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白黒冒険譚  作者: 夕日影
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Black4.まずは知り合いをつくりましょう

登場人物をどばっと登場させました。

 朝である。

 しかし、いつもと違う朝である。


「……夢じゃなかった」


 そう呟いた。

 いや、もう夢じゃないのはわかってる。

 何度も頬をつねっては、現実であることを再確認した。

 だからもう、私はこの世界が現実であることを認めなければならない。


「……お腹すいた」


 灰澤 黒乃。

 未知の世界、ラリヴァーラに来てから五日目。


「今日の朝ごはん何かなー……昨日食べたマモッギョっていう魚のソテーおいしかったな。ソチカっていう果物で作ったっていうシャーベットもすごいおいしかったし。ローさん料理上手だから期待しちゃうんだよなぁ。それより今日は何しようかな……野渡君は図書館だろうし、わたしは……今日はのんびり過ごしたいなぁ」


 すっかり、この世界を堪能してました。


***

 朝ごはんを終えて、食後のお茶を飲みながら野渡君に、

「今日どこ行くの?」

 と問えば、間髪入れずに

「図書館」

 と答えが返ってきた。やっぱりねー。


「灰澤はどうするんだ?」

「んー、まだ決めてないけど。ねぇローさん、このお城って他に見所ないの?」


 私は、部屋の隅に控えているローさんに訊ねる。

 ローさんは少し考える素振りを見せた後、私に訊ね返してくる。


「クロノ様はどんな場所をご希望されますか?」

「んー、そうだなぁ。出来るだけ静かな場所がいい」

「そうでございますか。それならば、城の裏庭など如何でしょう? 滅多に人はおりませんし、今の季節ならば美しい花々が咲いておられますよ」



 というワケで、私は今ローさんオススメの城の裏庭へと向かっている。

 ちなみに、横には図書館へと向かう途中の野渡君も一緒だ。


「……で、図書館で何をするんだい? いつも通り勉強?」

「ああ、今日は地理を中心に」

「……野渡君って勉強家だよねぇ。私だったら深いことは考えずに満喫するよ?」

「勉強自体は好きだし、この世界のことを知っておくことは無駄じゃないからな。ていうか、君は満喫しすぎだ」


 そんな会話を交わしていると、向こうから誰かが駆けてくるのが見えた。

 銀色のツインテールを揺らし、黒いスカートの裾を翻しながらこっちに向かってくる……一人の少女。

 私はその姿を捉えると、彼女の名前を呼んだ。


「おはよう、リア」

「おはようクロノ、イタル! 今日もいい天気で嬉しいわね」


 彼女……ツェツィーリアは私達の目の前まで来ると、まるで花のような笑顔で挨拶を返してくれた。



 ツェツィーリア・ブロムベルク……愛称・リアは何を隠そう皇帝サンの実妹である。

 兄妹なだけあって彼女もかなりの美少女であり、皇帝サンと同じ銀色の髪はサラサラだし、また同じ紫色の目には小悪魔的な妖しさを宿している。

 しかし容姿は似ていると言っても、性格はまるで正反対。

 皇帝サンは無表情だが意外と冷静で真面目なのに対し、彼女は明朗快活で親しみやすいが、少々大雑把な面がある。


 しかし、そんな親しみやすい性格のおかげか、彼女は出会った初日ですぐに仲良くなれた数少ない人間――いや【悪魔】だった。



「ねぇ、二人はこれからどこ行くの? 散歩?」

「いや、僕は図書館に行こうと思って」

「あら、そうなの。イタルってば本当に勉強が好きなのね。私なら「勉強」なんて言葉が出る前に逃げちゃうのに……あ、クロノはどこに行くの?」

「私は……ちょっと城内を散歩しに」


 いつもなら素直にどこへ行くか言うけど、今日だけは勘弁してほしい。

 一人になりたくて、静かな場所を教えてもらったんだから。


「あら、じゃあ私が案内するわ! まず庭園でしょ、それからホールに衣裳部屋、地下室とかも――」

「なりません、皇女様。本日は午前中から古代語と歴史の勉強をしていただなくてはなりません」

「それじゃあ、午後から――」

「それもなりません、皇女様。午後からのスケジュールもびっちりと埋まっています」

「う……カスパルの意地悪」

「意地悪ではありません」


 リアはこちらに向き直ると、しゅんとした雰囲気で

「ごめんね、クロノ。今日は無理みたい……」

 と謝った。

 いえ、ナイスです。ありがとう執事二号さん!(ちなみに一号はグレゴールさん)


「あははー、いいよいいよ全然気にしてない。それじゃあ、また今度誘ってくれるかな?」

 そう言うと、リアはいつもの笑顔に戻って、

「ええ、もちろんよ!」

 と答えた。


「それじゃあね、クロノにイタル。また今度遊びましょう!」


 最後にそう言って手を振り、リアは去っていった。


***

「じゃあ、僕はここで」

「うん」


 野渡君とは図書館の扉の前でそのまま別れ――ようとした、その瞬間。

 けたたましい音が図書館の中から聞こえてくる。

 ――私達には、その音が誰から発せられたものか既にわかっていた。


「ハンナ!?」

「一体何が――あ……」


 図書館の扉を勢いよく開ける。

 すると、目の前にはこんもりと出来た本の山――から出ている、一本の手。


「……生き埋め……」

「縁起でもないことを言うな。とりあえず、本を退かそう。手伝ってくれ」


 野渡君は冷静に、本の山に手を伸ばしては本を退けていく。……うん、初めて出会った時の慌てっぷりと比べると、随分と成長したもんだ。


「おい、灰澤。手伝ってくれと言っただろ?」

「はいはーい。心配しなくても手伝うよ」


 そして、私も本の山に手を伸ばした。



「……はー、助かりました」


 目の前で本を整理している、背の低い、白い翼の少女は困ったような顔でお礼を言った。

 彼女の名前はハンナ・デーネケ。

 この図書館を管理する【天使】の少女。


「本棚を整理しようかと思って、一冊取り出そうとしたのまではよかったんですけど……よほどきつく詰められていたのか、一冊取り出すと一気に本が落ちてきて」

「ああ、だから本の山の下敷きに」

「お二人が来てくれなかったら私、本の下で死んでいたかもしれません」


 あははそんな馬鹿な、と笑い飛ばせないのがこの少女の恐ろしいところである。

 何せ、彼女はものすごい……ドジっ娘なのだから。


 初めてハンナと出会った時……彼女が持っていた数冊の分厚い本が、彼女がうっかり転んでしまった衝撃で吹っ飛び、偶然近くを歩いていた野渡君の顔や頭にクリティカルヒットした。

 それのせいで野渡君の本体……ではなく、メガネは大破(魔法だか何だかで直してもらったが)。本人にもでかいたんこぶができた。


 その事件の後、医務室に涙目で飛び込んできた彼女を私は決して忘れることは無いだろう。

 そしてその後、見事にすっ転んでお見舞いの花束を野渡君にぶちまけたことも……決して忘れることは無いだろう。


 しかし、それが縁で彼女と仲良くなったようなものだ。

 特に、ぽけ~っとした子が放っておけない体質である野渡君は(元の世界でもやたらと白斗の世話をやいていた)、やはりハンナのことも放っておけなかったらしい。


 しかし、それにしても……


「どうするの、この本」

 ハンナがぶちまけた本の山。

 ハンナを助けるとき、本をどかしては適当な場所に放っておいたので、ますます散らかっている。

「もちろん片付けるさ。ハンナ、手伝ってくれ」

「はい。……すみません、ご迷惑を」

「別に、気にしていない」

「私も手伝おうか?」

「頼む」


 こうして、私達は本の片付けを始めたのだった。


***

 結局、本を片付けるだけで午前中を消費してしまった。

 昼食はハンナと一緒に取り、その後は野渡君はそのまま図書館で調べ物、私は一冊本を借りて目的の裏庭へ。


「おー、これはなかなか」

 ようやくたどり着いた裏庭は、ところどころ日陰になっているものの、暖かな日が差し、色とりどりの花が咲いているし、芝生はやわらかそうで思わず寝転んでしまいそうだ。

「やっふぅー!」

 とりあえず芝生の中に飛び込んでみる。思ったとおり寝心地がいい。うん、今日からここは私のリラックスポイントにしよう。


 などと思いつつ、ごろごろしていると……視界の端に、黒い何かが目に入る。

 なんだ? と、その方向に顔を向けて「黒い何か」を確認する。


 それは、翼だった。

 この世界に存在する【悪魔】と同じ、黒い翼。


 先客か。

 どこの悪魔さんかは知らないが、先客がいるならあまりごろごろするのも迷惑だろうな。


 そう思い、起き上がる。

 と同時に、先客の姿を改めてちゃんと見たのだが――……。


「……わーお」


 そこには、一人の青年が眠っていた。

 彼の右の翼の色は黒。それはさきほど確認したものである。

 ……しかし、左の翼の色は白だった。

 悪魔と同じく、この世界に存在する【天使】と同じ、白い翼。


 そう、青年の翼の色は左右で色が違っていた。


 だがしかし、私が驚いたのはそんなことではなく――……


「なんという美青年」


 そう。

 この青年の人間離れした、美しい容姿について驚いていたのである。


 触れると柔らかそうな灰色の髪に、目を瞑っているから更に強調される長い睫毛。

 そして、繊細さをうかがわせる線の細い顔立ち。

 左右の翼の色が違う、というのも気にならなくほどの美青年だった。


 皇帝サンのような、妖しい雰囲気の美形とはまた違ったタイプの美形さんである。

 そんな柔らかな雰囲気を持つ「眠りの森の美女」ならぬ「眠りの裏庭の美青年」に、思わず私は見とれてしまう。


 ……なんなんだ。皇帝サン兄妹といい、目の前の美青年といい、この世界には美形しかいないのか。


 などと思いつつ、その青年の顔を見ていると……突然、青年が目を覚ました。

 そして、私の姿を捉え――驚いた表情で、そのまま私の顔を見つめてくる。


 ……うん、起きてるとますます美人さん。

 って、思ってる場合じゃなくて!

 やべぇよ私、この人の顔思わずガン見してたよ。

 絶対に不審者とか思われてるよね。


 などと考えていると、突然青年が私の腕を掴んだ。


「うぉっ!?」


 当然驚き、思わず身を引いた――が、それは叶わなかった。

 青年が、私の腕をがっちりと掴んだままだったからである。


 青年はそのまま何も言わず、ただじっと私の顔――正確には目、を見つめている。

 ……美形を見つめるのはいいんだけど、逆をやられると正直恥ずかしい。

「……あの、私の顔に何かついてますか?」

 思わずそう訊ねると、青年はぱぁっという擬音が似合うように笑い、私を抱きしめた。


「ひょえっ!?」

「同じだ!」


 何故か出会ったばかりの美形に抱きしめられている私。

 さすがにいつもの調子で返すこともできず、うろたえる。

 ていうか、

「お、同じって何が、」

「……色。同じ、色」

 青年は私から離れ、嬉しそうにそう言った。


 同じ、色?


「ほら」

 そう言って、青年は自分の目を指差す。

 その目は、綺麗な灰色をしていて。

「同じ」

 そう言って、今度は私の目を指差す。

 私の目の色は――灰色。

 フィンランド人だったという曽祖父に、そっくりだという――灰色の目。


 ね? とその青年は嬉しそうに笑う。

 ……何が、ね? なのだろうか。


「えー……あー確かに同じ色してますね? で、それに何か意味が?」

「意味?」


 青年はこてん、と首を傾げた。

 ……お、思ってないよ。デカい図体とは裏腹に子供っぽい仕草でギャップ萌えとか思ってないからね!

 そんな私の心境を知ってか知らずか、青年は不思議そうな顔でこちらを見つめている。


 そして青年は「ああ」と呟いた後、もう一度自分の目を指差した。


「灰色、白と黒が混ざった色。……灰色の目、天使と悪魔が混ざった証」

 でも、と言って私の……私自身を指差す。

「でも、人間。翼のない、ただの人間……灰色を持つ、人間」

 ありえない、と笑って青年は笑う。

 ……そういえば、皇帝サンも似たようなことを言っていたような気がする。


『灰色の目を持つ人間……か。異世界には妙な人間もいたものだ』


 と。

 それが、どういう意味を持つのか……私には、全くわからなかったけれど。

 もしかして、この世界では特別な色なのか?


 などと、私が考えをめぐらせていると突然、青年が「あ」と声を上げた。

 私は、慌てて思考を中断させる。

「どうしたんですか?」

「俺、まだ名前訊いてない!」

 は、名前?

「えっと、名前って……」

「君の名前! あ、俺はルキ。ルキ・アッヘンヴァル!」

「……灰澤 黒乃です。ちなみに黒乃が名前。よろしく、ルキさん」


 と、目の前の青年は笑顔で自己紹介。

 私も、思わずつられて名乗ってしまう。


「クロノ……クロノ! うん、覚えた!」

「ありがとうございます、ルキさん」

「クロノ、さん付けはいらないよ。ルキでいい、ですますも禁止!」

 呼び捨て、敬語なしでOKってことか。

「わかったよルキ。改めてよろしくね」

「うん! クロノ、よろしく!」


 こうして、この城での知り合いがもう一人増えたのだった。

さて、ここで黒乃編は一旦お休みです。

次からは双子の弟視点に移ります。……一応メイン主人公は黒乃なんで、すぐに戻りますが。

では、感想などいつでもお待ちしております!

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