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はい、にじファン閉鎖による移転騒動でゴタゴタしてましたが、更新再開です。
テンション上がりまくりで書いたので、なんかすごいことになってます。
では、どうぞ。
ヴェスバーナ暦1998年春期3月25日 朝 王都リバーナ王立闘技場選手専用観覧席
「すげぇ……」
ユーリは試合に見入っていた。これほどの戦いがあるのかと。
現在戦っているのは王国最強と謳われる騎士でエルフのエルシア・ノーレリア。それとアイシャールの英雄ジンクス・エアスト・ヴォルカーだ。
今日は、変則ルールで参加者全員がバトルロイヤルしていたのだが、一瞬のうちにエルシアとジンクス以外がほとんど全滅。
辛うじて残っていた幼児体型の騎士見習いカノン・エアスト・クラディアは最早無理と悟ると早々に戦略的に撤退していた。出番これだけーと泣き叫びながら。
そして、エルシアとジンクスの戦いは苛烈さを増して行く。
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エルシアは空色の槍を振るう。竜人族には劣るものの、竜人族を抜かした種族中最高の身体能力を誇るエルフの筋力によって槍は風を貫いてジンクスに迫る。
ジンクスはそれを足捌きでかわす。この日の為に用意した刀は鞘に収め、柄に手をおいたまま、ただエルシアの攻撃を見切りかわしていく。
「やはり、更に腕を上げたようですねジンクス・エアスト・ヴォルカー」
「当たり前だ! 私は、いや、僕はお前を倒すためにここにいるんだからな!!」
槍がジンクスに迫る。
足を止めたジンクス。鋼色の軌跡が槍を弾く。キンッ、と鯉口の鳴る音と共にジンクスは駆け出す。
エルシアは弾かれ跳ね上がる槍。それを筋力にものをいわせて、エルシアはジンクスへと振り下ろす。
ジンクスは槍を体を回転させながらかわす。そして、そのまま回転した勢いのまま刀を抜き放つ。
狙いは首だ。機能性を重視した鎧に身を包むエルシア。その鎧はエルフが魔法で鍛えた品だ。そんじょそこらの武具では傷一つつけることはできない。
ならば、狙うは隙間だ。関節など節々は動きを阻害しないようになっている。そのため幾分か柔らかい。そこを狙うのだ。
だが、あろうことかエルシアは刀に近付いて来たのだ。ジンクスは内心で舌打ちをする。刀の特性をエルシアが知っていたからだ。
刀は剣と違い切る武器だ。刃を相手に当て引く。そうすることで切断を実現する。つまりは、刀が切ることができるのは引くことができる分のみということ。
ジンクスは横に刀を薙いだ。そうすることで引く距離を稼いだ。だが、近づかれたことでその距離は限りなく零に近い。そうなれば、例え弱い部分であろうとも切ることはできない。
しかも、刀は繊細だ。言い換えれば脆い。下手に扱えば、すぐに曲がる、折れる、欠ける。このまま振り抜けば、とりあえずはそのどれかが待っているのは確実だ。
「まだだぁ!!」
だが、ジンクスはそんなことはわかっている。無理矢理に腰を落とし、更に右手へと踏み込み、蹴りだし刀の軌跡、身体の挙動を手前に逸らす。
そこから更に体を回転させ、今度は縦に振り下ろす。削ぐようにたてられた刃は今度は左腕の関節部を狙う。
「甘いっ!」
「っ!?」
エルシアは今度はそのまま左腕を振り上げた。刀の柄捉える。そのまま上へと弾く。刀を飛ばすつもりであったが、ジンクスは手放さなかった。
だが、弾かれた腕を戻すなど人間には不可能。空いたジンクスの胴を槍で薙ぐ。刺突用の槍であるため、打撃となってジンクスを襲う。避けることなどできず、ジンクスは宙を舞う。そこにエルシアの追撃が襲った。槍を構えた突撃。風よりも早く槍が襲う。
「チッ!」
ジンクスは舌打ちをすると、魔力を術具へと流し込む。そのまま空中で魔法陣を展開する。
さすがは英雄というところか。その魔法陣の展開スピードは一流のそれであった。ほとんどタイムラグなしで展開された魔法陣を足場にし槍の一撃を避ける。
「まだです!」
闘技場を揺らすほどの衝撃を放ちながらエルシアは足を鳴らす。そこからさらに一歩反対側へと踏み込む。踏み込みと共に槍を空へと振り上げ、突き上げる。
「まだだ!!」
ジンクスの魔法が発動する。属性は氷。無数の鋭利な氷柱が雨のようにエルシアを襲う。鎧を着込んでいても喰らえばそれなりのダメージを負う可能性のある魔法だった。
だが、エルシアは避けようとはしなかった。
突き上げた槍を引き、再び突き上げる。それを高速で繰り返す。
戦技『乱れ突き』。
物理法則を超えた速度で繰り出される神速の突きは、数多の槍を具現化させる。そして、その槍は全ての氷柱を砕く。
そして、突きはそれだけに止まらずジンクスを襲う。
「舐めるなぁ!!」
腰溜めに刀を構える。戦技『千本居合』。
シャラン、という澄んだ音とともにその刃が鞘から抜き放たれ、次の瞬間には、キンッという鯉口が鳴る音が響く。それが千度繰り返された。
闘技場に金属と金属のぶつかる高く澄んだ美しい音が響き渡った。
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黒き鴉がその様子を見ている。戦いを見ている。
「ハッハアッ!! おっぱじめやがった!! もっとだ、もっと! もっとやりやがれ! そうすれば、片が付く」
カラスの叫びが空に木霊した。その背後で影が揺れる。
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エルシアとジンクスは向かい合う。仕切り直しだ。
「やりますね。この1,000年、あなたほどの遣い手を、私はしりません。
流石は人間、あの方に連なる者なだけある」
「フン、幾ら褒められたところで、届かなければ意味がない。
それに本気でないならただの皮肉だ」
「良いでしょう。ならば、もう少し本気で行きましょう」
その言葉と共にエルシアがトンッ、と軽く地を蹴った。エルシアが消える。次の瞬間にはジンクスの背後に現れた。刺突の構え。槍が大気を裂く。
ジンクスは振り返るという馬鹿な真似はしない。そのまま素早く右斜め前方へと動く。
槍というのは点で攻撃する武器だ。相手へと押し付け更に押すことで対象を貫く。刀とは真逆の武器と言える。
しかし、逆に言えば押せる距離しか貫くことはできない。突撃による刺突ならば、押せる距離はほぼ無限と言って良い。だが、立ち止まって踏み込んでの突きならば、押せる距離は踏み込みの分だけだ。
今のエルシアの突きは後者。ならば、振り返って迎撃するよりも、そのまま前にでて避ける方が得策というわけだ。更に、ジンクスは踏み出した右足を軸にエルシアへと振り返る。彼女の背後で、風が吹き荒れていた。
エルフやドワーフ、竜人、人魚など長命種は人間が魔法と呼ぶ魔法を使わない。彼らはそれを魔術と呼ぶ。彼らは術具なしに魔法を使う。それも遥かに強力な。
それは風の槍。ノータイムで発動する災厄だ。直撃しようものならば、切り刻まれ細切れになって死ぬだろう。闘技大会ということを考えれば流石にそれはないかもしれないが、大ダメージは必至だ。
しかも、気がつけばそれが全方位でジンクスを囲んでいた。どこににげても逃げることは不可能だった普通なら。そう、普通ならだ。この場には普通でないモノがあった。
「“凍れ”時よ!」
刃は空色に輝き、時が凍った。
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「無理だろ」
ジンクスが風の槍に囲まれた瞬間、もう終わったと思った。どう考えても抜け出せる隙間がないのだ。どうやって避けろというのか。魔法を使おうにも起動まで時間がかかる。
ならば、精霊術で相殺する。しかし、風に込められた魔力の密度は尋常ではない。半端に相殺すれば、逆に吸収され威力が増すだけだ。
結果、ユーリの結論は回避不可能。ユーリではどう考えても無傷では抜け出すことはできないとなった。負傷を覚悟して何とかなるかもしれないという程度だ。
だが、ユーリのその予想を裏切り、ジンクスは無傷で風の槍を避けた。気がついた時には既に風の槍で形成されていた檻を抜け出していた。
摩訶不思議とはこのことか。ジンクスが何をしたのかユーリにはわからなかったのだ。ただ、勘が告げるのは、ジンクスがやったのが高速移動や魔法に類することではないということ。そんなちゃちなことが行われたのではないと、直感は告げていた。
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エルシアは見た。ジンクスが消えたのを。そして次の瞬間には、あの槍の包囲を抜け出しているのを。何をしたのか彼女にはわからないが、意識の空白を感じとっていた。エルシアの中で、とある仮説が生まれる。
また空白。そして、次の瞬間には、刃の嵐がエルシアを襲う。先程エルシアが行った風の槍の意趣返しのつもりか、全方位、逃げ場はない。
もし、刀がエルシアの仮説通りなのだとしたならば、受けることは愚策でしかない。仮説通りなら如何に魔法で鍛えられた鎧であってもバターのように切断してしまうだろう。
故に、選択肢は避けるの一択のみ。だが、その隙間はない。ならば、とれる手段もまた一択のみ。決断は一瞬だった。
「“貫け”レヴォネノイトラール」
エルシアの持つ槍――レボネノイトラール。その名を彼女が叫ぶ。その瞬間、刃の嵐がエルシアを直撃した。刃は地を割り砂塵を巻き上げエルシアの姿を隠す。次々に降り注ぐ刃の嵐によって、砂煙のカーテンが全てを覆い尽くした。
闘技場が静まり返る。ハッと我にかえった誰かが、やったか? と呟いた。
その瞬間、タイミングを見計らったかのように、暴風が吹き荒れ砂煙のカーテンを切り裂く。カーテンの向こう側には、無傷で立つエルシアの姿があった。
否、無傷ではない。兜がパックリと真っ二つになっていた。
「流石です。私の兜を割ったのはアナタで2人目です。ギフトを使わせたのもアナタで2人目。賞賛に値します。
流石はアイシャールの英雄。オリハルコンの刀と言ったところですか」
人間階位【英雄】。それは人間が到達できるほぼ最高位。勇者の次に強い、人間の形だ。
ジンクスの刀はいつの間にか刃が空色に変わっていた。エルシアの槍と同じ様に。それは紛れもない最強の魔法金属オリハルコンの輝きだった。
オリハルコン。
美しく透き通った空色の金属。天の欠片とも呼ばれる稀少な物質。ギフトと呼ばれる謎の能力を発揮する。
また、世界一硬い金属として有名で、尚且つ魔法伝導率と魔力伝導率が高く武具としての適性だけでなく、術具としての適性も高い。
ただしその手の専門であるミスリルと違って非常に重いため、装飾品には向かない。そのため装飾品として市場に出回るのは少ない。
加工は非常に難しく。その道の修行を積み、極めた者以外に加工することは不可能。そのためオリハルコンを加工できる者は等しく国によって保護されている。
ジンクスの刀がオリハルコン製ならば今までの異常な行動もギフトで説明が付く。普通の刀のフリをしていたのはオリハルコン製ということを隠すためだ。
「“凍結”。アナタは時を凍り付かせた。それならば、風の槍も回避可能でしょう。止まっているのですから」
「正解だ。だが、こちらもわかった。お前のことは研究してたからな。お前の槍は結果を貫いたんだ。
僕の刃が当たるという結果を貫き、その穴を通り抜けた。だから、刃は当たらない」
「正解です。ますます素晴らしいですね。
まあ、この試合中はできてもあと1回ですが、アナタもあと1回と言ったところでしょう。ですから、わかったとしてもさほど何かが変わるわけではありませんね」
「そんなことはどうでもいい。ただ、お前を切るだけだ」
「良いでしょう。兜を割られた以上は本気を出すとしましょう」
2人の纏う空気があからさまに変わる。
「“凍れ”――」
「“貫け”――」
「――氷雹華!」
「――レヴォネノイトラール!」
何かが氷、何かを貫く。凄まじい衝撃が闘技場を揺るがす。観客はまともに立っていられなくなった。揺れが収まり、見れるようになった時、闘技場の中心では、刀と槍による暴風雨が吹き荒れていた。
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「さあ、行くとしましょうか」
突如として、闘技場内に圧力がかかる。それは一般人にとってはなんら意味を成さないものであったが実力の高い者に対してまるで万力で押さえつけられているかのような圧力が生じた。
「グッ!?」
「これは、まさか!!」
闘技場の動きが止まる。そして、2人の間に1人の男が現れる。黒服に身を包んだオールバックの男――ヤクミ。そこにいつもの飄々とした様子はない。あるのは狂気と狂乱の二重奏を奏でる一対の黒翼を広げた野性であった。
「ヒャッハー!! 良い感じじゃねえか。なあ、エルフよお」
「お、前、は!」
「吠えろ吠えろ。それで、王様が殺されるのをそこで見物してろよ」
「ぐっ、貴様!!」
動こうとするがエルシアは動けない。その間に彼方此方で、黒翼を持った獣人が王へと迫る。
「これが、鴉の戦だ!! 根を張り、覚え、溶け込み。そして、喰らう。これが鴉の戦よ!!」
鴉の魔の手が王へと迫っていた。
「舐めるなああ!!!」
風と氷が吹き荒れ、王に向かう獣人を叩き落とす。
「さすがはアイシャールの英雄と、大戦の英雄。ヘッ! いいぜ、どこまで相手できるか。試してやるよ!!」
ヤクミがチェーンウィップを取り出す。エルシアとジンクスは得物を構え、ヤクミへと疾駆した。
ふう、やりすぎたような気がします。
感想、評価、誤字報告、一言などありましたらどうぞ。
こうして欲しい、こんなことして欲しい、こんなキャラ出して、などの要望も随時受け付けてます。
では、また次回




