じゃない実力を誉めてるんですよ」

「酷いわね。これでもアドバイス通り笑顔でやっているのに」

「誰だ」

「僕は、リオン。クラン『天剣の両翼(ソード・ウィング)』のリーダーです。僕たちは今、仲間を集めているんですけど、あなたをスカウトしに来ました」

「…………は?」


 目の前の少年、リオンの言葉を頭が理解するのに、しばらくかかった。スカウトという言葉を反芻して、ようやく理解に至る。思わず叫びそうになったのを堪えるには苦労を要した。


「…………何で俺なんだ? 初対面の俺を」

「説明は、難しいんですけど。直感です」


 リオンは、そう言った。ただの勘であると、そうのたまうた。ふざけるな、と断ずることは簡単だ。誰が聞いてもリオンの言動は、ふざけているとしか思えない。

 見ず知らずの、初対面の人間をスカウトなど、馬鹿としか言いようがなく、それが直感などという曖昧なものを根拠にしているとなれば尚更だ。

 だが、リオンの目は、真っ直ぐな光を宿していた。一切のふざけなどが見られない。正真正銘、本気だと、その瞳は語っている。


「少し、考える時間をくれ」


 結局、ユーリが選んだのは保留であった。鍛えられたユーリの勘は、何も告げない。警鐘はなっていない。従っても不利益はないだろう。だが、ユーリにはまだ判断材料がなかった。そのための保留だ。


「はいっ! 僕たちはいつもここにいますから。承諾して下さるなら、来てください待ってますから」


 頭を下げて、2人はギルドから出て行った。

 ユーリは、クランについて考える。


 クラン。主に同じ志を持つ集団のことであり、Cランク以上の冒険者集団のこと。冒険者ギルドという巨大組織の中にある小組織である。冒険者ギルドでは不可能な冒険者による組織的な行動を可能とし、裏切りなどの問題やアイテムの分配などの問題が起きることなくパーティ編成などができるなど利点がある。

 クランには、クランのランクによって冒険者ギルドが相応の依頼を卸しており、ギルド支部のない街では、クランはギルド支部と同等の扱いとなっている。冒険者ギルドによって認可されており、冒険者ギルドの許可なくクランは設立することができない。


 マニュアルにはそう書いてあった。


「まあ、MMORPGで言うところのコミュニティーだよな。

 ……調べてみるか」


 クランに入る利点はある。だが、本当にリオンが信用できるかはわからない。そもそもが怪しすぎるのだ。クラン『天剣の両翼』がどんなクランなのか調べる必要がある。

 ギルド受付のリンに聞くのが早いと、ユーリは早速聞いてみることにした。


「またですか」

「また?」

「いえ、此方の話です。それで、何か」

「クラン『天剣の両翼』について知りたいんだけど」

「……では、『天剣の両翼』、ランク的には中堅程度のクランです。構成員は、現時点で五名。クランリーダーであるリオン様が直感によりメンバーを集めるという、風変わりなクランです」


 リンは、本を読み上げるだけのように淡々と『天剣の両翼』について述べていく。


 ここまでは、ユーリも体験した通りだ。聞きたいのは、それを行う理由である。直感で集める理由だ。


「何で直感で集めているんだ?」

「さあ? クランメンバーの選抜は、(わたくし)共の管轄ではありませんので。

 ただ、集める理由はわかりませんが、クラン設立の理由は、人助けと魔法契約には書かれています」

「魔法契約に書かれているなら、本当の理由か」


 魔法契約では嘘をつけない。魔法契約で人助けと書かれているのなら、それは本当のことだ。


「……評判は?」

「評判は、なかなかではないでしょうか。特に問題は、見受けられません。住民からの信頼も厚いようです。入るのであれば優良かと」

「なるほど、ありがとう」

「仕事ですから。ついでにお節介をするなら、宿を取るなら、熊と三日月の天秤亭がオススメです」

「どうも」


 ユーリは、ギルドから出てリンから聞いた熊と三日月の天秤亭へ向かう。ギルド紹介なだけあってなかなか良い宿屋であった。

 値段は、中級クラスの宿屋で500ロクーナと普通より割高ではあるものの部屋風呂、石鹸ありで食事付きということを考えるとむしろ安いと言える。一週間分くらいをまとめて支払い二階のあてがわれた部屋へ向かう。

 二階へと続く階段を上ろうとした時、ちょうど降りてきた影とぶつかりかけた。


「おっと、すみま――」


 謝罪の言葉は、最後まで出て来なかった。なぜなら、ぶつかりかけたのが、思わず見とれるてしまうほどの美しい少女だったからだ。咄嗟に、彼女を上から下まで観察してしまうほどの。

 さながら氷のような透明な浮世離れした美しさのある少女であった。透き通った蒼氷色の長髪と瞳は、まるで芸術品のようであり、袖のないワンピースタイプの服装から覗く白磁の肌は、シミ一つなく美しい。エルフの特徴である尖った耳が髪から少しだけ覗いているのが見て取れた。


 エルフ。

 長命で金髪碧眼で色白の美男美女が多く、自然を愛す個体数が少ない稀少種族。必要以外動植物を殺さない非常に温厚な種族として有名。対極に位置するドワーフ族とは犬猿の仲。

 高い魔法力を持っているだけでなく、身体能力もそれなりに高い。武器の扱いにも秀で、特に弓の扱いに秀でる。

 森の加護を持ち、森の中では、自分から姿を現さない限りは、誰にも見つけられない。

 自然を愛するが故に火属性魔法を使わない。闇属性魔法は信仰するエルフ神が善の属性のため使用することができない。

 国家体制はとらずヴェスバーナ大陸西部に存在する巨大森林の中に樹上集落を作りひっそりと暮らしている。

 身分制はあるがあまり厳格ではなく大まかに分けて王族と侍従、農民に分けられる程度。そのため身分差は王族を除きさほどない。王族はハイエルフと呼ばれるエルフの上位種。身体のどこかにある刺青のような紋様で見分けることができる。エルフは本能的に見分けることができるらしい。

 人間とは中立の関係。敵対はしていないが、友好的というわけでもない。純血主義であり、選民思想を少なからず持っているため他種族に対し少なからず高圧的な態度をとることもある。



「……」


 ユーリが見とれている間に、少女はユーリを蔑むような視線を送ってから、避けるように宿屋から出て行った。

 そこでようやく、少女がエルフではおかしいことに気が付く。エルフは基本的に金髪碧眼なのだ。例外は一部を除いてない。しかし、エルフの証である尖った耳はあった。


「ハーフ、か?」


 ハーフエルフ。

 他種族、多くは人間とエルフが交わることで生まれる両種族の特徴を併せ持つ種。人間が多いのは人間とエルフは異なる種族であるが、肉体的に非常に近しい存在であり、遺伝子もある程度は近い存在であるため、両者は交わることができるとされている。

 そうして生まれた子は、普通は、どちらか、基本は種として強靭なエルフの特性だけに偏って生まれるが、時に両方の血を受け継ぐことがあり、それがハーフエルフと呼ばれる存在である。ハーフ種は、エルフだけでなく竜人族や人魚族にも稀に見られる。

 基本的に集団を作ることがなく単独で存在している。ハーフ種自体の数が少ないためだ。それもあって国家体制をとることがない。また、迫害の対象となることも多い。そのため迫害から逃れた者たちが集まって集落を作ることは稀にだがある。その場合は他種族を恨んでいる場合が多い。

 たいていの場合、純粋種ほどではないが強靭な肉体をもち、高い魔法力を持つ者が多いため、その多くは冒険者となる。しかし、人間や他の種族に良い考えを持っていないため、問題を起こすこともしばしあるという。


 エルフと他種族のハーフ。そう考えると、気配が何かと何かの半々であること、髪と瞳の色、 耳の尖りが、よく考えたら乏しかったこと、こんな人間が多い街にいることも納得できる。

 純血主義のエルフのハーフがいるかどうかは微妙だが、まったくないわけではない。他種族に友好的なエルフもいる。現にエストリア王国将軍エルシア・ノーレリアはそうであった。そんなエルフが他種族と契りを交わすことはあるかもしれない。


「っと、あまり他人を詮索するのは褒められたらことじゃないな」


 気を取り直してユーリは、指定された部屋へ向かった。ベッドとちょっとした収納スペースが備えてある程度の部屋と入浴用の部屋がある。魔導灯もあり部屋の中は明るく、硝子窓もあるので、大通りを見下ろすこともできる。アグナガルドの街の例に漏れず魔導灯が街中にあり、夜でも明るく出歩く者たちが多い。工房の煙突からはまだ煙が立ち昇っているのもあり、まだまだ職人たちは眠っていないらしい。

 黄昏時のような仄かな明かりが差し込む窓の外を見ながらユーリは、眠りにつくのであった。


********


「フフフ、さてと、アレ、できているかしら?」


 アリス・イン・ワンダーランドは、大通りから外れた場所にある魔導鎧の工房にやってきていた。


「ふん、できとる」


 アリスに対するは髭を蓄えたドワーフ。その体に刻まれた傷と、年輪を重ねた大樹の如き不動の雰囲気から相当の年月を生きていることがわかる。


「さすがね。できると思わなかったわ」


 ドワーフが差し出す物をアリスは受け取る。これがこのグランディアに来た目的の一つである。ユーリの試験も兼ねていたが、本来の目的はこれである。目的を果たしたら、もうここには用はない。さっさと鉄臭く、汗臭く、むさい工房からさっさと出ていく。


「これで、いいわね。ねえ、帽子屋さん」

「はぃ、そうでねえ、これで終わりですね」

「あらあら、帽子屋さんともあろう者が何を言っているのかしら、帰るまでが王命よ。フフフ、そんなこともわからないのかしら」

「おやおや、イカれの私に何を期待ているのですか?」

「期待? あらあら、まさかまさか帽子屋さんはわたしが帽子屋さんに期待していると思っているのかしら?」

「おやおや、まさかまさか、アリス・イン・ワンダーランドが、期待しているなど思っているはずないじゃないですか」

「フフフ、そうよねえ」


 アリスは手の中にあるものを見る。

 それは、黄金に輝く鍵。神代の扉を開く、ただ唯一にして絶対の鍵。


「もし、これが、彼らの手に渡ったらどうなるのかしら? 悪いのかしら? いえ、面白いと思わないかしら? わたしとしては、その方がとても面白いのだけれど。クスクスクス、でもわたしにできるのはこれまで。ああ、クスクスクス。本当に、面白い物語となってくれるのかしら。フフフ」


 夜空にアリスの笑い声が響き渡った。


いつの間にか総合評価ポイントが1100を超えていました。もう、感謝感激、雨あられです。本当、応援有り難う御座います。いまだ未熟者ではありますが、これからも頑張っていきたいと思います。これからも宜しくお願いします。


ついでにアルファポリス大賞にエントリーしました。今更ですが。


では、また次回。


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