突然の不幸
次の日の午前最後の授業で、子守唄と言っても過言ではない先生の話を聞きながら、私は欠伸をかみ殺した。
ふと窓の外に目を向ける。今の季節は秋。校舎の3階にある私の教室からは、ほんのり色づき始めた校庭の木々がよく見渡せた。毎朝下駄箱からの遠さを恨めしく思ってはいても、この窓から見える景色は結構好きだったりする。
紅くはなってきているが、まだ見頃とはいえない木々をぼんやりと眺めていた私の脳裏に、幼い頃から親友と毎年見ていた、枝を大きく広げる色鮮やかな紅葉が浮かんだ。
そういえば、中学の途中くらいからだろうか、2人共忙しくて見に行かなくなってしまっていた。今度誘ってみようかな。そんなことを考え、私は再び眠くなるような授業に耳を傾けながら、なかなか進まない時計の針を気にするのだった。
昼休みには毎日、親友の麻奈美と2人で弁当を食べていた。今日もいつもと同じように、授業が終わった後彼女が私の席にやって来て、前の机を私と向かい合わせになるように移動する。
麻奈美とは小学生の頃から仲が良く、小・中・高とずっと同じ学校に通っている。小学校一年生の時に、私たちが住んでいる町の近くにある山に遊びに行った。その山は比較的小さな山で、道が舗装されていて遊歩道のようになっており、子供でも登るのは難しくなかった。そのため、近所の小学生たちにとって、絶好の遊び場となっていたのである。
登り切った先には、休憩できるように屋根の着いたベンチがあり、そばに一本の大きな紅葉の木が立っている。その紅葉を毎年2人で見に行くのが、私の毎年の楽しみだった。とはいえ最近はもう行かなくなってしまったのだけど。
「さっきの授業、すごく眠かったあ。危うくシャーペン落としそうになっちゃったし」
弁当を食べながらたわいもない話をしていたとき、私は意を決して尋ねてみた。
「そういえばさ、麻奈美は土日ひま?」
すると彼女は暫く考える風にして言った。
「ごめーん!土曜も日曜も部活があるんだよね」
彼女はバレー部に所属している。この学校のバレー部は練習が厳しいことで地元では少し有名だった。休日も練習があって忙しいのだろう。
「…そっか、しょうがないね」
「ほんとごめんねー」
「いやこっちこそ忙しいのにごめんね。久しぶりに遊びたいなーと思っただけだから」
そういえば、今までもこんな感じで行かなくなってたんだっけ。でも仕方がない。小学生の頃と違って遊ぶ暇がなくなっちゃってるのは確かだし。もうあの頃みたいに麻奈美と紅葉を見ることはないのだろうか。そう考えると少し寂しかった。
そんな気持ちを隠すかのように、私は再び弁当を食べながら世間話に花を咲かせるのだった。その頃空は幾重にも重なった暗雲が太陽の光を遮り、辺りを少し薄暗くしていた。
その日の放課後も玲子は佐藤時計店に向かっていた。しかしあの紅葉のことを思い出したからか、いつもよりも気分が沈み考え込んでいたので、他の下校している生徒や道を走る車の音も耳に入りづらくなっていた。
もう二度とあの紅葉を見に行くことはなくなるのだろうか。もういっそのこと1人で見に行ってしまおうか、いやいつかきっとまた2人で見に行けるはず。
そんなことを考えながらとぼとぼ歩いて、あの細道の手前の交差点まで来た。
さっきも言ったように、玲子は深く考え込んでいたため周りの音が聞こえなくなっているに相違なかった。だから彼女は確かに歩道の信号が青になってから歩き出したのだが、赤信号にも関わらず突っ込んでくる車に気がつかなかったのだ。
プアアァァァァァ――――
けたたましい車のクラクションの音が聞こえたのを最後に、玲子は意識を手放した。
どこか遠くの空で一筋の稲光が走った。
ありがとうございました。
ショートストーリーになる予定です。
更新遅くなってすみません。




