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いつの間にか60000アクセスを超えていました。本当、ありがとうございます。これからも精進していきたいと思います。
ヴェスバーナ暦1998年春期3月5日 深夜 未だ名も無き迷宮第8層
そこは極寒の雪山。吹雪が吹き荒れていた。最近雪崩でも起きたのか、凄まじく急勾配な地形に変わっている。崖には洞窟があり、そこからは明かりが漏れていた。
その洞窟の中には倒れているユーリと彼を看病するミレイア、追い付いてきたジェイルと元気のないサザンカ、それと驚くことに物凄い形容し難い美少女であった謎の黒尽くめ――アカネが薪を囲んでいた。
ジェイル一行のノッポとデブはいない。彼らはユーリが倒れているのに関係した理由で死んだ。
「クッ、なぜ貴族である僕がこんなところで足止めされなければならないんだ!」
「うるさいわよ! 元はといえばあんたの責任でしょうが!
あんたのせいでユーリがこんなんなってるんでしょうが!」
偉そうに上から文句を言うジェイルにミレイアが文句を言う。普段なら貴族なんぞ相手にしない。しかも相手はあのジェイルなのだ。尚更相手になぞしない。
だが、今のミレイアは自分自身から見ても、客観的に見ても普通とは言い難い。
こうなった原因がジェイルであり、またジェイルの責任でユーリがこうなってしまっているのだ、付き合いも5日になる。普通ではいられない。
「ふん、貴族を助けるのが平民の仕事だ。それに、貴様らが僕を馬鹿にするのがいけないんだ。自業自得だろう。僕ばかり責められる筋合いはない」
「何ですって!?」
「……ピーピー騒ぐな。少ない体力を浪費する」
冷たいアカネの一言でジェイルとミレイアは発しかけた言葉を飲み込む。アカネの言葉は確かに正しいものであった。には有無を言わせぬ強さがあった。
もし、ここで、これ以上の舌戦でも繰り広げようものなら、問答無用で首をはねられる。そう確信した。
頭巾を外したアカネ、髪は腰あたりまでの長さがあり、きちんと毛先まで手入れの行き届いた最高級の絹糸にすら匹敵しうる黒髪で、それを黒の紐で綺麗にシュッツァーで束ねてポニーテールにしていた。
金の混じった黒い瞳は黒髪とあわせて少女の神秘性を高めている。
小柄でスレンダーであるため、女らしい魅力などは乏しいのであるものの、人形のような整った可愛らしさが彼女にはあった。
ピッタリとした黒の袖無しと動きを阻害しない程度にゆったりとしている黒のズボンに黒のブーツという格好で、その腕にはたくさんのベルトが巻きつけられていてまったく肌が見えない。寒くないのかと思うのだが、寒くないようである。
本人曰く鍛えているかららしい。
「……それよりも、黙ってこの吹雪が終わるのをまて」
「フン、こそこそと僕に付いてきた奴が偉そうに」
「……こうなったのはお前の責任。偉そうにするな」
「なんだと!」
「まあまあ、こうなったら仕方ないんだし、おとなしく待つしかないよー」
今までうとうととしていたサザンカがアカネの言葉でハッとなって言う。
「チッ!」
雰囲気は眼に見えて悪い。原因は誰にあるとも言えない。ミレイアも原因の一端であるし、ジェイルも原因ではるのだ。何にしても、これが長く続くようであれば、対策を考えなければならないだろう。
(はあ)
そんな険悪な雰囲気にアカネの言葉で冷静になったミレイアは内心で溜め息をつく。どうしてこんなことになったのか。彼女はそれを考えていた。
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ヴェスバーナ暦1998年春期3月5日 昼 未だ名も無き迷宮第8層
少し時間は遡る。ユーリたちは第8層へと突入していた。そこは極寒の雪山だった。
「さびいいいいいいい!?」
「そりゃ、こんな山んなかじゃね」
「何で、お前は大丈夫そうなんだよ」
「この聖衣にそんな効果でもあるんでしょ。ぬくぬくしてるわ」
「くそう」
旅人の服にマント+鎧などという格好のユーリ。
当然ながらそれで、完全に寒さを防げるわけがない。雪山なのだ。そんな場所に来るには明らかに準備不足。
そもそも、迷宮の中に雪山があるなど聞いていない。冒険者ギルドから何も知らされていないのだ。それで準備しろなど酷い話だ。
マントの前をきつく閉めて、歩くユーリ。寒さは骨の髄まで染みてくる。
今はまだ雪は降っていない。だが、山の天気は変わりやすいと聞く。早々に階段を見つけるか、どこかやり過ごせる場所を探すべきだろう。
しかも、今2人が歩いている場所は左右を崖に囲まれている。こんな場所で雪崩でも起きようものなら逃げる場所がない。
幸い魔獣の気配は少ないので、そんなことには何か不測の事態でもない限りならないだろう。
「ようやく追いついたぞ無礼者共め」
しかし、そこはお約束。不測の事態発生。背後からの気配にユーリは振り返る。そこにはフッサフッサできらきらと輝きを放つ金髪で、人を見下したような薄い青色の眼をしたあのお坊ちゃんことジェイル・ハドキンスが立っていた。
親の権力を利用して迷宮内がどうなっているかを把握していたので、高級そうな外套を着込んで更にマントと完全防寒している。
それと、ジェイルと同じような格好をしたノッポとデブ。あと見たことがない、弓と矢筒をからったどことなく猫のような印象を受けるダークエルフの少女――サザンカが立っていた。
「(誰かしらねあの女の子)」
ミレイアがなにやらフラフラとしているサザンカを見てユーリに耳打ちする。ちなみにエルフやダークエルフは寒さに意外に弱い。
「(さあ、ただ気配は人間じゃないな)」
ユーリがわかったのはサザンカの気配が人間とはかけ離れたものであるだけである。それから耳が尖っているのと褐色の肌を見てダークエルフかなと思った。
だが、正確な所はわからないし、なぜジェイルたちと一緒にいるのかという疑問は残っている。
しかし、それよりも今考えることはこうしてジェイルが目の前にいることだ。こうして目の前にいる。
そして、あの言葉。仕返しをしに来たと考えるのが妥当である。ユーリの思考は戦闘モードへと入る。寒さを一時的に保留。マントの中で火属性魔法を発動し、全身を温める。ミレイアもいつでも戦闘になっていいように手を握ったり開いたりしていた。
「ここがお前たちの墓場だ!」
ジェイルの前に風属性の魔法陣が展開される。ユーリは一瞬驚くが、すぐにその魔法式の読み取りに入る。魔法戦は始めてだ。
だが、イリスの知識の中にあった、魔法戦の知識を呼び起こす。魔法戦は相手の魔法陣の読み合いで、相手にあわせて対抗魔法を使うのだ。それに対応して、相手も魔法を使う。真の魔法戦ならば魔法の発動はない。
しかし、相手は未熟。こちらも未熟。それでは、真の魔法戦など起こらない。
知識の中から、ユーリはジェイルが使う魔法を特定する。風属性の範囲魔法だ。風の刃の竜巻を放つ魔法だ。構成からして、未だ荒がのみえる魔法陣。それほどの範囲はないだろうが、それでも魔法だ。威力は申し分ない。
「避けろ!」
ユーリは叫んだ。ミレイアとユーリは互いに反対に走る。
「喰らえ!!!」
それと同時に風の刃の竜巻が2人を雪を巻き上げてユーリたちに迫る。だが、その範囲内に彼らはいない。
だが、ジェイルは笑っていた。ユーリの中を嫌な予感が湧きあがる。それに従ってジェイルたちの方を見る。そこには火属性魔法陣を展開し、魔法を起動しようとしているノッポとデブ2人の姿があった。
しかも、それが火属性範囲魔法で、RPGなどで俗に言う爆発なる魔法だ。
それをこんなところで放てばどうなるか、ユーリにはよくわかった。映画などでよく見ている。本当にそうなるのかはわからないが、2つの爆発が巻き起こった場合、それが起こるのは確実だろう。
――技能『先見』を習得しました――
――技能『直感』を習得しました――
それ、雪崩が起きるのは確実。新たな技能が告げる。危険を。
そして、こんな左右を崖に囲まれた場所。雪崩が起きればどうなるかは想像するのは難しくない。
「やめろ!!」
「フンッ、やれ!」
ユーリの制止空しく、ジェイルは命令する。
そして、魔法は起動した。してしまった。結果として、止めるためにユーリが放った投擲用ナイフにより、魔法はユーリとミレイアに当たることはなかった。
だが、爆発と爆音が巻き起こってしまった。
ゴゴゴという地響きが響く。ジェイルたちは何が起きたのかとうろたえる。ウトウトとしていたサザンカもさすがにハッとする。
そして状況に気が付いて顔を青くしていた。その間も地響きは大きくなり、眼に見えて、雪崩が起きているのがわかった。雪の津波がこの谷に流れ込もうとしていた。
「ちょ、ちょっとおお、あのお坊ちゃんなにやってんのよ!?」
「くそが!」
「うわあああ、やばい、やばいです~~~~!?」
ユーリがどこか逃げる場所がないか探す。その間も、状況を理解して無いのか、ジェイルは魔法を放ってくる。
それがさらに状況を悪くしていることに舌打ちするが、今は逃げる場所を探すことが先決だ。その時、どこからともなく声が響いてきた。
「こっちだ!」
そちらを見ると、そこには黒尽くめがいた。そして、その指が洞窟を指す。
「ミレイア!!」
ユーリはミレイアを呼ぶ。そこに洞窟があることを示す。すぐさま、ミレイアは洞窟に向かう。だが、そんな状況だというのに、ジェイルとサザンカから離れた位置にいたノッポとデブは魔法を放ってくる。
だが、こんな揺れが激しく、雪という悪条件の中、魔法が当たるはずが無い。ミレイアは無事、洞窟までたどり着いた。
その時に葉、目に見えて雪崩が迫ってきていた。ようやく状況に気が付いたのか、3人組が慌てだす。サザンカは最初から慌てているが、パーティーメンバーである3人組が動かなかったので、動かなかっただけである。どうして良いのか、ジェイルたちは立ち尽くすだけであった。
「馬鹿が!」
「ユーリ!?」
ユーリがかけ出す。
こうなったのはジェイル、デブ、ノッポが場所も考えずに勝負を吹っかけてきたのが原因である。だが、そうだからと言って見捨てて良いはずがない。特にサザンカは何も知らないのである。そんな彼女がここで死んで良いはずがないのだ。
それに、目の前でもう誰1人死なせる気はない。できる限りであるし、偽善になることもあるかもしれない。
だが、それでも目の前で死にそうな人を放っておくことなどユーリはする気はない。
魔法陣を展開。強化魔法を起動。全種、全能力を強化する魔法を全て自身へとかける。雪を舞い上げてユーリは疾走する。
その足取りはまるで平地を走っているのとかわらなかった。すぐさま、ジェイルとサザンカの2人の近くまで来れた。
「来い!」
「な、何だ! 僕に命令するのか!」
「そんな暇はねえ! 俺に従え死にたいのか!」
「うるさい! 僕に命令するな!」
くそ、と思いながらユーリはジェイルの腹を殴りつける。強化された拳に一撃により、一発で気を失う。そして、抱えあげる。
「お前らも早く来い!」
ノッポとデブ、サザンカが弾かれたように動き出す。サザンカは間に合う。だが、ノッポとデブの動きは遅く到底間に合うとは思えなかった。
ユーリの判断は早かった。どうやっても、見捨てる気はない。何とか全員助ける。
「チッ! ちょっと、我慢してくれよ!」
「うにゃ!?」
サザンカを一瞬で抱え上げ、そしてジェイルと一緒に洞窟へと投げた。サザンカの悲鳴が木霊するが無視。
きっと、ミレイアとアカネが何とかするとユーリは考えて、彼はノッポとデブの下へ走る。騒がれると面倒なので、気絶させようとする。
しかし、ジェイルがされたのを見ていたからか、あるいは痛いのが嫌だったのか、あろうことかこの馬鹿2人はユーリに抵抗した。
それがリミットであった。一瞬の谷に雪の波が流れ込んでくる。
「ユーリいいい!!」
ミレイアの悲鳴が響く。それが最後だった。ユーリとデブ、ノッポが飲み込まれる。
そして、全ては白へと染まった。
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それから雪崩がおさまった後に、ユーリたちをミレイアと、彼女に頼み込まれたアカネは捜索した。
彼女の技能によって捜索は早く終わった。見つかったのは、変わりきった姿になってしまったデブとノッポ。それと辛うじて生きていたユーリだった。
強化魔法で全開まで強化していたのが、幸いしたらしい。その後、吹雪いて来たために洞窟で足止めを喰らうことになったのだ。それが事の顛末である。
現在、眠っているユーリはミレイアがありったけの回復魔法をかけたので命に別状はない。だが、まだ目覚める気配がない。
「早く目覚めなさいよ。こんな空間、私に押し付けんなまったく……」
その呟きは果たしてユーリに届いたのだろうか。それは、誰にもわからなかった。
********
「うん?」
机に突っ伏していた悠理が目を覚ます。
そこは見慣れた教室だった。夏の日差しが程よく入る窓際。そこでの昼寝は最高に気持ちが良い。もう少し寝ていたいいくらいだ。
だが、それを許してはくれないらしい。
「まったく、なにやってるのかな悠君は」
そこにいたのはいつもどおりの下着ワイシャツ美人の鷹野麻理だった。
どうして、こんなところにいるのか。絶対に来る事の無い場所に、来てはいけない格好で来ている。明らかにおかしいだろう。
だが、悠理はそれがおかしいとは思わなかった。
「別に、昼寝」
「昼寝にしては寝すぎかな~っと、お姉さんは思うわけだけど? それに、聞きたいことはさ、そんなことじゃないんだよ」
「…………」
「まあ、良いけどさ。悠君のやりたいようにやればね。でもさ、1人で抱え込まなくてもいいんだよ~。人一人にできることなんて、たかが知れているんだからさ。それで、君が責任を感じる必要はないんだし。それに、やろうとすることが大事なんだよ。
やらないよりもずっとね。やれるけどやらないより、やれなくてもやろうとしたのがね。君は、もっと自信を持った方がいいと思うよ」
慰められている。そして、心配されている。その上アドバイスまでされている。悠理にはそれがわかった。まったく情けない。
「……やれやれ、そんなに俺が心配ですかね?」
「うん、心配。いつまでも手のかかる子だし」
「俺の親か!」
「親代わりじゃん?」
それもそうかと、久方ぶりに笑う悠理と麻理。
なんとも穏やかな気分だ。複雑に考えていたのが馬鹿らしくなってきた。責任をとるとか、取らないとか。乗り越えたはずだったけど、麻理にはそれじゃ、満足できなかったらしい。なんともお節介な人である。
「じゃあ、帰るよ」
「ハハッ、ったく。わざわざ出てきたのって、これだけのためかよ」
「そっ、じゃね。おっと、その前に、よくがんばったね。偉いね。良い事したよ悠君はさ。じゃっ」
そういって元気よく敬礼した麻理は消えた。前に予想した通りのセリフまで言って。そして教室も消える。残ったのは黒い空間とユーリであった。
「やれやれ、しっかりしないとなっと」
ユーリは目の前に現れた扉へとユーリは入って行った。その顔つきは、何かが落ちたようにスッキリとしたものであった。
――称号『眠れる獅子』を取得しました――
********
「う……ん」
「ユーリ!?」
ユーリが目を覚ます。何か夢を見たと思ったのだが、いまいち思い出せない。だが、良い夢であったことは覚えていた。それで十分だった。
そして、目を開ける。目に入ったのは洞窟のゴツゴツした天井だった。次に目に入ったのは自分を見下ろすミレイアの姿。
そして、薪の炎の光で作り出された洞窟の壁で揺れる影が見えた。
ゆっくりと起き上がるユーリ。体の状態を確かめる。何一つ問題はない。むしろ色々と改善されているくらいだ。恐らく自分にかけられたであろう回復法術だろうと予想する。
「ふう、どれくらい寝てたんだ?」
「半日よ。まったく無茶しすぎ」
「まあ、それについては反省してるよ」
助けられなかったしな、とも心の中で呟く。それに対して何か考える前にジェイルが遮る。
「フン、やっと起きたのか平民」
「何だ起きていたのか貴族様」
相変わらずのジェイルであった。まだ、何か言っている。なにやら貴族に付いて熱弁を振るっているようである。無視をしてもまったく気が付かないほどだ。
それなら好都合とジェイルの如何に貴族が優れているか、自分の家が優れているか、自分が優れているかの、どうでも良く、なおかつまったく無駄な演説を聞き流し、ジェイルの隣にいるサザンカに話しかける。
「あっ、起きたんだー。あたしサザンカ」
「俺はユーリだ」
ちょっとした自己紹介をした。彼女がダークエルフとわかった時はユーリはテンションが上がった。
ダークエルフというファンタジー代表種族エルフ種の亜種に会えたことにより、こんな状況ながらテンションが上がったのだ。尖った耳まで触らせてもらったほどだ。
ただ、その間ミレイアはかなーり不機嫌そうな顔だったが。当然、ユーリはそんなことには微塵も気が付かない。それが、更にミレイアを不機嫌にしていくのだが、ユーリには、その原因がさっぱりわからなかった。
さて、そんなことが終わったあとユーリは本命であるアカネに向き合う。助けてもらったお礼を言い、助けてもらった理由、そして、初めてであった黒髪黒眼の同じ人種としての話を聞こうとした。
だが、その前にアカネがユーリに聞いてきた。彼が聞こうと思っていたことを。それも彼の期待以上のことを確信することをアカネは聞いてきたのだ。
「……私はアカネ。礼は良いから、聞かせて欲しいことがある。助けたのもこれが理由。
黒髪黒眼、あなたは“日本”という国を知っている? それと“武灯学園”という学園を知っている?」
「なっ!! 君は、まさか!?」
にほん? “むとうがくえん”? とミレイア、サザンカ、ジェイルの3人が頭の上に複数の疑問符を浮かべる中、ユーリの脳を衝撃が駆け巡っていた。同じ故郷の名を、通っていた学園の名をこんな異世界の迷宮の中で聞いたからだ。
つまりそれはアカネがユーリと同じ異世界に移住することになった存在だと言うことの証明に他ならない。
アカネもユーリの反応を見たことで確信を得たようだ。しかも、ユーリの元の世界の名前まで。
「……篠宮悠理、私はアカネという。この前の戦争では世話になった」
「なっ!?」
さっきから驚愕しっぱなしのユーリを更に驚愕させる言葉を紡いだアカネ。相変わらずミレイアたちの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいるが、ユーリにはそれに答えている余裕はない。
この前の“戦争”という言葉。それによってユーリもアカネの正体気がついた。アカネがあの戦争の時に、白制服の本陣にいた、あの黒尽くめの人物ということに。何と言う偶然だろうか。
同郷者に会えたということだけでも、かなり凄いことであるのに、同じ学園に通う生徒で、しかも戦争の時に会っている。どんな偶然なんだこれは。
もはや運命のイタズラ、いや神のイタズラ、いや神が仕組んだとしか思えないレベルだ。
「ちょっと、さっきから何話してんのよ。あんた、こいつと知り合いなの?」
業を煮やしたミレイアがユーリに聞く。
「なんというか。同郷の人間かな」
「……そうなる」
「へえ~。つまり、同郷の人間だから助けたってこと?」
「……そう。話などしたかったから」
「偶然ここで見つけたから助けてくれたのか?」
「……そうなる」
正確には、ユーリがグータニアに来て、ジェイルと問題を起こした時点でアカネは目を付けていた。今それを言ったところで、ややこしくなるだけなのでアカネはそれを言わなかった。ここで始めて会って言葉を交わした。
つまりは初対面だ。そのはずなのに最初から目をつけていたなどと言ったらユーリは良いがミレイアなどは疑う。その誤解を解く手間を考えれば言わない方が良いのだ。
また、どうして問題を起こしたのが異世界の人間かと思ったのかというと、貴族の息子であるジェイルに逆らって地面に叩きつけたという話を聞いたからだ。
この世界において、他種族を除き人間の身分制度は絶対的なもの。貴族に逆らう平民はいない。それなのに、貴族を馬鹿にして、地面に叩き付ける人間など異世界の人間以外にありえない。そう考えたのだ。
「なるほどな」
「……そして、提案。私も、パーティーに入れてほしい」
現時点でユーリよりも高実力の自分なら役に立つと言う。ユーリからすれば願っても無い事だ。
「それは構わないが、ミレイアは?」
「良いわよ、別に。同郷の人間なら一緒にいたいってこともあるだろうしね。そこが戻れないなら尚更でしょ」
「……感謝する」
こうして、アカネが新しくパーティーに加わった。その後、無視されたことに気が付いたジェイルがまた癇癪を起こしたので、アカネが意識を刈り取り、吹雪が止むまでユーリとアカネは日本の話をした。久しぶりの日本の話は中々に有意義なものでユーリは楽しんだ。
そして、翌日には吹雪は収まり、彼らは第9層へ向かうのであった。
いろいろとあってパソコンを変えることになりました。まだ慣れていないため使いにくい……。でも、がんばります!。
キャラ募集ネタ募集継続中。ネタやキャラをくれてやろうという優しい方はお願いします。
では、また次回。




