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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第3章闘技大会編
41/94

3-3

お待たせしました3-3です。

ひどい戦闘描写。ご都合展開。という内容になっております。ご注意ください。


2012年5月21日修正。

 ヴェスバーナ暦1998年春期3月20日 朝 王都リバーナ


 第一試合を終えたユーリは控え室に戻っていた。試合内容は圧倒的の一言に尽きる。相手が腕っ節が強いだけの農民だったのだから当たり前だ。

 相手に数度打ち込ませ、それをいなしてからの一撃で終わらせた。これからもこの調子でいきたいが、それは無理だろう。

 ユーリは控え室を見渡す。天井は低いが、かなり広いこの部屋の中には50人程度が詰め込まれている。闘技場の反対側にも同じようにいるはずなので、この1グループの参加者は100人。

 それが10グループまでなので、この闘技大会の参加者は1000人ほどで、多いのか少ないのかユーリには判断がつかない。

 その中から本戦に進めるのは10人だけなのだからとても厳しい。つまり、各グループで本戦に進めるのは1人ということだ。

 また、実力(レベル)の差もある。この場にいる50人だけでも高いのから低いのまで選り取り見取りだ。実力(レベル)が全てを決めるわけではないとはいえ、それでも筋力などに大きな差がでる。実力(レベル)が高い相手に当たれば厳しい戦いになるだろう。だが、それでも勝たなければならない。

 そこまでユーリが考えた時、歓声が響き渡り、控え室が揺れる。第二試合が終わったようだ。勝ったのは相手側のようで、こちらから出て行った奴は戻っては来なかった。自分も失敗したらああなる。

 ユーリは壁に取り付けられた映像水晶板を注視する。そこには闘技場の様子が映っていた。これで闘技場の戦いの様子を見れる。

 だいたいの参加者はそれで戦う可能性のある相手の戦い方を見たりするのだ。トーナメント戦などではなく、無作為に相手が選ばれて戦うことになるので、どんな戦いでも見ていなければ不利になる。


(いきなり見逃したか。まあ、良い。とりあえず次だ)


 試合は休みなく続けられる。もう映像水晶板を見ればもう次の戦いが始まろうとしていた。


(さて、どんな奴が、って、なんか見たことあるような奴だな。……ああ、お坊ちゃんか)


 映像水晶板に映っていたのは、こちら側から出て行った筋骨隆々で如何にも脳筋そうな男と対戦相手側の如何にも貴族だオーラ全開で他人を見下しているような少年――ジェイル・ハドキンス。

 以前冒険選抜試験の時に色々あった相手だ。相変わらず自分が一番だと他人を見下しているらしく、傲岸不遜な態度や雰囲気は全く変わっていない。

 ジェイルはその減らず口をもって対戦相手に何か言っているようで、対戦相手は怒り心頭といったご様子。

 ユーリは冷静に勝敗を予想する。


(こりゃお坊ちゃんが勝ったな。実力(レベル)は脳筋男の方が高いが、魔法を使えるお坊ちゃんにはかなわない)


 そして試合は始まり、終わった。ジェイルの魔法の風の刃により男は上半身と下半身が仲違いをして、別々の道を歩き始めたために試合は終了。

 ユーリの予想通りジェイルの勝利である。しかし、予想通りだからといって嬉しいとかならない。魔法なのだから当然だろうという感じしかない。

 ジェイルは悠々と控え室に戻っていき、残った男の死体はすぐさま片付けられる。そして何事もなかったかのように次の試合が始まるのだった。

 それからしばらくして再びユーリの出番となる。控え室から闘技場にでると五月蝿いほどの歓声と振動がユーリを迎える。相手側を見ると片メガネをかけた、優しげな笑顔を浮かべた線の細い青年が立っていた。

 見たことがない相手だ。つまり相手だけが自分のことを知っているということ。魔法によって無作為に選ばれているため仕方がないのだが、なんかずるい。だが、そうもいってられない。気持ちを切り替えて本気で勝つことを考える。

 外見からしたら魔法か何か、特殊な技を使って戦うタイプだと思われる。もしそれが正解ならば、すかさず接近して終わらせる。魔法使いタイプは総じて身体能力が低いからだ。低いとはいっても一般人からしたら十分高いのだが。

 だが、そうでない場合はそうはいかない。ありえるのは徒手空拳の使い手。いや、そんなことを考えよりは、さっさとやるに限る。実力で劣るなら先手必勝以外にないのだ。


「では、第七試合、開始!」


 試合が始まる。ユーリは突っ込もうとして、青年の言葉で動きが止まった。


「はじめまして、僕はハザードと言います。できれば、あなたのお名前を教えてはくれませんか?」

「なぜだ?」


 いきなりの名乗り。しかも、全くの無防備、自然体で隙だらけ。どんな愚鈍な奴でも何かあるのでは、と勘ぐってしまう。


「いえ、ちょっと興味があっただけですよ。それにほら、戦うなら相手の名前くらい知りたいじゃありませんか」


 それでもハザードは笑顔でそう言った。

 ユーリにはよくわからないが、嘘は付いてないように思える。なら、名乗っても問題はなさそうだ。と、ユーリもとりあえず名乗った。


「ユーリさんですか。良い名です。じゃあ、戦いましょうか。観客の皆さんも待ちきれないようですし」


 そういうハザードだが全く構えない。依然、自然体のまま、柔和な笑みを浮かべたまま、にこやかにユーリを見ているだけだ。何かを狙っているのだろうか。それなら何を狙っているのか。


「こないのですか?」


 ユーリは一度頭を振り、気持ちを切り替える。それが相手の戦闘スタイルだとして受け入れる。迷ってる暇などないのだ。勝たなければならない。勝つには攻めなければ。

 ユーリは拳を握り地を蹴った。ハザードに一直線に疾走する。状況が動いたことに観客が沸くがそんなものはユーリの耳には入らない。ただただ目の前の敵だけを見ていた。

 拳を引き、打つ。なかなかに速い。

 だが、ハザードには見えていた。


(良い突きです。筋も良いようですし、何より迷いがない。まだまだ実力(レベル)は低いようですけど将来が楽しみな子ですね)


 しかも、そんなことを考える余裕まである。当然ユーリの突きは横にいなし、トンットンッという軽いステップで距離を取る。少しいなされたことに驚いたようだが、すぐさまユーリは追撃してくる。それにハザードは楽しそうにニコニコとしていた。

 それを見たハザードの仲間(笑)の連中は一様に思っていた。またか、と。

「はあ、はあ、はあ」

「どうしました? 息が上がってますよ?」

「うる、せえ」


 あれから何度も攻撃するのだが、ユーリの攻撃は一度たりとも当たることはなかった。そのためだいぶ息が上がってきたユーリ。対していなしたりかわしたりしてユーリ以上に動いているはずのハザードは息一つ乱していない。

 しかも、なぜか一度も攻撃してこない。ユーリを疲れさせる作戦なのかはわからないが、余裕綽々なのは変わりない。

 その時点でユーリはハザードとの実力差をはっきりと自覚した。このままでは負ける。少なくとも未熟な徒手空拳で勝てる相手ではない。


「ふむ……、あなたふざけているんですか?」

「何?」

「いえ、あなたは確かに体術の才能があります。それも人間を遥かに超えた。ですが、まだまだ僕には及びません。あなたが本気で勝ちたいのなら。得物を使うべきでしょう? 違いますか? それとも、ここで負けて良いんですか?」

「…………」


 ユーリは甘い。異世界ヴェスバーナ大陸に来てもう一か月以上が経つが、それでも抜け切っていない。人を殺すこと、傷つけることへの躊躇いがある。

 それは17年を過ごした日本での倫理観などがあるためなのだが、それはもう関係のない話だ。今のユーリには勝たなければならない理由がある。


(……そうだ。負けるわけにはいかないんだ。何躊躇ってるんだよ。命の恩人のためなら、俺は、俺は、どんなことでもやるって決めたじゃねえか。なら、迷う必要はない。俺のすべてであいつを倒す。後悔とか、そんなのは全部終わってからだ)


 ユーリは剣を抜く。ドワーフの鍛冶師アルク・ゴルゾノビッチが鍛え上げた片刃のバスタードソードがその姿を現す。

 一片の装飾などなく、曇りひとつないその白刃が太陽の光を反射する。雨ばかりのせいで太陽の下で抜いたのは初めてだが、ユーリは思う。美しいと。そして、これならいけると。

 魔力を術具(マジックメモリ)へ流し込む。魔法陣を起動。魔法陣がユーリの踵に展開される。そして、それを蹴る。ユーリは加速した。爆発が2度(、、)巻き起こり、土煙が上がる。次の瞬間には土煙が切り裂かれていた。


「!!」


 ハザードが気が付いた時にはユーリは背後、もっと正確にいうなら背後頭上にいた。余裕の笑みが初めて崩れ驚きの表情に変わる。それにユーリの表情が緩み笑みを浮かべる。

 ユーリは再び術具へと魔力を流し込む。魔法陣を連続起動。1つを残して待機。そしてその1つを展開する。空中に魔法陣が展開される。移動中の魔法陣展開。修行の成果だ。

 それを足場にして魔法陣を蹴る。それと同時に魔法陣が爆発した。衝撃とともにユーリの体が凄まじい速度で前へ。その瞬間に待機しておいた魔法陣を展開。4つの魔法陣がユーリの両腕に展開される。


「はああああああああ!!!」


 ユーリが剣をハザードに向かって剣を振り下ろす。


「くっ!」


 それをハザードは間一髪紙一重でかわす。ユーリの一撃はハザードには当たらず闘技場の地面へ。刹那、地面が爆ぜた。その威力にハザードは驚くばかり。そこをさらなる驚愕が襲う。ハザードの目の前に白刃が迫っていたからだ。


「なっ!?」


 なんとかそれもかわしバックステップで一度距離をとる。そして、ユーリのやったことの全てを知った。


(爆発の魔法による強制的な加速。そして、また強化魔法と防御魔法とまた爆発魔法による剣激の逆転。まったく無茶をする)


 だが、現に目の前で起きているのだから、認めないわけにはいかない。ユーリのやったことは単純だ。

 ただ、爆発の魔法の衝撃に乗っただけ。それだけなのだ。爆発の魔法による瞬間的な加速を利用して先ほどのまでの攻撃を作り上げた。

 最初の2回の爆発は背後に移動するためのもの。そのあとの振り下ろしに爆発が使われ、さらには切り上げの時にも爆発が使われた。防御魔法と強化魔法で腕をガードして、さらに展開した魔法陣で爆発を起こして。

 それであれほどの剣速を出したのだ。先ほどとはまるで別人の戦い方だ。ハザードは自覚する。どうやら、眠れる獅子を起こしてしまったのだと。

 だが、それでもハザードが優勢であることには変わりない。先ほどの奇襲を以てしてもユーリはハザードに攻撃を当てることはできなかったからだ。これなら、まだなんとかしのげる。


「っ!?」


 気が付いたその瞬間にはユーリがもう目の前にいた。剣が振るわれている。どうして。爆発はなかった。ハザードはユーリから一時も目を離してなどいない。

 それなのにどうして目の前にいる。考え事をしていたとしても、このように目の前までハザードに気が付かれずに近づくなど不可能だ。幻術の類もハザードには効かない。この明らかに法則を超えた感覚は。


戦技(バトルクラフト)ですか!」

「戦技篠宮流奥義『紫電一閃』」


 何よりも早い剣戟がハザードを襲う。


(くっ、さすがに舐めすぎてましたね。使いたくはなかったのですが、仕方ありませんね)


 キィン。金属のぶつかった高い音が響き渡る。今度はユーリが驚愕する。防がれると思わなかった一撃が防がれただけでなく、ハザードの手に一振りの刀があったからだ。

 刀によってユーリの一撃は防がれていた。妖しく乱れた刃文の淡い赤の燐光を放つ妖異幻怪な刀だ。微かに脈動するそれにユーリは言い知れぬ恐怖を感じた。


「すみません。正直、侮っていました。実力(レベル)が低いと。いやー、コレを使うことになるとは思いませんでしたよ」

「そうか、それは良かったよ」

「はい」


 2人して笑う。楽しいわけでも嬉しいわけでもないが、なぜだか笑えた。

 ハザードが刀を構える。一分の隙のない綺麗な構え。対するユーリも構える。神の才能による本能の構え。ハザードは息を吐く。

 そして、止める。ユーリは魔力を術具に流し込む。そして4つの魔法陣が展開され、風の精霊が彼を包み込む。


「…………」

「…………」


 ジリジリと睨み合い。観客も固唾を飲んで両者の動向を見守る。不意に静まり返ったコツンという音が響いた。


 轟。


 先に動いたのはユーリ。彼の足下が爆ぜ、弾丸の如く風を切り裂きながら突撃する。ハザードは待ち構える。一撃の瞬間。その一瞬を制すために。


(まだだ、まだ!)


 ハザードまであと一歩。そこで更に魔法陣が展開される。爆発。衝撃に乗り、急激に方向転換。更にもう1度。ハザードの背後へと。


(2度も同じ手は通用しません)


 足運びで振り返りつつ、逆手で背後へと刀を振るう。展開されていた4つの魔法陣、そのうちの1つが爆ぜる。

 場所は剣。もう1つはユーリの体を通り抜け、あとの2つは剣に展開された。爆発の衝撃でユーリの体が回転する。姿勢を低くしたためにユーリの頭上をハザードの刀が通り過ぎた。ユーリは回転の勢いのまま剣を振るう。

 しかし、ハザードもすぐさま刀を持ち替え振り下ろす。ユーリの眉間を狙った一撃。剣を振るった姿勢のユーリにかわせるものではない。ハザードはそう思った。

 その瞬間、魔法陣が爆ぜた。剣が加速する。しかし、ハザードには届かない。ミスかと思われたが、ユーリはニヤリと笑っていた。

 金属がぶつかり、折れた甲高い音が響き渡った。まるで時間が止まったかのように静まり返る。


「…………」

「はあ、はあ、はあ」


 ハザードが自身の手の中にある刀を見る。刀は半ばから折れていた。刀の腹をユーリの剣が捉えていた。折れたのは爆発と魔法により強化されていた剣は刀の耐久力を上回ったのだ。

 刀というのは切れ味に重きを置いている。その為最強でありながら最弱でもあるのだ。ひどく繊細で無理な衝撃によって折れてしまうくらいには。それはハザードが作り出した妖刀と言えど例外ではない。


(ふう、まさか折られるとは。まだまだ僕も甘いですね。いえ、彼が予想以上だっただけですね)

「僕の負けです」


 ハザードは降参した。審判がユーリの勝利を告げる。割れんばかりの歓声と拍手が響き渡り、闘技場が揺れる。


「なかなか楽しかったですよ」

「あんた、まだ戦えただろ」

「得物を壊されたので。それに、あなたは負けるわけにはいかないんでしょ?」

「そうだな」

「では、またどこかで会うことがあったら」

「ああ」

「ああ、そうでした。もし、本当に勝ち抜きたいのなら、殺すことを躊躇わないことです。人を殺すのは初めてではないでしょうが、まだ慣れていないのでしょう? 慣れることです。でなければ、今度はあなたが殺されますよ」

「…………」


 そんなことは嫌というほどわかった。覚悟が足りないこともわかっている。だが、それにこたえることはまだできなかった。

 次の試合もあるのでユーリは控え室に戻る。控え室に戻った途端控え室中の視線を受けたが、できる限り無視して壁際に移動し椅子に座り込む。


「はあ~」


 息を吐く。無事に勝てたことへの安堵だ。もしあのまま続けていれば負けていた。実力差は明白。しかも、ハザードはまだ本気ではなかった。本来ならあのような小手先が通じるわけがないのだ。それに他の相手に知られてしまった時点で効果はもうない。


「考えるしかない。そして、やるしかない」


 実力(レベル)が高い相手にユーリが勝つには考えるしかない。どんなに実力(レベル)が高かろうと、相手は同じ人だ。身体構造が変わるわけではない。耐久力が上がるわけでもない。剣で斬ればどんなに実力(レベル)が高かろうと傷を負わせることができる。ならば、それができるように考えるしかないのだ。そして、躊躇いを捨てるしかない。


「……やってやるさ。勝たなきゃいけないんだから」


 そう言い聞かせるようにユーリはつぶやいた。


 ――技能(スキル)『武器破壊』を習得しました――

 ――常時発動技能(パッシブスキル)『魔法剣士の資質』を習得しました――


感想、一言、誤字報告などなどお待ちしてます。


キャラ&やってほしいことも募集中です。


次回もまた一週間後を予定してます。

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