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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第2章冒険者選抜試験編
32/94

2-13

 ヴェスバーナ暦1998年春期3月7日 早朝 冒険者ギルドグータニア支部


 目覚めたユーリをこの世界では、珍しいガラスの窓から差し込む暖かな陽光と、見知らぬ木目の天井が迎える。ユーリは起き上がり部屋を見渡す。

 ベッドと机、壁にどこかの草原が描かれた絵画があるくらいで特には何もない部屋であった。ユーリはしばらくぼーっと絵画を眺めながら色々と考える。

 何があったのか、みんな無事なのか他、様々なことが浮かんでは沈んで行く。少なくとも自分が生きているということは他の人も無事だろうと思うことにする。

 後悔するのは事情がわかってからで良い。そこまで考えてユーリは考えるのを止めた。部屋の外に気配を感じたからだ。

 ガチャリとドアが開き、ギルド受付嬢のリナが部屋の中に入って来る。


「おはようございます」

「どうも」

「具合の方はいかがでしょうか?」

「大丈夫です」

「それは何よりです。事情を説明したいのですが、よろしいですか?」

「はい」


 では、とリナが説明をした。災厄級魔獣である竜種という受験生には到底相手ができない魔獣が出現したために、ギルドマスターが討伐パーティーをコネを使い召集。

 その後、迷宮(ダンジョン)を踏破。ギルドマスター一行が到着後、エストリア王国騎士団長エルシア・ノーレリアと冒険者ギルドグータニア支部ギルドマスターイリアーヌによりエシェロンを討伐。トルレアス神教教会所属高位武装神官クローネ・セイドリッヒ・ラグーンの法術により、エシェロンに喰われて手遅れな者以外の生き残りも含めた計178名は蘇生。

 その後、グータニア魔法ギルド仮所属の魔法使いシオンにより未だ名も無き迷宮(ダンジョン)よりグータニアに帰還。ほとんどの受験者はその日のうちに目覚め事情を説明し、一時待機。

 ユーリのみ目が覚めなかったため、ギルドの方で保護ということになった。迷宮(ダンジョン)脱出から1日が経過。


「――ということになっております」


 リナは早口で一切噛むことなくスラスラと事情を説明した。ただそれについてユーリは本来考えるべきことではなく、あんな長文をスラスラと噛まないで喋るなんてすげー、とか全く的外れなことを考えていた。

 みんな無事で良かったと安堵した。そして法術すげーと改めて感心したのであった。

 それからわかったのならついてきて下さいとリナはユーリに言って部屋を出て行く。ユーリも慌ててついて行く。

 どうやら部屋はギルドの2階にあったようで、階段を降りると一週間ぶりのギルドエントランスである。一週間前と変わらず人でごった返していた。

 リナは以前の講堂のような部屋へと向かう。ユーリも続いて中に入る。またも注目を受ける。ガヤガヤとざわめきが大きくなる。

 ユーリはそんな状況はごめんなのですぐさま1番後ろに移動して逃れた。そこにはミレイアたちがいたというのもある。

 話そうかと思ったのだが、リナがステージに上がり場が静まり返ったためにあとで話すことに。とりあえずリナの話を待つ。


「皆様お揃いになりましたので始めたいと思います。今回のことは事前に説明がいっていると思いますので省略致します。

 説明致しますのは、皆様が気になる冒険者選抜試験のことです。竜種という障害のため中断されてはおりましたが、査定はギルドマスターにより終了いたしました。それにより、生き残り全てを合格とさせていただくことに結果いたしました。

 おめでとうございます。心より祝福いたします」


 その瞬間、歓声が上がる。約178名分の歓声だ。建物が揺れているのがわかる。この試験に人生を賭けていた者もいるのだ。

 試験に合格できて嬉しいのは当たり前。ユーリも歓声こそあげないが嬉しいのには変わりない。それに皆が無事なことが嬉しさを倍増させている。


「静粛に。これより登録とギルドカードの配布に移ります。名前を呼びますので順番に部屋に入って下さい」


 というわけで登録とギルドカード配布。ユーリはおそらく最後の方だろうと勝手に予想して、今のうちにミレイアたちと話すことにした。


「とりあえず無事で良かったよ」

「あんたもね。目覚めないって聞いた時はどうしようかと思ったわよ」

「良かったですー」

「…………(こくり)」


 ミレイア、サザンカ、アカネは助けられたあとすぐ目覚めて事情を説明されたらしい。説明されたことはユーリと変わりない。ユーリが魔導鎧(ソールアルミュール)『斑鳩』を持っていることは知らないようだ。アカネは知っているはずだが、喋ってはない様子。

 ユーリ自体話したらたぶん面倒なことになるだろうなと思ったので言わないことにした。ので、アカネが他人に喋っていないのは良いことだ。あとで事情を話しておこうと決めて話を続ける。


「それにしても竜なんてどうしてあんな所にいたんでしょうかー?」


 サザンカが言う。確かにと全員が頷く。竜がいるのなら試験場所になんて選ばれない。元からいたのに気がつかなかったならば有り得るが、ギルドの信用に繋がる問題なので、きちんと調査しているはず。それはないだろうと思われる。ならば、どういうことなのか。

 気がつけばうーん、と全員でうなっていた。それがおかしくなってアカネを除いた全員で笑ってしまった。

 それでこの話は保留になる。考えたところで変わらないのだ。それなら考えるだけ無駄だ。そうなると話は冒険者になったらどうするかという話になった。


「私は国に帰るわね。ようやく正式な武装神官になれるし、報告もしないといけないからね」


 ミレイアが言う。冒険者の資格を取るのは武装神官になるための必須事項。それが達成されたのだから、早く国に帰り正式に任命されたいらしい。また、育ての親にも報告をしたいとのこと。


「あたしも一度故郷に戻ります。里のみんなも心配してるとおもいますので」


 サザンカもダークエルフの里に帰るとのこと。帰って里のみんなに自慢したいらしい。ユーリはかなーりダークエルフの里に行ってみたい誘惑に駆られたが、なんとか踏みとどまった。

 命の恩人であるエレンへの恩返しが先である。ダークエルフの里にはその後に行けば良い。として諦めた。


「……私は、具体的に決めてない。だけど、東に行こうと思う」


 アカネはとりあえず便利だから冒険者の資格をとろうと思っていたためそこから先のことは考えていない。

 とりあえず、東には日本のような文化があると聞いたので、行ってみたいと思っている。


「俺はとりあえずエレンに恩返しかな。そのあとは世界を見て回ろうと思う」


 せっかくの異世界なのだ。全てを見てみないのは勿体無い。エレンに見せてもらった世界地図でこの世界が広いことは知っている。それをくまなくみて回りたいのだ。


「なんか納得って感じね」


 ミレイアがそう言う。ユーリとしてはそれに納得が行かないのだが、彼女の言葉を否定はしない。設定上ユーリは隠者のところにいた世間知らずだ。

 もとより異世界人でもある。設定がなくとも世間知らずだ。世界を見て回るというのは納得だろう。

 その後も呼ばれるまで色々と話していた。その間ユーリは何だか知らない満足感を感じていた。充足感とも言って良い。

 女の子と話せているということもあるが、異世界に来なければ、おそらく味わうことはできなかったであろう感覚。それを感じれただけでも、ユーリは良かったのではないかと思えた。

 ユーリはこの異世界で初めての生きがいを感じたのであった。

 そんなことなどを話している間にユーリの番になった。合格祝いを今夜やる約束をしてユーリは案内された部屋に入る。そこには巨大な水晶球が安置してあり、その向こう側にリナがいた。


「では、早速登録を行いたいと思います。こちらの水晶球に手を触れて下さい」


 ユーリは言われた通り水晶球に触れる。途端に水晶球が輝き出す。咄嗟に水晶球から手を離しかけるが大丈夫です、とリナが言うので離さなかった。

 何をしているのかわからないが登録には変わりないのだろう。しばらくそのままであったが、次第に水晶球から光が消えていき、完全に消えた。


「登録が完了いたしました。こちらがユーリ様のギルドカードになります」


 ギルドカードを手渡される。それはクレジットカードくらいの薄さと大きさで、いつの間に撮ったのかユーリの顔写真のようなものと、名前、その他諸々のものが書かれていた。


◇名前:ユーリ

◇種族:人間

◇性別:男

◇年齢:17

◇称号:新米冒険者

◇冒険者ランク:F


「ギルドカードによりあなたの身分は冒険者ギルドにより保障されます。身分証ですので紛失されぬようにお願い致します。

 持ち主以外が触れた場合、全ての情報が表示されないので、問題はありません。万が一紛失された場合はギルドで再発行が可能です。ただし、相応の対価はいただきますのでご了承ください。

 マニュアルをご用意しましたので、詳しくはこちらを熟読ください。

 では、改めまして、試験合格おめでとうございます。冒険者として目覚ましい活躍を上げることを期待いたします。

 では、退出の際はあちらのドアをお使い下さい」


 お約束の分厚いマニュアルでも渡されるかと思ったら手帳サイズで実際手帳も兼ねるマニュアルを渡されて部屋にあった別のドアから外へでた。再び陽光がユーリを迎える。

 ユーリは手の中にあるギルドカードと手帳を見る。正直な話実感が湧かない。


「おかえりユーリ」

「エレン……」


 そこには何時ものように顔を隠したエレンが立っていた。


「その様子なら合格のようだな。おめでとう、と言わせてもらうよ」

「実感はないんだけどな」

「そういうものさ。私も同じような体験をしたことがある。だが、実感はいずれついて来る。お前がそれを続けていたらな」

「そういうもんか」

「そういうものだ。じゃあ、話を聞こうか」

「そうだな。俺も聞きたいことあるしな」

「フッ、聞いて驚くなよ」

「そっちこそな」


 などと言い合いながら、相変わらず祭りで賑わうグータニアの街の通りを2人は歩くのであった。



このあと一話で第二章は終了です。感想やポイントは本当にありがたかったです。アクセスが伸びていくのを見ていると頑張らないとなっていう気持ちになりました。これからもがんばっていくので、生暖かい目で見守っていてください。


キャラ、ネタ募集は継続中。


では、また次回。


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