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白黒冒険譚  作者: 夕日影
10/13

Black6.黒を纏いし姫剣士

 私は今、グレゴールさんに連れられ、帝国騎士団とやらの鍛練場に向かっている。何故だ。ていうか、ルキおいてきちゃったよ。


 グレゴールさんは「黒姫の」とか「遺物に認められた」とか「やはり戦士は異世界の」だとかぶつぶつ言っている。

 もしかすると重要ワードだったりするのかもしれないが、今の私には……


『主様、主様! 返事をしてくださいまし! もしそれが主様のわたくしに対する愛情表現だとしても、わたくし、無視されるのは嫌なのです!』


 この変態……じゃなかった、魔法剣アストリッドの相手をするのに手一杯だったからだ。

 もーマジこいつうるせぇ! へし折ってやりたい!


『まぁ、へし折るだなんて……早くやっちゃってください!』


 ダメだ、逆効果だった。

 この変態剣に私の攻撃は通じないらしい。


 しかも「早くシてください」だの「放置プレイしないで」だの「×××(ピー)×××(ピー)×××(ピー)……」だの……。

 この剣は自重という言葉を知らないのだろうか。


 そんな自重のじの字も知らないような変態・卑猥・ドMと、三種揃った黒い剣……魔法剣アストリッドの話を軽く聞き流していると、もうすぐ着きますよ、とグレゴールさんが私を呼ぶ。

 私は助かったとばかりに、グレゴールさんのもとへ小走りで向かった。


***

「少し、ここで待っていてください」

 そう言ったグレゴールさんは、鍛練場へと入って行った。


 少し暇になったが、アストリッドの相手をするのも面倒なので鍛練場の中を少し想像してみる。


 剣と剣のぶつかり合う音、男達の雄叫び、はじける筋肉、そして飛び散る汗……。

 ……自分で考えてて気持ち悪くなってきた、やめよ。


 そんなもうそ……想像を打ち切ると、グレゴールさんが鍛練場から戻ってくるのが見えた。

 そして、手招きをして私を呼び寄せ、

「あなたに会わせたい人がいるんです」

 と言って、再び鍛練場へと入って行く。

 私は、慌ててその後を追いかけた。



 鍛練場に入ると、まず目に入ったのは鎧を着込んだ大男でした。


 …………。


 なんで!?

 なんで鍛練場に連れてこられたと思ったらいきなりゴリラも裸足で逃げ出しそうな威圧感バリバリの大男とご面会しなくちゃいけないの!?

 いやいや、おいでおいでじゃないよグレゴールさん!


 私がその場で固まっていると、大男がこちらをギロリ、と睨んだ。

 あ、ゴリラどころじゃねーわコレ。ゴジ○も素っ裸で逃げ出す威圧感だわコレ。


 さて、そんな巨大怪獣も真っ青な威圧感と存在感を放つ大男、いや大男さんは私を指差し、

「こいつか?」

 と言った。

「はい。戦士の一人、黒姫様です」

 笑顔で頷くグレゴールさん。正直、その言葉も光の速さで否定したい。

 したいが……目の前の威圧感ハンパない大男さんが怖い。

 うっかり何か変なことを言ってしまえば、私の首が飛ぶかもしれない。

 そんな私の様子に気付くこともなく、大男さんは

「とてもじゃないが、戦士には見えないな」

 と呟いた。


『まぁ、失礼な方ですわね。主様、この大男を殺してしまいましょう』

「なに物騒なこと言ってんの!? ていうか勝てるワケないだろ!」

 アストリッドの発言は過激すぎる。


 こんな掛け合いをしている私達を他所に、グレゴールさんと大男さんの周りは若干シリアスな空気だ。是非わけてほしい。


「……お言葉ですがオイゲン、彼女はこうして「遺物」である魔法剣アストリッドを目覚めさせました。名立たる剣士達が何をやっても目覚めなかった剣が、彼女の手によって目覚めたのです。疑う余地もありません」

「まだ子供ではないか。子供が「遺物」を扱えるとでも?」

「アストリッドは彼女を「主」と認めたそうです。それに年齢は関係ないでしょう?」


 何か段々とヒートアップしてきている。

 大男さんが威圧感と共に低く重い声で吼えれば、グレゴールさんが軽やかだが威厳のある声で言い返す。

 ていうかグレゴールさんすごい。某巨大怪獣も逃げ出すであろう大男さん相手に一歩も引いていない。


「子供は子供だ! お前は子供に剣を振り回させる気か?」

「オイゲンは五歳の頃より真剣を振り回していたでしょう。それに、騎士団見習いの中には彼女以上に幼い者もいるではありませんか」

「女だろう!」

「性別など問題のうちに入りません。三十年前の戦争で、どれだけ王国の女性騎士団に苦しめられたかはオイゲンの方がよくご存知のはずでは?」

「実力が伴わなければ意味が無い!」

「ですからここに連れてきたのです。何も知らないのなら、一から学べばいい」


 大男さんの言い分を、グレゴールさんはことごとくかわしていた。

 それから暫く舌戦(ただし一方的な)が繰り広げられていたが、そのうち痺れを切らした大男さんがこっちに向かって――って、何?


 大男さんは私の目の前に来たかと思うと、突然私の腕を引っ掴んで鍛練場の真ん中に来させる。

 そして、私に向かって巨大な剣を……ってちょっとぉ!?


「ならば、こいつの実力を見せてもらおう。いいな、グレゴール!」

「ええ、どうぞご勝手に。あなたもよいですね、クロノ様」

「全然よくないですけど!?」

 ていうか本人置いてけぼりな急展開だけはほんと勘弁してください!


「行くぞ!」

「ち、ちょっと待てってぇええええ!」


 叫ぶ私を無視して、目の前の大男さんは私目掛けて大剣を振り下ろしてくる。

 私は何とかそれを避けるが、大男さんの攻撃は止むことはない。


「どうした! 逃げてばかりでは勝利は掴めんぞ!」

「掴めなくていいです! 逆に命手放しそう!」


 私はそう叫びながら、ひたすらに攻撃を避け続ける。

 ……しかし、大男さんの攻撃が緩む気配はない。寧ろ激しくなってくる。


 うわぁ、マジでどうしよう。私このまま死んじゃうかも。


「やばいやばいやばいやばいやばいやばいって! どうするよコレ! どうしようもねぇよコレ!」

『主様、どうか落ち着いて』

「んなこと言ったって!」


 正直、攻撃を避けるので手一杯だ。

 ていうか、一体どうやって勝てというんだ!


『安心してくださいまし』

 焦る私に、アストリッドは妙に落ち着いた声をかけた。

「何を安心しろって言うんだよ!」

『落ち着いてください主様』

 アストリッドは相変わらず落ち着いた声のままに続ける。

『主様、どうかわたくしの言うとおりに身体を動かしてくださいませ。そうすれば、少なくとも主様が負けることはありませんわ』

「は? 信用できんの?」

『わたくしは、主様に敗北の屈辱を味わわせたりなどいたしません』

「へぇ!」

『わたくしは主様の忠実なる下僕。差し出がましい真似だとは思いますが……どうか、今だけはわたくしめの言葉だけに耳を傾けてくださいませ』


 アストリッドの声はとても落ち着いていて、そしてとても魅力的で。

 混乱している私に、その声に抗う意識は無かった。

 私は、言い返すことも何もせず。


「……わかった。賭けてみようじゃないか、お前に!」


 アストリッドの提案に、乗っていた。



『よろしいですか、主様?』

「いつでもOK!」


 そう言うと同時に、私はアストリッドを構える。

 大男さんは「やっと本気になったか」と嬉しそうに笑い、大きな剣を私目掛けて振り下ろす。


『右に避けて!』

 アストリッドの言葉に従い、私はその攻撃を右に避けた。

 そのまま走って後ろに回りこみ、大男さんの背中を力いっぱい蹴り飛ばした。

 見たか! 銀次で鍛えたこのキック力!


 しかし、大男さんは私の攻撃にダメージを受けた様子もなく、振り向くと同時に大剣を横になぎ払う。

 私はそれを後ろに飛んで、何とか回避。

 そのまま距離を取り、大男さんの出方を窺う。

 大男さんも大剣を構えたまま、動くことはない。


 その場に流れる静寂。


 大男さんはにやりと笑い、

「お前、名前は?」

 と聞いてきた。

 そういえば、まだ自分から自己紹介してなかったなぁ……と考えていると、強い調子でもう一度「お前の名前は?」と聞かれた。


「く、黒乃……です」

「クロノか」


 大男さんはそう言うと大剣を下ろし、ゆっくりと私に近付いてくる。

 そして私の目の前まで来ると、私をゆっくりと見下ろした……すごい威圧感だ。


「……ふん、まだ使い方がなっていないな。しかし、少しばかり才はあるらしい」

「へ?」

「おい、グレゴール。クロノは俺が預かるぞ。いいな」

「ええ。元よりその為に連れてきたのですから、どうぞご自由に」

「ご自由にされちゃ困るんですけど!?」


 そう叫ぶが、大男さんに「うるさい」と一蹴される。

 あげく、私は襟首を掴まれて鍛練場の奥へと連れて行かれそうになる。

「ちょ、待ってください! 誰か助けてグレゴールさんヘルプ・ミー!」

 そう叫んでグレゴールさんに助けを求めるが、グレゴールさんは笑顔で私を送り出すだけだ。


「ち、ちくしょー! グレゴールさんの薄情者ぉ! 笑顔詐欺! 鬼畜紳士!」

「少し黙れ」

「はいすみませんでした、調子のりました、申し訳ありませんでした」

 大男さんの低い声で一喝され、私はまるで借りてきた猫のようにおとなしくなり、まるで昼寝をしている最中に額に「肉」と書かれている人のようにされるがまま、鍛練場の奥に運ばれていったのであった。


 この後、大男……オイゲン・アヒレスさんに「戦士とは何か」を延々と聞かされたあげく、私は「黒姫」として帝国騎士団の面々の前に晒された結果、散々な目に会うのだが……それは正直話したくないので割愛させていただく。

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