3-8
ノリで書いた結果がこれです。
ヴェスバーナ暦1998年春期3月22日 夜 王都リバーナ
闘技大会は三日目。この3日目のグループにはあのマシンガントークの踊り子系格闘家ネリアが出場していた。結果から言おう。彼女の圧勝であった。
しかも、男と戦った全試合全て股間を蹴りあげの一撃のみで勝利している。女相手ではセクハラ攻撃でこれまた一撃で勝利している。
別の意味で驚愕する試合内容だったと言えよう。それでも開催した王様が楽しんでいたようなので良いのだろう。
それで、全試合が終わったあと、ユーリはネリアに誘われて彼女が所属する旅一座の公演を見に行くことになった。
ハザードや回復した人魚族のウィンカーも一緒にだ。そういうわけで、今ユーリはハザードたちと共に旅一座のテントに向かっているのだ。
「いや、なんで一日で完治してんだよ」
「人魚だからって、お前も完治してんじゃねえか。一緒だ一緒」
「こらこら、行けませんよウィンカー。あなたと一緒なんてユーリさんに失礼ですよ」
「おい、こらハザード。てめえ、喧嘩売ってんのか? あ?」
「いえいえ、喧嘩馬鹿のあなたに売るわけないじゃないですか。事実を述べたまでですよ」
「売ってんだな! それなら買うぞこの野郎!!」
「やれやれ、仕方ないですね」
なぜかハザードとウィンカーの喧嘩が始まった。冷静なのかと思われたハザードもにこにこと意外に乗り気なようである。
あのレベルの実力者が戦ったら周りがどうなってしまうのか。想像するだけでもひどいことになるのは間違いないだろう。止めなければならないのだが――。
「無理だろ」
「そうですね~。あの2人の実力が高すぎて私にはなにもわからりませんが、とりあえず実力4桁くらいはいってんじゃないですかね。それか階位が何段か上がってるはずです。あ、知ってます?。実は私3桁なんですよ実力600くらいです。階位一段ですけどね。
いや~、旅一座で旅をしてると私みたいなのはよく盗賊とか変態に襲われたりするですね。それをぶっこ――いえ、ぬっこr――いえいえ、お話して撃退している間にいつの間にか上がっちゃったんですよ。
あ、そうです。知ってますか? 現在の実力の最高値って。なんか旅してまわってるといろんないらない知識が増えていくんですよねー。
で、どうやら10000とからしいですよ。1,000年前の伝説の勇者がそうだったらしいです。しかも、神クラスの階位とか。今はもう、そんな人いませんよ。なんかそこまでいくと化け物って感じですよね~。
そうそう、今現在この国の一番強いのはエレンっていう女騎士だそうですよ。そのおかげで、この国で女性の地位が割と高いんですね。
だから、この国は私はとってもとっても活動しやすいんですよ~。実力も4桁くらいいってるらしいですよ。階位もそれ相応に高いそうで。もう、次元が違うって話です。
あ、失念してました。桁ってわかります?。数字っていうものの並んでいるときの位置のことですよ~。あ、数字もわかります? そうですか、なかなか博識ですね。
私ですか? 私は団長から教えてもらったんですよ♪ 団長が博識で知っていたら騙されないで済むってみんなに教えていたんですよ。そのおかげで、結構やくに立ってまるんですよ~♪」
とりあえずネリアはそんなにいろいろと話している前にあの2人を止めるべき、そうすべき。とかユーリは思っているのだが、よくそんなに話せるなと思うくらいに話し続けているために口をはさむこともできない。
はさもうとしても喋るのが止まらない。すぐに脱線するのだ。それで、話をしようなどとは思えわない。
しかし、そうなるとハザードとウィンカーの2人を止めることができない。ユーリはハザードに勝っているが、それはほとんどが運とハザードが本気でなかったからだ。確実に止めることはできない。実力が違いすぎる。
被害があった時に無関係を装えれば良いが、先ほどまでの発言や一緒にいるところを見られているためそれもできないという八方塞がり。しかも、そこに新たに油が投げ込まれてしまった。
ハザードとウィンカーの喧嘩で、ウィンカーが吹き飛ばされて見るからにあまそうで、吐きそうになるほど甘い匂いをした菓子を食べている銀髪でコートのイケメンにぶつかった。
その衝撃で菓子は地面に落ちる。アルジェンドがそれを見て膝をつく。ウィンカーはそれに気が付いていない。当然謝りはしない。何かぷちりと糸が切れるような音が響いた。
刹那、ショッキングピンクというか派手すぎる桃色というかの甘ったるい常人は否応なく吐き気をもよおすような何かが噴出した。
そしてそれはアルジェンドから噴出しているようである。それを知覚した瞬間、ユーリの視界からアルジェンドが消えた。
次の瞬間には甲高い、金属と金属のぶつかりある音が響く。
その音がした方向を見ると、いつの間にか移動し両刃の、青の宝石が埋め込まれた美しい剣を振り下ろしているアルジェンドと、その剣を試合の時に見せた刀で受け止めているハザードがいた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
「くっ、なんだよこいつ!」
「わかりませんね! また、あなたが喧嘩でも売ったんじゃないんですか!」
「はあ!?。んなわけあるか! いきなり斬りつけてきたんだよ!」
「確かに、この人には今、理性はないようですからねえ!!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」
ハザードが力を込めてアルジェンドを吹き飛ばす。地面を多少すべるが、まったく動じないアルジェンド。
その目は狂ったように血走っていた。甘ったるいピンクのオーラがさらに増していく。それを見たネリアが声を上げる。
「あれは、糖気!!」
「闘気?」
「違いますよユーリさん! 糖気ですよ、糖気! ご存じないのですか!?」
「ご存じねえよ!!」
「ご存知ないのですか!? あれこそ、伝説の甘党だけが放つと言われると究極のオーラ。不可能を可能とする糖気ですぞ!!。
糖気を纏う者は1,000年に1度世界に現れる。その人数は7人いると聞きます。私も見るのは初めてですが、まさか本当に実在していたとは思いませんでした。
王の下に集う7人の英雄。まさか、生きているうちに会うことができるとは思いませんでしたよ。これは末代まで語ることができますねえ♪
それに、あの糖気の質からしたら菓子王の剣でしょう。
はっ!? ということは菓子の王がここに!? こ、これはすごいですよ! 彼の者が作り出す菓子はまさしく至高! 最高のスイーツだと言われています。
どこにいるんでしょう! はあ、はあ、はあ、やばいです。私興奮してきました!
ふーふーふー、ふいぃい、落ち着きました。すみません。で、とりあえず要点だけ言えば糖気というのはものすごいものということです。彼らがアレを纏った時、彼らにできないことはないとすら言われていますから。
私も事実はわかりませんが、アレを見る限りどうやら事実のようですし、ますます以て私たちでは止めることができなくなりましたねえ!
楽しく――いえいえ、これはけしからんですよ。けっして、決して、楽しくなんてありませんよ♪ 私は平和主義の乙女ですからねー♪ あ、でも喧嘩は止まりましたし、良いことではありましたねー」
いや、良いことではないだろう。確かにアルジェンドが介入したことにより、ハザードとウィンカーの喧嘩は止まった。
しかし、今度はアルジェンド対ハザード&ウィンカーの戦いにシフトチェンジしてしまっている。これでは何の解決にもなっていない。
むしろ戦いのレベルが上がってしまいさらに介入が困難になってしまった。これでは、もう本当にお手上げだ。
ユーリは早々とこの事態を収拾することを諦めた。そうなってしまえば、意外にも選択肢が多いことに気が付く。今、この周りにいる人間は皆一様に3人の戦いに意識が向いている。それは隣にいるネリアもそうだ。
つまり、今ならばこの場を離れることができるんのだ。今更1人抜けたところで誰も気にしないだろう。逆にこの場にいることの方が後々問題になる。
いくら、本戦出場選手ということで王に保護されていても日本人としては問題は起こしたくない。というわけで逃げ出すことにした。三十六計逃げるが勝ちだ。
そうと決まればユーリの行動は早かった。なるべく気配を消して人の間を縫うようにしてこの場をそろりと脱出する。
そこで金髪で頭には黒い魔法使いが被るような、白色のリボンが巻かれた三角帽子を被り、黒を基調としたフリルのついた服を着た美少女と遭遇した。
「ん?」
「ん?」
エリーニアもこの場から脱出するために移動してきたらしい。同じ考えを持った者同士かちあったわけだ。目があった瞬間に互いに目的が同じことがわかった。
この場の異常な雰囲気に中てられたのか、ユーリは気が付いたらエリーニアと協力の握手を交わしていた。そして、2人してこの場を離れた。
********
「いや~、あんたも苦労すんな」
目立たない路地裏に来た所で互いの事情を説明したあと、エリーニアが口を開いた。それにユーリは答える。同じような境遇だからすぐに話せるようになった。
「全くだ。しかも、昨日今日会ったばかりの奴らだフレンドリーすぎるだろ」
「何だふれんどり~って? ……まっ良いか。私はエリーニア。気軽にエリーさんと呼んでくれて構わないぜ」
なぜか気軽にさん付けを要求された気がするが、スルーした。そんなことあるわけなく、ただの空耳だろうということで処理をする。
「俺はユーリだ」
「知ってるぜ」
なんでと聞こうとしてすぐに理解した。闘技大会を見ていたのだろう。というより、この街で見ていない人はいない。映像水晶板で酒場や食事処などで手軽に見ることができる。
そのため現在この街で本戦に出場が決定した選手のことを知らない人間はいないのだ。エリーニアが知っていてもおかしくはない。
「そりゃそうだな」
「さって、これからどうすっかね」
「俺はシュリージュリー一座に行くぞ」
シュリージュリー一座とはネリアが所属している旅一座だ。
「おっ、そうなのか。私も行くとこだったんだぜ」
「偶然だな」
「そうだな。よし、それなら一緒に行こうぜ。こういうのは大勢で行った方が楽しいってな」
「大勢って言っても2人だけだが」
「気にしないぜ。私が大勢って思えばそれが大勢なんだよ」
「さいですか」
そういうことなので、シュリージュリー一座のテントのある広場に向かおうとしたところ――。
「おいてめえら、金だしな」
――なにやらチンピラに絡まれた。いかにもなチンピラが3人。実力は総じて低い。ユーリだけでも簡単に制圧できるくらいだ。
面倒は嫌いなのでさっさとご退場願おうと一歩ユーリが踏み出したところで、チンピラが地面にたたきつけられた。チンピラ3人の上にあのアサオが着地していた。どこから降ってきたのだろうか。
「私降臨!! 神の御前ぞ、さあ喜んで跪くといい。ん? ほう、倒れ伏すほどまでに跪くとはなかなかわかっているな。君たちのことは敬虔なる使徒と呼ぶことにしようか」
「お前は……」
「ん、無茶苦茶か。また、私のところに来たのか。君もそんなに私が好きか」
「どうしてそうなる。いや、それよりもなんで空から降ってくるんだよ」
「愚問だな無茶苦茶。私が飛行機だからだ。
飛行機は空を飛ぶものだ。それなら空から降ってきたとしても疑問じゃないでしょう」
疑問しかない上のアサオは相変わらず意味の分からないことを言っている。現代日本人であるところのユーリからすれば痛いことこの上ない。
「そうか。じゃあ、俺たちは急ぐから」
別に急ぐわけではないが、あまりアサオと関わり合いになりたくないため、さっさと立ち去ることにする。いつチンピラが起きるかどうかもわからないのだ。
というかアサオが落ちてきただけで気絶するとか弱すぎるにもほどがある。
「まあ、待て。話は聞いていた。私には地獄耳があるからな。運命の悪戯とは誠に面白い。
私もシュリージュリー一座に向かおうと思っていたところだ。サーカスを見るのも神としての余興だ。さあ、ついてくるがいい」
「行くぜー!」
「なんでさ……」
こうしてユーリは何故だかわからないうちにエリーニアとアサオと共にシュリージュリー一座へと向かうのであった。
********
「いやー凄かったぜ」
「本当だった。私は噂を信じる質ではないが、なかなかどうしてよかった。まさしく絢爛舞踏とはこのことだ。
私の敵である太陽に匹敵する煌びやかさだった。危うく死ぬところだったよ」
「……それには同意するよ」
シュリージュリー一座の公演を見終わった3人。感想は凄かったの一言に尽きる。それ以外に言葉をいくら並べてもシュリージュリー一座の魅力を伝えることは不可能だろう。
それほどまでに凄まじかったのだ。死んでも良いと思うくらいにはすごかった。いつの間にかネリアもちゃんと出演してたのには驚いたが。
「おい、エリー。お菓子様を出せ」
そこにアルジェンドがやってきた。喧嘩はどうなったんだとユーリが気になっている横でアルジェンドはエリーニアに手を差し出す。
「帰ってくるなりなんだおい」
「あるだろう。何のためにここに来たと思っている」
「ねえよ」
「あるはずだ。公演の合間に出ただろう。出せ」
「ああ、あれな食った」
「なん……だと……?」
この世の終わりだという風な表情をするアルジェンド。
「食った」
「バカ野郎! シュリージュリー一座の公演の合間にのみ出る究極のスウィーツシュリージュリープリンだぞ!
農耕国エストランド産の最高級食材ハイランドミルクとハイバードエッグ、ハイアイドシュガー各々が合わさり奏でるハーモニーにより濃密ながらくどくなく尚且つ嗅ぐだけで幸福へと導く芳醇な香り!
一口食らえば、滑らかな口当たり且つ口の中で溶けて広がる楚々やかな甘味は、まさしくワの国の蜜月を知らぬ少女のようだ。
そして食えば食らうほど、上品な甘さが強くなる。それはまさしく大人へと成熟していく少女の様! これを究極と言わずして何という!
それを、それを貴様は食っただと!!!」
「出たもんは食う。当たり前だろ」
「殺す」
「もう、お菓子作らんぞ」
「すみませんでした!!」
目にも留まらぬ速さで土下座するアルジェンド。
力関係は圧倒的らしい。食を握られるというのは怖いことだとユーリは思った。
「いや~、いい運動でした」
「そうだろうよ。オレに任せてみてただけじゃねえか」
「いえいえ、楽しかったですよ」
ハザードたちもやってきた。
「いやすみませんユーリさん」
「別に」
構わない。ユーリは心の中でつぶやいた。どうせまだ会ったばかりだ。そこまで深い付き合いになるとは思えないし、そこまで付き合う気もユーリにはない。相手の方からやってくるので問題が起きないように付き合ってるだけだ。
この世界では相手をすぐには信用してはいけない。いつ後ろから刺されるかわかったものではないからだ。
ハザードたちがそんなことをするとは思えないが、警戒だけはしておく。ただでさえ、この国で動くには大変な秘密をユーリは持っているのだから。
「すみません。では、そろそろ遅いですし、明日もありますからね。今日は帰るとしましょうか」
「そうだな」
そろそろ帰りたかったのでハザードの提案を否定することなくユーリは部屋に戻った。
誤字・脱字、感想や意見があったらお願いします。




