第33話:上級魔法すら模倣――観客が理解不能の戦闘速度
帝国剣士を退けた直後、競技場の空気がまた変わった。
大気そのものが光に震えるような、鋭い魔力の波が押し寄せる。
(……これは)
脈動の質が違う。
光属性特有の“清浄さ”の中に、刺すような殺意が混じる。
視線を向けると、白い法衣をまとった魔術師が観戦席から飛び降りてきた。
教国の紋章が胸に刻まれている。
「乱入者……拘束する」
淡々とした声。
魔術師は杖を構え、周囲の光を集め始めた。
空中に巨大な魔法陣が展開され、
競技場の光が一点へ収束する。
(上級光魔法……!?
ここで撃つ気かよ!)
観客席から悲鳴が上がり、
セレナが歯を食いしばって叫ぶ。
「なにやってんだ……この魔術師は……!」
エリスの顔が青ざめる。
「危険すぎる……! リオ、避けて!」
光の魔法陣が全力で輝いた。
拘束の光帯――
上級“神聖束縛術”。
逃げ場はない。
空間そのものを光が封じる。
(ちょっと……さすがに避けられない……!)
だが次の瞬間、
視界の中で魔法陣が“形”として見えた。
外周の光脈の流れ。
術式構造。
魔力圧縮の方向。
解放のタイミング。
(…これ、分かる)
分析でも推理でもない。
理解が自動で流れ込む。
(この部分を補強して……ここを繋いで……効率を倍にして……)
何も考えていないのに、
脳が勝手に魔法陣を“再構築”していた。
胸の奥で完全適応が静かに、確実に脈打つ。
ドクン……。
そして――僕の指先に光の線が生まれた。
「……嘘だろ……?」
教国の魔術師が驚愕の声を漏らす間に、
僕は空中へ手をかざし、魔法陣を描いた。
教国の魔法陣と同じ形。
しかし、その線は濃く、速く、強く、
触れるだけで空間が震えるほどの密度を持っていた。
構築にかかった時間は――一瞬。
(こんなこと……僕は……したくないのに)
でも身体が勝手に反応してしまう。
完成した魔法陣が光り、
教国の光帯を飲み込むように展開された。
放たれた光が空を裂いた。
拘束の光帯は僕に届く前に霧散し、
僕の光がその上位互換として空間を染め上げた。
観客席がどよめく。
「今の……上級光魔法だよな!?」
「いや違う! あんな魔法、誰も使えない!」
「魔法陣……教国のより複雑じゃなかったか……?」
「なんだあれ……誰の魔法だ……?」
(うわああ……完全にやらかした……)
魔術師は膝をつき、信じられないものを見るように僕を見つめている。
「……再構築……?
一度見ただけで……?
そんな……馬鹿な……」
その動揺が、逆にこちらを追い詰めてくる。
(僕は……やっぱり普通じゃないんだ)
理解しながらも、どこか遠い感覚で胸が痛んだ。
その中で、ただ一人だけ違う反応をしている者がいた。
フィア。
震える肩を抱きしめながらも――
その瞳は、どこか誇らしげだった。
「……リオ……
やっぱり……あなたは……」
彼女は唇を噛み、涙をこらえながら微笑んだ。
「……光の魔法を……あれだけ綺麗に扱えるなんて……
そんな人、見たことない……」
その言葉は、騒然とした競技場の中で、
僕にだけ届くほど澄んでいた。
(フィア……)
心が少しだけ――温かくなる。
だが周囲の気配がそれを打ち消すように強まり、
次の脅威が迫っているのを肌で感じた。
(まだ終わらない……!)
胸の封印が、力の奔流に呼応するように脈動した。
ドクン――。




