表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
間章1王都道中
38/94

間章1-5

低クオリティですみません。


 ヴェスバーナ暦1998年春期3月11日 昼 リシュニア街道西部


 リシュニアと反対の方向にあるエレナーディスという街に向かうというロッドたち。リシュニアに向かう必要のあるユーリは彼らに別れを告げた。

 また、いつかどこかで会った時には飲む的な約束をしての、涙の別れ(一部、特にアケリン)であった。彼? 彼女にはできればもう2度と会いたくないものであった。

 というわけでユーリは久方ぶりの1人。いつ以来かと言えばスニアの村が壊滅して以来である。久し振りの1人にちょっと嬉しくなったり、雨で辟易したりしながらぬかるんだ道を歩く。

 雨が降っているということもあり道を行くのはユーリだけだ。雨音とユーリの歩く音だけが辺りに響く。

 特にやることもない上、見るものもないので昨日のことを思い出してしまう。また少しグロッキーになった。ノーマルのユーリにはキツすぎる。


「いやいや、考えるな」


 これ以上思い出すとドツボにはまる。そんな危機感を抱いたユーリは思い出すのを止めた。歩くのに集中する。

 そうしていると何かざわざわという感覚を感じる。周りを見てみるが何もない。どういうわけかざわざわと騒がしい気がするのだ。


「なんなんだ?」


 そうつぶやくが周りには何もいない。とりあえず歩みを止めてもよいことはないので歩く。エレンとの約束の期限まであと3日。

 リシュニアまではあと1日歩き続けたらたどり着く。途中で休憩したとしても、何もなければ2日で辿り着ける。

 ユーリは自動作地図を取り出す。ざわざわは止まらないが今いる場所の確認は必須だ。先はわからないが周囲はわかる。何かないか調べる。寄り道をする気はない。不測の事態を避けるためだ。

 だが、こんな時ほど不測の事態はやってくる。それがお約束というものだ。というのは小説の中だけのお話。

 実際は何も起こらずに夜を迎えた。余裕があるので野宿をする。降り続いていた雨は今はやんでいる。


「ちょうど良いな。ちょっと溜まってるのを解消しに行くとしますか」


 何がだって? 言わせんな恥ずかしい。あと、いろいろと規約に引っかかりそうなので。まあ、あえて言うのなら人間にある三大欲の一つを解消しに行っただけだ。

 野営地から離れて茂みの中に入る。それからごそごそと、そんな感じの音が静かな茂みの中に響く。驚くほど何の気配もしなかった。これは好都合であった。

 そこに風が吹き抜ける。それはただの風ではなかった。意思を持った風だ。それはつまり精霊だということ。

 見える者がいたのならそこに風が女性の形をとったような存在を視認できたはずだ。定形をとるという精霊の中でも高位の存在を。

 ただ、ここには誰もいない。本来いるはずのユーリは茂みにで個人的な理由でごそごそしている。詳細は、言えません。


『……火がざわめいていますね。このあたりで何かあったようです。イフリート様が出て行ったことも何か関係があるはず。この辺りには何かありましたか……? とにかく我らの姿を見ることのできる人の子がいれば良いのですが……はぅっ!?』


 そうつぶやく風の精霊。あたりをきょろきょろと見渡す。明らかに野営地でどこかに人がいるはず。風に聞いてみる。

 瞬間、彼女は真っ赤に赤面する。いや、正確には赤面などはしていないのだが、今の彼女の状態はまさしくそれと同じ状態であったのだ。

 精霊は人間ではない。世界を構成する元素の一部である。ゆえに性別もなかったりする。だが、それであっても高位となれば感情のようなものは存在するのだ。

 つまるところ羞恥を感じているのだ。なぜかは、想像におかまかせしたい。ユーリが原因であります。


「ふい~……ん?」


 茂みからスッキリした様子で戻ってきたユーリ。当然、野営地の真ん中で浮き尽くしている風の精霊の姿を視認する。

 さて、その様子は優しげな微笑を浮かべたままなの――内心ではかなり羞恥を感じている――を見て思う。

 もしかして、見られたのか、と。それは非常にまずいというか、かなり気まずい。いや、やばいというかなんというか。いや、そんなのの前に目の前の存在はなんなのかと。

 明らかに人ではない、とは思う。見るからに半透明、というか風そのものが体を形作っているようにも見える。

 最近感じているざわざわとしたあの感覚に近い気もする。アレンから精霊を見えるようにするための訓練の時に感じていた感覚を強くしたものともいえる。ならば風の精霊で間違いないのかもしれない。

 その考えに至ったユーリ。うれしさがこみあげてくる。アレンといた時には見えなかったのにどうして今見えるようになったのかとか疑問はあったりするが、見えるようになったのだからそんなことはどうでもよい。微かに見えるのが、はっきり見えるようになったので、嬉しくなった。この調子ならば、風以外の精霊も見えるようになったのかもしれない。そうなると、うれしい。


『こほん……もし、人の子よ。少々聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?』


 いろいろと考えていたユーリの思考を遮って風の精霊が語りかける。語りかけるといっても彼女の口は動いていない。

 ユーリの頭の中に直接語りかけてきているといった方が正しい。声帯がないのだから当たり前だろう。


「あ、はい」


 若干それに驚いたがさすがにファンタジーの世界に1か月近くはいるのだ、ユーリも慣れたものである。


『感謝します。では、ここ最近、この周囲で何かありませんでしたか? 精霊がざわついていますし、イフリート様も行方知れずなのです』

「いえ、とくには俺は知らないですね」


 記憶を呼び起こしながら言う。その時に思い出さなくてもよいものも思い出しかけたが、その前にさっさと思い出すのをやめた。

 この周囲ならば、何も起きていないからだ。精霊が見えるようになったのも今、この瞬間みたいなもので、異変があっているとは思いもしない。

 しかし、精霊が何かあるといっているのなら、何かあったのだろう。だが、それをユーリは知覚してはいなかった。


『そうですか。時間を取らせました申し訳ありません人の子よ。汝の旅に幸在らんことを。では』


 そう言って精霊は解けて消えていった。そこには痕跡すら残っていない。


「……なんだったんだ?」


 そんなもの彼女ではないユーリにわかるわけがない。だが、とりあえず精霊術を使うための条件はクリアした。さっそく試してみることにする。ユーリはわくわくが止まらないようだった。


 ――常時発動技能(パッシブスキル)『精霊使いの資質』を習得しました――


******


 ユーリの元から消えた風の精霊は、彼とロッドたちが調査を終えた地下遺跡へとやってきていた。ユーリ別れた後、風がそこに何かあることを告げていたのだ。今まで気が付かなかったのが不思議なくらいであった。


『……このような場所に遺跡があったのですか。ですが、おかしいですね』


 彼女にはつい先ほどこの遺跡が現れたかのうように感じられたのだ。それに精霊が一切存在しない。これはおかしなことだ。

 地下にあるのなら最低でも土の精霊がいるはず。それなのに何もいないというのはどういうことなのか。

 まるで、ここだけ精霊をどこかに移してしまったかのようだ。絵に例えればキャンパスに書き込んでいた絵の中に空白がある状態。

 その空白がこの遺跡だ。そもそも、その状態でこの遺跡が存在しているということ自体ありえないことである。

 画竜点睛を欠く。

 これでは世界は完成しないのだ。精霊は世界にあふれるべきなのだ。すべてのものは精霊から形作られる。それが一点でも欠ければそれは存在できなくなるはずなのだ。

 ならば、なぜ。そんな疑問が彼女を支配する。


『中に行ってみる以外にないようですね』


 危険かもしれないが、それ以外に方法はない。

 彼女の体が解け遺跡の中へと入っていく。

 そして、最奥も最奥、球形の部屋へとたどり着いた。暗くしんと静まり返っている。そこには真っ赤な血が壁一面に広がっていた。

 致死量には遠く及ばないであろうが、かなり大きな傷を負っていることが予想できる。


『これは、魔女の血……。まさか、戻ってきたというのですか?』


 その血を撫でて彼女は呟く。その呟きには驚きがあった。


『これは、すぐに報告しなければいけませんね。マリアージュがいてくれれば良いのですが』


 再び体を解き彼女は空へと昇る。

 そして、東へと向かっていった。その先には巨大な浮き島があった。

 アグナガルド帝国。

 彼女が向かったのは、世界に轟く最大の国だ。

 そして、マリアージュ。

 彼の国にて、もっとも精霊に愛された人物。世界最強の精霊術師である。


********


 世界のどこか。


「あ゛あ゛! あのクソジジイめやりやがったなくそがあああ!」


 フィーエは真っ赤に燃えるオーブを振り回しながら喚き散らす。体中ボロボロで腹部にはかなり大きな刺し傷があった。

 ただ、傷のすべてを炎であぶって止血したのか火傷の痕の方が明らかに多い。そんな状態で喚くとは感心する。

 そこにはシックな魔女風ドレスに身を包んだイリスがやってくる。


「ひどくやられたようね」

「あ! 姉様! 聞いてくれよあのクソジジイがよぉ~」

「見ればわかるわよ。まったく、封印するだけでいいのに、大精霊(イフリート)まで相手にしているからよ」


 イフリート。

 四大精霊と呼ばれる、世界を構築している高位の精霊だ。炎の大精霊。世界全ての炎を統べる王、サラマンダーに仕えるモノ。精霊の中でも屈指の存在であり、世界の成り立ちにかかわっている。

 精霊は死なないが、高位のものは一度倒されると、生まれた場所で再構成される。生まれた場所はわからない。

 その力は、魔女にすら匹敵する。


「出てきたあいつが悪いんだよ。けっ、今頃どっかで復活してんだろ? 次あったら覚えてやがれよってんだ」

「やめておきなさい。精霊は厄介なんだから。でも……いずれすべて殺すわ……」


 そう言ったイリスの表情はフィーエが戦慄するほどの殺意を含んでいた。


「さあ、早くそれをささげて来なさい」

「は、はいさー!」


 イリスは空を見上げる。紫色のそこに赤が混じる。まだまだ先は長い。だが、もうすぐだ後2年。それだけの時間があれば終わる。

 すべてが。2年など悠久の時の中から見れば一瞬でしかない。もうすぐ、何かが始まる。いや、終わる。


とりあえず間章は終了です。

だいたい三章の構成も決まりましたので次回からは三章を書きたいと思います。


やってほしいこと、キャラ募集中。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ