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ホテルの向こうの異世界へ  作者: テイク
第1章旅の始まり編
11/94

1-7

更新です。

では、ごゆるりとお楽しみ下さい。


 ヴェスバーナ暦????年?期?月??日 ? 妖精郷


(さて、どれくらいかかるかな)


 イリスは瞑想を始めたユーリを見ながら考える。

 早ければ今日中にでも魔力を認識するだろう。並みの才能だったなら最低でも1週間。少なくとも1ヶ月。下手をすれば1年以上。

 どの道そこまでかかるようで、その程度の才能しかないのならば、いくら亡き友人の頼みであってもイリスは魔法を教えないつもりだった。その程度の才能しかないのであれば、使える魔法などたかが知れている。そんなものあったて器用貧乏にしかならない。ならば、別の何かを鍛えた方がいい。

 万能選手は、特化選手にはどうやったって勝てないのだ。オールラウンダーが悪いわけではないが、何か一つをするなら、特化していた方がいい。

 それに、これから重大な仕事が待っているのだ。こんなことで時間を無駄にするわけにはいかなかった。だが、出来ればそれの方が良いかもしれない、とも思ってもいた。

 しかし、イリスはおそらくそうはならないだろうと思っている。

 今のユーリは知らないが、イリスの記憶では、昔からなかなかに勘の鋭い子供だったのだ。才能もあった。鍛え上げれば何かを成し遂げるくらいはできるのではないかというほどに。

 なので、それほど時間はかからないと彼女は踏んでいた。


(まあ、そんなに時間はかからないでしょうね)


 そして、それが予想通りだったとイリスは知ることになる。瞑想をし始めてしばらく後にユーリ内部の魔力と周囲の魔力の流れがかわったからだ。


(……流れが変わったか)


 ユーリが瞑想を始めて――途中で休憩も挟んだが――約1時間。ユーリの中にある魔力の動きが変わった。無秩序に動き回るだけであった魔力に血が通ってゆく。

 認識し魔力を意識しているのとしていないのとでは魔力の流れは大きくことなる。

 流れが無秩序から秩序を持ったのならば魔力を認識し、それを意識した証拠だ。魔力を認識した本人は体の中心から血管、または神経に沿うかのように全身を隈無く流れる力を感じているだろう。

 認識するまでの所要時間約1時間。ここが通常よりも魔力が溢れている妖精郷であるということもあるだろうが早い方だ。それも人外レベルで。

 魔法を使うために生まれてきたとまで言われる魔女であるイリスの時とは比べ物にはならないが、人間の中では抜群に早いだろう。人間は成長しやすい上にその上限ははかりしれない。これからの成長も期待できるというものだ。

 これなら教えても構わないとイリスは思う。少々内心は複雑であるが約束は約束だ。魔女は約束を破らない。魔女にとって約束、すなわち契約とは、最も遵守すべき尊きものであるからだ。


(なら次に行きましょうか)


 イリスは次のステップに進むために魔力を高めた。


********


 ユーリは自身の中を隈無く流れる力を感じていた。

 それが魔力だと理解するのに、それ程時間はかからない。そうすると自身の周りに満ちる魔力にも気がつく。

 それはユーリの魔力とは違っていた。例えるなら無色の絵を描く前のキャンパスといったところだろう。


(で、あれはイリスか)


 次に感じたのは高まって行く澄み切った魔力。

 イリスの魔力だとすぐにわかった。ユーリの謂わば不純物の多い魔力と違い、研磨され洗練されて澄み切った純粋な魔力である。それが急速に高まるのを感じた。

 目を閉じているのにユーリにはイリスの動きや姿がよく視える。正確には魔力の動きがだが。

 だからこそユーリは咄嗟に横に体をズラすことができた。

 イリスの魔力が右手のリングに集まり魔法陣を作っていることがわかったからだ。何が来るかはわからなかったが、とにかく体をズラした。

 一瞬前までユーリの頭のあった位置を魔力の針が通り過ぎる。目を開けてみれば満足そうに笑みを浮かべるイリスの姿があった。


「合格。しっかり魔力は認識できたようね」

「イヤイヤイヤ! 合格、じゃねえよ! 避けれなかったらどうする!?」

「ちゃんとそこら辺は判断してるから大丈夫よ~。このイリスちゃんが間違うはずないから」


 その自信はどこから来るんだと思いつつも口にはしない。ユーリの現代で微妙に鍛えられ、異世界で洗練された勘が、それを口にしたら自分にとって不利益になると告げていたからだ。


「じゃあ、服着ていいわよ」

「喜んで!」


 何はともあれ服を着る許可が出たのでユーリは即行で泉から上がった。

 即行で旅人一式に着替えたユーリは冷たい水から上がって服を着た、あの何ともいえない安心感を感じつつ、軽くジャンプしたりして体の具合を確かめる。

 イリスの魔法を避けた時もそうだが、魔力を認識してないときよりも体が軽かったからだ。

 これは魔力の特性によるものだ。

 魔力自体には作用したものを強化するという特性があるのだ。ユーリの体が軽いという感覚は気のせいではない。

 自分自身の色に染まった固有の魔力によってユーリの身体能力が強化されているのだ。


「実際強化術なんて奴はそれを更に発展させたものね」

「なるほど、で、次は何をするんだ?」

「次はより高度な魔力のコントロールかしらね。ちょっと待ってね」


 イリスは自身の魔力を右手に流し集めていく。

 そしてただ集めただけのそれに明確な形を与える。魔力は球形へと変わる。魔力球だ。魔力球ができてからもイリスは絶えず魔力を球に集める。そんな魔力の流れがユーリにはわかった。


「魔力はこんな感じに形を与える事もできるわ。ただし――」


 イリスが魔力球に集めていた魔力の流れを絶つ。すぐさま綺麗な球形を保っていた魔力球は形を失い、魔力は霧散して辺りの、無色透明な魔力に溶けていった。


「――形を維持するには魔力を常に流して操作する必要がある」

「なるほど」

「で、ユーリんにやってもらうことだけど、とりあえず、はい、これ」


 そう言ってユーリがイリスから渡されたのは、日常、彼がよく見慣れたもの。木を丹念に削って作られた二本の棒。

 そう、箸だ。ユーリが渡されたのはまごうことなき日本の箸だった。

 そしてもう一つ。茶碗に入った、ほかほかと湯気を上げる白い食べ物。

 これもユーリが日常見慣れた、日本人ならば愛すべき、至高の食べ物、そう米、白米、御飯である。

 世界を和洋折衷にした効果が発揮されたようである。


「これは」

「それ、東方で使われてる、え~っとハシって道具とコメって食べ物よ。

 ユーリんには精密かつ高度な魔力コントロールを身に付けてもらうために、魔力だけでこれを持って一粒一粒食べてもらうわ」

「難易度高くないか?」


 イリスの口振りから言って、あまり箸はこの地方に出回っていない。

 宿屋での食事は全て木製のスプーンかフォークだけだったことからも予想できる。つまり箸の使い方を知らない。中身純粋日本人のユーリならばまだ良い、箸の使い方を知っている。

 しかし、箸の使い方を知らない人間には無理だ。

 しかもこれ自身の手でなく魔力で米を一粒一粒食べるのだ。自分の手でやるのも慣れてないと難しいのに、魔力でやるなど素人には無理ゲーにもほどがある。

 普通あって然るべきな工程を幾つかすっとばしたばかりに難易度が高い。実際かなりの工程をすっ飛ばしている。


「そりゃそうよ。幾つか工程すっとばしたから」


 イリスも認めた。


「おい」

「だって、最初からちまちまやってたら習得まで結構時間かかるのよ。長命種とかならともかくとして、時間は限られてるんだから、有効に使わないと。

 それにこれなら魔力コントロールに必要な全てのことを一度にできるわ。だから文句言わない。

 ルールとしては、自分自身の手足は使っちゃだめ、きちんとチャワンを持って食べること、ちゃんと手を作ること。じゃ、頑張れ」

「…………わかったよ」


 どの道やるしかないのである。

 ユーリは地面に座り、目の前の本の上に置かれた箸と白米のつがれた茶碗を見る。そして認識したばかりの魔力に意識を集中させ造形し操作しようとする。

 しかし、造形で手間取る。作るのは魔力の手だ。イメージは簡単。いつも見ている自身の手をイメージすれば良い。設定のおかげか魔力を動かすことはできた。

 だがそこから先は難しい。少しでも意識が偏ればすぐに形が歪む。真剣に集中してようやく右手というのが精一杯。左手を作ろうとして意識を外せば魔力はすぐに霧散した。

 ユーリはゲームなどの魔法使いがなぜ後衛職なのかを実感した。これほど集中してやっとなのだ。戦闘中など他のことを気にしながらやるなど絶対に無理だ。いや、この世界の実際はよくわからないが。

 それでも、何とかユーリが全体に満遍なく集中し、何とか両手を作り出すことができるようになったのは約1時間後であった。やはり、人外の才能だ。早い。

 しかし、それでようやくスタートライン。本番はこれからだ。

 だが、そこでユーリの魔力は切れた。魔力をあれだけ無駄に使えば枯渇するのは当たり前だ。

 全力でフルマラソンをやった直後に難しい方程式の証明をやらされたかのような動けないほどの疲労感と虚脱感がユーリを襲った。

 魔力が切れの影響だ。魔力が切れても死ぬことはないが、このユーリのように動けないほどの疲労感や虚脱感を感じる。戦闘でこうなれば致命的だ。動けないところを敵に命を奪われる。

 だからこそ、魔法を使う者は自身の魔力を把握し、コントロールする。ちなみに、この症状はまだ軽い方で、もっと魔力量が上がると、強制的に意識を失うことになる。そうなってしまえば、待っているのは死だけだ。


「クッ……はあ、はあ、はあ」

「まあ、始めはこんなかしらね。私の都合で悪いけど時間もないから。ちょっと魔法かけるわよ」


 イリスがそう言いながら右腕を振るう。

 一つの魔法円を中心に、それを取り囲むように幾つかの少し小さめの魔法円、そしてそれらを包み込んだ大魔法円という構成の魔法陣があらわれる。中心とそれを囲んだ魔法円には複雑な記号と模様、文字の魔法式が描かれていた。

 始めはイリスの指輪の前にあったそれはユーリの頭上に大きくなって現れ、彼の頭から足までを通過した。変化はすぐさま現れる。魔力が凄まじいスピードで回復を始めた。


「これは!?」

「魔力回復力を強化する魔法よ。今回のは多重魔法式による複合魔法陣って奴」


 専門用語ばかりでよくはわからなかったが、とりあえず上級魔法ということなのだろうとユーリは思うことにした。

 枯渇していた魔力はものの数分で全回復。魔力切れからくる疲労感と虚脱感もなくなった。凄まじいにもほどがある。しかもある程度効果が持続するとか。ヤバすぎでしょう。

 とにかく魔力の心配はなくなったので改めて課題にユーリは挑戦する。

 造形のコツは掴んだ。もとよりイメージするのは得意だ。あとは操作してやるだけだ。箸の使い方も茶碗の持ち方もわかっている。問題はない、今度はすぐに終わるだろう。そのはずだった。

「くそっ! またかよ!」


 カシャンっと茶碗の割れる音が響く。茶碗の破片が散乱する。その後、時間が巻き戻るように茶碗とご飯が元通りになった。


「10回目~。ほら、もっと集中~」


 イリスの退屈したような間延びした声が響く。ユーリは元に戻った茶碗との格闘を再開する。

 何が10回目かと言うとわかるだろうが茶碗が割れた回数だ。魔力のみで何も考えずに物を掴もうとすると力が強すぎて割れてしまう。それに気がついて何とかしようとして失敗した回数が10ということ。

 力加減をするのがかなり難しい。魔力の手の力を抜くには造形で使っている魔力量を下げることと、そのイメージが必要。イメージは良いが魔力量を下げるのが難しいのだ。魔力量を下げすぎれば造形を保っていられず、強過ぎれば力が強すぎる。その難しさにユーリは悪戦苦闘していた。

 だが、1時間も経てば大体わかって来た。人外の才能があってもまるっきり初めてのことはやはり難しいようである。そしてユーリはわかると楽しいようだ。楽しいと上達は早い。あれほど悪戦苦闘していたのに、コツさえわかれば簡単に持てた。


(持てたみたいね。でも、ハシを持つのが難しいんだから)


 ユーリを見ながらイリスが思う。

 実際、イリス自身もこれはやったことがある。というより彼女が修行時代に師匠にやらされた。その時苦戦したのが箸の使い方だ。箸の使い方はわかっていなければ使えない。

 あの独特の持ち方は此方の人間には難しい。唯一イリスが東方を尊敬したのが箸を使えることというほどなので相当だ。


(って、普通にハシ使えてるし……)


 だからここで躓くだろうとイリスは予想していた。だがその予想は裏切られる。ユーリは普通に箸を使っていた。ユーリは日本人だから当然なのだが、事情(そんなこと)を知らないイリスは驚いた。

 だが、何はともあれこの訓練は終了だ。これで魔力コントロールは大丈夫なはずである。あとは魔法式の知識と描き方である。

 これらをイリスはユーリの頭に直接入れ込む気であった。そうすれば手早く済む。これから仕事のあるイリスにとって好都合である。


「じゃあ、次、早速行くよ」

「休憩とかなしかよ」

「当たり前、というか次で最後だし」

「魔法の訓練ってこんなに短いものなのか?」

「んや、実際やれば多分10年以上はかかるんじゃないかな。極めるなら100年とまで言われてるし。今回は時間ないから凝縮したけど。10年以上やりたかった?」

「いや」


 そんなにユーリは気が長い方ではない。


「じゃあ、良いね」


 イリスが腕を振るうと魔法陣があらわれ彼女が始めに持って来た本が浮かび上がる。そして妖精郷に来た時と同じように、景色が引き伸ばされた。違うのは全てがブラックアウトしたことだ。視界が揺らめきユーリの意識もブラックアウトした。


「さて、がんばんなよユーリ。きっと苦労するから。私は昔みたいにあなたを助けてあげることはできないからね。どちらかと言えば……敵、かもしれないしね……」


 そんなイリスの言葉と流れ込んで来る何かを感じながら。


 ――技能(スキル)『魔法』を習得しました――

 ――技能(スキル)『魔法作成』が使えるようになりました――

 ――技能(スキル)『魔法作成』により自由に魔法を作成することができます――

 ――注意、使用技能(ユーズスキル)『魔法作成』を使用するには術具(マジックメモリ)が必要です――

 ――装備アクセサリー銀の指輪型術具(マジックメモリ)を手に入れました――

 ――装備アクセサリー銀の指輪型術具(マジックメモリ)が装備されました――

 ――この装備は魔女の祝福がついています――

 ――魔女の祝福により術具(マジックメモリ)魔法保有可能数が上昇しています――


********


「さて、眠ったか」


 イリスは、目の前で眠るユーリを見下ろす。無防備に寝てしまっている。まあ、寝かせたというのが正しい。情報を一気に書き込んだことによる反動を少しでも、和らげるという理由だ。それが全てではないが。


「とりあえず、ここにずっといるわけにもいかないわね~」


 妖精郷に長くいると精神や肉体に変化を及ぼすことがある。魔力の極端に高い人間や妖精に親和性のある他種族、魔女ならば問題はないが、今の弱いユーリには問題になりかねない。

 取り替え子(チェンジリング)が忌み嫌われているのはこれが理由だ。要は精神と肉体に何かしらの変化があり、人間の範疇を超えてしまったことが原因による迫害。人間は得てして理解できないモノを恐れる性質があるのだ。

 ユーリをそんなことにする気は毛頭ない。取り替え子は赤子だからまだよいのだ。それが、成人した人間となると、そうもいかない。確実に、何かが壊れる。壊れたユーリを見るのは忍びない。


「転移」


 なので、元の平原に戻しておく。メッセージを残し、結界を張る。

 これで、ユーリは世界一安全だ。魔女が張った結界なのだ。もはや、その中は別世界と言ってもよい。


「じゃあね、ユーリん。また、どこかで会いましょ。

 ……その時は、敵かもしれないけどね」


 イリスの体が掻き消えるように消えた。

 そこに、眠りユーリだけが残して。

読んでいただきありがとうございます。あと、ポイントやお気に入り登録などなどもしていただきありがとうございます。


図々しいと思いますが、よろしければポイントや感想をお願いいたします。ポイントと感想は作者の励みになりますゆえ。


あとこんなキャラ出してという案があれば感想に書いて下さい。出すかもしれません。男、女問いません。何でもござれ。ただ、思ってたキャラと違う、となる可能性はあります。設定が追加される可能性とかあります。

あ、男キャラなら言われたらいずれ絶対出します。作者は男キャラのレパートリーが少ないのです。


あと、すみませんが作者は豆腐メンタルなので批評はソフトにお願いします。


では、また次回も会えることを祈ってます。


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