エピローグ
学園の門をくぐった瞬間、胸の奥がほっと緩んだ。
見慣れた石畳。
寮から漂うパンの匂い。
校庭を走る生徒たちの笑い声。
どれも前と変わらないはずなのに、今はまるで別の世界に思えた。
(……帰ってきたんだ)
そう思った瞬間、肩にそっと重みが乗った。
「リオ、ほら、ぼーっとして歩くと転ぶよ?」
フィアが呆れたように微笑む。
「油断するな。お前はすぐ危なっかしい」
セレナは口調は強いが、刀を持たない今日はどこか柔らかい。
「ちゃんと帰ってきて……よかった……」
エリスは頬を赤くして、僕の腕に触れたまま離れない。
「ねぇリオ、今日のお昼は一緒に食べよ?」
ミュリスはいつもの無邪気な笑顔で寄り添ってくる。
四人が自然に僕の隣を歩いている。
まるでこの位置が“元から決まっていた場所”みたいに。
かつては、僕の存在を測り違えられて
「無能」だと笑われた日々があったのに。
今は――
僕の隣には、僕を支えてくれた大切な人たちがいる。
(……本当に、みんなのおかげだ)
胸の奥の《完全適応》は、もう暴れない。
世界の均衡に耳をすませ、静かに寄り添うように動いている。
かつてのような恐怖はない。
恐れるべきは力ではなく、心を閉ざしてしまうことだったのだと、今ならわかる。
「リオ、今日の授業どうする? また前みたいに“わからないふり”するの?」
フィアが意地悪く笑う。
「いや……もう誤魔化さないよ」
僕は苦笑して答える。
「ほう。成長したな」
セレナがニヤリと目を細め、僕の肩を軽く叩く。
「……また一緒に、頑張ろうね」
エリスは嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうに言った。
「リオがいれば、どこでも楽しいよ」
ミュリスは僕に抱きついたまま、くるくると尻尾を揺らす。
(こんな日々が……また来るなんて思わなかった)
世界にはまだ火種がある。
精霊も魔族も、完全に手を引いたわけではない。
いずれまた何かが起きるかもしれない。
それでも、今だけは。
この日常を、胸いっぱいに感じたかった。
四人に囲まれながら、僕は静かに微笑んだ。
「次は……普通の学園生活を楽しみたいな」
その言葉に、四人が同時に笑った。
世界の均衡は揺れながらも、確かに進んでいく。
僕と、僕の大切な人たちと――
新しい日常の中へ。




