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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第2章冒険者選抜試験編
21/94

2-2

色々と迷走中。

 ヴェスバーナ暦1998年春期3月1日 朝 グータニア 冒険者ギルドグータニア支部前広場


 人垣を押しのけて騒ぎの中心へと入るユーリ。

 これからやるのは普段の自分とはかなりかけ離れたことだ。やることを考えると羞恥心で死にそうだが、人助けだと割り切る。

 必死に自然体を装いながらユーリは、声が上擦らないように注意して声をかけた。もちろん、絡まれている若草色の髪をした勝ち気そうな法衣の美少女に、だ。


「よう、待たせて悪かったな。ちょっと準備に(助けるための心の)に時間がかかってな。とりあえず行くぞ(、、、)


 何だこいつは、とあからさまで当然な反応の少女と偉そうなバカ3人組の反応に心臓バクバクなユーリであるが、この手の作戦は早さが大事だ。

 だから、さっさと進めてしまう。何を、と聞かれれば少女の手を引いてさっさとこの騒ぎから抜け出すことだ。

 少女、それも結構な美少女の手を引くという行為に緊張で死にそうになり、やめようかなとへたれ始めたユーリ君。

 だが、やってしまったからには最後までやらなければ、とさっさと決行。

 なるべく少女を見ないようにしながら彼女の手を掴む。少女は一瞬抵抗するが、目で制した。良いから従えと。

 アイコンタクトって使えるんだと変なところで感心したユーリである。


「待ちたまえ、彼女と話しているのは僕だ。邪魔しないでもらおうか」


 だが、やはりというか、何というか、3人組のバカ1――お坊ちゃんと呼ぶことにした――がユーリを止める。

 身なりの良い格好と上品な仕草からして貴族のお坊ちゃんに間違いない。嫌な相手だと今更ながらに思うがもう遅い。仕方なしに何か用かと言う風に視線を向ける。内心は冷や汗だらだらだ。

 だが、そんなことをおくびにも出さず、お坊ちゃんに対応する。


「何だ、その目は何か文句でもあるのか?」

「いえ、何も」


 文句はありありであるが、そんなことをこの手のタイプに言ったとしても通じないので言わない。典型的な駄目貴族の典型だ。


「ならば、さっさと彼女を置いて消えろ。彼女には君のような屑よりも、僕のような高貴で実力(レベル)の高い者が相応しい」


 なんとまあ、典型的なイメージ通りの貴族のお坊ちゃんである。

 冒険者になろうと言うのも箔がつくからだろうことは容易に想像できた。それに、貴族はプライドだけは高く、全てが自分の思い通りに行くとか考えている馬鹿者が多いというエレンの話は正しかったというのをユーリは理解した。

 とりあえず実力(レベル)15以上で覚える技能(スキル)実力(レベル)解析』をこっそり使い3人組とついでに少女の実力(レベル)を確認してみる。

 エレンから聞いた、年々下がってきた新規冒険者候補の近年の平均実力(レベル)は10という話からあまり高くはないだろうと予想していた。


(これは、低いな……)


 確認したら案の定であった。まず1番低いのは取り巻き2人で、デブが実力(レベル)7で、ノッポが実力(レベル)8だった。平均以下で非常に残念だ。その容姿も含めて。

 次はお坊ちゃんで実力(レベル)は12。平均より2も高いが、現在実力(レベル)38のユーリから見ればその差は歴然。しかも、ユーリは設定で、実力(レベル)以上の能力を持っていると言える。比べるのも烏滸がましいくらいには差がある。

 取り巻き2人に関してはもはや論外だ。何度も言うが、ユーリの能力成長率は人外と神なのだ。この世界の実力(レベル)基準で考えてはいけないステータスになってしまっている。むしろ論外どころか問題にすらならない。

 それから少女なのだが、何とまあ、あの4人の中で1番実力(レベル)が高かったのは彼女である。当然、ユーリからすれば低いのは変わりないが実力(レベル)14。

 容姿的にユーリとあまり変わらない年齢だとすると、まずまずの実力(レベル)と言える。それでも低いことには変わりない。魔獣しか倒したことがないのなら、この程度なのは当然だろう。なんにしてもこれからだ。

 それなら3人組の相手などしなくても良さそうだが、まだ技能(スキル)実力(レベル)解析』を覚えてないなら、仕方ないかと思い直す。

 実力(レベル)がわからなければどう動いて良いかわからないのは当たり前だ。えっ? ユーリ? ユーリは無茶苦茶だから良いのだ。


「おい、何か言ったらどうなんだ!」

(おっと、思考がズレてた。集中しよう。集中してないと羞恥心で死ぬ)


 ユーリは実力(レベル)差が明らかになって多少は落ち着いた。まあ、実際はまったく落ち着いてなく、割りとテンパっていたりするが、かねてからの計画通り騒ぎを抜け出すことにする。時間もおしているのだ。早くしないと時間に間に合わなくなる。


「では……実力(レベル)12が粋がるなよ。屑野郎。俺はお前みたいなのが1番嫌いだ。

 ……行くぞ」


 そのままそそくさとユーリは少女の手をひいて冒険者ギルドへと向かう。お坊ちゃんがユーリの言葉を聞いて理解したのは、ユーリが人垣に道をあけさせた時だった。


「貴様! 僕を侮辱したな! 殺してやる!」


 実力(レベル)がわかったということは最低でも実力(レベル)15で、自分より強いとわかるはずなのにお坊ちゃんと取り巻きーズは腰に差していた剣を抜き切りかかってきた。ただ箔付のために持っていた剣だ。まったくなっていない。ただ、振り上げて、振り下ろそうとしているだけだ。

 怒りで我を忘れているご様子。流石の野次馬も騒ぎ始めたがユーリは落ち着いていた。

 思考が戦闘モードに切り替わり、先程までの無駄な緊張や羞恥心などが意識からそぎ落とされる。20から30程度の実力(レベル)差からか、3人組の動きは殆ど止まっているかのように見えた。常時発動技能(パッシブスキル)によって引き上げられている身体能力がそれを後押しする。

 少女を庇うように前に出る。少女はと言えば、さすがにまずいと思っているのか心配そうにしている。

 だが、そんな心配など無意味だ。


「遅い」


 体術の技能(スキル)で習得した合気道やら柔道やらの要領で、一瞬のうちに3人組を投げて、やんわりと地面に転がしてやった。

 3人組は何が起きたのかと目を白黒させている。周りの野次馬はユーリに早業におおー! と感心の声をあげ、お坊ちゃん3人組にはこっそりと小馬鹿にしたような笑いを浴びせていた。

 これで大丈夫だろとユーリは判断し、こちらも驚きで目を白黒させていた少女の手を引いて冒険者ギルドへと向かった。

 しかし、お坊ちゃんはまだ諦めておらず、再度、剣で斬りつけようとしてきた。やはり、剣の心得はないようで、力任せに振ってきているだけだ。

 だが、そんなもの気配でわかっていたユーリは振り返りもせず、お坊ちゃんの剣を蹴り上げ、そのままお坊ちゃんを蹴っ飛ばす。

 そして、何事もなかったかのようにユーリは冒険者ギルドへ再度歩き始めた。


「お、覚えてろよ貴様! この僕を侮辱したこと後悔させてやるからな――ヒィッ!?」


 とお馴染みの捨て台詞を吐いていたようだが、ユーリが蹴り上げた剣が落ちてきて近くに刺さったらしく、情けない声をあげていた。それを皮切りに、野次馬はユーリに賞賛の歓声をあげた。やはり、喧嘩は祭りの華であるらしいのはどこの世界でも変わらないらしい。

 そんなわけで冒険者ギルドへ入る。明るい、普通ではあまりない魔導具(ソール)の照明が2人を迎えた。冒険者ギルド内部は明るく清潔で開放的であり、人で溢れていてもまったく閉塞感を感じない広さを持っている。それでいて様々な紙が貼られた、依頼板(クエストボード)や受付カウンターなどなど、ユーリの思う王道的な冒険者ギルドといった趣があった。彼は一瞬でこの場所が好きになった。


「コホン、そろそろ手を離して欲しいんだけど?」

「あ? あっ!? わ、悪い!」


 冒険者ギルドの内装の素晴らしさに見入っていて、すっかり少女がいたことを忘れていたユーリ。慌てて手を離す。そこで彼は初めて少女を真っ正面からまともに見たのであった。

 美少女であった。どちらかと言えば、学園にいたアリアや絵梨などと同じ美人タイプの美少女だ。ただ、多少、可愛い系も混ざっている珍しい美少女だ。

 ツーサイドテールに紐で結ばれている若草色の髪は、艶やかでサラサラと音をたてそうなほど美しい髪だ。触ってもいないのにそのサラサラ感が伝わるほどだ。勝ち気そうな若干つり上がった眼は真っ直ぐな意志を秘めていた。

 体型はスレンダーだ。ただスレンダーと言っても、エレンのような元からの細さではなく、鍛え上げられた細さである。エレンと違い母性の象徴たる胸は残念だ。体のバランスが良いため悔やまれるところだろう。

 ただ、それを差し引いてもかなりの美少女であることには変わりない。今更ながらに緊張でドキマギするユーリ。だが、そんな彼など少女は気にせず言った。


「私、助けてなんて頼んでないんだけど」


 その一言でユーリは少女の性格が珍しいことに把握できた。典型的強気な性格である。

 だが、把握できただけだ。確かに頼まれてはいない。それでもだ、親切心で恥を忍んで助けだのだから、お礼の1つくらいあってもよいのではないのかとユーリは思う。


「それは、お節介をしたな」


 だが、やはり思っただけで口にはできないユーリなのであった。フェミニスト? いいえ、ただのへたれです。やるときはやるのに残念だ。


「まあ、自分で振り払えなかった私にも責任あるし、結果的に助けられたから礼くらいは言っておくわ。えっと……」

「ユーリだ」

「そう、じゃあ、ありがとユーリ。私はミレイアよ」


 小説のヒロインとかならばここで顔を赤らめるくらいはしそうなものではあるが、この少女改めミレイアはまったくそんなことはなかった。

 所詮、フィクションはフィクションであるとうことだ。まあ、そうなったとしても内心テンパリ気味のユーリには意味がないが。


「そうか。じゃあ、今度は気を付けろよ」

「言われなくても」


 これで終わりとばかりにユーリはミレイアと別れてさっさと受付へと向かう。

 早く離れたかったというのもあるが、時間がギリギリなのだ。ミレイアは先に受付していたのか、どこかへ行ってしまった。それは言いとして受付へ。

 受付にはなにやら非常に冷たい印象を受ける黒髪の女性がいた。

 まるで、北極の氷のようなクールな女性だ。美人ではあるが、非常にとっつき難い。というか、この世界の美女率はかなり高い。

 魔力の影響だろうか。一応、彼女について、彼女はワイシャツにベスト、タイトスカートという受付ですよオーラ、全開の格好だ。黒髪はこの世界では東方にしかいないらしいので珍しい。ユーリは別であるが。


「すみません。冒険者選抜試験を受けにきたんですけど」

「承りました。こちらに必要事項をお書きください」


 出された紙に必要事項書く。よくわからないところは、ペンが止まるギリギリのところで、受付嬢が勝手に説明をしてくれた。仕事のできる人である。


「ユーリ様ですね。すぐに説明が始まりますので、正面右手の部屋でお待ちください」


 淡々と受付はそれだけ言うと、さっさと言ってくださいという風に右手の扉を指した。

 ユーリとしては、私情も何もなしに、単刀直入にそういってくれるのは正直言って気が楽である。相手も気を使わないのなら、こちらも気を使う必要がないからだ。時間もギリギリだったので、さっさと指示された部屋へ入る。

 部屋の中はいうなれば講堂のような場所だった。椅子はないが、演説用(?)のステージというかがある。

 そして、かなりの人数の、様々な人がいた。皆ユーリよりも少し高いぐらいで若い人たちばかりだ。やはり女よりも男が多い。そのため、この部屋が圧倒的にむさくるしいことになっている。

 なぜ、若い者たちばかりなのかと言うと、冒険者選抜試験は受けれる回数が限られているからだ。その数は3回。

 ある程度の質を保つための措置で、3回やって合格できないようならば冒険者になるなということだ。基本的に、それなりの年のいった者は実力(レベル)が高いので、さっさと合格して行くのだ。

 そのため、今ここにいるのは、始めて試験を受ける若い者たちということ

 それとこの場にいるのは人間だけではない。ファンタジー小説にはつきものの別種族までいるようであった。

 数は圧倒的に少ないがエレンと同じ獣人や、背の低いホビットと呼ばれる小人や、矮躯で屈強なドワーフ、額や首元、手の甲などに鱗がついた竜人族など。

 そして、ファンタジー種族の代名詞、エルフ――はいなかったが、変わりに耳の尖った褐色の肌をしたダークエルフはいた。

 それだけでも、ユーリは興奮した。

 そんな感じで色々観察していたためか、扉を開けた時の一瞬の注目と共に、何してんだ、といった感じで注目されてしまった。

 気がついたユーリはすぐに扉を閉めて移動する。すぐに興味はなくなったのか視線は霧散した。ユーリはそれ以上目立ちたくないので、さっさと壁際を一番後ろまで移動する。

 移動し終えたところで、なんとも奇妙な縁というか、テンプレというか、早い再会というか。ミレイアとばったり出くわした。

 だが、ミレイアからの反応はない。無視のようである。

 ユーリも別に会話したいわけでもないので、無視されるのならと同調して無視。

 そうして待っている間に、先ほどの受付の人と同じ人がステージに上がった。ざわめいていた部屋の中が静かになる。

 説明は直ぐに始まった。


「では、冒険者選抜試験についての説明を始めます。

 まず、注意事項を言っておきますが、この冒険者選抜試験において冒険者ギルドは、皆様の一切の安全を保障いたしません。

 我々が保護する対象は一般市民と冒険者だけですので、冒険者でもなく一般市民でもない、冒険者候補を保護することは何があってもございません。冗談だと思っていらっしゃるならば、即刻退出なさってください。我々は本気です。

 また、この場において皆様は平等であると認識させていただきます。

 例え、王族であろうが、貴族であろうが、その他特権身分だろうが、それらの有する外的権力、または内的権力は一切、意味を成しませんので悪しからず。不正行為なども不可能です。

 万が一にも不正行為が発覚した場合は、即刻、不正行為をした者を拘束いたします。

 情状酌量はありえません。例えどのような相手であろうとも処分を下します。今後一切試験を受けることはできなくなりますので御了承ください。

 そのため、不正をしようとしている腕に自身がない者は即刻退出なさってください。

 では、どなたか退出する方はおりませんか?」


 そんなことで退出する者はいなかった。これに人生をかけている者もいるのだ。退出するはずがない。ユーリもだ。

 ユーリには、どのような試験でも乗り越える自身がある。実力(レベル)の高さはそれだけで実力に直結するわけではないが、それでも自信にはなるのだ。

 結局、しばらく待っても退出する者はいなかった。既に試験は始まっている。この時点で退出するような者は、冒険者にふさわしくないとして今後一切、冒険者選抜試験への参加不可を言い渡すところであった。

 それがないので、今年も、例年通り開催する。

 受付の女性は頷き話を先に進める。


「皆様、同意と受けとらさせていただきます。これ以降、何があろうとも、死ぬか、試験内容を達成する以外には試験をやめることはできませんので、そのつもりで。

 では、試験内容の説明へと進まさせていただきます。

 今回の試験内容ですが、グータニア近郊に新たに存在が確認された教会未処理迷宮(ダンジョン)へ潜っていただきます。魔法ギルドの観測によればだいたい約10層程度の初心者用の迷宮(ダンジョン)とのことです」


 その言葉でざわざわと講堂内が騒がしくなる。皆一様に教会未処理に反応しているようであった。ユーリもその辺りエレンに常識として聞いていたので知っている。

 この世界の迷宮(ダンジョン)は所謂ユーリの知っているRPGで良く言われるものと同じようなダンジョンだ。

 迷宮(ダンジョン)の階層や種類ごとに様々な地形が存在し、1日ごとに内部の状態が変化するため地図など存在しない。階層構造をしているため、各階層の最奥には各階層を繋ぐ階段が存在する。だいたい10層ごとに外に出るための転移門(ゲート)がある。

 また、迷宮(ダンジョン)は生き物であるとも言われており、死ねば装備やアイテムはそのまま迷宮(ダンジョン)の中に残り続けるが、肉体の方は迷宮(ダンジョン)へと吸収されることがその理由だ。それにより、迷宮(ダンジョン)の魔力濃度が上がっていき、より強い魔獣や魔物が出現するようになる。

 そして未処理とは、トルレアス神教の神官が法術によって、迷宮(ダンジョン)を浄化処理していないことを指す。

 教会が処理を施した場合、その迷宮(ダンジョン)の食作用とも言えるものが消え、なおかつ、迷宮(ダンジョン)で死んだとしても最寄の教会で復活する。

 ちなみにその際、装備登録を行っていない装備は全て失うことになるので注意が必要。装備登録とは装備を教会で登録することにより、登録者以外には脱がすことができなくし、迷宮(ダンジョン)で失わないようにするのだ。ユーリも一通りは行っている。

 一応、その装備登録にも抜け道があって、登録者が死ねば、装備を外すことができるし、武器もアイテムも奪うことができる。戦場では、敵を殺して武器を奪うことが多い。

 それは良いとして、つまり教会未処理という迷宮(ダンジョン)では死ぬ可能性があるということだ。あからさまな死の危険に、先ほど同意したはずなのだが、ざわめくのは当たり前だろう。

 そこに受付の女性のクールな声が響く。


「静粛に。あなた方は冒険者になりたいのでしょう。

 我々は報酬に見合うだけの、相応の成果あげることは冒険者の義務だと考えています。それには相応の強さが求められるのです。実力(レベル)が低い? 相手が悪かった? そんなものは言い分けにしかなりません。

 もとより冒険者とは、その名の通り、未開の地を冒険する者のことです。未処理の迷宮(ダンジョン)に怯えるくらいならば、到底使い物にはなりません。

 どうぞ退出なさってください。そのような弱者を冒険者ギルドは求めてはおりません」


 辛辣な言葉であるが、それは事実だ。冒険者の仕事は、薬草の採取や、隊商の護衛、魔獣の討伐など幅広い。

 だが、共通していることが1つある。それは人のためということだ。騎士も人を守っているように見えるが、彼らが守っているのは王の国だ。だからこそ彼らは戦争に行く。国を守るために。

 冒険者は騎士と違い、個人を守るのだ。国という単位ではなく。個人の人を守るのだ。冒険者の失敗、それはその守るべき一般人が被害を被ることだ。

 冒険者に失敗は許されてはいない。そのために強さが必要なのだ。それが分からない人間が、ここにいるはずがいない。まあ、お坊ちゃんなど一部はわかっていないようであるが。

 一部例外を除いて、静まり返る。


「御理解いただき幸いです。

 では、改めて試験内容を説明いたします。まずは先ほど申したように、今回の試験では未だ名も無き迷宮(ダンジョン)へ潜っていただきます。

 そこで最低でも実力(レベル)20以上へ達した状態で第10層にあるアイテムを取ってから帰還していただきます。

 それからそこで二次試験を行い、それによって合否を判断させていただきます。

 ソロ、パーティーは問いません。私の私見を述べさせていただきますとパーティーを組んだ方がよろしいかと思います。

 期限は1週間とさせていただきます。

 では、健闘を祈ります。出口から出た所で迷宮(ダンジョン)までの地図がもらえるはずですので、それを御利用ください。では」


 言い終わり一礼すると質問も受け付けないのか、すぐさま女性は講堂から出て行った。

 すると、講堂正面左にあった大扉が開き、外へ出られるようになる。用はないとわかると、すぐさま迷宮(ダンジョン)に向かう者や準備を整える者たちが一斉に外へ出て行った。

 残っている者は少しでも合格の可能性をあげようとパーティーの勧誘を行ったりしていた。

 特に、未処理の迷宮(ダンジョン)に行くのだからということで、回復のできる法術使いが勧誘の嵐に遭っているようであった。神官のような法衣を着たのが、しきりに勧誘されているのがわかる。ミレイアもそのようであった。

 隣で人に囲まれているミレイアを見るが、特には何もしない。助けるのは1度で十分だろう。実力(レベル)を確認したが、囲んでいる人間にそれほど高い実力(レベル)の者はいないようであるし、あのお坊ちゃんのような屑もいないようだ。

 それにここは一応は冒険者ギルドなので大丈夫と判断した。冒険者ギルド内で何か不祥事を起こした場合、問答無用で裁かれる。受付嬢なども、かなりの手練れがそろっているのだ。受付だからと侮っていては殺される。

 そのため、ギルド内で手荒な前はしないだろうと判断したのだ。

 ユーリは初対面の人とパーティを組むなど考えられないため、ソロで行くことにしている。実力(レベル)的にも問題は無い。

 というか既に実力(レベル)に関しては達成してしまっているので、1人でさっさと駆け抜けてしまった方が早い。

 というわけで、エレンに報告ついでに準備を整えてさっさと迷宮(ダンジョン)に行くことにする。さっと行ってさっと終わらせる算段である。

 しかし、やはりそううまく行かないのがユーリの人生なのである。出て行こうとしたら背後からの声に呼び止められたのだった。


このギルド受付嬢が割りとお気に入りだったりします。良いキャラだ。


では、また次回。

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