第36話:精霊評議会の決断――リオは“監視対象”から“抹消対象”へ
世界の深層――
大陸すべてを流れる魔力の海の奥底に、
人の目に映らない“精霊の座”が広がっていた。
光、水、土、風、炎。
五つの源流から形づくられた精霊たちが集い、
静かに揺れる魔力の柱を取り囲んでいる。
中心に浮かぶのは、
武闘祭で観測された魔力波形の記録。
その一部が震えていた。
黒い線が、周囲の魔力を引き裂くように現れている。
「……これが、あの少年の魔力か」
光の精霊が、淡い声で呟く。
その声には恐怖すら混じっていた。
「観測では、中級から上級……いや、
それ以上の魔法を瞬時に再現し、
巨獣を一撃で崩したとある」
「“完全適応”。
人の器で扱えるものではない」
「成長速度は常軌を逸している。
放置すれば、魔力循環そのものが破綻する」
精霊たちの声が、重く、鋭く響く。
炎の精霊が柱へ手を当てた瞬間、
リオの戦闘の記録が空間に展開された。
一撃で巨獣を砕く姿。
上級魔法を即座に模倣する光。
剣士の奥義を上回る剣。
記録であるはずなのに、
その魔力はなおも精霊たちを圧迫していた。
「……これを、このまま生かしておけると?」
土の精霊の声に、場が静まる。
光の精霊が目を伏せた。
「彼は“世界の理”の外側に存在している。
このまま成長すれば、均衡が崩れる」
「我らは千年前にも……同じ脅威を見た」
「古代魔族王。
あの災厄の再演を許すわけにはいかぬ」
風の精霊がひどく苦しげに呟く。
「彼を救うことは……できぬのか」
その問いに、誰も答えない。
長い沈黙の後、
炎の精霊が冷たく告げた。
「……判定を“抹消対象”へ格上げする」
空気が張り詰める。
「監視では遅い。
封印の揺らぎが進めば、世界そのものが危うい」
「同意」
「同意」
ひとり、またひとりと光が沈んでいく。
反対する声はなかった。
最後に光の精霊が目を閉じる。
「……あの少年に罪はない。
しかし、力は世界を壊す」
「ゆえに排除する。
これが“精霊の理”だ」
そして――
魔力の海へ、一つの影が落ちる。
「使いを送る。
学園へ潜入し、対象を探知せよ。
時が来れば……消しなさい」
光の波紋が広がり、
選ばれた精霊の使いが静かに姿を消した。
その行き先は――
リオがいる学園都市アルケディア。
世界は、ひそかに少年の死を決めた。




