携帯電話と音信不通(彼氏×彼女*バカップル*短め)
「この夏、携帯電話があたしの嫌いなものにめでたく殿堂入りしました。はいパチパチー。何が嫌いって? まあ、その色々あるんだけど。順に挙げていくとすれば、まずメール。面倒じゃないですか? 小さな面積のボタンをカチカチって親指で打つの。ちょっと無理があるよね。一応あたしも今時の女子大生やってますけど、残念ながらメールの早打ちなんてできた試がありません。早く打とうとすると指がつりそうになんだよね。あと絵文字なんかもいちいち入れるの面倒じゃないですか。え、入れなきゃいいって? ばっか、絵文字を入れないがためにいじめが起きた、なーんてなこともあったそうな。や、マジマジ。本当の話です。最近の若者は怖いね。あー、あと、メール以外にもそのほか色々な機能がついてますが、使わないしね。はっきりいって無意味。携帯電話の本質は電話でしょうが! って、あたし電話も嫌いなんですよね。いきなりピリリリリ! って音が鳴って、出ない限りもしくは相手があきらめない限り延々鳴り続けるんだよ? やってらんない。出ればいいって? それもそうかもしれないけどさ、どうせ馬鹿男からの謝罪のお電話でしょ。大抵、昨日一緒にいたのはただの友達で、なんにも関係ないからな! なーんて見え透いた嘘の羅列ですよ、そんなのいちいち出てられるかっての。かけて来てほしいときには一切ならないしさぁ! 彼女の誕生日に電話一本も無いってどういうこと?! どういうことなんですか、本当。あーむかつく!
……以上が携帯を水没させた理由です」
一気に言い終えたせいでのどが渇いたあたしは、目の前に置かれた麦茶をぐいっと飲み干し、ダン! と音を立ててテーブルに戻した。目の前の男に少しでもあたしの怒りを示すための行為なんですが、え? 子供っぽいって? 知るか、そんなの。
「そんな理由で折角人がやった携帯使えなくしたのかよ」
「そんな理由?」
ここまで腹を立ててるって言うのに、彰人はなんら気にしないご様子でこちらを見上げていた。その上、顔に笑みまで浮かべている(なんて、ムカツク、男!)。
「何笑ってんのよ!」
怒鳴れば、より一層口の端を緩める(え、エムですか……)。
「やー、愛されてるなあと思って、俺」
「は?」
意味が分からず首をかしげるあたしに、彰人は
「つまり、俺からの着信が入らない携帯なんていらないってことだろ?」
と言って首をかしげ返してくる。
「……頭痛くなってきた」
一体全体、今までの話をどうまとめたらそんな結果になるんだろう。一歩間違えば別れ話だって切り出すところだっていうのに、どうしてこの男はここまで能天気なのよ。
「俺も好きだぜー、唯!」
「ちょ、こっちくんな!」
まだ許してないんですけど!
嫌がるあたしに構わずに、彰人は両手を広げてこちらに寄ってくる。
浮気を疑ったり、電話やメールが少ないことに文句を言うのはいつもあたしの方。
イライラを募らせるあたしに、彰人はいつも「愛されてるなあ」なんて笑顔を浮かべるのだ。愚痴を言って、責めているというのに、「俺も好きだぜ」なんて言って抱きついてくる。この人、本当にどっか頭おかしいんじゃないだろうか。
「唯」
「……」
それでも、名前を呼ばれて手を差し伸べられると無視できなくて、結局彼の腕の中に納まってしまうあたしも、どこか頭がおかしいのかもしれない。