第39話:明かされる真実――リオの力の“本当の出自”
夜の裏道は静まり返っていた。
遠くで聞こえる結界の軋みさえ、今はただ不気味な風音に混ざっていく。
ミュリスに手を引かれながら走っているのに、胸の奥の脈動は重く沈む一方だった。
(どこまで逃げても……この感覚は消えないのか)
封印の欠片がじわりと痛みを帯びる。
この痛みは、ただの疲労や緊張ではない。
もっと深いところで動いている“何か”の反応。
「……リオ、止まろ?」
ミュリスがふいに足を止めた。
その声がかすかに震えていると気づいた瞬間、胸がざわついた。
「どうしたの、ミュリス」
「言わなきゃいけないことがあるの。
ずっと……伝えたかったけど、怖くて言えなかった」
月明かりに照らされた彼女の表情は、これまで見た中で一番“深刻”だった。
「リオの力……その本当の出自のこと」
心臓が跳ねた。
「前にも言った通り、あなたの中には“古代魔族王の欠片”がある。
でも、それだけじゃないの」
「……それだけじゃ、ない?」
自分でも驚くほど声が弱く震えた。
ミュリスは一歩近づき、胸の上にそっと手を置いた。
「リオの力はね……世界の理から外れてる」
息が止まる。
「世界の……理?」
「そう。
本来なら、すべての生命、すべての魔力は“世界の流れ”に従ってる。
精霊たちが作った均衡の上で生きてるの。
だけど――リオは、その外側にいる」
外側――
その言葉は、あまりにも重かった。
「あなたの魔力は、どの流派にも属さない。
精霊の加護も受けないし、魔族の根源にも染まらない。
たとえば……」
ミュリスは魔力を少しだけ指先に集め、
僕の胸の近くへ持っていった。
紫の魔力が触れた瞬間、
僕の中の“何か”がそれを吸い込み、飲み込んだ。
「ほら。
普通の人間にこんなこと……起きないよ」
(僕の中で……魔力を“消してる”?)
怖い。
本当に、怖い。
「リオの中にある欠片は、古代魔族王の力。
でもその器――あなた自身は、それ以上の存在なんだよ」
「……それ以上って……なんなんだよ……」
声が震え、喉が痛くなる。
ミュリスは唇を噛み、
それでも僕から視線を逸らさなかった。
「あなたは“世界が想定していない存在”。
だから精霊は恐れたし、魔族の上層は喜んだ。
そして……世界そのものがリオに反応してる」
(世界そのものが……僕を……?)
「世界にとっては、“外側”は異物なの。
排除するか、取り込むか。
どちらかに傾いた瞬間、均衡は壊れちゃう」
足元が揺れたような錯覚がした。
頭の奥で、低く唸るような音が響く。
(僕は……そんな危険な存在……?
本当に……誰かを壊してしまう……?)
息が荒くなりかけたその時、
ミュリスが両手で僕の頬を包んだ。
「でもね……私は知ってる。
リオは“優しい”って。
誰よりも優しくて、誰も傷つけたくなくて……
そのために苦しんでることも」
「……ミュリス……」
「力は関係ない。
世界が何を決めても、私はリオを“リオ”だと思ってる」
その言葉に、胸の奥の脈が少しだけ静まる。
ほんの一瞬――
救われたような気がした。
けれど同時に、
封印の奥がわずかに軋んだ。
ドクン……
(僕は……どうすればいいんだ)
世界の理から外れた存在。
排除されるか、王として奪われるか――
そんな場所に、自分が立っているとは思わなかった。
闇の中、
吐いた息だけが白く消えていった。




