第43話:大陸が崩れ始める――リオの暴走と世界干渉
空から降り注いだ封印の鎖が、僕の胸に触れた瞬間だった。
世界が――歪んだ。
耳ではなく、骨の奥から響くような音。
空気そのものが裂けるような感覚。
目の前の景色が波打ち、光も影も揺れ始める。
胸の奥にある“欠片”が、脈動を無理やり引き上げられた。
ドクン、とても人間の心臓とは思えない音。
次の瞬間、身体の中心から白と黒の魔力が弾けた。
「っ……あああ……!!」
意識がぐらぐら揺れる。
制御しようとしても、何か巨大なものが内側から破裂しようとしている。
「リオ!!」
「離れないで! 光で抑えるから!!」
フィアの光が僕を包もうとする――が、光そのものが弾かれた。
「光が……効かない……?」
フィアが声を失う。
風が荒れ狂い、セレナが踏みとどまる。
「リオ! お前、これ……っ、魔力が外に溢れすぎてる!」
エリスは結界を重ねようとするが、
その結界が触れた瞬間にひび割れた。
「嘘……結界が……?」
ミュリスは震える声で呟く。
「封印と……リオの中の欠片が……干渉してる……
こんなの……暴走じゃ済まないよ……!」
地面が低く唸った。
競技場の床に、巨大な亀裂が走る。
「な、なんだ……?」
「地震!?」「結界が崩れてるぞ!!」
観客が悲鳴を上げる。
いや――これは地震じゃない。
(……僕の……せいだ!)
胸を押さえようとしたが、手が言うことを聞かない。
魔力が勝手に暴れ始める。
外へ外へと溢れ、世界の魔力循環そのものを乱していく。
遠くの空が――ひび割れた。
本当に、空が。
光の筋が縦に走り、空間が裂けるように揺れる。
(僕が……?)
風の流れが逆流し、
空に浮かぶ雲が砕けたように散る。
地面の魔脈が脈打ち、
周囲の魔導具が悲鳴のように鳴る。
(僕が……世界を……?)
遠くの聖堂で精霊の加護が崩れ、
魔族領の結界塔が軋み、紫の光が弾ける。
その瞬間、胸の奥で“声”が響いた気がした。
世界の底から聞こえるような声。
意思でも言葉でもないのに、確かに理解してしまう声。
『危険因子……排除対象……』
精霊の判断。
『均衡を乱す……封印せよ……』
魔族の決定。
それが重なるように降りかかってくる。
(僕が……危険因子……)
脳が真っ白になった。
(僕が……世界を……壊してる……?)
胸が痛い。
息ができない。
視界が揺れ、涙がにじむ。
僕が動くたびに、空間が揺らぐ。
僕が息をするだけで、魔力の流れが歪む。
(なんで……なんで……)
フィアが僕の手を掴もうとするが、触れた瞬間に光が弾かれる。
彼女はそれでも必死に叫ぶ。
「リオ! 戻ってきて! あなたはあなたでしょ!!」
セレナも必死に声を張り上げる。
「負けるな! お前が世界に負けるなんて絶対に嫌だ!!」
エリスは結界を張り直し、泣きながら手を伸ばす。
「戻ってきて……お願い……」
ミュリスの声は震えていた。
「リオ……怖がらないで……!
あなたは……そんな存在じゃない……!」
みんなの声が届いているのに――
封印の鼓動がそれを上書きしていく。
(僕が……壊してる……)
本当にその瞬間だけは――
自分の存在が、世界の“外側の災厄”に思えてしまった。
胸の奥がまた強く脈動する。
ドクン――!
世界がさらに揺れた。




