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白黒冒険譚  作者: 夕日影
7/13

White1.白の所在

 目が覚めた時、姉の声と笑顔はなかった。

 その代わり、いつもよりふかふかなベッドと真っ白な部屋があった。


 ……確か、俺はいつものように黒乃や友人達と学校に向かっていたはずだ。

 それなのに目を覚ませば、見知らぬ部屋。……ここは、一体どこだろう?


 まだ少しボーっとする頭で、必死にここがどこかを考えていると……突然ノックの音がしたかと思えば、扉が開く音がした。

 驚いて振り返ると、そこには黒髪の背の高い青年がいた。


「おや、お目覚めでしたか。これは失礼しました」


 青年は微笑みもせず、感情の篭っていない謝罪と、完璧なまでのお辞儀をした。

 ……だけど、今の俺にはそんなことは気にならない。

 俺は、突然現れた見知らぬ青年にただ驚くだけだ。


「あ、あの……」

「どうなされました?」

「……すみません、どちら様ですか?」


 ようやく、少しだけ落ち着きを取り戻した俺は青年に尋ねる。

 青年は「ああ」とだけ言うと、そのまま表情を変えず淡々とした口調で言った。


「私はフレンツァ王国国王様に仕えております、ギュスターヴと申します」

「……白斗、です」


 目の前の青年……ギュスターヴさんは「ハクト様ですか、良い名ですね」と、相変わらず感情の篭らない声で言うと、再び完璧なまでのお辞儀と共に口を開く。


「ではハクト様、目覚めたばかりのところ大変申し訳ないのですが――今すぐに、国王様に会っていただきたいのですが」


「――え?」


***

「こちらです、どうぞ」

「あ……はい」


 あの後、状況がまるで理解できていない俺にギュスターヴさんは「では早速」と言って、半ば無理やり俺を【謁見の間】とやらに連れてきた。

 どうやら【国王様】という人物はここにいるらしい。


 …………

 どうしよう、改めて意識すると緊張してきた。


「ハクト様、どうぞお入りください」

「は、はいっ」


 ギュスターヴさんに促され、俺は豪華な扉を通って謁見の間へと足を踏み入れた。


 真っ白で広く、天井の高い部屋の――一番奥に、その人はいた。


 無造作に下ろされた金色の髪が光に照らされ、きらきらと光っている。

 金色の睫毛に縁取られた瞳はよく晴れた空のような青で、吊り上げられ少しキツめの印象を感じるが、何故か彼女にとてもよく似合っており、マイナスの印象を感じることはない。

 まぁ、つまり、俺が何を言いたいのかというと――……


「きれい、だ……」


 ということ。


 俺の呟きが聞こえたのか、目の前の女性は一瞬驚いたような表情を見せた後、

「……っく、あはははははは!」

 と、笑い出したのだった。……見た目に似合わず、豪快な笑い方だ。


「え、えと、あの……」

「ああ、よい。気にするな……っくく、まったくおもしろい奴だ。私を目の前にして「きれい」などとは」

「え、だって本当にきれいだったから……」

「まだ言うか。私を目の前にして大概の人間は「怖い」「恐ろしい」「本当に人間なのか」だぞ? そんなことを言ったのはお前が初めてだ」


 目の前の女性は中々笑いが収まらないのか、まだ口元を押さえながら肩を震わせている。……笑いすぎだろう。


「ああ、そうだ。名前を言うのを忘れていた。私はフレンツァ王国第二十一代目国王ベルナデット・フレンツァ・ベルティエだ。お前は?」

「白斗……灰澤 白斗です」

「ふむ、不思議な響きだな。これも異世界から来たからか」

「え?」


 異世界? 何のことだろう。


「なんだ。まだ自分の状況が理解できていないようだな」

「はい、全く……」


 とりあえず、ここが日本でないことだけは確かだけど……


「えっと、教えていただけますか? ここがどこなのか、そして異世界とはどういうことなのか」


 俺がそう問いかけると、目の前の女性――ベルナデット様は微笑んで「もちろんだ」と言った。


***

 混乱する頭を必死に整理する。

 今説明された内容は、かなり衝撃的なものであり……いくら何でも、冷静に考えろというほうが無理だと思う。


 この国――フレンツァ王国がある大陸の名前は【ラリヴァーラ】。

 俺は異世界から召喚された人間。

 そして、異世界から召喚された原因は……【魔法陣の失敗】。


「驚いたか」

「……はい」

「まぁ、当然だな」


 ベルナデット様――改め、ベルさん(長い上に本人が望んだのでこう呼ぶことにした)は、うんうんと頷きながている。

 ……頷きながらも、その目には明らかに楽しんでいる様子が伺えるけれども。


「お前が言っていた、残りの四人も恐らくそれに巻き込まれているだろうな」

「あ、やっぱり……」


 どうやら、黒乃達もラリヴァーラに来ている可能性も出てきた。

 だいぶ俺が参っているのを察したのか、ベルさんは俺を安心させるように笑顔を見せる。


「まぁ、安心しろ。お前の仲間は探し出してやるし、ここにいる間のお前の生活も保障する。……そうだな、ギュスターヴを付けよう。これからは、奴がお前の身の回りの世話をする。よいな、ギュスターヴ」

「かしこまりました」

「それと……」


 何か、俺が何か言う前にどんどん決まっていってる……。

 いつの間にかこの城に滞在することになってるし、ギュスターヴさんが世話係になってるし……おまけに、黒乃達を探してくれることにもなってる。

 い、いいのかなこんなにしてもらっちゃって……。

 恐縮する俺を余所に、ベルさんは次々俺に関することを決めていく。

 そして、最後に。


「紹介しよう。私の弟、アンリだ。今日からお前の案内役となる」

「始めまして、アンリ・ベルティエと申します」


 最後に、とても綺麗な少年を紹介された。

 よく話を聞くとベルさんの弟らしい。つまりは王子様。


 あまり似てないな、と思いつつもやはり血は繋がっているもので……


 さらさらと揺れ、光を浴びては輝く金髪と、長い睫毛に縁取られた晴れた空のような青い瞳。

 違うとすれば、ベルさんが少々キツイ印象なのに対し、目の前の少年はよく言えば優しそうな、悪く言えば気が弱そうな印象を抱いた。


 少年――アンリと言ったか、は俺に向かって手を差し出す。

 俺も、黙ってその手を取った。


「これからよろしくお願いしますね、ハクト」

「こちらこそよろしくね、アンリ」


 これが、俺が異世界で過ごした記念すべき最初の一日目となった……。

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