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白黒冒険譚  作者: 夕日影
13/13

Black9.とにもかくにも騒がしい

今回は少し短めです。

 こんこん、こんこん。


 絶えずに鳴り続ける、ドアを叩く音。

 いつもなら、何の抵抗もなく開けることができるのだが……。


「……野渡君、精霊達しまえる?」

「……無理だ」

「ですよねー」


 ただいま、部屋では小さな光の球……精霊達が乱舞しています。主に野渡君の周りで。あ、まだメガネ返してもらってないんだ?

 とにかく、今の状況でドアを開けるのはまずいかもしれない。


「……クロノ様、おられますか?」

「ローさん?」

「先ほどから何やら騒がしいようでしたので……何かありましたか?」


 ドアの向こうにいるのは、ローさんだった。

 どうやら、先ほどの騒ぎを聞きつけたらしい。

 ……まぁ、あれだけ騒いでたら当然か。


「いや、何かあったというか……」

「お、おい灰澤……!」

「あら、イタル様もおられるのですか?」


 野渡君が、「言うなよ! 絶対に言うなよ!」とフリをする間もなく、ドアの向こうにいるローさんに気付かれる。

「おい、僕はそんな使い古されたフリなんてしないぞ。絶対にしないからな」

「いや、そんなに反応されても」


 そんなこんな言い合っていると、ついにしびれを切らしたのかローさんが

「……失礼いたします!」

 と言って、ドアを開けて入ってくる。

 もちろん、急に言われたので止める間もなく――……。


「あ」

「……は!?」

 あっさりと、見つかってしまった。


 精霊達はローさんが入ってくると同時に、野渡君から離れて部屋のあちこちに散らばった。

 それは、とても幻想的な風景だったけど――私達はそれどころじゃない。

 ローさんは驚きを隠そうともせず、部屋を飛び交う精霊達と私達を交互に見比べる。


「……く、クロノ様。一体これは…?」

 ようやく口を開いたと思えば、そんな質問。

 まぁ、当然っちゃあ当然だけど……。

「えーと……まぁ、その、なんだ。あー……野渡君、説明よろしく」

「僕に丸投げするな! ……あの、これはですねローシェンナさん……えっと……」


 野渡君はしどろもどろに なりながらも、今まであったことを何とか説明した。

 ローさんは少し訝しげな顔をしたが、精霊達が飛び交う部屋の状況と、野渡君が手に持っている杖……イェルケルを見て、信じざるを得ないのか黙って首を頷いてくれた。どうやら理解してくれたらしい。


「しかし……クロノ様だけではなく、イタル様まで【戦士】の一人だったとは……驚きですね」

「案外あっさり受け入れてた気もするけど」

「まぁ……ある程度はへい……ごほんっ」


 ローさんは何かを誤魔化すように一つ咳払いをすると、突然こちらの方に振り返ってきた。顔こわっ!


「それよりも! クロノ様、バシュ執事長からお話があるそうです」

「グレゴールさんから? ていうかローさん顔が近いうえに怖い」

「これは失礼致しました。それで、どうか自分の部屋の方に来てほしい、と」


 グレゴールさんか……一体何の用だろう、ていうか嫌な予感しかしない。

 一人で行くのは嫌だな……。

 ………………


「野渡君」

「僕は行かないぞ」

「いや、まだ何も言ってないじゃんか……」

「君が何を考えてるかなんて、だいたい予想がつく」


 っち……意外と手強いな……ここは強硬手段で……。

 と、私がどうやって野渡君をみちづ……じゃなく、どうやって一緒に連れて行くか考えていると、ローさんがびしり、と挙手。


「どうしました、ローさん」

「いえ、提案なのですが……イタル様も一緒に行かれたほうがよいのでは?」

「は!?」


 突然のローさんの提案に、無関係を決め込もうとしていた野渡君は驚き、そしてローさんに突っかかっていた。


「なんで僕まで!? 呼ばれてるのは灰澤でしょう!」

「その、きっと【戦士】関係のことだと思いますから……もしそうならば、先ほどなったばかりとはいえ、戦士の一人である【奏者】のイタル様を放っておくのも……と思いましたので」


 ローさんの言葉に野渡君は一瞬呆然、しかし次の瞬間には「あぁああああ~!」と謎の奇声を上げて床に座り込んだ。


「何で僕まで……!」

『【奏者】だからだろう』

「……きっと変なことに巻き込まれる……もはや決定事項だ……灰澤もいるし」

「ちょっとそれどういう意味」

 失礼すぎるな、野渡君。

『大丈夫ですわ、主様。もし何かあっても、このわたくしが主様をお守りしますわ』

「正確に言えば「お前を使って自分の身を守る」だけどな」


 私は腰掛けていたベッドから降りて、アストリッドを持ってローさんに近付いた。

 途中、床に座り込んでいた野渡君も回収しておく。


「まぁ、ごねたって仕方ないよね。行こうかローさん」

「はい、参りましょうクロノ様、イタル様」


 まだ何か喚いている野渡君を引きずりながら、私はローさんの後に続いて部屋を出た。



***



「――少し、部屋の前でお待ちください。すぐに戻りますので」


 ある部屋の前でローさんにそう言われ、私達はその場に留まる。

 ローさんが部屋に入っていくのを見送りながら、私はアストリッドとテレパシーで言葉を交わしていた。


『しかし、一体何の用でしょうねぇ? こんな夜中に……非常識ですわ』

「お前の存在ほどでもないけどね」

『まぁ、わたくしほど常識がある剣もおりませんわよ?』

「冗談は存在だけにしてほしいんだけど」


「……なんでそんなに、のんきに構えていられるんだ君は」

 私の隣で座り込んでいた野渡君が、弱々しい、しかし呆れかえったような声で言う。


「のんきって誰が?」

「君以外の誰がいるというんだ」


 はぁ、とわざとらしいため息を吐かれる。


「だいたい、君はおかしいと思わないのか。いきなり【戦士】だとか言われて」

「まあ、理不尽な展開だとは思うけど……自分から言い出してなったワケじゃないし。寧ろ断る暇がなかったというか」

「……早く帰りたい……」


 そんな弱々しい野渡君の呟きと同時に、ローさんが目の前の部屋から顔を出した。

「お二方様、どうぞこちらへ」

 そうローさんに促され、私達は渋々とその部屋へと入った。



***



 部屋に入ってまず目に入ったのは――黒い翼。

 驚いてそちらの方を向くと、そこには相変わらずの美貌を称えた皇帝サンことフェルナントカ・ナンタラさんが。


「……フェルディナント・ラシオン・ブロムベルクだ。久しいな、二人とも」


 あー、そういえばそんな名前だったね。

 無事に皇帝サンの名前を思い出したところで、私も「お久しぶりです皇帝サン」と会釈した。


「雑務が忙しがったが故に、滅多に顔が出せなかったのだ。すまなかったな」

「いえいえ、それなりに快適な生活を送らせていただきましたよこちらは。まぁ、妙なことに巻き込まれたりもしたけど」


 そこまで言って、私は妙なことに気付いた。――何で皇帝サンがここに?

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