ご縁が消えたら、新たに産まれました。
「私の中ではすごく前向きに考えています。」
アパレルショップの店長がにっこり微笑んだ。
未経験ながらも愛嬌を振りまいて、佐和子はようやく職を手に入れた。
正式な発表も当日中に貰えた。
それからの日々というもの、接客技術も伸ばすためにYouTubeで研究し尽くした。
お客さまとの温度感を考えながらクロージングしていき、目標を大きく超える日もあって、スタッフとも仲良しだ。
「富岡さんが入ってくれて良かったです、本当に。」
店長からも他スタッフからも歓迎ムード。
期待されたら応えたくなる性分なので、佐和子は日々売上と戦った。
レジ締め業務も両替も覚えた。
これからだった。
悲報は突然現れる。
店長からのLINEにはこう書かれていた。
「お疲れ様です。富岡さんとはシフトが被る日が空いてしまうのでLINEで失礼します。実は当店が11月末をもって閉店と決まりました。残された道は、市をまたぐ他店への移動、いつ何が入ってくるか分からないが跡地での勤務、完全転職です。今月末までに社長に報告しなければなりません。」
絶望だった。
今まで長く続いた会社なんかよりよっぽど自分の居場所となれる場所だったから。
アパレルを愛してしまったから。
店長たちを愛してしまったから。
でも泣き言ばかりではご飯は食べられない。
閉店セールで忙しなくお客さま対応をし、レジを打ち、商品をお渡しする。
繰り返し何度も何度も。
なかには悩まれてるお客様に一言だけでも言葉をかける。
そうすると史上2位の売上を達成できた。
「売上18万」お守りみたいな消せないレシートの画像。
喜んでくれた店長の顔を浮かべて無我夢中だった。
そして、暫く出勤を続けながら休みの日や休憩時間を使って面接を受けに行った。
結果的に3社落ちた。呆然とした。呆気なく落とされ続けて、私の居場所がどこなのかも分からない。
無理が祟ったのか熱と風邪症状が出てきてしまった。
頑張ればいける、そう信じていたのに、身体が思うように行かない。
精神科医の見解では「過労からくる鬱ですね」。
1週間お休みを頂きたい養生していた中で子供服売り場の面接を終えてから、店長に挨拶しに行った。
具合が悪そうだったので、私が休んだ穴埋めをしてくれたことは明白だった。
明日から出勤しますとだけ伝えて帰路へ着く。
帰宅してから、店長から長文のLINEが届いていた。
内容は、
「休んだことを責めたいのではなく本音が聞きたい」
「今閉店セールを早めに終わらせるか上の者とも話し合っている」
「これ以上シフトが崩れると各所にもっと迷惑がかかる」
「それより先に、冨岡さん自身が閉店まで欠勤無しで全うできるか知りたい」
佐和子はもちろん頑張りたいと伝えた。
現に体調不良も治りつつあったが、店長からのLINEで色んな人に迷惑をかけた罪悪感で鬱が顔を出す。
「店長も本音で話してくれてるから本音で話します」
「これから1度たりとも休まず閉店セールを乗り切る自信は正直ありません」
「休んでは行けない、休むとこれ以上迷惑をかける、頑張りたい一心だけでは完走できる自信がつきません」
そして、そっと告げた。
「辞めたいです。」
「私の処遇は解雇でも構いません。」
店長からはまた長々ときたが、止めるようなことはなかった。
正直辞めさせたかったのかな、とひとひらの涙が頬を伝う。
退職の流れを話した。
退職届を送って書類を書きに1日だけ来店してくれとのことだった。
辞めると言ってから明らかに対応が良くなった。
そこまで負担をかけていたんだなと思うと、私ってなんだろうと思い始めた。
そんな所に店長はポロッと漏らす。
「富岡さんが頑張って売上伸ばしてくれた事には本当に感謝しています。」
「富岡さんが働きやすい環境を作れなくてごめんなさい。」
「また来る時にでも恋愛の話の続き、聞かせてください。」
「私は出会えて良かったと思っています。」
店長も板挟みだったのだ。
店長だって辛いのだ。
私が体力と気力のペース配分をミスしたのに、それでもカバーしてここまで優しくしてくれた。
ご縁が確かに、ここにはあった。
でも運命は変えられない。
お守り「18万」レシートを眺める。
そんな最中、子供服売り場から採用の通達が届いた。
店長たちにはまだ知らせていない。
会った時に伝えるだけで十分だ。
新しいご縁では何が待っているだろうか。
店長達みたいな優しい人ばかりではないかもしれない。いや、厳しい人から指導を受けても持ちこたえる気持ちでいよう。
ご縁が確かにありました。
でも、職場が漂流に遭いました。
そして、新たなご縁が産まれました。
この小さな若葉が大地に根付くように。
一日一日を繰り返していこう。




