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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第2章冒険者選抜試験編
24/94

2-5

評価が上がっていて本当に嬉しいです。評価でポイントをいれてくださった方本当にありがとうございます。

これからもがんばります。


 ヴェスバーナ暦1998年春期3月1日 暮れ時 未だ名も無き迷宮(ダンジョン)第1層


「クックックッ、なかなか良い表情してたなあいつ」

「アハハハッ、そうね! あれ見た瞬間、疲れ吹っ飛んだわ。最高の気分よ!」


 そんな感じで、転移門(ゲート)に入った2人はしばらく笑いあっていた。

 怒らせてハイさようならという中途半端且つ、禍根を残すだけの行為であったが、スッキリした。ただ、これで最後だろう。プロに成ろうとするなら、徹底的に。次は、容赦なく徹底的に叩き潰す。だが、今は、これでよいだろうと思っていた。

 ひとしきり笑いきり落ち着いてから、2人は周辺を見渡す。そこには迷宮(ダンジョン)の中とは思えない光景が広がっていた。


「おいおい、これが迷宮(ダンジョン)かよ」

「なるほど開放型ね」


 天高く澄み切った暮れ空に、その空にある暮れかけた太陽。地平線の彼方まで広がっている若草色の平原と、新緑の森。迷宮(ダンジョン)とは思えぬ広大な空間がそこには広がっている。未だ名も無き迷宮(ダンジョン)は開放型と呼ばれる形態の迷宮(ダンジョン)だった。


 迷宮(ダンジョン)には2つの形態がある。開放型と閉鎖型の2つだ。実際は特殊型と呼ばれるどちらにも分類されないもう1つの形態が存在するのだが、それはまた別の機会にしよう。今は開放型と閉鎖型の話である。

 開放型とは、この未だ名も無き迷宮(ダンジョン)のように広大なフィールドが広がった形態だ。天候が存在し、平原、荒れ地、樹海、火山など様々な地形、春夏秋冬の季節が存在することが特徴である。フィールドが広大なため魔獣が集団でよく襲って来やすい。

 閉鎖型の迷宮(ダンジョン)は開放型と逆で、洞窟や遺跡などの閉鎖的な空間の広がる迷宮(ダンジョン)だ。通路などが狭いことが多いため、魔獣は単体でいることが多いがその分強力。天候や季節は存在しない。

 共通していることは魔獣がいることと、お宝が眠っていることである。とある学者の考えでは、この迷宮(ダンジョン)は何か、重大な秘密を持っているのではないかとされているが、真偽は不明である。


 ユーリたちは早速、迷宮(ダンジョン)を進む。ユーリは何時でも剣を抜けるように手を添えつつ周囲に気を配る。

 まだ、魔獣の気配はないが気配があればすぐにわかるようにだ。ミレイアは武器を持っていないため変に構える必要はない。そのままやれば良い。

 ただ、癖なのか、落ち着かないのかしきりに聖書の表紙を撫でていた。

 どこからともなく鳥の声が聞こえてくる長閑な森の中を進む。平原を突っ切らないのは平原上空に鳥種の魔獣を見つけたからだ。

 もうすぐ夜であるが、平原を馬鹿正直に行けば、上からつつかれるのは明らかだ。それは面倒この上なさそうなので、隠れられる森を進んでいる。


「止まれ」

「何かいたの?」


 不意にユーリが言う。

 魔獣の気配を感じた。彼は答えずにそのまま前方を睨む。ミレイアも何時でも動けるように備える。そして、茂みが揺れたと思うと、そこからユーリの想像を絶するものが現れた。それを見たミレイアが魔獣の名を叫ぶ。


「マビットよ!」


 しかし、名前がわかったところで何の意味もない。ユーリは完全に呆けていた。目の前の光景がちょっと、いやかなり信じられない状態だったからだ。

 ユーリたちの目の前にいたのは獣人型の魔獣だ。顔を見れば真っ白な体毛に長い耳、赤い眼。印象的に所謂ウサギというやつなのだが、問題はそいつの姿。どこをどうやったらこうなるのかウサギとは思えないことになっていた。

 頭頂部の長いウサギ耳、真っ赤な眼の愛くるしい何やら被り物然とした顔と、ここまでならまだ良い。

 だが、顔から下にはボディービルダーの如き、筋骨隆々の肉体があった。体毛は全くない。例えるなら裸のアー○ド・シュ○ツ○ッガーのあの素晴らしい肉体の頭を切り取って丸いウサギの顔の被り物をくっつけたような感じだ。

 魔獣というよりウサギの被り物被ったマッチョマンの方がしっくりくる。

 本当に魔獣なのかと疑ってしまうがミレイアが言うには魔獣らしい。

 しかも、男を優先的に狙い、何やらハメル(、、、)らしい。何をハメル(、、、)のか彼女は知らないらしいがユーリはそれがどういう意味かわかって戦慄した。彼はいたってノーマルであるが、そのようなジャンルがあることは無駄知識として知っていたからだ。

 なぜユーリが知っているかと言えば、彼のクラスメートにそれがいて彼自身狙われたことがあるからだ。何とか難を逃れたが、その時のことは口にするのもおぞましく、ユーリはその記憶を忘却の彼方へと捨て去っていた。

 だが、マビットを見てミレイアの懇切丁寧な解説を聞いて思い出してしまっている。それだけでユーリは気分が悪くなっていた。


ハメル(、、、)以外には何もないから、特に注意すべき相手じゃないわ。それに、何かハメられてクセになった男たちがわざわざまたやられに行くって話もあるし、危険はないんじゃないかしら」


 そんな話は聞きたくなかったと心の中で血の涙を流すユーリ。ノーマルな彼にとっては危険度大の魔獣だ。暗くなってきた森の中に浮かぶ赤い眼も不気味だ。てか、この世界大丈夫か。

 しかし、そんな思考もマビットが襲って来た途端、戦闘思考へと切り替わる。この世界で生きる上でエレンに必要と言われて新たに身につけたもの。戦闘に必要ないものを削ぎ落とし、戦闘のみに集中するものだ。

 襲ってくるマビットは4体。実力(レベル)は平均21。ユーリからすれば問題ない。しかしミレイアにとっては厳しい相手だ。

 だが、実力(レベル)が全てではない。それをユーリは知っている。

 グータニアに来るまでの約2週間。立ち寄った村で出会ったベテランの冒険者が言っていた。実力(レベル)は全てではない。

 いくら実力(レベル)が高くたって人間は所詮人間、魔獣は所詮魔獣だ。それを超えることはできない。急所を突けばどんなに低実力(レベル)者であっても、高実力(レベル)者を倒すことができる、と。そして、それこそが本物(、、)であると。

 この試験はおそらく本物(、、)の冒険者を選抜するためのものだ。だからミレイアにも戦わせる。1体だ。まずは1体。それでやれるようなら他も任せる。ユーリは瞬時にそこまで決定した。


「まずは1体任せる。やれるか?」

「当然よ!」

「そうか」


 ユーリはそれだけ言うとマビット3体の気を引くために動く。

 だが、それは必要なかった。一斉に4体のマビットはユーリに向かって来たからだ。ミレイアの解説は正しいことが証明された。多少遠目ながらマビットたちの息が荒いことも確認したので間違いない。

 見たくなかった。自分の眼の良さが恨まれた。


「あんたはこっちよ!」


 ミレイアがマビット1体に蹴りを叩き込む。それで1体の意識はミレイアに向く。彼女はそこから顔面を積極的に狙って拳を振るった。

 ユーリはそれを確認して3体の相手に移る。ベルトにつけられたエレンお手製投げナイフホルダーから2本投げナイフを抜く。エレンは裁縫の技能(スキル)を持っており、このような革製品までならある程度の物が作れる。

 ただし、本人曰わく、才能がないらしいので、あまり作れないとのこと。ユーリからすればいちいちポーチから取り出す手間が省けるので感謝している。

 何やら盛んに近づいて来るマビット3体のうち2体にナイフを投擲。狙いは脳天だ。ウサギが元だと思われるのに、あの筋肉のせいか動きは遅いので楽に狙えた。

 1体は油断していたのか直撃しご臨終。もう1体はその丸太のように太い腕で防いだ。なるほど、それなりに知恵はありそうだった。だが立ち止まる。

 ユーリは投擲しなかった残りの1体に疾駆する。勢いを殺さずに横に剣を薙ぐ。狙うは首から上だ。筋肉の鎧とも言うべき肉体に殆どダメージが通らないことは先ほどの投擲で確認した。

 剣はおそらく通らないだろう。通ったとしても、抜けなくなるのは目に見えている。そうなれば、あとは地獄だけだ。だが顔だけが、刺さったことから顔は柔らかいのだとわかる。だから狙った。

 マビットは本能から避けようとする。


「遅い!」


 ユーリの想像どおり、マビットの顔は柔らかかった。するりと剣は肉を切り裂いていく。これで後1体。すぐさま地を蹴る。こちらに飛びかかってこようとしていたユーリの担当となっていた最後マビットの顔を斬った。

 辺りの気配を探るが、とりあえずは他にはいないようなので、ミレイアの戦いでも見ることにする。

 アイテム? がドロップされていたが、ユーリが拾うと何か大切なものを失いそうになるなるような酷く拾いたくなくなったものだったので、後でミレイアに拾ってもらうつもりだ。ミレイアにとっても駄目な気がするが、背に腹はかえられない。

 見ていると、動き回り、拳を繰り出すミレイアの姿が見える。ミレイアは素手で戦うタイプだ。それも、手数で勝負するタイプだ。

 そして、法術による身体能力を強化している。だが、それでもマビットの筋肉の鎧を貫くことができない。あの筋肉の鎧を素手で貫くかなり実力(レベル)が必要だ。

 それがわかったのか、今度は柔らかい頭を狙うが、マビットは自身の弱点を本能的にわかっているのかしっかりとガードしている。

 どうやっても無理だとわかったミレイアは後ろに跳びのく。それから両手を合わせ目を閉じる。マビットは何か来るとわかったのか、警戒して彼女の動向を見ている。

 いや、違う。チラチラユーリを見ている。まったく彼女のことを見ていない。一応目の前にいる敵だとわかっているのか、ユーリの方に来ることはないが、それでもチラチラ見ている。恋する恋人を見るような感じだ。

 ユーリに怖気が走る。早く何とかしてくれと切実に思う。それが通じたのか、元からそうするつもりだったのかミレイアが動く。


「すうぅぅぅ、はあぁぁぁ」


 ミレイアが大きく息を吸って吐く。ユーリは空気中に満ちている力が動くのを感じた。これが天力と呼ばれる奴なのだろうと思っていると、それはミレイアの中へ集まってゆく。

 そして、それは右腕へと集まる。


戦技(バトルクラフト)神官武術『天破』!!」


 刹那マビットの体に大穴が空いた。集められた天力がマビットを貫いたのだ。


「終わったわよ!」

「おう、こっちも終わった。で、だ、アイテムやるから回収してくれないか?」

「さすが3体を倒すなんてね。でも何で?」

「いや、ちょっとな」

「ふ~ん、まあ、くれるってんならいいわよ」


 マビットが落としたアイテムをミレイアに回収してもらい先へと進む。アイテムが何だったと言うと、まあ、アレである。アレ。

 これで分からない人はそのままでいてください。わからなくても、何も問題はありません。これ以降登場することもないです。おそらく。

 さて、その後も森の中を進む2人。完全に日が暮れて当たりは真っ暗だ。だが、それでも星や月明かりが明るいおかげか見えないわけではない。

 ランタンを出しても良いが、そういったものを持っていると片腕がふさがってしまい、いざと言うときに困るからだ。


「それにしても、階段はどこにあるのかしらね」

「さあな、まあ、まだ余裕はあるんだ。とりあえず奥に行っていればいいんじゃないか?」

「でも、何かしら当たりつけとかないと、全体がどれくらい広いのかもわからないし」


 ふむ、と考えるユーリ。どうやら、ミレイアは以外に考えるタイプのようである。勝ち気ですぐ行動に出しそうな印象であったので驚いた。ではなく、考えるのはどうするかだ。なにぶん、2人とも迷宮(ダンジョン)初心者だ。迷宮(ダンジョン)攻略の定石など知らない。

 これが閉鎖型の迷宮(ダンジョン)ならばまだやりようはいくらでもあるのだが、開放型だとそうはいかない。地道な作業がいるのだ。

 そこでユーリは思いつく。自動作地図だ。もしかしたら迷宮(ダンジョン)の地図でも作っているかもしれない。

 これもおそらく遺物(アーティファクト)なので、出したらミレイアに色々言われそうであるが、正直に盗賊から盗んだとは言いにくい。神官なので言ったらボコされそうなので言いたくないのだ。とりあえず、これもなあなあで済ますことにする。

 というわけで、ユーリはポーチから自動作地図を取り出す。そこには、しっかりと迷宮(ダンジョン)の地図が作られていた。ただ、階段の場所などはわからない。

 だが、自分の周りある程度の範囲を自動的に地図に描くので、近くに普通に探すよりも探しやすい。


「ん、何その紙切れ?」

「地図」

「地図ぅ!?」

「ああ、自動作地図」

「はああああ!? それって、まさか」

「ああ、遺物(アーティファクト)

「あんた、ねえ……はあ、もういいわ」


 ジト眼でユーリを見るミレイア。

 さすがに、もう驚きを通り越して呆れたという感じだ。目の前の存在が非常識すぎて何とコメントしてよいかわからなかないらしい。

 どうせ追求しても何も答えてもらえないことは確定なので、ミレイアも聞かないことにする。

 気になるが他人の踏み入れてほしくないことに踏み込むのは仮にも神官がやって良いことではない。後ろめたいことがあるなら、眼を見ればわかる。

 ユーリの眼を見ても、とりあえずそういったことはなさそうなので、追求はしない。


「で、つまり、それを見ながら行こうってわけね」

「そういうこと」

「何かズルっぽいけど、そういうことが禁止されてるわけじゃないし、いいわ」


 というわけで、自動作地図を使いながら迷宮(ダンジョン)探索をすることになった。そのかいあって日付が変わる頃には2層目の階段を見つけることができた。


********


 ――冒険者ギルドグータニア支部――


 そこは本来ならばギルド支部を統括するギルド長の執務室であるが、現在は、リバーナからやってきたギルドマスターの執務室に早変わりしていた。

 受付の女性と初老の女性がいた。この初老の女性がギルドマスターのイリアーナである。御年70になるとうのに幾分も衰えが見えず、その眼光は今も昔も変わらぬ光を放っている。元凄腕の冒険者だ。


「それで、お主から見て今回の受験者はどうじゃリナ?」

「はい、正直言って期待できません」


 キッパリとリナと呼ばれた受付の女性は言った。その言葉には一切感情が感じられない。淡々としたものである。


「ほう?」

「全てとは言いませんが、あまり良い人材はいないかと思われます」

「ほうほう」


 あまり良い報告でないはずなのにイリアーナは楽しそうに頷いている。どうにもこの人はいつもそうだ。あまり良くないことが起きるといつも決まって楽しそうにする。それで被害が及ぶのはいつもリナたちギルド従業員だけにリナは心の中で嘆息した。

 だが、それを表に出すことは無い。ただ、それでもイリアーナにはばれているだろうが。それであっても一切その行動を省みない。

 では、逆に良い人材はいないか、と。リナは少し考える。やはり最初にあがるのは異種族だ。特に竜人族。彼らは根っからの戦闘民族だ。それだけに戦闘能力は多種族を圧倒的に凌駕している。

 だが、例年の竜人族の受験者からすれば多少ながら実力(レベル)が低いのではないかと彼女は思う。

 次に思い浮かぶのはダークエルフだろう。身体能力も高く、本家エルフには及ばないが高い魔法力を持っている。

 しかし、こちらも同じで、あまり良いとは言えない。それ以外にも中々良い人材はないかと記憶を掘り起こしていくが、やはりあまり良い物はない。

 例年稀に見る大不作だ。ここ数年不作は同じだが今年は特に酷い。いや、年々酷くなっているように思える。

 魔法ギルドからくる魔力振や魔素の低下とも何か関係があるのかもしれないが、リナにはその辺りのことは学者でないからわからない。


「い――」


 いない、と答えようとして最後に来た少年を思いだす。

 時間がなかったために鑑定により実力(レベル)などを把握することはできなかったが、あの少年が纏っていた雰囲気は他の誰とも違っていたと思う。最後の最後に来たので失念していたのだ。


「おらんか?」

「いえ、ユーリという少年です。彼ならば少しは期待できるかと」

「ほう、あの小僧か」

「御存知で?」

「いいや、詳しくは知らん。受付に来た時に見ただけじゃ。確かに不思議な雰囲気があった小僧じゃったの」


 わかっていたのなら聞かないでください、と心の中で溜め息をつくリナ。

 そこで、本来の目的を思いだした。本来はこのようなことを答えるためにイリアーナに会いに来たわけではないのだ。

 魔法ギルドから一応ということで、来た報告を伝えるためである。さっそく伝える。


「ほう、なるほどの。迷宮(ダンジョン)から」

「どういたしましょう? 人員を派遣しますか?」


 どうせ、しないと言うだろうと思いながらも一応聞く。


「せんでよいわ。それくらいで、いちいち人を派遣しておったら何のための冒険者だという話じゃ。このようなトラブルも自分で何とかできないようなら冒険者になるなと言いたいからのう――」


 やはりかと思った。この人はいつもこうなのだ。リナは今回の受験者全員と会っている。できれば全員無事でいてほしいものなのだ。


「――じゃが、今回はいやな予感がするのう。ふむ、ワシが行くとしようか」


 ギルドマスターが動く。それだけで、リナは絶対に何かが起こる。そう確信めいたものを感じた。かなり厄介なことになるだろう。事後処理が大変だと嘆息するのであった。


********


 そこは闇の中。そこで眠りし者の鼓動が響く。ゆっくりとしたそれは重く、確かに響いていた。王が目を覚ましていることをそれは知らせている。

 ここは未だ名も無き迷宮(ダンジョン)の第10層。深淵の底。未だ下に続く遥かな険しき道はあれど、彼の領域はここまで。彼が王でいられる場所はここまでだ。

 だが、ここまでで彼には十分。例え箱庭の王様であっても、それは王には変わりないのだから。ここから先に行けずとも彼は既に力を持っているのだ。それで彼は満足であった。

 最後に腕と翼を失ったが、好敵手ともいえる男との戦いをやり遂げることができたのだ。結果は、すでに忘却の彼方であるが、満足して眠りについていた。その眠りが覚めた。

 目覚めた彼。血とも言える魔力が全身を巡る。身体を動かせば骨の軋む音が響く。だがすぐにそれは聞こえなくなる。体は動く。

 しかし、問題があった。数千年にも及ぶ眠りから覚めたのだ、その体を支えるべきエネルギーが足りない。いわば空腹であった。

 この王は食物を喰らうわけではなく、魔力を喰らう。魔力はそこら中に満ちているが、そんなもの喰ったところで満たされはしないだろう。

 彼は意外に美食家(グルメ)なのだ。迷宮(ダンジョン)から供給される言わば養殖の魔力などいらぬ。欲しいのは天然の魔力だ。

 だが、ここにはそんなものはない。最後に喰らったのは、なんだったか。たいそう美味であったことは覚えている。

 ふと、彼は匂いを感じた。久方ぶりに感じる獲物の匂いだ。彼の眼が見開き、心臓が早鐘を打つ。

感じる獲物の匂いは彼が眠りにつくよりも、あまり美味そうではないが、それでも構わない。天然物が味わえるのだ、養殖よりもはるかに良い。

 どうやらまだまだ上にいる様子。ならばここで待っていれば良い。転移門(ゲート)は自身の背後にある。必ずここに来るだろう。空腹ではあるが、空腹は最高のスパイスだ。待った分だけ美味く喰えるというもの。

 彼が笑う。久方ぶりに笑う。楽しみだ。久方ぶりの食事。彼は心が躍るほどに楽しみであった。

 王は待つ。自分の前に立つ存在を。

と言うわけでダンジョン探索開始です。ダンジョン探索とか本気でやるとただ歩いて時々戦闘とかダレそうなので、サクサクご都合主義で行きたいと思います。

キャラ募集は継続。


では、また次回に会いましょう。


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