美しき思い出
紅葉がある展望台までは坂道が続くが、道はきちんと整備されているため大変というわけではない。
しかし玲子には以前より登ることが体力的につらく思え、長い時の空白を身を持って感じた。
山道を登りきって展望台に着くと、ひとまず疲れた体を休めるために屋根のあるベンチに座った。
「山登るの、結構きついね。小学生のときとかそれほどでもなかったのに」
「あたしはクラブやってるから、そんなにかな」
そんな会話をして一息ついてから、二人で上を見上げた。
そこには玲子がもう見ることが出来ないと思っていたあの紅葉が、見事に色づいた葉を空に向かって広げていた。
空はもうすでに日が傾き、紅葉と張り合っているように一層朱く輝いていた。
2人は暫くあまりの綺麗さに目を奪われていて、息をするのも忘れていたが、いち早く無言の世界から戻って来た麻奈美がため息を漏らしながら呟いた。
「……きれい」
それに反応するように玲子は目を閉じた。それでもなお、瞼の裏にありありと浮かび上がってくる、神々しいまでの紅葉。
小学生の頃から毎年見ていたはずのこの紅葉が、今まで見たことのないほど美しくそびえ立っている。何年か来ないうちに成長したのだろうか。否、見ただけでも数十年はここにあるだろうと推測できる大木である。いまさら成長などしないだろう。とするとやはり、玲子自身の気の持ち方によるものではないかと玲子は思う。
あの頃は毎年来ていた。この紅葉の本当の美しさにも気付かない程に。
それは2人の間のおまじないのようなものだった。あるいは儀式だろうか。紅葉を見る事が目的というよりは、2人の仲の良さや絆といったものを確かめるためのものであった。
だから、見に行く暇がなくなっても、心の奥では問題がないと思っていたのかもしれない。その頃にはもう確かめる必要もないほど、自分達は親友だとお互い自負していた。
ただそれと同時に遊ぶ時間さえ減っていった。それらの事実が積み重なって玲子の心を不安定にさせ、今回の出来事に繋がったのだろう。
これが、最後。麻奈美と正面から向き合わねば。
「………紅葉ってこんなに綺麗だったんだね……」
麻奈美との別れが迫っていると思うと、自然と口が重くなった。
「私は最近、麻奈美と遊ぶことがなくなって不安だったんだと思う」
麻奈美が玲子の方に顔を向けた。
玲子は勇気を振り絞って話を続けた。
「お互いがもう仲良しじゃなくなっちゃうみたいで……」
「そんなこと……」
麻奈美はここにきて初めて口を開いたが、どう続けるべきか量りかねるように開いた口を再びつぐんでしまった。
「麻奈美、聞いて。だから私は今日どうしてもここに来たかった。麻奈美と紅葉を見たかったの。……今までは、また来年も来れるからと思って真剣にこの日を過ごしてなかったんだ」
「…………」
麻奈美は今の玲子の口ぶりに何か引っ掛かるものを感じたが、あえて口には出さなかった。
「だけどもうこれが最後だと思って、今日を、麻奈美と過ごす時間を大切にしたい」
「大袈裟だよ。本当に最後ってわけじゃないんだし。来年はあたしも頑張って時間を作るよ。…………それとも、玲子どこかに行っちゃうの?」
麻奈美は心の中で感じていたもやもやを意を決して、しかしあえて曖昧に聞いてみた。玲子はそれに困ったような笑みで返した。
それを見た麻奈美は、胸に嫌な予感が広がるのを感じた。
ありがとうございました。
ラストスパートだぜ!




