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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
間章1王都道中
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間章1-3

なにやら迷走中です。ご注意ください。

 ヴェスバーナ暦1998年春期3月10日 昼 スラナザース平原道地下洞窟?


「しくじったな」


 ユーリが今し方自分が落っこちてきた穴を見上げながら呟く。

 見えるのは雨降らす黒雲と、風と雨に揺られる草くらいであった。そこから視線を下げると洞窟の暗闇が広がっている。地下洞窟に落ちてしまったらしい。魔獣の巣窟に落ちなかっただけマシか。

 ユーリはそんなことを思いながら、被っていた瓦礫の破片を払いつつ立ち上がる。幸い体は多少痛みがあるが、問題なく動く。

 天井がそんなに高くなかったおかけだ。穴から上に上がることはできないが、風の流れから出口があることはわかる。だから出ることはできる。ただ心配が1つ。


「エレンたちは大丈夫か?」


 逃がしたエレンたちのことだ。精霊術の使えるアレンがいるため、無事に逃げ切っているはず。だが、あのアレンの性格を考えると少し心配である。


「確かめるためにも早く合流場所に行かないとな」


 ユーリは剣の柄に右手で触れつつ、即興で作った松明を持ちゆっくり暗闇に向けて歩き出す。途中、一緒に落ちて、助からなかった馬に黙祷を捧げてから、洞窟を抜けるために歩き出した。


 ユーリがこうなった理由は少し前のこと。

 昨日と同じように街道を荷馬車で進んでいた時のことだ。雨が降っていたために視界が悪かった。気が付いたのは風の精霊によりユーリ以上に探知範囲を持つアレン。何に気が付いたのかと言えば、盗賊にだ。正確に言えば、自分たちを追って来ている盗賊たちにだ。


「どうしますか?」

「さて、どうしようか?」


 アレンの問いにエレンは答えず、そのままユーリに持っていく。


「盗賊は何人だ?」

「えと……30人くらい、です。ただ、馬に乗ってるみたいです」

「30人か、微妙なところだな」


 相手の実力(レベル)次第であるが、やれないことはない。ただ、やりたくはあまりない。別に怖いわけでもないし、躊躇っているわけでもない。

 問題はエレンたちだ。守りながら30人の盗賊と戦える自信がないだけである。それに馬に乗っているのも面倒だ。


「逃げる方が良いな」

「なら逃げるとしよう」


 荷馬車がスピードを上げる。だが、直に追いつかれるだろう。盗賊を乗せた馬と、荷を満載にした荷馬車。どちらが速いかは明白だ。

 ユーリは荷台に移り魔法を使う。移動中には使えない設置型の結界ではなく、魔法陣そのものを防御用の盾にする魔法だ。防御する面積は小さいが移動中でも使用できるのが強み。

 魔法陣が荷馬車の背後に展開される。展開した瞬間、放たれた矢が魔法陣に弾かれた。間一髪だ。それと同時にユーリの視界でも馬に乗り追って来る盗賊たちを捉えることができた。

 しかし、それは相手も同じこと。弓を持った盗賊はすかさず矢を放って来る。だが、ほとんどが展開された防御魔法『防御陣』により防がれていた。

 敵を目視することができたユーリは、続けて術具(マジックメモリ)に魔力を注ぎ、新たに魔法を起動する。徐々に魔法陣が展開されていく。

 防御の次は攻撃。属性は風。形状は刃。広範囲を風の刃で切り裂く魔法だ。

 いざ、魔法の餌食になってもらおうとした瞬間、急に盗賊が速度を緩めた。放たれ続けていた矢が収まる。ユーリは魔法の発動を止めた。


「なんだ?」

「どうした?」

「いや、急に盗賊が動きゆっくりになった」

「なに?」

「何かあるんでしょうか?」


 アレンが言うが、ユーリもエレンもそれに答えることはできない。答えれるのは背後でゆっくりとつかず離れずでついて来る盗賊たちだけだ。

 しかし、何にしてもとまるわけにはいかない。止まれば盗賊は襲って来るのだ。それなら走りつづけた方が良い。


「くっ、まずいぞ!」


 だが、すぐに盗賊の狙いがわかった。道が馬車で塞がれている。盗賊がゆっくりになったのは逃げ切れないことを知っていたからだったのだ。

 背後から迫って来る盗賊。前方は塞がれており、左右は平原だ。雨でぬかるんだ平原に入るのは自殺行為でしかない。高確率でぬかるみにはまり、逃げれなくなる。


「万事休すか」

「任せて下さい! 『風よ!』」

「ちょっ!? なああああああぁぁぁぁ!?」


 アレンの言葉に風が従う。優しく強い風が、荷馬車を包み込み、障害物を飛び越えさせた。ただ、軽減していてもその衝撃波は凄まじく、更に荷馬車はぬかるみにはまった。

 飛び越えれたのは良かったが、これでは状況は変わらない。荷馬車が飛んだことに盗賊たちは驚いていたが、すぐに障害物を避けて、やって来た。


「さて、積み荷を渡してもらおうか。それからそっちの男は武器を捨てろ」

「ゲヘヘ、なかなか高く売れそうじゃないか?」

「金髪の方はまだガキだが、その手の趣味の奴には高く売れそうだ」


 卑下た笑みを上げながら盗賊たちが言う。盗賊の数は40名。実力(レベル)は一番低いので11。一番高いので30と言ったところ。あとはほとんどが20台だ。

 道を塞いでいた馬車の影にいた待ち伏せの10名が追加されていた。背後にはいない。まだ防御陣は有効。

 魔法も待機させてあり、即時発動可能。リーダー格を中心に固まってくれているので、やれないことはない。


「わかった従う。少し待ってくれ」

「早くしろよ!」


 許可が出たので、さっさとエレンたちと話しをする。


「(時間を稼ぐから、その間に逃げろ。精霊術ならぬかるみから抜け出せるだろ)」


 ユーリは気づかれないように小声で素早く伝える。それにアレンが反対する。


「(だ、だめですよ! 危険すぎます!)」

「(わかった。合流場所はこの先のリシュニアの街だ。3日間は待つ。もし、合流できなかったら冒険者ギルドに伝言を残しておく)」


 だがエレンはそれに賛同した。アレンが信じられないといった表情でエレンを見る。


「(エレンさん!?)」

「(アレン、ユーリなら大丈夫だ。それにそれ以外に助かる方法はない。良いから精霊術を)」


 そういうエレンもユーリは心配だが、ユーリの実力(レベル)は知っている。

 合理的に判断して、こうするのが一番だと判断した。商人は納得できずとも合理的に判断をくだすものだとの師匠の教えだ。


「(わ、わかりました)」


 エレンが言うならとアレンは納得できないながらも頷いた。

 ユーリはそれに満足して、荷馬車から降りる。剣を捨てるフリをしつつ、待機させていた魔法を発動させた。


「今だ! 切り裂け!」


 広範囲に渡る魔法の風の刃が盗賊の首を刈り、上半身と下半身を離婚させる。リーダー格含め高実力(レベル)者が10名と馬が絶命。

 実力(レベル)が52から59に上がる。そして、その間も突然の仲間が死んだことに盗賊たちは反応できない。


「『風よ、運べ!』」


 その隙に、アレンたちは風によって空を飛ぶ。それを見た盗賊たちがようやく正気に戻るが、もう遅い。ユーリは盗賊へと疾駆していた。まずは手頃な場所にいた奴の馬を蹴る。


「のわっ!?」


 驚いた馬が暴れて盗賊を落とす。その隙に馬に飛び乗る。騎乗の才能のおかげで、乗り方はわかる。勝手に体が動く。

 そのまま平原へと飛び出す。街道をそのまま逃げるなど愚の骨頂だ。エレンたちを逃がした意味がない。盗賊を撒くなら平原に逃げて、どこかに隠れれば良い。

 もちろん盗賊の足止めと誘導するためにナイフを投擲して馬を殺す。うまい具合に半数の馬をしとめれた。これで盗賊に残った馬は9頭だ。

 帰りも考えれば、もうエレンたちを追うことはできない。目標は達成。ユーリは振り返らず、わき目もふらず逃走を開始した。

「撒いたか?」


 しばらく走っていると、先ほどまで無駄にも追って来ていた盗賊たちがいなくなっていた。ユーリは全力で走らせていたのを緩める。


「ふう、尻と腰が痛い」


 気が緩んだからか、尻と腰の痛みを認識。

 馬に乗るのは初めてだから腰も尻も痛かった。これ以上は乗れないな、とユーリは馬から飛び降りた。

 その瞬間だ。いきなり地面が崩落し、ユーリは落ちていったのである。


 薄暗闇を歩くユーリ。

 松明の炎が揺れて、揺れ動く影が不気味である。しかも、ここに入るのはユーリだけではなく魔獣もいるようで、気が抜けなかった。


「それにしても、洞窟が平原の下に広がってるなんて聞いてないんだが」


 エレンが知らなかったのならそれまでだが、彼女は何度もこの平原を通っている。そんな彼女が知らないはずはないはず。


「何らかの理由で最近できたのか。確かに、なんか最近掘られたようなそんな感じだよな」


 例えるならモグラや蟻の巣穴的な感じだ。小学校の頃に自由研究で蟻の巣穴の観察をしたのでよくわかる。この洞窟(?)はそんなのによく似ていた。


「もしかしたら巨大モグラとか蟻の巣だったりしてな。……いや、まさかな」


 残念ながらユーリの予感は的中していた。ここは、アリモグラと呼ばれるモグラの胴体と前足に、更に蟻の手足と頭をくっつけたような人間サイズの魔獣の巣。それに気が付いたのはそんな奴らに大群で終われた時だった。


「くそ最悪だ! あんなこと言うもんじゃねえ!」


 悪態をつきながら走る。だがアリモグラを撒けるとは到底思えなかった。魔法を使おうにも、正確に当てるには一度止まる必要がある。

 だが止まれば、それ即ち死だ。生きたまま食われたり、バラバラにされたり、苗床にされたりするのごめん被る。

 だからこそユーリは走っていた。なるべく前に敵がいない方を選んで枝分かれしている巣穴の中を走っていく。

 強化魔法も併用しているので捕まらないが、早めに出口ないしアリモグラを撒ける場所を探したかった。あんなものに追われているのでは、気が休まる気がしない。


「ん?」


 不意に穴の奥で何かが光った気がした。ユーリは僅かな希望を賭けてそちらへ走る。そして、広い空間にでて落下した。


「のあああぁぁぁぁーー!? ガッ、グッ、ガァッ」


 掴めるものなどあるわけがなく、重力に引かれて落ちていく。

 咄嗟に魔法など発動できるはずがないし、術具(マジックメモリ)に登録された魔法を起動し、魔法陣を展開させて発動させる時間などあるはずがない。

 結果、ユーリは固い石の床に叩きつけられ、バウンドし更に落ちて、また叩きつけられ転がり、ようやく止まった。


「ガァッ」


 視界が赤に染まり明滅する。尋常でなくヤバいことはわかるが体が動かない。血が床に流れ出す。早く何とかしなければまずいことがわかる。

 だがどうしようもない。回復魔法はないのだ。法術の使えないユーリには術がない。

 だが、まだ神はユーリを見捨てなかったようである。彼の赤く染まり明滅する視界と耳が、動くものと人の声を感じた。

 そして、次の瞬間には温かな光がユーリを包み込んだ。馴染みのある回復法術の感覚。ユーリの意識は闇へと沈んでいった。

「んっ?」


 見知らぬテントの中でユーリの意識が覚醒する。筋肉ムキムキのまるで某世紀末漫画の主人公のようなゴリマッチョに抱きすくめられているのがわかった。

 そして、視界にケバい化粧をしたゴリマッチョの男の顔が、ドアップで広がる。


 ――称号『熱き漢女の抱擁』を取得しました――


「…………え゛ぎゃああああああぁぁぁぁーー!!?!?」


 そして、ユーリにしてはかなり珍しい悲鳴が響き渡った。


「どうした! 何があった!」


 いきなりの悲鳴に血相を変えて茶髪の優男風の男がテントに飛び込んで来る。そして、中の惨状を理解して納得した。

 男は悲鳴を聞いてテントに集まって来た仲間に事情を説明する。仲間たちはいつものことかと、次第に離れていった。


「さて、アケ起きろ」

「もう、アケリンって呼んでって言ってるでしょ(ハート)」


 ぞわぞわと悪寒を感じるような声で某世紀末漫画の主人公のようなゴリマッチョことアケリンがユーリを離して起き上がった。

 ちなみにユーリはあまりのショックにまた気絶している。よほどのショックだったのだろう白目を剥いて気絶していた。


「とりあえず良い男だからって怪我人のテントに入り込むのは止めろ」

「美女といた方が治るのが早いのよん(ハート)」


 逆に悪化するとは言えない男はとにかくでるぞとアケリンを連れてテントから出て行った。


 それからしばらくして再びユーリは目を覚ました。


「何だろう。酷い夢を見た気がする」


 どうやら忘れるくらいにショッキングだったようである。


「で、ここはどこだ?」


 ユーリが寝ていたのは冒険者の間で普及しているテントだった。それと拘束されていないことから考えるに、冒険者に助けられた可能性が高い。


「近くに5人か。助けてくれたってことは一応は味方と考えても良さそうだな」


 ユーリは具合を確かめつつテントから出る。冒険者のキャンプのようで5人の男たちが薪の炎を囲んで各々がなにかをしている。

 革の胸鎧と篭手と具足をしている茶髪の優男風の男がユーリに気が付いてやって来る。腰にシュッツァーがついている。


「起きたのか。具合はどうだ?」

「ああ、大丈夫だ。あんたたちが助けてくれたのか?」

「そうだ。僕はロッド・ハートリッチ。このパーティーのリーダーをしている。

 こっちに来てくれ。みんなに紹介しよう」


 ロッドに付いてユーリは焚き火の所へ行く。4人が一斉にユーリに注目する。


「右端の修道服を着たのがアケバルドー・サーディス。長いからみんなアケって呼んでる」

「もう、アケリンって呼んでって言ってるでしょ。

 僧侶のアケリンよ。よろしく」

「よ、よろしく」


 右端にいた筋肉ムキムキのなぜかシスターの着る修道服を着たお姉系男アケリン。シュッツァーは修道服の腰についている。

 なぜかユーリの記憶を刺激するのだが、彼にはその原因がわからない。ただとりあえず、2人っきりには絶対になりたくないと思った。


「そっちで薪割りをしているのがゴージャだ」

「おう! よろしくな!」


 陽気で人の良さそうなオヤジが斧を振り上げながら言った。同じくシュッツァーが腰についている。

 シグドほどではないが鍛えられていることがわかる。


「そっちで本を読んでいるのがエルメスだ」

「エルメス・マケニスです。よろしく」


 エルメスは唾の広い大きめの三角帽子をかぶり、黒のローブを身に纏ったメガネの少年だった。パーティー内で一番最年少だが、魔力はけっこう多い。シュッツァーは帽子についている。


「で、最後が」

「サドラス」


 地下に合わせた黒の動きやすそうな服を着ている青年がぶっきらぼうに言った。シュッツァーは腰のナイフの鞘に結び付けられている。あとは興味がないのか、武器である弓の手入れに戻った。


「悪い奴じゃないんだが」

「いや良い。俺はユーリ。助けてくれてありがとう。おかげで死なずに済んだよ」


 あと、全員シュッツァーを身につけているので、成人していることがわかる。自己紹介もそこそこに焚き火のそばに座り、これまでの経緯をユーリはロッドたちに説明した。


「アリモグラの巣に落ちるたぁ運が無かったなガハハハ」


 盛大に笑うゴージャ。笑い声が響く。それをエルメスが諌める。


「笑ったら酷いですよ。ユーリさんだって落ちたくて落ちたわけじゃないでしょうし」

「ガハハハ、悪い悪い」

「まったく、すみません」

「いや、構わないよ」

「それよりもユーリはこれからどうするんだ?」


 ロッドが聞いてくる。仲間と合流するのかを。

 それでユーリは考える。地図を見せられた限りこの地下遺跡からリシュニアまではそう遠くない。1日の距離だ。

 思わぬところでショートカットができたらしいので、今から向かえば余裕で合流ができる。道に迷わなければだが。

 ただ、それでは助けてもらった恩返しができない。エレンたちとの合流も大事だが、恩返しも同じくらい大事だ。

 遺跡が危険かはわからないが、何もないということはないはず。1人増えた所で何かかわるとは思えないが、いないよりはマシになるかもしれない。


「良ければで良いんだが、あんたらについて行きたい。助けてもらった恩返しだ。少しくらいは役に立つはずだ。報酬もいらない」


 ロッドはすぐにパーティーメンバーと相談を始める。ユーリに聞こえた限りでは1人を除き賛成のようであった。特にアケリンが大賛成している。なぜか身の危険をユーリは感じた。


「わかった。よろしく頼む」

「ああ」


 そういうわけでユーリは一時ロッドパーティーに参加することにした。


キャラ、やってほしいこと募集中。とくに男キャラ。この後の第三章で結構大勢使うことになりそうなので、何か案があるようなら、お願いします。

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