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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第1章旅の始まり編
17/94

1-13

 ヴェスバーナ暦1998年春期2月16日 真夜中 平原


「はっ!」


 気がつけばユーリは妖精郷に連れて行かれる前にいた平原で大の字になっていた。周りは薄暗く、ほとんど何も見えない。そして、イリスはいない。その代わりに空中に光り輝く文字が浮かんでいた。


『私は用事があるから行くね。結界張ったから問題なかったはずだよ。でもお詫びに銀の術具(マジックメモリ)をプレゼント♪ じゃあ、またどこかで会おうね』


 読み終わると文字は消えた。そして確かに左手中指に術具(マジックメモリ)であろう銀の指輪があった。

 しかし、いつもならば喜ぶそれも今は素直に喜べない。異世界から戻れなくなったのだから、当然だろう。いくら覚悟していたとは言えだ。


「……とりあえず状態の確認をするか」


 ユーリがメニューを開きステータスを確認しようとする。

 そこで、周りが薄明るいという異常に。ユーリがこちらに来る前。元いた世界での時間は真夜中。何も設定がされてないので、異世界も真夜中になっているはずである。辺境の村であるスニアの村には街灯などとう明かりは存在しない。

 それに、現在ユーリがいる場所は村から少しだけ離れている。現代日本ならまだしもこの世界の街灯ではここまで光は届かないはずだ。

 ならばなぜ、この場所まで薄明るいのか。光の来る方を見る。それは村の方角。そちらには黒い煙が空高く立ち上り、火の粉が舞っている様子が多少ながら見て取れた。明らかに火の手が上がっている。


「まさか!?」


 ユーリは慌てて気配を探る。スニアの村に火気など皆無に等しい。ただの火事ならばあれほどの黒煙は立ち上らない上に、こんな所まで薄明るくなるわけがない。考えられるのは最悪の事態だけであった。それは盗賊の襲撃だ。

 そして、気配を探った結果、それが正しいことをユーリは知った。

 以前、旅人の服を手に入れる時に忍び込んだ盗賊の根城になってた砦。そこから盗賊たちが出て行く時に感じた気配と全く変わらなかったからだ。村は完全に盗賊に襲撃されていた。


「……どうする……」


 だが、それがわかったところでどうするのか。正直なところ、ユーリは今まだ、色々と起こりすぎていて正常な状態ではない。これからのこと、自分のことで手一杯。他人のことを気にする余裕はまだない。

 盗賊の人数も20人。1人で相手をするのは、分散していて各個撃破ができるとはいえ厳しい。それに3日ほどしかスニアの村で過ごしていない。いくら会話などをして関わったとは言っても赤の他人。助ける義理はない。

 ましてや、人を殺すことになるのだ。魔獣よりも遥かに危険かもしれない。死ぬ可能性だってある。まだユーリは死にたくはない。ここで見捨てたとしても誰も文句はいわないだろう。

 だが、とユーリは思う。脳裏に浮かぶのは宿屋で色々と気遣ってくれたミレアの顔、雑貨屋で豪快ながらもサービスしてくれたダンガの顔、自分を慕ってくれたニーナ、ジッド、クロア三人組や子供たちの顔、シスターの顔、その他色々と親切にしてくれた農夫たちの顔。

 他人とはいえ、いや、もう関わった時点で他人ではない。無関係ではいられない。そんな人たちを見捨てて良いのだろうか。いや、良いはずがない。

 それに、浮かぶ絵梨や麻理たちの顔。元の世界で信用してくれた人たち。もし、スニアの村を見捨てたりしたら、彼らにまた会えた時に顔向けすることができるのだろうか。

 できるわけがない。見捨てたりなんかしたら顔向けどころか2度と会ってはくれないだろう。ボコボコニされても文句は言えない。

 きっと麻理や絵梨たちならば、人を助けるために人を殺したとしても、許してくれるだろう。逆に麻理にいたってはほめてくれそうである「いいことをしたね」と。そうやって、許してくれる。褒めてくれるだろう。

 今、ここで動かなければ彼女たちの信頼を裏切ることになる。


「裏切るなんて、できるわけがない、よな」


 いつの間にかユーリはスニアの村に向けて全速力で疾走していた。

 後ろで何かが割れるパリィンという音が響いた。イリスの張っておいた結界が破れた音だ。しかし、それをユーリには気にしている暇はない。ただただスニアの村に向けて走るのみだった。

 村に近づくにつれて、炎に照らされて周囲が明るくなる。風に乗って、何かの焼ける吐きそうになる臭いが漂ってくる。ユーリは込み上げてくる吐き気を無理やり飲み込んで、剣を抜き、一心不乱に走った。

 田園地帯は酷い有り様になっている。作物は踏み倒され、火を放たれ、煌々と燃えていた。時折、見覚えのある農夫が倒れているのが見える。

 だがユーリは決して止まらない。血塗れであった上に気配が死んでいたからだ。死者に構うよりはまずは生者。更にこみ上げる吐き気と蘇ってくる農作物をもらった良い記憶を押さえつけ、走る。


「見えた!」


 ようやく田園地帯を抜け村に入った。それと同時に建物を破壊する盗賊が2人見えた。ユーリは走りながら、崩れた小屋から木材を引き抜き、それを片方の盗賊に投げつけた。それで何とかなるとは思っていない。牽制だ。

 不意打ちに気がつけなかった片方の盗賊にそれは直撃。それによりユーリの存在に気がつくが遅れる。ユーリは新たに習得した戦技(バトルクラフト)を発動していた。


戦技(バトルクラフト)『瞬速閃』!!」


 戦技(バトルクラフト)が世界の理に従って、あらゆる法則を超越して、ユーリの身体を剣を加速させる。

 加速して、目にも止まらぬ速さで斬るだけの技だ。

 だが、それで十分だ。派手さなどいらない。いるのは確実に倒せる、殺すことのできる技だけだ。

 盗賊が気がついた時には既に遅く、彼の首は宙を舞っていた。木材を当てた方も、ユーリはそのまま勢いを殺さぬままに斬り伏せる。


「まずは2人。あと、18人!」


 人を殺した生々しく気持ちの悪い感覚に否応なく吐きそうになるがこらえてユーリは走る。今は、後悔なんてしている暇などないのだ。

 気配察知で盗賊の居場所を調べる。近くに逃げる複数人の村人の気配と追う3人の盗賊気配を感じた。


「急げよ!」


 盗賊が持っていた剣を奪うと、そちらに走る。馬に乗って、走っていたのは話したことのない村の女たちとニーナたち子供とそれをいたぶる盗賊が見えた瞬間には剣を投擲。

 それと同時に、もう1人にも剣を投擲。2本の剣が、一方的な蹂躙をしている中に、まさか剣が飛んでくるなんて予想できるはずもない盗賊2名の額に突き刺さり絶命させる。

 いきなりのことに困惑する残った盗賊とたち。決定的な隙。それをユーリは見逃さない。戦技(バトルクラフト)によって素早く近づき斬り伏せる。やはり吐きそうになるがこらえる。


「これで5人。あと15人」

「えっあ、兄ちゃん!?」

「ユーリさん!?」


 困惑から回復した逃げていた村人たちの中にいたニーナたち3人組が、盗賊を倒したのがユーリであることに気がついた。


「ああ、大丈夫か?」

「うん! 兄ちゃんのおかげでな!」

「そうか」


 特に一番よく知っていた3人と話していると、そこにここにいた一番の年長者であるシスターが話しかけてきた。

 そちらに意識を向ける。幸い、この割りかし大きなスニアの村中に広がった盗賊はこちらにはまだ来ていない。

 それに、盗賊ごときどうにでもなると思ってしまった。5人を楽勝に倒してしまったことによる油断だ。

 どうせ、盗賊だ、魔法なんて使える奴はいないだろう。イリスによって直接、頭にダウンロードされた魔法の知識がそれを言っている。弓だって気配察知で近づいてきたらわかる。

 だから、少し話しても大丈夫だと思ってしまった。少し調子に乗っていた、油断していたことをユーリはすぐに知ることになる。それは最悪の結果を以て、ユーリに突き付けられた。


「旅人さん、危ないところを助けていただきありがとうございます。これもトルレアス様のご加護ですね」

「礼は良いです。今すぐ逃げてください」

「はい。あの――えっ!? きゃあああああ」


 しかし、そのシスターが何か言おうとしていた言葉が悲鳴に変わる。シスターの体が突然火に包まれた。

 次の瞬間には子供。悲鳴が響く。

 炎の向こうに、杖を持った男が立っているのが見えた。気配察知にはひっかからなかった。どうしてと思うが、ニーナたちを焼いているのが、魔法だとすぐにわかった。

 ならば術者を殺せば魔法は終了する。

 咄嗟に近くで殺した盗賊のナイフを投擲。体を鍛えていない魔法使いにそれが避けられるわけがなく、ナイフはいとも簡単に魔法使いの眉間に突き刺さった。これで残りは14人。

 だが、時既に遅しであった。


「おい! しっかりしろ! おい、おい!」


 すぐに、倒れているニーナたちに声をかける。しかし声をかけた所で意味はない。見ただけでわかる。ニーナたちは真っ黒に炭化して燃え尽きていたのだから。話をしていたシスターも、ニーナたちも全員が死んでいた。

 守れなかった。助けられたはずだった。話なんてせずにさっさと村から出ていれば良かったのだ。それなのに油断した。少しなら、大丈夫、なんて楽観視した。ここは、戦場となんら変わらないのにだ。

 そのせいで、死んだ。戦闘中なんてわかっていたはずだった。なのに、守れなかった。救えなかった。ユーリの油断が招いた結果だった。

 救えるはずだった、守れるはずだった。それがユーリの心に重くのしかかり心を抉る。命のやり取りを知らない現代人にはそれは荷が重すぎる。この世界では常識的な出来事だ。

 だが、ユーリにとってはそれは常識ではない。覚悟していたはずなのだ。それでも、覚悟が足りなかった。圧倒的に覚悟が足りなかった。

 ふらついて慌てて体を支える。その時、見えてしまった。

 ユーリは燃え盛る屋根の下敷きになり、燃えるミレアの変わり果てた姿を、串刺しになった村人の姿を、そこら中に転がる村人の死体を見てしまった。

 救えなかった、守れなかった人。それらをユーリははっきりと見てしまった。もう、それはユーリの許容できる範囲を超えていた。


「あっ、ああああああああ――――!!!?」


 ユーリははっきりと感じた。自分の中で何かの糸が、切れた音がしたのを。自身の叫びと共に感じた。

 意識のたがが外れ、無意識と本能が、檻から解き放たれる。湧きあがるのは怒りだ。生涯感じたことのない怒りが、ユーリの体を支配した。

 そして、そこにいたのは、ユーリではないされど、誰よりも一番ユーリ(、、、)であった。


 ――常時発動技能(パッシブスキル)『狂戦士の資質』を取得しました――

 ――施された封印の第一段階が解除されました――

 ――技能(スキル)『我流剣術』が『篠宮流剣術』へと変化しました――

 ――技能(スキル)『我流体術』が『篠宮流体術』へと変化しました――

 ――常時発動技能(パッシブスキル)『施された刻印』が発現しました――

 ――能力が実力(レベル)に従って強化されるようになりました――

 ――常時発動技能『施された刻印』の効果により、他から与えられる一切の封印が効果を発揮しなくなりました――

 ――常時発動技能『封印無効』を発現しました――


 無感動なメッセージが表示されるが、ユーリは気にせずにフラリとダラリと剣を下げたまま立ち上がる。いつの間にか、彼の周囲には残り14人の盗賊が集まっていた。

 あれだけ声をあげていれば当たり前だ。一転して絶体絶命。

 だが、ユーリはうっすらと笑っていた。探す手間が省けたと。もう、考えることなどなにもない。ただ、怒りのままに全てを殺すだけだった。


『やっちまえ!』


 盗賊が一斉に飛びかかる。ユーリはふらふらとした動きで盗賊の剣や槍をかわしていく。だが、完璧ではなく、いくらかはもらい、傷付いてゆく。しかし致命傷は負わない。

 盗賊の1人が訝しむ。なぜ殺せないのかと。14対1だ。たった1人に6人も仲間がかやられたのは驚いたが、それでも14対1、戦力差は圧倒的。

 ならば瞬殺できなければおかしい。なのになぜいまだに目の前の男――ユーリは殺せないのか。

 それは簡単に言ってしまえば14対1だからだ。正確には14人が同時にユーリを殺そうとするため、それぞれがそれぞれの邪魔をしてしまっているのだ。

 その結果として未だに、数の有利があるというのに彼をを殺せずにいたのだ。

 ユーリにはそれがわかっていたので、利用して避けていたに過ぎない。それがわからない盗賊たちは不毛にもかかわらずユーリを狙い、失敗している。

 だが、そうであっても完全にかわすことなどできない。次第にユーリの体中に傷がついて行く。そして遂にユーリが膝をついた。

 これで終わりだと囲んでいる盗賊の誰もが思った。当然だ、囲んだ状態で膝をついたのだ、これから逆転なぞ普通誰も連想しないだろうし、想像もしないだろう。

 だが、ユーリはただただ何事もないかのようにうっすら笑ったままであった。不気味な程に。


戦技(バトルクラフト)篠宮流奥義(、、、、、)】『百花繚乱』」


 死刑宣告のように冷たく呟かれたユーリの一言。

 その瞬間、鈍色の軌跡の剣閃の暴風が、全てを切り裂き、薙払い、血の雨を降らせた。暴風がやんだ時に、立っていたのはただ1人であった。全身に血を浴びたユーリただ1人であった。

 辺り一面には地面に咲く、真っ赤な赤い華が咲いているだけだった。様々な花々が咲き乱れる百花繚乱の如く。

 戦闘を終えると一斉に実力(レベル)が上がった。実力(レベル)8から、実力(レベル)9、10、11……しばらく上がり続けた。実力(レベル)アップが止まったのは実力(レベル)38であった。

 一気に30も上がった。盗賊20人を殺して実力(レベル)30もアップしたのだ。

 それは別段不思議なことではない。30はさすがにないが、これくらいあがるのは戦場では珍しくない。なぜなら人を殺すからだ。

 人を殺すと、魔獣や魔物を殺すよりも遥かに実力(レベル)が上がりやすい。この世界の住人は殺した相手の神の加護を奪っているためと言うが、わかりやすくユーリの世界の言葉で説明すると、殺した相手が得ていた経験値のようなものがが丸々全て殺した者の経験値になるからだ。だからこそ人を殺すと実力(レベル)が上がり易いのである。

 ユーリが殺した盗賊20人の平均実力(レベル)は約3~12。数が多かったのが今回の実力(レベル)アップに繋がったのだ。

 とにかくこれで村を蹂躙していた盗賊の討伐は終わった。

 だが、ユーリはまだ止まらなかった。まるで空が悲しみの涙を流すように降り出した雨の中を盗賊の根城である砦に向かって走る。まだ終わりではない。まだ2人、砦に残っている。気配でわかる。

 ユーリは駆けた。何かにせき立てられるかの如く。何かに追われるが如く。ただただ本能のままに砦まで駆けた。どうしようもないこの怒りを何かにぶつけたくてしょうがなかった。

 言うなれば八つ当たりだ。そうしなければ、収まらないことを、収められないことをユーリは感じていた。

 砦の門は閉まっている。だがその程度の障害など、今のユーリには関係ない。


「……戦技(バトルクラフト)『斬り下ろし』」


 振り上げた剣を振り下ろす。美しい軌跡が描かれ、そして、門は真っ二つにこじ開けられる。土煙を超えたその先には2人の男女が立っていた。

 男の方は、全身を鋼のような筋肉に覆われた巨漢の男。髪や髭は血で染めた男――シグド。シグドは入って来たユーリを見て、ほう、という風に感心した様子。

 女の方は一見しただけでは少年と見まがうような、笑顔を浮かべた少女。髪は空の青で染めたかのように淡く青い。

 以前シグドにガキと呼ばれていた少女――キーリア。巨大な斧に背を預けるように立っていたキーリアはユーリが入って来た途端、待ってましたという風に獰猛に笑った。


********


 ヴェスバーナ暦1998年春期2月16日 真夜中 街道


 黒を基調とした、エストリア王国騎士団の紋章があしらわれた、にアレンジされた騎士服に身を包んだ幼児体型少女――カノンがスニアの村襲撃の知らせを聞いたのはスニアまであと1日という場所であった。野営中にグータニアの魔法ギルド支部から連絡があったのだ。

 連絡を受けたカノンはすぐさま野営を中止して出発した。雨の降りしきる闇夜の中を風の如く疾走する。その間も魔法ギルドから報告は続いていた。


「えっと、それでどうなんですか?」

『襲撃直前に大規模な魔力震をたぶん感知した。あの村には何か結界が張ってあってな。悪意があるやつは入れないような類いだろたぶん。魔力震はたぶんそれが破られたせいだな』

「えらくたぶんが多いんですね」


 魔法ギルドにいるサポート役の男からの魔法連絡を聞きながらカノンは言った。


『あの辺りはまだ色々と残っててわかりにくいんだ。あとやる気ないし』

「……そうですか」


 内心で溜め息を吐きつつ相槌を打つ。この臨時のパートナーは初めからこうだった。最初からやる気がない。

 会った当初こそ噛み付いたものだが、もう諦めた。今は文句を言わず状況を把握しつつ全速力で走る。


「村は?」

『全焼中。たぶん全滅だな』

「そうですか……」

『ただ、何か1人戦ってんのがいるな』

「冒険者ですか?」


 現状、騎士は派遣されていない。カノンにしても騎士団長の私事で向かっているのだから、関係はない。だから駐留している騎士もいないので戦っているのはそれ以外。

 一番可能性が高いのが冒険者だ。何かの依頼で偶然スニアの村に来ていた可能性が低いがある。それならば、走らなくても盗賊を倒してくれるかもしれない。

 カノンにしても、国民が殺されて心が痛まないわけではなかったが、こういったことはこの世界では日常茶飯事なのだ。いくら気にしたところでどうにもならない。

 ただ、それでカノン自身が納得できているかは別なのだが。10年以上の時をこの世界で過ごしたためか、少し、薄れて来ているようであった。


『いんや、わからん』

「そうですか……」


 顔にかかる雨と濡れた髪を払いながら、カノンはその何者かについて考える。盗賊と戦っているのならば敵ということはないだろう。問題はカノンが着くまでもってくれるかどうかだ。


『まあ、時間はないということだな』

「うぅ、やはり、急ぐしがないじゃないですかぁ~。もう、5日以上も走り続けっていうのにぃ~」


 そう、嘆くように呟きながらも足に一際力を入れてカノンは地を蹴り、降りしきる雨の中スニアの村を目指すのであった。


********


 ヴェスバーナ暦1998年春期2月16日 真夜中 上空


「ふ~ん、そういうことになるんだ」


 シックな服装に、自分は魔女だと自己主張するトンガリ帽子という格好の女――イリスが箒に腰掛けて直下の惨状を見て呟いた。その左肩からは血が流れているが、気にしている様子はない。あと、ちなみに雨が振っているが魔法でそれらはイリスには影響を及ぼさない。

 村は盗賊に蹂躙され燃え盛っている。だが、降りしきる雨のおかげで森にまで飛び火することもなく、早朝には燃え尽きていることだろう。証拠など何もでてくるはずがない。彼女が関与したという証拠は一切出てくるはずがない。


「まあ、でも、見ていてあまり気持ちの良いものじゃないわね。それにユーリんがああ、なっちゃってるし」


 少し悪いことしたな、と思うが、自分はやるべきことをやったのだから、少しだけだ。罪悪感などとうの昔に捨て去っている。それこそ1000年以上も前に。

 なので、今はそれ以上に肩の傷の方がどちらかと言えば優先順位が高い。乙女(?)の柔肌に傷があるのだ。残ったらどうするというのだろうか。誰が責任をとるのか。


「もう、あのクソジジイども、今度会えたら覚えてなさいよ。

 ……まあ、もう、会うこともないでしょうけどね。さて……次はどこかな……」


 そう冷たく呟くと、イリスは箒の上で立ち上がり、腕を振るう。その瞬間には、彼女は虚空へと消えた。


お読みいただきありがとうございます。


今は、これが私の精一杯です。

これからもがんばりたいと思います。


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