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お待たせしました。
ポイントと感想ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
では続きをどうぞ。
ヴェスバーナ暦1998年春期2月14日 朝 スニアの村
翌朝、ユーリは呻き声を上げながら目を覚ました。昨日の疲れがあまり抜けていないのだ。今更ながらにユーリは張り切りすぎたことをかなり後悔した。少し考えが足らなかったとも反省する。
確かに実力は3から5も上がって8になった。
技能として『我流体術』や『投擲』、常時発動技能として『見切り』、『気配察知』を新たに覚えた。それにあわせて戦技も新しい物をいくつか覚えることができた。
またわかったこともある。魔獣や魔物と呼ばれる奴らは倒すと粒子となって消えアイテムを落とすことがあるが、普通の魔獣や魔物ではない、ただの動物などは倒しても消えないということがわかった。
アイテムも出ないので剥ぎ取る技術が必要になるだろうと思い、調べることに追加することになった。
だがそれでも反省しなければならない。下手をしたら怪我していたかもしれない。最悪死んでいたかもしれないのだ。
そのどちらもなかったユーリは運が良かったが、次もそうとは限らない。気をつけるべきだろう。
「予定通り平原に行きますかねっと……」
疲れの残る体を叱咤してユーリはミレアの作った朝食を食らい、子供三人組とその他大勢――いつの間にか増えてた子供。
昨日は何か仕事をしていたようである――を何とかかわして、平原へ続く道を歩く。周りには畑が広がっている。
何を育てているのか興味があったユーリが作物を見ようとしていると、ちょうど道端で休憩していた農夫に話しかけてきた。
がっしりとした体格の男だ。いかにもモブの農民ですと言った雰囲気がバリバリだ。失礼だが。
「おっ! 旅人のあんちゃんじゃないか」
「どうも」
「野菜に興味でもあんのか?」
「ええ、まあ」
「いいことじゃねえか!」
「何育ててるんですか?」
「ああ、こいつだよ」
男がユーリに赤い実を投げ渡す。ユーリはその実を受け取るとよく観察してみた。
見た目は完全にトマトである。しかし、匂いはトマトではない。甘いリンゴのような匂いがする。
「これは?」
「これはイオゾの実って言ってな。酒やらジュースやらに使う予定の実さ。食ってみな」
ユーリは言われた通り、皮も食べられるらしいので、皮ごとイオゾの実を良く拭いてから恐る恐る一口かじってみた。
その途端口内に広がったのはまごうことないリンゴの味だった。いや、リンゴ以上に瑞々しく甘い。食感はトマトだが、味はリンゴのような実であった。
なんとも不思議な食べ物である。まあ、固いリンゴ以外認めないユーリに取っては到底認められない食べ物ではあったし、あまり食べたくないものであったが。
「甘いですね。でも、これなら確かにジュースとかに加工しやすいでしょうね」
一応なんとかガマンして食べてから、本音を言うわけにもいかないのでそれなりの答えを無難に答えておく。建前というのは大事なことである。
「そうだろ、そうだろ。持っていきな。で、ヨソの街とかで宣伝してくれよ。これでうちの村は祭り以外特産品なしとか言わせねえぞ~はっはっは~」
うんうんと胸を張って誇らしげに頷く男。やはり自身の作物がほめられるのは嬉しいらしい。それで気をよくしたのか、20個以上のイオゾの実をユーリに押し付けて、豪快に笑いながら男は農作業に戻っていった。
その豪快さに苦笑しつつ、貰ったイオゾの実を魔法のポーチに仕舞って、歩くのを再開する。だが、先程の男に付き合ったせいか、畑ごとに呼び止められては野菜の自慢をされて、畑を通り過ぎる頃にはかなりの野菜を貰ってしまっていた。
また、貰う度にメッセージウィンドウが出てうざかった。そのため、設定であまりでないようにした。あとウィンドウはユーリにしか見えないようである。
しかし貰った殆どの野菜が、どんな料理に使ったらよいのかすらわからない良く言えば個性的、悪く言えば到底街では売れなさそうな野菜、あとユーリの琴線にまったく触れない駄野菜ばかりで、どうしろと言うんだ状態である。
「魔法のポーチがなかったらと思うとぞっとするな」
しかし、それのおかげで改めて魔法のポーチの便利さを実感した。なかったら持てなかったし、最終的は腐っていただろう。入れておけば腐らない上に重さも感じない魔法ポーチ様々である。
さて、そんなことよりユーリの前には見渡す限りの平原が広がっていた。草の身長は低く、風が吹くたびに、海の波のように揺れる。太陽に照らされて輝く緑の海がそこにあった。
魔獣さえいなければ、このままこの平原で昼寝でもしてみたいとユーリは思ったが、まばらに感じる魔獣の気配でそれを諦める。
「さて、今日はほどほどに頑張りますか!」
昨日のようにならないようにと宣言してから、鞘から剣を抜き放ち、そこら辺の小石を手に取ると、視界に入った黒い馬のような魔獣へと全力で投げつける。投げつけたと同時にユーリは剣片手に馬(仮)へと疾駆するのであった。
********
さて、ユーリが平原で魔獣と戯れている頃。
上空を飛ぶ影が一つ。普通、鳥かと思うがそれは鳥ではなかった。箒に腰掛けるように乗った魔女、または魔法使いと自己主張するトンガリ帽子を被った美女が飛んでいた。帽子には彼女の髪と青い紐で作られたシュッツァーが垂らされている。
そんな女は眼下に過ぎる変わり映えのしない景色を見下ろしながら懐かしそうに呟く。
「ん~こっちまで来たのは久し振りね~。まだ生きてるかしらあの人? それにどれだけあの子大きくなったかしらね。生意気になってないといいけど。
まあ、今回は、それが目的じゃないんだけどね。あのクソジジイ共め。これでいなかったらどうしてくれようか」
余裕のある大人のお姉さん、という風な声はすぐさま風に乗って消えてゆく。はためく髪を直したりしながら目的地を目指す。
「ん! この気配は?」
不意に下の平原から見知った気配を感じた女は飛行を停止し滞空。徐々に高度を下ろしていく。雲よりも下に来たくらいで、アッシュモーヴの瞳が平原で魔獣と戯れる黒髪の男――ユーリを捉えた。
「やっぱりだ。ふふ、行ってみましょ」
女はまっすぐにユーリのもとへ降りていった。
********
「これで終わりだ!」
犬型魔獣イーラハウンドを倒したユーリは上空からこちらに近付いてくる気配を感じ取った。
気配に敵意は感じなかったので、剣を振って血を払い剣を鞘に収める。そして、近付いてくる気配の方を見た。
視線の先にはまごうことない魔女が箒に乗って降りてきていた。
髪は甘く輝くようなストロベリーブロンドで内側に光が封じ込められたような鮮緑色の装飾品で二つに纏めておさげにしている。アッシュモーヴの瞳は、見れば引き込まれそうな魔性を持っていた。
出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる世の中の女が羨むこと間違いなしのスタイルで顔立ちも良い。魔性の女とは彼女のことを言うのだろうか。
声が聞こえるくらいに近づいてきたと思うと手を振って、飛び降りてくる。
「おーい、ユーリん!」
危なげなく着地した女はユーリの目の前にやってきた。親しげに話しかけてくる。
「久し振り、元気してた?」
さて、話しぶりからすれば知り合いのようなのであるがユーリには全く覚えがなかった。いや、覚えはないこともないような、やっぱりないようなそんな感じだ。
だが、記憶にはない。というわけでどう答えるべきか考えていたら女が言う。
「どうしたの? 私よ、私、まさか忘れたの?」
忘れる以前にまず記憶にない。一体何を言っているんだこの女はとユーリが思った所で、異世界での自分の設定について思い出した。その設定の繋がりがあるのだろう。ユーリと目の前の女には。
だが、それがわかったところで何も状況は変わらない。ユーリには設定によりユーリの過去や交友関係などが、異世界でどうなっているかなどまったくわからないのだ。
継続してどうするかと必死に考えていると、女が頭に手をおいて溜め息をついた。どうやら時間切れのようだ。三白眼になった女。明らかに呆れている。
「呆れた。確かに最近は全く会ってなかったけど、こんな美人魔女のイリスちゃんを忘れる、普通?」
「と言われましても」
「あー、まーた、他人行儀。何度も言ってるけど、普通にしていいのよ。
……まあ10年以上も前じゃ仕方ないか。あんな所に行ってたんだし。あいつのせいでね。でも、変わってないねユーリん」
ユーリん。イリスのユーリの呼び方である。可愛いでしょというのは彼女談。初めて聞いたユーリは多分あだ名なんだろうなと自己解釈をした。
とりあえずイリスとは知り合いということで行くことにした。下手に何か聞いてボロ出した挙げ句、敵対なんてことになったら目も当てられない。彼女の主観的に変わってないそうなので大丈夫そうだが。
また、味方は1人でも欲しかったからだ。言われた通り、勇気を振り絞って親しげに話すことにする。
「そうか?」
「そうよ。まあ、良いわ。ここにいるってことはあの人は亡くなったわけよね?」
あの人が誰だかユーリは知らないがとりあえず頷いておいた。おそらく設定の隠者だろうと思ったからだ。
「そっか、で外に出たわけね。ん~なら、あの約束を果たさないといけないわね」
「約束?」
「そう、ユーリんが外に出ることになったら魔法を教えるってね」
魔法! と内心キター! とテンションが上がるユーリ。ファンタジー世界に来たら定番の魔法。使いたいと思っていたが、使い方がわからず放置していたがようやく使えると、マジに喜んでいた。
「まずは魔法の基本的な説明からした方が良いかな。あの人教えてないだろうし。あ~でもここじゃ無理か。ちょっと移動、するかな」
イリスが髪留めの装飾品と同じ色のリングをつけた右腕を振る。ユーリは何かに引っ張られる感覚を感じた。そして感じた瞬間には、周りの景色が引き伸ばされ、変わっていた。
そこは幻想的な光の粒子が舞い、穏やかな光が支配する青の森の中。目の前には鮮青色の泉があり、地面はみずみずしい芝の絨毯に覆われていた。
「ここは!?」
「ここは妖精郷よ。まあ、正確には私の個人工房みたいな場所だけど。さって、ちょっと準備するから待ってて」
イリスはそう言うとどこかへ行った。ユーリは座って待つ。色々見て回りたい気もするのだが、何かあったらヤバいだろうと思い自重した。
ユーリがイリスを待っている間に、妖精郷について説明しておこう。
妖精郷。
その名の通り妖精族の住まう世界のどこかにある隔絶された世界だ。
曰わく、「そこはこの世とは思えないほど美しい」。
曰わく、「そこはこの世の叡智がおさめられた場所である」。
曰わく、「そこに至った者は世界を支配できる」
曰わく、曰わく、曰わく。
数多くの言い伝えが存在する幻の大地である。簡単に言えばとてつもなく凄い場所ということだ。
「お待たせ、ユーリん♪」
そこに4冊の本を抱えたイリスが戻って来る。彼女は4冊の本を地面に置くと、ユーリの隣に当然のように座った。先程と違いメガネをかけていた。幾分知的に見える。
「じゃあ、魔法について説明するわ」
「ああ」
ユーリは一言一句、一言も聞き逃すまいと真剣に聞き耳をたてた。
魔法。
魔法とはこの世界の、一部例外である反魔法金属である鉛を除いた、ありとあらゆるものが持っている魔力と呼ばれる力を消費して、ただの常人には不可能な様々な現象を引き起こす術である。極めるのに才能がいるため使えるものはあまりいない。
魔法を使うには予め使う魔法の魔法陣を術具に入力する必要がある。そしてその術具に魔力を通すことにより魔法の設計図である魔法陣に魔力が流れ、設計図通りに魔法が発動する。
魔法陣。
魔法陣とは魔法円と呼ばれる基本となる型の中に、魔法式と呼ばれる魔法陣の材料を組み合わせたもの。魔法を使うためには必要なものだ。
作った本人が魔力を流さなければ効果を発揮しない。強く効果の高い魔法ほど、使う魔力は多くなり魔法陣を組むのも難しくなる。
魔法陣に組み込める魔法式は大きく分けて様々。
放出、展開、造形、付与、召喚などの魔法様式。
弾丸、槍、剣などの魔法の形状。
火、水、風、土などの魔法属性。
強化、睡眠、麻痺などの魔法効果。
その他、魔法効果範囲、魔法発動条件、魔法継続時間などだ。
これらを使ったり使わなかったり、色々組み合わせて魔法陣を作り出すことにより魔法を生み出す。その為、同じ魔法でも個人により若干異なる場合がある。
魔法使い同士の戦いは魔法陣の読み合いが基本となる。相手が展開した魔法陣を読みとり、逆算し、相手に有効な魔法を発動しようとする。それを見た相手が、更に魔法を変えてくる。また読み取りそれに合わせて魔法を組み替える。
熟練の魔法使い同士の戦いは、魔法の応酬にはならない。魔法の読みあいになり、相手に防がれえない魔法を出すことが勝負となる。真の魔法使いの戦いは魔法を発動しない戦いになる。
「――とまあ、こんな感じかしらね」
「なるほど」
なかなか面白いとユーリは思った。
魔法式の組み合わせによってかなりのバリエーションが作れそうである。こういった組み合わせを考えるのはユーリは大好きだ。
予定の決まっていない明日はこれに一日かけても良いかもしれないと考えた。
「さて、じゃあ、魔法の事がわかった所で魔力を感知できるようにしないとね。魔力が扱えないとできるもんもできないしね。
まずは……動かないでよ。【浄化】!」
イリスの右腕にはまっている術具である指輪に小さな魔法陣が現れた。
それはすぐに大きくなり、ユーリの頭上に現れる。それは徐々に下りてきて、ユーリを通過していく。
動くなと言われたユーリは魔法陣が通り抜けるくすぐったい感じに耐えながら、何とか動かないでいた。
魔法陣はユーリを通過すると消える。体を確認するが特に何かが変わったようには感じられなかった。
「ユーリんの体と服を浄化したのよ。たぶんかつてないほど綺麗になってるわ。
で、次だけど、服脱いで。全部ね」
「え!?」
「魔力伝導率の弱いそんな服は今は邪魔にしかならないから」
「いや、でも、色々問題が……」
ユーリの主観で今日初めて会った女の前で全裸になるとか、彼には無理である。イリスの主観的に問題ないとしても気にするのがユーリだ。
「別に私は気にしないから、何か問題ある? 魔法使いたいんでしょ?」
そう言われるとやるしかなかった。ユーリは一瞬逡巡してから、どうにでもなれ! と服を――勿論、下着も含めて――脱いだ。こうしてユーリの魔法訓練は全裸から始まった。
服を脱ぎ捨て生まれたままの姿になったユーリ。意外に筋肉質でなかなかに良い体つきをしている。戦闘によって鍛えられているため日本にいた時よりもスラリとしていていた。
とりあえずユーリはもう隠す気はなく開き直っている。
「じゃあ、ゆっくり泉の中に入って、中心で瞑想」
「それで魔力がわかるのか?」
「やればわかる。そして、わかったなら服着ていいわよ」
「わかった」
ということで泉に入る。予想通り泉の水はひんやりとしていて、さらりと体に纏わりついてくる。しかし、不快感はなくむしろ気持ちがよい。ゆっくりと泉の中心に行き、とりあえず胡座をかいて目を閉じる。何かを感じるということなので、集中して心地の良い闇の中へ入っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
できれば、ポイントや感想をお願いいたします。ポイントは執筆の励みになります。感想は作者の成長に繋がります。
あとこんなキャラ出してという案があれば申して下さい。折を見て出すかもしれません。
男女は問いません。何でもござれ。
豆腐メンタルなので批評はソフトにお願いします。すみません。
では、また次回も会えることを祈ってます。
では(・∀・)ノシ。