表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

告白

自宅夜 インスタ ~告白

作者: 時司 龍
掲載日:2026/03/02

 部屋は静かだった。


 彩はシャワーを浴びて、髪を乾かし、ベッドに腰を下ろす。何となくスマホを開く。

 直接、見てと言われたわけではない。


 今日、給湯室の前を通りかかった時。


「大樹さんのインスタ、見た事ある?」

「スノボの写真、普通にかっこよくない?」

「わたし、フォロバしてもらったんだよね」

「いいな~」


 笑い声とマグカップのふれ合う音。

 中には、同僚が二人。彩は廊下側に立ったまま、足を止めた。入る理由がなかった。

 この会社では、大概みんな下の名前で呼び合う。誠、葵、紫音・・・そして、大樹。給湯室の中でも、自然にその名前が呼ばれる。

 壁一枚。それだけなのに、自分はいつも外側にいる。

 自分は、ああいう風にできない。単に扉を押して、笑いながら混ざる。軽く相槌を打って、「見た見た」と言えばいい。それだけの事。


 多分。


 けれど、彩はいつも考えすぎる。タイミングを測って、言葉を選んで、結局、黙る。

 だから苗字で呼ぶ。


 佐藤さん。


 それが一番、安全だ。

 正直、その関係が羨ましくないわけじゃない。服装も自由。オープンな職場を目指そうと考えた支店長の意見には概ね賛成だ。それでうまく回っている。

 自分だけが、違う。それは、仕事だと線引きしたいためだ。プライベートと仕事は違う。否、そうしないとうまくできない自分。


 佐藤大樹。


 検索欄にその名前を入れる。

 表示されたアカウントを、少しだけ見つめる。

 迷ってから、タップ。


 集合写真。大勢の男女が肩を組んで笑っている。「毎年恒例キャンプ」。

 BBQ。焚き火。

 肉を掲げている笑顔。


 スワイプ。


 雪山。ゴーグルを上げた笑顔。髪は今より少し短い。

 今はハーフアップにできるくらい伸びている髪。


 職場では軽くまとめて、ジャケットを羽織る。

 服装自由の会社だ。ジーンズやTシャツ出勤の人もいるのに、彼はそこまで崩さない。


 けれど写真の中では。


 パーカー。ダウン。ラフなニット。

 Tシャツにジーンズ。


 海水浴。強い日差し。サングラスを少し持ち上げてキメ顔。


 スノボ帰りのアウトレット。仲間と並んで、自然に肩が触れている。

 アウトレットのインスタ映えな建物を背景にした自撮り。


 慣れたカメラ目線。


 飲み会の写真。

 女の子と距離が近い。

 

 別の投稿。

 また別の女の子と、くっついて笑っている。自然に。


 スクロールする指が、止まらない。


 都会的な街並み。

 ガラス張りのビル。

 ただ、スタバのコーヒーを持つだけの写真。

 ピンクの髪は今と同じ色。でも少し短くて、軽い印象。


 今より、少し若い。


 自由で。

 人の中心にいるのが似合う人。


 スマホを持つ手が、わずかに冷える。

 職場で見る彼は、ジャケット姿で、落ち着いた声で話す。「佐藤さん」と呼ぶたび、ほんの少しだけ距離を置く。

 みんなが「大樹」と呼ぶのを聞きながら、自分はその名前を使わない。使えない。


 でも。


 心の中では違う。

 大樹。

 声に出さないだけで、もう何度も呼んでいる。


 あの夜。

 バス停まで並んだ時も。

 ちゃんと隙間があった。


 写真の中では誰ともあんなに近いのに。


 あれは。


 距離を取られたのか。


 それとも・・・


 考えて、胸がざわつく。都合のいい解釈はしない。そんな自分勝手な事を夢見る年頃も通り過ぎた。


 スマホを伏せる。

 天井を見つめる。


 それでも、また手が伸びる。

 通知はない。

 当然だ。見に行ったのは、自分。


 画面の中で、大樹が優しく笑っている。人の輪の中心で。


 自分はいつも、その外側。それは昔から変わらない。それでいいと、思ってきた。


 ただ。


 そこにいる自分を、どうしても想像できない。彩は目を閉じる。


 大樹。


 声には出さない。


読んでくださってありがとうございます(*_ _)

ポイントを入れてもらえると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ