プロローグ
思いついてしまったので新連載です。
多分、もう一つ以上に不定期になると思います……が、よろしくお願いします。
この世界には、一つの巨大な大陸がある。
この大陸に住む者達は、大陸のことをこう呼ぶ。
この世界の古い言語で「偉大なるもの」を意味する言葉で――「ラリヴァーラ」と。
現在、ラリヴァーラは五つの国に分かれている。
北にある、戦乱の国――ラシオン帝国。
東にある、信仰の国――フレンツァ王国。
南にある、魔法の国――モリナール連邦。
西にある、自由の国――フィガロ公国。
そして四つの国に囲まれた、狂気の国――バルバラ共和国。
五つの国の仲は、お世辞にも良好とは言えない。
特に、ラシオン帝国とフレンツァ王国は長い間、冷戦状態が続いている。
フィガロ公国が何とか仲裁の形を取っているものの、いつまで経っても双方は歩み寄ろうとはしない。
モリナール連邦は誰とも関わり合いを見せず、目立った動きもせず――ただ、その場を眺めているだけ。
そして、バルバラ共和国。
五つの国の中で、一番の脅威と思われているこの国は、今のところモリナール連邦と同じく目立った動きはない。
しかし、四つの国はこの国を危険視していた。
バルバラは、かつて異界から【魔王】を召喚し、ラリヴァーラを危機に追い込んだ歴史があるからである。
今でこそ「おとぎ話」としてこの大陸に伝わっている話だが――実話である。
さて、先ほど「目立った動きはない」と書かれたバルバラ共和国だが、最近不信な動きが多い。
四つの国も、バルバラ共和国に対する警戒を日々強めている。
そして、怪しんでいる。
――まさか、再び【魔王】を召喚する気ではないのだろうか、と。
それが事実ならば、私達も動かなくてはならない……召喚の儀式をするために。
何故ならば、もし再び異界から【魔王】が召喚された時――その【魔王】を倒すのもまた、異界から召喚された【戦士】だからである。
かつてラリヴァーラが危機に追い込まれた時、伝説の魔術師が異界から【戦士】を召喚し、その【戦士】と共に【魔王】と戦ったという記述が残されている。
もし、それが本当ならば――私は、伝説の魔術師の子孫として同じ役目を果たさなければならない。
先ほど記したように、再びバルバラが【魔王】を召喚する可能性があるのだ。
この世界にいる、どんな屈強な兵士や高名な魔術師でも――決して倒せない、魔王が再臨する。
それは、決してあってはならないことだ。
だから、私は再び異界より【戦士】達を呼び寄せる。
たとえ、それが望んだような結果にならなかったとしても。
私は、その役目を背負わなければならないのだ。
【戦士】達を呼び寄せる――召喚の儀式。
その儀式が行われた、その証として全てをここに記す。
――魔術師アンスガル・アンブロシウス
***
「……さて」
黒い三角帽を被った老人は、先ほどまで開いていた分厚い本を閉じて机に置く。
そして席を立ち、床に描かれた巨大な魔法陣の前まで足を進めた。
木でできた杖で魔法陣をコツンと叩けば、杖の先端に付けられている鈴が涼やかな音を鳴らした。
「上手くいってくれるといいがな……」
老人はそう言うと、常人には聞きとれない言葉で呪文を唱え始めた。
すると魔法陣が光り輝き、呪文を唱え進める度に魔法陣の光は強くなっていく。
そして、老人が呪文を唱え終えると、魔法陣の光はもはや直視できないほどに光を放っていた。
老人は目を細め、その光をじっと見つめている。
光はますます強くなり、やがて部屋全てを白く照らすほどに強くなり――……
これが、始まり。