終わりの予感
学校帰り、玲子が通学路を歩いていて、あたしはそれを後ろについていきながら見ている。あたしは玲子に話しかけるでもなく、彼女の後ろをただただ歩いている。
しかしさっきから感じるこの違和感は、毎日部活のあるあたしが彼女と同じ時間に帰路に着いているからだろうか。それともすぐ後ろを歩いているにも関わらず、玲子があたしに全く気付く様子がないからか。いや彼女どころか周囲にいる他の人達すら、あたしを見向きもしない。まるで見えていないかのように。その孤独感に、急に胸騒ぎを覚えた。
玲子が交差点の赤信号の前で立ち止まった。彼女は少し俯きがちでどこか上の空といった感じだった。何か悩み事でもあるのだろうか。あたしはいつも一緒にいたのに少しも気付けなかったのか――。
歩道の信号が青になった。だが急いでいるのか、なおも無理矢理赤信号を走って来る車がいる。危ないなあ、もう。
視線を前に向けると、車が走ってきているというのに玲子が横断歩道を渡ろうとしていた。あたしは慌てて駆け寄ろうとしたのに体が動かない。それならと叫ぼうとするが、声すらも出なかった。玲子は先程から心ここに在らずといった様子で全く気付いていない。
車は容赦なく玲子に迫ってくる。
「玲子ぉっ―――!!」
玲子が今にも車と接触しようとした瞬間、麻奈美は目を覚ました。目尻にはうっすらと涙が浮かび、体中が汗びっしょりだった。心臓がバクバクと激しく脈打っている。
「…………夢か」
なんて心臓に悪い夢を見てしまったのだろう。とても不吉だ。夢でよかったと心から思う。しかし麻奈美は何か嫌な違和感を感じた。
玲子とは今日遊ぶ約束をしているし、彼女の身に何かあったのなら既に連絡が入っているはずである。
それでも麻奈美は一抹の不安を抱きながら、仕度をするためにベットの中からはい出たのだった。
気付くと私は自分の家と麻奈美の家の近所にある公園で、麻奈美を待っていた。
どういう仕組みなのかは知らないが、遊びに行く準備は既に万端な状態だった。その事実に心底感心しながら、逆に現実離れしたその体験が、自分は死んだのだと、麻奈美と会えるのは本当に最後なのだと私によりいっそう痛感させた。
何も変わらない近所の町並み、何も変わらない遊んでいる子供達の賑やかな笑い声、そして何も変わらない今の自分の体と変わってしまった状況。それら全てが今の私に悲しみと恐怖と罪悪感を与えていた。
そういえば気が付いたときにはもうここにいたが、麻奈美にはどうやって遊ぶ約束を取り付けたのだろう。ちゃんと来るのだろうか。
『それはきみのしんゆうがねているあいだにちょっとね』
「へっ!?」
今、確かによく知る声が聞こえた気がして、私は周囲をきょろきょろ見回した。しかし周りには公園で遊ぶ子供達しかいる様子がない。首を捻っていると再び聞こえた。
『いったじゃん、みまもってるって。レイコにはわからないところからシグレとようすをうかがってるんだ』
「あ………そうなんですか……」
『うん。マナミにはじゅうじにそこにくるようにいってあるからね。おもうぞんぶんあそんでおいでよ』
言われて腕に着けられていた時計を見ると、10時になるちょうど5分前だった。
『あ、きたみたいだよ。それじゃ、がんばってね』
遠くから親友が駆けてくるのが見えた。
「ごめーん。待った?」
「ううん。全然大丈夫!」
麻奈美はいつもと何も変わらない。ここは本来私が死んだ後の世界だけど、時雨さんが言っていたように彼女は私の事故のことは知らないのだろう。何かおかしいと感づかれるような言動は慎まなければならない。
「………よかった。やっぱりただの夢だよね」
「え?今なんて?」
「なんでもないよー。どこ行こっか?」
「そーだねえ……」
心に引っ掛かっていることはあるものの、そんな思考は一先ず頭の隅に追いやって、歩きながら私達はこれからどうしようか話し合ったのだった。
バスに乗って少し行ったところにある小さなショッピングセンターで暫くは遊んだ。中にあるゲームセンターでプリクラを撮ったり洋服を見てまわったり。フードコートで軽くお昼ご飯を食べているとき、ついに玲子は切り出した。
「ねえ……後でさ、あの山の紅葉見に行こうよ」
「ああ、そういえばここしばらく行ってなかったね。もうそんな時期かー」
麻奈美は一度天井を仰いだあと、玲子と目を合わせた。
「それじゃあ今から行こうか」
その後すぐに二人とも食べ終わり、行きと同じくバスで帰った。バス停に到着すると、そこからは歩いて目当ての山に向かった。
まだ幼かった玲子たちが毎年紅葉を見に行っていたあの山へ。
ありがとうございました。
もっと物語構成能力がほしいなあ。




