my dear(女の子とアンドロイド※イントロのみ短文)
自称天才発明家の叔父は、昔からなにかとへんてこなものを作っては周りを驚かせていた。大部分が趣味だったのだろうけど、今思うと両親を早くに亡くしたあたしの悲しみを紛らわそうとしていたのかもしれない。
あの日も、叔父は研究室と称した自室にこもって何かを作っているところだった。何を作っているのか聞いても、はぐらかすだけで答えてくれなくて、ただ笑って
「完成したら志保にプレゼントするから、楽しみにしてて」
とだけいった。さっきも言ったけど、叔父の作るものには本当にへんてこなものが多く、それを聞いたあたしは当然喜ぶどころか複雑な表情を浮かべたのだった。
そして十九歳の誕生日――
ピンポーン
それは呼び鈴と共にやってきた。
「はじめまして、私は楓。今日からお世話になります」
玄関を開けると同時に挨拶をして頭を下げた好青年を、志保はぽかんとしながらただ見つめていた。
身長一八〇センチあるかと思われる長身なのに、すらっとしたバランスの取れた体格をしていて威圧感を感じさせない。髪は綺麗な鳶色で、優しげな目元が人懐っこさを感じさせる。微笑まれたら思わず赤面してしまうこと間違いない。
そんなイケメンが、どうして自分の家を訪ねてきたのだろう。さらには「今日からお世話になります」なんて、一体なんのことだか志保には全然分からなかった。
「あ、あの……人違いじゃ」
困惑しながらそう告げてみるけれど、目の前の好青年はにっこり笑って首を横に振った。
「いいえ、貴方であっていますよ。唯川志保さん。私は貴方の叔父の唯川俊氏に言われてここにきました」
「唯川俊……」
確かにそれは叔父の名前だった。中学のときに両親を亡くした志保の親代わりで、つい一年ほど前まで一緒に暮らしていた人。志保の大学の入学式が終了すると同時に「ちょっと旅に出てくるよ」とふざけた一言を残してどこかへ行ってしまい、それ以来行方不明の音信不通という困った人物である。
そんな叔父とこの好青年が知り合い? ますますわからなくなってきた。
身内でもちょっとこの人おかしいんじゃないだろうか、と疑ってしまう変人の叔父と目の前の青年がどうにも結びつかない。本当なにか勘違いしてるんじゃ? 同姓同名の別人とか。
志保の様子を察したのか、楓は更に言葉をつむいだ。
「以前、俊氏があなたになにかプレゼントを贈るといっていませんでしたか?」
「え? ああ、そういえば……」
確かに、出かけていくちょっと前まで何かを作っていたなあ。中身こそ教えてもらえなかったけど確か完成したらあたしにくれるって……。
「もしかして、あなた宅配便の人?」
それならつじつまが合う。それにしては思いっきり私服だけど、まあいいや。ようやく納得して印鑑を取りに部屋の中へ戻ろうとするが、しかし楓はあっさり否定した。
「違いますよ、宅配便じゃありません。だから印鑑もサインも不要です」
「えと、じゃあ叔父の知り合いで、代わりに荷物を届けにきてくれたとか……?」
「いいえ、それも違います」
「じゃあ、その……どういったご用件で?」
「先ほども言いましたが、今日からこちらでお世話になることになりました。俊氏からの貴方へのプレゼントはつまり、この私自身なんですよ」
……はい?
「私は唯川俊氏が発明したG‐258型アンドロイド、楓。一人暮らしでなにかと物騒かと思った俊氏、私のマスターが貴方を守るために私を作ったのです。炊事、洗濯、家事、掃除、その他諸々、大抵のことはできるようにプログラムされていますのでなんでもお言い付けください」
「はあ……?」
「ご理解いただけましたか?」
「ちょ、ちょ、ちょ、……ちょっと待って、え、なに、今なんて、アンドロイド……? なに?」
あたしの目の前にいるこの好青年がアンドロイド?! しかもあたしのために叔父が発明したなんて、そんな――
「そんなの理解できるわけないでしょ!!」
おもわず声を荒げる志保とは正反対に、楓は落ち着いた様子で
「でも、事実ですから……」
といって証拠とばかりに片方の腕をはずしてみせた。
「?!」
驚きすぎて悲鳴も出ない。人間のものとそっくりのその腕は、体から離れたというのに出血ひとつせずに、いろんな色のコードが幾筋も連なっているのが見えた。グ、グロイ……。
「信じて、いただけましたか?」
「は……はい」
にっこり笑う楓に、志保はこれからの生活を思って途方にくれたのだった。
さよなら、あたしの平穏な日々……。