救いの手
玲子が泣きそうになるのを堪えていると、一度シロと顔を見合わせた後時雨が話し出した。
「いや…、この店に来店した客であるお前の悩みを出来るだけ楽にしてやるのが俺の仕事だ。玲子、お前に1日だけ時間をやる。それを使ってその親友とやらに別れを済ませて来い」
玲子は耳を疑った。彼女はもう二度と麻奈美と遊べないのかと彼らに問いはしたが、本心では完全に諦めていて期待などしていなかった。
「そ、そんなのどうやって……」
「ぼくらにはできるんだ。ときをあやつれる。あたえてあげられるじかんはかぎられているけどね」
なんて非現実的なのだろう。そもそも今の玲子の存在自体が現実的とは言い難いのだが。死者の悩みを聞くと言っても、カウンセリングのようなことをするのだと思っていた。
玲子は死期間近の人々がこの店に引き寄せられる理由がほんの少しだけ、わかった気がした。
この店は、ここの人達は、死してなお心残りを持つ自分に救いの手を差し延べてくれる。
「俺達がお前に与える1日の間は他の人間にもお前のことが見えるし話せる。死ぬ前と何も変わんねー状態だ。ただし向こうにはお前が死んだことは一時的に忘れてもらってるからくれぐれも気をつけろよ。ぼろを出して相手に違和感を感じさせるんじゃねーぜ。ばれるからな」
「もとに戻るにはどうすればいいんですか?」
「そのときがくればしぜんにもとにもどるさ。きみはこころおきなくじょうぶつできるようにきみのともだちとおわかれをしてくるだけでいいんだよ」
ついに麻奈美と今生の別れになるのだ。それなりの覚悟をしていかねばならない。
もしこの店を見つけていなかったら、心残りがあるまま成仏していたかもしれない。いや、成仏すら出来ていなかったかもしれないだろう。玲子はここに来れたことをとても幸運に思った。
「それじゃ、心の準備はいいか?」
「えっ、もしかして今からですか?」
「当たり前だ。ぐずぐずしてたってどうしようもねーだろ。第一、他にすることがない。」
言われてみればその通りだ。玲子はおとなしく腹を括ることにした。
深く、ゆっくりと深呼吸をする。
「よし、送るぞ。」
時雨は指をぱちんと一回鳴らした。すると店にあるたくさんの時計たちが一斉に、しかし速度はばらばらに回りだした。と同時に、玲子の体がだんだん淡い光に包まれていく。それはまるで内側から温かくなっていくような、不思議な感覚だった。
彼女が光に包まれたまま、みるみるうちに薄くなってついに消えてしまう直前に、シロは言った。
「ぼくたちもどこかでみまもっているからね。いってらっしゃい」
玲子はその言葉に勇気をもらい、すっきりした表情で最後の一日に旅立っていった。
店の窓から覗く空は、さっきまでの雨が嘘のように青く広々と澄み渡っていた。
やはり短くなってしまいました。
すみません。
ありがとうございました。




