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第一章も10話目、遂に二桁ですよ。二桁。
こんな稚拙な作品にお付き合いいただきありがとうございます。これからも頑張ります!
では、どうぞ。
西暦2112年7月20日(金) 昼前 武灯学園学生寮。
はい、と言うわけでやって来ました学生寮。
しかし、学生寮とは言うが、見た目はもう完全に高級マンション以外の何物でもない。どれだけ金をかけているのだろうか。
いや、これだけ巨大な学園を作っている時点で金をどれだけかけているかなど問題ではないか。
そんなことはお構いなしで悠理はさっさと中に入り目的の人物の部屋へ向かおうとした。だが、目的の人物である後輩はエントランスで待ちかまえていた。
「あの、いらっしゃいませ?」
そう言うのは、はかなげな雰囲気を持った美少女。髪はセミロングの淡い空色の黒髪。瞳は薄く淡い空色をたたえた黒で少々ツリ目がちであるが、眉がたれ気味であるのでそこまでキツい印象を受けない。
彼女の名は一条絵梨。
悠理の後輩で所属は特別専攻1−D。専攻は文章力だったはずであるが悠理は良く知らない。
実は武力も専攻しており無手の使い手だったりするのだが、当然悠理は知らない。一応、1年の特別専攻生徒の中でもトップクラスの美少女。
「いや、なぜに疑問系?」
「い、いえ、一瞬本当に先輩かと思いまして……」
「はい?」
悠理は自分の体を見る。ついでに銀メッキの柱があったのでしっかり見てみる。ついでにペタペタとも触るが別段何時も通りに感じた。絵梨が何を言いたいのか彼は理解できない。絵梨も口下手な方なのでうまく説明できてないのもあるが。
「別に何時も通りだが?」
「いえ、先日見た時と、筋肉の付き方があまりにも変わっていたので……」
その言葉でだいたいの仮説が立った。悠理的には実感がないようであるが、異世界での設定と実力、技能などが元の世界でも適応されているのだろう。筋肉の付き方が変わっているのはそういうことだ。
だから絵梨は違いに気がついた。まあ、筋肉で人を判断できるとは、どこぞの委員長様なのだろうかと言いたい。
しかし、悠理にとってはこの事実は好都合である。実力と共に上昇した身体能力だけでもかなりのものなのだ。
これだけあればこちらではかなりのことができる。それが何か起きる前の早い段階でわかったのは僥倖で好都合だ。
こうなればその力を使ってみたいとも思う悠理。それに戦争はちょうど良い。人死にを気にしなくて良く、対人戦の訓練にもなる。乱戦や集団戦の訓練にもだ。参加したくないと思っていたが、急に参加したくなってきた。
まあ、とりあえずは絵梨に色々と話をしてからである。戦争は、種類と勝利条件により変わるが最低でも半日、日が暮れるまでは続く。彼女との話が終わってからでも遅くはない。
そう判断したので、事情を説明して異世界のことを話すために、2人は部屋へ向かうのであった。
********
一方。定刻の鐘の下、戦争は始まった。
戦場には白と黒が入り乱れ、互いに武器を打ち合っている。戦況は数の有利のある侵攻側の白制服に傾いていた。防衛戦だというのに既に乱戦なのがその証拠だ。
ライブのおかげで敵は減ってはいたが、未だ敵は3000はくだらない。
しかも、黒制服は数を減らされ1500名。そのほとんどが戦争初心者の1年生だ。よくもっていると感心する。
「予想外にライブに行った生徒が少ないですね。これは痛いですね」
葉水は呟く。最低でも半数は減らせると踏んでいただけに、減らせなかったことは計算外である。しかも、初期にこちらがこれほど減らされるのもだ。
確かに相手も半数近くまでは減らしたが、まだ相手の方が圧倒的に上なのだ。今はまだ何とかもっているが、今後は必ず戦況はもっと白制服軍に傾く。
「だが、ここで何とかするのが策士というもの……」
上げたメガネがキラリと輝く。何やらこの状況をひっくり返すことのできる策があるようだった。
「……小野寺君、何かありませんか」
「ん? ライブチケットの売り上げの計算をしていて聞いていなかった。もう一度言ってくれ」
こいつも聞いてなかった。本当に勝つ気あるのかこいつら。
しかし、見ている方からはそうは思えないが、こいつらなりに真面目であった。葉水の説明を聞く小野寺。その顔は売り上げ表に向いていた。
「――というわけです」
「なるほどわかった」
売り上げ表しか見ていない奴に何がわかったというのか。
「一般生徒を使う。金を撒き散らせばやって来るだろ」
「なるほど、ならば――」
『報告! 一般生徒が向かって来ました!!』
それで、とは言えなかった。入ってきた報告から、相手が同じ手をやったのがわかったからだ。
葉水は慌てるが小野寺は落ち着いて札束を数えている。緊張感ねえなこいつら。
「どうやら相手も同じ手で来たようだな。余程うちを潰したいようだ。
うちの総大将は誰だ? 変な奴ならすぐ終わるぞ」
やはり聞いてなかったのか小野寺が今更のように聞く。
「今、ライブ中と言えばわかりますか?」
「わかった」
黒制服軍の総大将はライブ中の立花霧夏と立花冬美。不利な今はナイスな選択と言える。敵の白制服軍の勝利条件は総大将を倒すか、黒制服軍を全滅させることだ。この場合は2人を倒すのが早い。しかし、それはできない。
もし、ライブ中に総大将である2人を倒す、または中断させようとしようものなら、 狂戦士たちによる聖戦が行われることになる。勝ったと思った瞬間には全滅しているだろう。
ライブを妨害されたファンの戦闘力は測定不能と言えるほど高い。大学のとある研究室が独自開発したスカウターなるものによれば、戦闘力五十三万越えだとか何とか。
そんなどこぞの冷えそうな宇宙人ばりの戦闘力を発揮するので、誰もそんなことはしない。というかできない。1度だけ、手を出した奴がいるのだが、一瞬で星になった。それ以降、誰も手を出さないのが、暗黙の了解となっている。
「なら、全滅しないようにすれば良いわけだ。しかし、一般生徒が加わった今、それも危ういと。ベスト記録更新の上で完膚無きまでに叩き潰す気満々だな」
「そういうことです」
「なら、あれしかないな」
「あれ?」
あれというか、勝つための方法を小野寺は告げる。
********
敵軍、白制服側本陣。
平原の端、裏が森という立地に作られた本陣の真ん中でふてぶてしく豪華な椅子に座った男。
慢心独裁者系、3年出席番号5番江藤真二。
一言で言えばナルシスト。自分に絶対的な自信を思っており、自分が常に一番だと信じて疑わない男。女は男よりも劣ると旧時代的な考え方を持っており、女は自分に無条件で跪くべきであると思っている。
自尊心と言う言葉をどこかに捨ててきた男であるため、アリアに自分の物になれと告白するも、即効で振られ、その逆恨みにアリアを徹底的に叩き潰すためにあらゆる根回しをした。逆恨みもよいところである。
むしろ、そんなことのためにここまでやる馬鹿である。本物のバカである。
「ふん、あちらも何かやるようだな」
「そのようですね」
相槌を打つのは従者のように江藤の斜め3歩後ろに立つモノクルの男。執事服を着たその姿は完璧に執事だ。名前はなくセバスチャンと呼ばれている。
執事としては最高の称号らしい。執事に称号あるんだとか言わないこと。世界執事協会なる組織で設定されているのだから仕方ない。
江藤付きの執事であると同時に作戦参謀なる役職を拝命している。本人はやる気はないらしいが。そもそも、学園の生徒でもないセバスチャンがそのような役職につけるわけもない。
一応拝命したから、そんな風な活動をしているように見せてはいるが、実際は他の人間に任せ。ここにいるのも、見学だ。何かあっても何もする気はない。
「まあ、おそらくはこちらの人数を潰しに来るだろうな」
「はい、おそらく」
「ならば、こちらはアレでいこう」
「はい、ではそのように」
江藤には相手が何をするかわかっているようであった。
本人に言えば、「我に愚民の考えがわからないとでも?」と言われるだろうくらいそれは当たり前のことである。
セバスチャンは気にしない。それよりも準備に入る。準備といっても、学生に頼むだけだ。相手が行うことはわかっている。
一般生徒、ひいてはこちらの軍、白制服の戦力を落としての総大将狙い。現状相手の戦力で勝てるのはこれくらいである。
自軍の戦力が殆ど男であることを考えれば何をするかはわかる。
相手のデータは全て把握済みであるために、それは手に取るように分かる。分かっていればその対策、または対抗手段など楽に決めることがきるというものだ。
まあ、それら全てを学生に伝えるわけもなく、適当に伝えるべきことだけ伝えて、あとは学生に任せることにした。
「さて、この戦、勝つは我だ」
「はい、そうですね」
しかし、この執事、殆ど了承しかしないな。
だが、この時2人は、相手を侮っていたことを後悔する。勝つためには何でもする人間がいることを2人は知らなかった。
********
一方の前線。
白黒入り乱れた戦場でアリアは向かって来る一般生徒(雑魚)を剣でなぎ倒していた。
面白いように一般生徒(雑魚)は吹き飛んでいく。そして、それを実行しているアリアの顔はイライラで鬼のような形相であった。というか、本当に鬼である。
「あーっもう! 雑魚が鬱陶しいですわっ!」
しかも、一般生徒(雑魚)に混じって、チクチクと白制服が攻撃して来るのが更にイライラを加速させていた。
攻撃して来た所に反撃しようとすれば、一般生徒(雑魚)の中に紛れて失敗する。それなりのダメージを喰らうが、我慢できない程ではない。
それが更に、更にアリアをイライラさせた。
「ええい!」
突っ込んできた一般生徒(雑魚)を吹き飛ばしつつ、その中にいる白制服を狙う。
そうしなければジリ貧だ。相手の位置は確認できないが攻撃してくる場所はわかる。死角だ。相手は常に死角から攻撃してくる。
つまり、死角を気にしていればいい。いずれそこに敵はやってくるのだ。後はそこに一撃を叩きこめば良い。
言うのは簡単だが、実行するのは難しいことをアリアは選択した。それは確実にそれができるという彼女の自信の現れであった。
あと、ついでにそろそろ限界という演技もしておく。こうしておけば必ず相手はトドメを刺しに来るだろう。黒制服の最高戦力はアリアなのだから、彼女さえ潰せばあとは戦争初心者あの1年生と3年生には及ばない2年生だけだ。
「もらったあああああああ!」
アリアの予想通りの行動をしてくれた特別専攻3年男子を愚かだと笑いつつ、馬鹿のように叫びながら死角から攻撃して来た男に、振る向くことなく剣を突き出す。
男の突っ込んでくる勢いのまま突きが入る。突きは男の腹に当たった。しかし、男の突っ込んでくる勢いが加わり、特別製の武器が与える痛みはかなりの物であった。
男が倒れる、アリアが振り返る。
「まったく、奇襲なのに大声出してどうするのです先輩?」
気絶している男に冷笑と侮蔑の言葉を浴びせるが、気を抜かない。
ここは戦場である。気を抜けばやられる。また、別の敵を倒してストレスを発散させるためアリアは駆け出す。
だが、すぐにその走りは止まった。走った時間は2秒にも見たなかった。
それは空から降ってきたあるもののせいであった。皆、特に男は一様に戦うのを止めて振ってきている何かを取ろうとしていた。
アリアは気になってそれを拾ってみてみた。酷く後悔することになるとは知らずに。
「な゛っ、なあああああ!?」
アリアの叫びが木霊した。
降り注いでいたのは写真であった。それがただの写真ならばアリアもここまで叫ぶことはなかっただろう。彼女は自分の容姿が良いことに自覚がある。学園内にファンクラブがあり、そこで写真が売り買いされていることも知っている。
といううより小野寺が売っているのだから知らないはずがない。売られている写真も、如何わしいものではなく普通の写真といういことも確認しているので黙認していた。
むしろ売り上げの一割が入ってくるのだから容認していた。だからこそ、普通の写真ならばまったく気にしない。
だが、今、バラまかれている写真はそういった許容できる写真ではなかった。在り体に言えば盗撮写真だ。それも、何一つ身にまとっていない裸の風呂に入っている写真だ。際どいところがモロに写った写真はないが、これはやりすぎである。
しかも、アリアだけでなく、全クラスの女子の写真であった。全て裸の。男たちは戦争をほっぽりだしてそれの回収にいそしんでいる。
気絶した奴まで復活して写真の奪い合いをしているのだから相当だ。さすがは思春期男子の性欲と言ったところか。
そして、こんなことをする、もしくは、こんな写真を持っていそうなのに心当たりがあった。
「あいつですわねえええええええええええええ!!!」
あいつ、エロバカ系出席番号3番牛崎牛雄。
妄想力、盗撮力専攻の学園女子の嫌われ者であり、男子たちからは神とまで崇め奉られているほどの男である。学園地下自治区では、信仰対象とまでなっていることが知られていた。
アリアはなんども彼を粛清しようとしたがいつも逃げ延びられ、何度も盗撮を警戒したにも関わらずやられている。
エロに関しては最強と言ってもよい男だ。言動も変態であり、その行動全てが変態な男。ただし童貞。むしろ、それに誇りを持ってすらいる。まさしく、男たちの神たる男であった。女の敵であるが。
「次あったら覚えておきなさいよおおおお!!」
そう言いながらアリアは写真を集めている男どもに突撃した。
もはや敵味方関係ない。写真を取る屑男、それが全て敵である。敵の女子もそうである。もはや戦争など関係なかった。
今までの戦争でここまでやった猛者はいない。この後もこの前の。歴史上稀に見る大珍事であったことは確かである。国際放送でこれが流されたりもしたので、もう色々とやばかったとだけ言っておこう。
しかし、実は意外に他国には好評だったらしい。特にイタリアやアメリカ、ギリシャなどの国々。不評だったのはドイツなどである。日本政府は気が気ではなかったが。
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「うま~く、行きましたね~ミーのおかげですねー。ミーのコレクションのおーかげで、皆さん救われたのでーす。
だから、みなさーん。ミーに感謝してもイイデスヨ~。むしろ、これで女の子にモテモテーデスネー」
黒制服軍本陣Ⅱ|(女子禁制)で牛崎が誇らしげにそんなバカなことを言っていた。
そんなわけあるわけないのに。彼は帰国子女であるため色々と感覚がぶっ壊れているのである。黙っていれば割りとイケメンなのに残念すぎると言われている。それでも、男子からは神とされているのである。
染めた金髪に白のワイシャツにパッツンパッツンの革のズボン。ワイシャツの胸ポケットには赤いバラをさしており、いかにもな感じがする。
というか変態臭しかしない。というかきもちわるい。気持ち悪いではなくきもちわるいのが肝である。それが牛崎である。
渾名は残念王子。またはエロ帝王、エロ神様、童帝などなど多彩。しかし、全てエロ系これでいいのか牛崎よ。
「そうだな。今オークション中だ。あとにしろ」
「オー、そんなあ、こと言わず、もっとエロくしまショウ」
何をエロくするつもりだと小野寺は鬱陶しげにしながら学内裏男子オークションに女子の写真(18禁)を出品していた。かなりの売り上げが期待できる。
それに相手の軍もほとんどを無力化したと言っても良い。もう戦争どころじゃないだろう。
あとは、葉水しだいである。彼は今電話しているが、その相手がうまくやるかどうかで、葉水がうまくそいつを説得できるからが鍵である。うまくやれば最速戦争終了記録を出せるだろう。
「だが、そううまくも行かないか」
オークションの画面を見ながら戦場を見る。そこには白制服軍本陣からでてくる新たな部隊の姿があった。
「だが、俺の勝ちだ」
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白制服本陣。
「リア充部隊行きました」
「ククク、そんなもの我に読めないはずがないだろう。ならば、それが効かない部隊を出せばいい。彼女持ちならば、問題はない」
「そうですね。あんなものに手を出せば彼女に殺されますからね」
特別専攻クラスの彼女持ちは命がけなのである。
なまじ武力を有している分、男が別の女の所になど言ったら最後、それが特別専攻クラスの女ならば決闘が行われ、一般生徒ならば、一方的な粛清。
そして、男にはどうなっても粛清である。男の方が強くても、なぜか粛清されてしまうのがこの学園の彼女持ちであった。女とは怖い生き物なのである。
しかし、そのおかげかこの部隊ならばもはや戦争状態ではない今、戦場を突っ切り相手を全滅させるのは容易だ。総大将を潰すのは最後だ。本陣を潰せばライブもやめなければならなくなる。そうなれば狂戦士による聖戦もない。これで終わりである。
「フッ、我の勝ちだ」
同時刻、同じ言葉が空へと響いた。
読んでいただきありがとうございます。
うん、超展開でしたね。軍隊戦の描写難しいです。描写てきとーにサボった結果がこれですよ。
というわけで、よろしければポイントや感想をお願いいたします。ポイントとか感想は作者のやる気に繋がります。
あとこんなキャラ出してという案があれば申して下さい。出すかもしれません。男女問いません。何でもござれ。
あと、すみませんが批評する場合はソフトにお願いします。作者が豆腐メンタルなので。
ハードな批評は死にたくなるので。すみません。
では、また次回も会えることを祈ってます。