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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
間章1王都道中
35/94

間章1-2

更新です。またもや低クオリティですまぬ。

 ヴェスバーナ暦1998年春期3月9日 早朝 スラナザース平原道


 翌日、少々眠たげなユーリといつも通り顔を隠したエレンは朝食のあと、荷馬車での移動を再開した。昨日の事はエレンには話していない。話す必要はないだろうし、説明も難しいので、話さないことにしたのだ。

 平原に作られた一本道を行く。目を凝らせば頂が雲に隠れて見えない山が見えたりする。それでも飽きることはあるが、森より多少はマシであった。それに魔獣の気配もちらほらしているので、退屈と言ったものはしなさそうである。

 そんなことをユーリが思っているとエレンが荷馬車の速度を落として完璧に停まった。何事かと思うと同時に人間の気配と知らない巨大ななにかの群れがいることを、ドシン、ドシンという地響きと共にユーリは感じとった。


「何なんだ?」

「羊飼いさ」

「羊飼い?」

「ああ、あれだ」


 ユーリがエレンの指す指の先へと視線を移すと、そこには見上げるほどに巨大な羊の群れが道を横切ろうと、こちらに向かって来ているところであった。

 群れの脇にはフードをかぶり、杖をついている人が歩いている。その人が羊飼いなのだろうが、この光景はユーリに凄まじい衝撃を与えた。


「な、何だありゃあ!?」

「何だって、巨大種の羊と羊飼いだ。普通だぞ?」


 いやいやいや、そんなレベルではない。ユーリの知っている羊飼いとは次元が違う何かだ。確かに連れているのは羊だ。

 見た目からして何から何まで羊である。ユーリの世界に生息していた羊と何も違いはない。ただ、身体の大きさを除いては。有り体に言えばデカ過ぎなのである。

 身体が大きいというのはそれだけでステータスだ。人で考えるとバスケットボール選手を思い浮かべてもらえればよくわかるだろう。

 動物にしても身体が大きければそれだけで襲われにくくなるのだ。身体の大きさがそれだけでステータスなのかよくわかるだろう。

 あの羊もそれがわかったから進化したのだろうと予想はつく。つくのだが、それにしてもデカ過ぎである。それを操る羊飼いはもはや羊飼いではなく化け物使いだろう。

 そんなことをユーリが思っている間に巨大羊たちが荷馬車の前を通り過ぎて行く。間近で見るとまるで動く壁だ。

 そう巨大な影をユーリたちに落とす壁。見上げていると首が痛くなりそうだった。しかも歩く度に振動が凄まじく。荷馬車に乗っていると一種のアトラクションのようにも感じられた。


 さて、完璧に巨大羊たちが道を渡りきると、そこで立ち止まった。そしてユーリたちの下にエレン曰わく羊飼いが現れる。

 フード付きのマントを纏っていて、そのフードを目深に被っていて、手にはランタンの付いた杖を持っていた。一見怪しいので、ユーリは警戒する。だがそれは徒労だった。


「すみませんでした。停まっていただき、感謝します」


 フードをとった羊飼いは頭を下げてそう言った。フードの下から出てきたのは幼い少年の顔であった。くすんだ金髪で線の細い少年である。

 顔つきも幼いので、髪を綺麗にして、化粧でもさせれば女の子と言っても通用しそうな少年だ。シュッツァーをつけていないので、成人していないようだ。礼を言いに来たことから礼儀正しい子だと言うことがわかる。


「それで、あの、できればで良いので、リシュニアまで一緒に乗せて行ってもらえないでしょうか。あ、きちんと謝礼はお支払いします」


 それを聞いてからエレンは、どうする? という視線をユーリに向ける。リシュニアは次にユーリたちが立ち寄る予定の街だ。同行には反対は特にない。

 なので、ユーリは任せる、と目で返す。この世界では魔力があるからなのか、アイコンタクトが普通に通じるので非常に楽である。エレンはユーリの返答に頷いて羊飼いの少年に言う。


「構わないよ。むしろお願いしたいくらいだ。巨大種の羊といれば魔獣に襲われることがなくなるからね」

「ありがとうございます」


 エレンが荷馬車の御者台に羊飼いの少年――アレンを乗せて、ユーリたちは羊と共に出発した。横を巨大羊が付いて来る。

 エレンとアレンの話を、荷台でユーリが聞いた限りではあの羊は巨大種と言うらしい。その名の通り、文字通り、巨大な動物たちのようだ。ちゃんと普通の大きさの羊もいるらしいので安心した。こんな羊ばかりでは、気疲れするだろうからだ。

 そんなことで安心なんかしているとユーリは、御者台からの視線を感じた。感じてそちらを見るとアレンがユーリを見ている。何か用かと聞こうと口を開く前に、目が合った瞬間にはハッ、として顔を背けた。

 何だろう、とユーリは思うがアレンが何も言わないので、別にどうでも良いか、と寝転がる。

 だが、すぐにまたアレンの視線がユーリに注がれる。無視していても視線が外れることはない。さすがに鬱陶しくなったので、お話ししてみることに。


「何か用か?」

「い、いえ、別にそういうわけでは……」

「なら、何なんだ?」

「精霊にそんなに懐かれている人を僕以外に初めて見たので」

「精霊?」


 ユーリはエレンに聞いた精霊の話を思い出した。


 精霊。

 世界を構成するエレメントのこと。世界そのものと言っても良い存在だ。地域によっては神と同義の存在とも言われる。

 妖精と違い、基本的にどこにでもいるが見えるか見えないかは本人の資質しだい。精霊に自我はないが、高位の精霊には自我が生まれることもある。


 精霊とはそんな感じの存在であった。

 それが懐いているとかわかるアレンは見えているようである。精霊術も使えるらしい。羊飼いなどの平民身分ではそういった術が使えるのは珍しい。

 魔力を使う者はだんだんと瞳が青に染まって行く。瞳が青かったので魔力が使えるとは思っていたが、精霊術だとは思っていなかった。

 ちなみに、ユーリの眼は黒いままだ。黒はそれ以上変化しない。そのため、ある地域では神聖視されていたり、またある地域では忌み嫌われていたりする。幸いなことにこの国はあまりそういうことを気にする方ではない。

 これは良い機会ではないのか、とユーリは思う。

 精霊術という精霊に魔力を与えて、様々な現象を引き起こす術の才能があるのだが、精霊が見えない事には使えないのだ。

 アレンに聞けば見えるようになるかもしれない。そうすれば精霊術が使えるようになる。ホテル【ホライゾン】に行けるようになる称号や実績の中には、精霊術を使うというのがあったので、ちょうど良い。

 そうと決まればユーリは早速アレンに聞いてみた。


「精霊を見えるように、ですか?」

「ああ」

「えっと、わかりました。じゃあ、僕が風の精霊を集めて、あなたに渡すので、それをしっかり感じて下さい。そうすればたぶん見えるようになるはずです」

「わかった」

「じゃあ、僕の使える風の精霊を呼びますね。『おいで』」


 ユーリは風が寄って来たのを感じた。それがアレンの手に集まっているのがわかる。

 未だに精霊は見えないが、気配察知の技能(スキル)が、そこに何かがいることを告げていた。


(この気配が精霊か。属性は風ってとこか?)


 だが、気配はわかるがまだ見えない。


「どうですか?」

「気配はわかるけど見えないな」

「目で見るというよりは、心で視ろと意識しろ、と師匠に言われました」


 心で、ね。どんな感覚だよ、と思いつつも言われた通りになるように努力する。

 今一心で視るという感覚はわからないのだが、ある程度は身体がわかっているのか、勝手に動く。不思議な感覚がユーリを包み込んだ。

 しかし、それだけであった。いつまで経っても精霊が見えることはなかった。才能がないなどということはないはずである。

 ならば、どうして見えないのか。ユーリにはわからなかった。今まで順調に行っていた分割りとショックだ。

 それに気が付いたアレンが、慌てた様子でフォローする。


「た、大丈夫です。あまり気を落とさないで下さい。僕も見えるようになるまでけっこうかかりましたから」

「そうか」


 年下のアレンにフォローされて複雑な気分のユーリ。これが気の知れた後輩の絵梨ならば、まだ気にしないのだが、今日初めて会った他人にフォローされるのは複雑な気分なのだ。

 その後、昼にもう一度やってもらったがやはり精霊が見えることはなかった。微かに何か見えた気がしたが、それだけだった。しかし、進歩が分かったので、がんばる気にはなった。


 昼食後には雨が降り出していた。今まで晴れていたのが嘘のように雨が降っている。

 春期3月は日本で言うところの梅雨に相当する時期である。そのためどちらかと言えば晴れていたのが珍しい。

 何はともあれユーリたちは荷馬車の荷台に幌をかけて荷物への雨防ぐ。そして自分たちはマントのフードをかぶり、直接雨に濡れないようにした。傘などというものはこの地域にはない上、旅の邪魔になるためあっても普及していない。

 降りしきる雨により視界は悪い。また、隣を歩く巨大羊に当たった雨が弾かれて降ってくる。ちょっと煩わしい。

 アレンはすみませんと謝っていたので、彼も煩わしいと思っていたらしい。ちょっと場が和んだ。

 日が暮れる頃になっても雨は降り続いていた。雨が降っているのでそのまま野営などはできない。荷馬車から簡易テントを取り出し、組み立てる。巨大羊のおかげで魔獣の心配はないので、全員が中で眠ることに。

 そうなるとアレンに対してエレンのカミングアウトイベントが発生。予想通りユーリと同じような反応だったのでそこはカットする。


「ふぅ、仕方ないとは言えやはりない方が良いな」

「…………」


 アレンがエレンの素顔を見て固まる。顔がほのかに朱に染まっていた。驚いたというよりは見惚れているというのが的確な顔をしている。

 それを気配で察知したユーリ。彼にはわからない話ではなかった。エレン自身に自覚はないが、彼女はかなりの美人である。それにかなり母性的でもある。性格的な意味でも、身体的な意味でも。

 そのため、まだ幼く女性経験の乏しいアレンが見惚れてしまっても仕方のないことである。ユーリ自身もそうだったのだから間違いない。誇れる話ではないが。


「じ、獣人だったんですか」

「ああ、嫌なら外にでるが?」

「い、いえ! そ、そういうわけじゃなくて、えと、えっと、そ、そう! 初めて獣人にあって驚いたんです!」


 何とも初々しい反応である。何となくそれがおかしくてユーリーはニヤニヤしながらそれを見ていた。本当に初々しい。しばらくは面白いことになりそうなのでユーリは黙って見ていることにした。


「そうか」

「はい! えっと、それで……」


 それからアレンは何やら顔を赤らめてモジモジしだす。本当、端から見ていると童顔で女顔のアレンが女の子にしか見えない。

 実は女の子ではないのかと勘違いしてしまいそうだが、男であることは間違いないのである。成長すればさぞかしイケメンになることだろう。

 ユーリは今更ながらに思う。

 なぜ、この世界は美男子や美少女、美人が多いのかと。スニアの村のシスター、現在行動を共にしているエレンや冒険者選抜試験でパーティーを組んだミレイア、ダークエルフのサザンカ、忘れそうになるし認めたくないがあのお坊ちゃんのジェイルなどなど、皆一様に美人、美少女、美男子であった。

 またそれだけでなく、街中の普通の人々もある程度顔立ちや容姿が整った者が多い。どう考えても明らかに過剰だろう。

 これがユーリの元いた世界だとこうは行かない。言い方は悪いがブサイクや普通が多くなる。世の中そんなものだ。美男美女など一部のみ。

 異世界のようにそこら中にいるわけではない。これがフィクションなら物語に華を持たせるためという説明で納得できるが、現実はそんなに甘くない。ならばどうして美男美女が多いのか。

 それは魔力、この場合は魔素と呼ばれるものが存在しているからである。

 この世界に満ちている無色透明な何にもなっていない魔力や食物などに宿る魔力は魔素と呼ばれる。それらは人間などの生物に取り込まれると少なからず影響を与える。

 理屈は不明なのだが、その影響の1つが容姿が良くなるであったりした。そのため、この世界の人たちは皆ある程度は容姿が整っているのだ。程度は魔素を取り込む体質などにもよる。基本的に、全てのものが魔力や魔素を含むため、高い確率で見目麗しい子が出来上がる。

 まあ、それはそれとして、アレンがようやく言葉を紡ぎ出した。


「あの! み、耳と、し、尻尾、さ、触らせてもらえないでしょうか?」

「ん? こんなものが触りたいのか? ユーリと一緒で変わっているな」

「は、はい!」


 エレンはよくわからないと言った風。だが、ユーリにはよくわかった。

 ピコピコと動く耳に、ゆらゆら揺れるもふもふとした尻尾。

 触ったり、抱きついたりしたことがある身のユーリとしてはそれらの素晴らしさは身に染みてわかっている。例えるなら天国に一番近い場所だ。それほどもふもふは素晴らしい。

 あのもふもふに匹敵するものと言えば、現代ではキツネやネコなどの一部のものだ。匹敵といっても、圧倒的に差が開いている。それほどまでにエレンの毛並、もふもふ感は素晴らしい。

 また、体温があるということもありそれはもう素晴らしいことになる。それ以外に表現のしようがない程の威力を持っているのだ。触りたいというのも納得である。触ってもふもふしたいというのは人として当然のことである。

 偉い人にはそれがわからないために、獣人を虐げ、戦争をするのだ。だが、難しいのは、この素晴らしさを偉い人が知った場合、戦争になるということだ。それを我が物にしたいがために戦争を起こし奴隷として捕まえたりするのだ。何とも、難儀な話である。

 言っておくと、当然、そのような理由で戦争をしているわけではない。戦争をするのはきちんとした理由がある。


「そうか。なら、いいぞ」


 そんなわけでエレンの許可がでたので、アレンはおそるおそると言った風に、その手を耳へと伸ばしていく。そして、その細い指がふわふわとした耳へ触れる。


「んっ」

「す、すみません! だ、大丈夫ですか!?」


 エレンが切なげな声を上げる。思わず手を引っ込めるアレン。大丈夫かと様子を伺っている。


「いや、すまない。耳とか尻尾は敏感でな。できれば優しくしてもらいたい」

「は、はい! もちろんです!」


 ということで、再度手を伸ばし触れる。その瞬間、アレンの顔が緩む。しばらくさわさわしていたかと思うと、次は尻尾のようで尻尾に手を伸ばす。

 耳以上にほわ~んとした顔になった。耳以上に尻尾はもふもふなのだ。この反応は当然である。


「君もどうだ?」

「俺か? いや、俺はいい」


 見ていたユーリにもエレンは声をかけるが、彼女の予想に反して彼は断った。


「なぜだ? 前はあんな――」

「だあああああーー! それは言わない約束だろ!」

「おっと、すまない」


 エレンが何を言いかけたかはさておいて、その間しっかりともふもふを堪能して、すっかりもふもふの虜になってしまったアレンなのであった。

 その後、もう1度ユーリはアレンから精霊を見るための練習をしてもらい、3人は眠りについたのであった。

 その時には、はっきりとはしないが、結構見えるようになったので、完璧に見えるまで、あと少しだろうということが予想できた。



キャラ、やってほしいこと募集中。



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