第37話:魔族の評議会が動く――『王の器だ。迎え入れよ』
大陸の深層、闇の魔力が渦巻く領域――
そこに、魔族だけが踏み入ることを許された“古層の玉座”が存在する。
石柱には古代文字が刻まれ、紫黒の霧が地表を静かに満たしていた。
評議会の中心に浮かぶのは、ひとつの映像。
武闘祭でのリオの動き、魔法の再構築、巨獣を一撃で砕いた瞬間。
その場の空気は、精霊側とはまるで別物だった。
恐れではなく――期待が満ちている。
「これが人間の少年……? いや、あれはすでに人の範疇ではない」
「完全適応……間違いなく“王の血”の反応だ」
「欠片の覚醒が始まっている。
ならば我らの側へ迎えねばなるまい」
ざわめく評議会の中で、最も古い魔族が重く頷いた。
その姿は影に紛れ、輪郭すら定かでない。
「古代魔族王の力……あの揺らぎを忘れた者はいないだろう。
千年前、世界の均衡を左右した力が、いま再び目を覚ましたのだ」
「しかし――人間に宿るとは異例。
制御は可能か?」
「問題ない。
器が優れている。
あの少年は“闇”ではなく“調和”の体質を示している」
「つまり……」
「“王としての資質がある”ということだ」
玉座の周りがざわめきに満たされ、
やがてひとつの方向へ意見がまとまっていく。
「迎え入れよ」
「我らの後継者として」
「失われた王家の再興のために」
その言葉が重なった瞬間、
評議会の中央に紫の光が集まり、魔族特有の紋章が闇の中で静かに輝いた。
「人間の社会に身を置いているのなら……
こちらから“使者”を送るまでだ」
「少年が拒む可能性は?」
「拒まれても構わぬ。
いずれ傷つき、追い詰められ、理解する日が来る。
我らが“唯一の居場所”だということを」
その声音には、支配でも強制でもなく――
奇妙なほどの慈愛に近い感情が滲んでいた。
「……ならば決まりだ。
完全適応の器を、我らの王として迎える」
闇の霧が濃くなり、評議会が一斉に立ち上がる。
その瞬間――
大陸を流れる魔力がひそかに震えた。
精霊たちがリオの排除を決めた直後であることを、
魔族たちも察していた。
「精霊どもが騒ぎ始めたか」
「奴らは“危険因子”と呼ぶらしいな」
「ならば尚のこと、我らが保護すべきだ。
封印の罪を少年に背負わせるわけにはいかぬ」
「世界の二つの理が動き始めた。
誰が少年を手に入れるか……で未来が決まる」
最後に、評議会長が静かに命じた。
「至急、使者を送れ。
あの少年――リオを迎えに行く。
我ら魔族の“王候補”として」
紫の霧が渦巻き、闇の門が開いた。
その先にあるのは、人間の学園都市アルケディア。
少年の運命を巡り、
世界が静かに――しかし確実に、分裂していく。




