第44話:フィア・セレナ・エリス・ミュリス――四つの想いがリオを支える
世界が軋む音が、耳の奥を刺していた。
空は裂け、地面は脈打ち、僕の胸の奥では封印の欠片が暴れ続けている。
(止まらない……もう、僕じゃ止められない……)
視界が揺れ、色も形も混ざり合っていく。
まるで自分が“世界の中心にある亀裂”みたいだ。
動けば世界が歪む。息をすれば空が震える。
(全部……壊れる……)
その絶望が胸を締めつけた瞬間――
光が、差し込んだ。
フィアだった。
彼女は僕の真正面に立ち、全身から光を溢れさせる。
暴走魔力に触れた光は弾けながらも、それでも僕を包み込もうとしていた。
「リオ……っ、お願い、私を見て!」
フィアの光の結界が僕の暴走魔力を包み込み、暴走の速度がわずかに鈍る。
「どれだけ魔力が荒れてても……あなたは、あなたのままだよ!」
(フィア……)
その声だけで、胸の痛みがほんの少し弱まった。
次に、鋭い風が走った。
「リオに近づくな!」
セレナだった。
暴走に引き寄せられた“封印の残滓”のような黒い影が僕へ伸びるたび、
セレナが前に立って、それを斬り伏せる。
世界が崩れかけている中で、彼女だけは一歩も引かなかった。
「リオ、お前は戦ってる!
勝手な力になんて、負けるな……!」
刀を握る手は傷だらけなのに、動きは止まらない。
(セレナ……僕のために前に……?)
胸が揺れ、次の脈動が弱まった。
そして――
割れた空に向かって、強烈な光の結界が広がった。
エリスだ。
彼女は泣きながら、それでも王族結界を全力で展開していた。
「リオを……この世界から消させたりしない……!」
空の裂け目に、彼女の結界が重なっていく。
薄かった光が幾重にも重なり、破壊の理を押し返す。
「どうか……どうか、彼を返して……!」
祈りのような声が胸に響いた。
(エリス……そんな顔で……なんで……)
胸が熱く、脈動はさらに鈍る。
最後に、僕の背中に暖かい腕が触れた。
ミュリス。
震えながらも、僕の身体にそっと額を当ててくる。
「リオ……大丈夫……大丈夫だから……」
彼女の魔族の力が、僕の内側にある“魔族因子”を優しく包み込む。
封印の暴走と因子が引き裂かれそうになっていたのが、少しだけ繋ぎとめられた。
「あなたの中の魔族の力……私が押さえるから……
だから、帰ってきて……私たちの元に……!」
ミュリスの涙が、僕の背に落ちる。
(ミュリス……僕を……)
胸の苦しさが、少しずつほどけていく。
四人の声、光、力、想いが――
全部、同時に僕の“中心”へ届いた。
混沌とした暴走魔力の中に、細い道が引かれたようだった。
「リオ、戻ってきて――!!」
四人の声が重なる。
空が割れても、地が崩れても、
彼女たちの声だけは揺るがなかった。
胸の奥にあった暴走の渦が、
その声を受け止めるようにわずかに静まり始めた。
(……僕は、一人じゃない)
その確信が胸に灯った瞬間――
世界を揺るがしていた脈動が、少しだけ弱まった。
光が差し込み、裂けた空がゆっくりと閉じ始める。
彼女たちの想いが――僕を引き戻してくれていた。




