第29話:学園最大の祭典“魔法武闘祭”開幕――リオは観戦組のはずだった
朝から学園は、いつもとは比べ物にならない熱気に包まれていた。
校舎の外壁には色鮮やかな旗が掲げられ、街のいたるところで露店が準備を進め、学生たちの声が高く響いている。
昼から始まる――魔法武闘祭。
学園全体、いや国をまたいで注目される一大行事だ。
「お祭りみたいだな……」
寮の階段を降りながら呟くと、
すでに制服ではなく競技用のローブに身を包んだフィアが待っていた。
「リオ、あんたも楽しむ気になった?」
「観戦だけならね。僕は出ないし」
「そう言ってると、絶対トラブルに巻き込まれるのよね……」
フィアが何か言いたげにため息をついた。
セレナも刀を背負って現れる。
「私は二回戦からだ。見ていろ、必ず勝ち上がる」
「うん、怪我だけはしないようにな」
「……お前に言われると、なんだか複雑だ」
エリスは白いローブ姿で微笑み、
ミュリスは元気に手を振りながら皆に続いた。
四人が出場し、僕だけが観戦する。
本来なら、これが“正しい形”のはずだ。
(僕は……戦いなんてしたくないし)
胸に手を当てる。
封印の脈動は今日も弱く続いている。
(静かに過ごせるなら、それでいいんだ)
そう思いたかった。
開幕式が始まると、学園都市が一斉に歓声に揺れた。
広大な競技場には、各科の代表たちが整列する。
観客席は早くも満席で、熱気が上空まで上がっていた。
「すごい人数だな……」
観戦席の端で座りながら、僕はその光景に圧倒されていた。
フィアは光属性の煌びやかな魔力で開幕戦を圧勝。
観客が沸き立ち、光が花のように舞う。
セレナは風をまとった剣技で相手を翻弄し、誰より滑らかに勝ち進む。
エリスは聖属性の結界を展開し、守りながら相手の弱点を突く戦法で魅了した。
ミュリスは……参加してはいけないと釘を刺されていたのに、
なぜか紛れ込んで軽い魔法戦で勝ってしまった。
「ミュリス、なんでいるの……」
「えへへ、応援しに来たら流れで……」
「流れで出られる大会じゃないんだけど!?」
笑い声が零れる。
それが嬉しかった。
こういう日常を、守りたい。
心の底からそう思っていた。
――だが。
その裏で、僕にはまったく見えない“別の戦い”が進んでいた。
競技場の外周。
屋根の上。
観客席の影。
そこに、三つの勢力が動いていた。
「対象の少年はどこだ」
黒衣の者が結界越しに目を光らせる。
「帝国はすでに学園内部に潜んでいる。情報を出せ」
鎧の男たちが小声で密談する。
「魔族の気配……多すぎ。これ……全部リオのせい……?」
遠くの高台で、使い魔たちがざわめく。
教国、帝国、魔族。
それぞれが水面下で情報を奪い合い、
互いに干渉し合い――結界がずっと揺れ続けていた。
その揺れが、胸の奥に微かに刺さる。
「……まただ」
胸に手を当てると、
封印の欠片が静かに、しかし確かに反応していた。
脈動は小さい。
痛みも弱い。
でも――
(この空気……嫌な気配)
観客席のざわめきの中で、僕だけがその“別の気配”を感じていた。
(なんで……こんなに胸がざわつくんだ?
誰かが……何かが……僕の名前を呼んでいるような)
言葉にできないまま、胸の奥でその感覚が渦になる。
そして、確信に変わっていく。
(――また、何かが動き始めてる)
この日、僕はまだ知らなかった。
この祭典の舞台が、
たった一人の“黒髪の少年”を巡る争奪戦へと変貌しつつあることを。
けれど胸の脈動だけが、はっきりと告げていた。
(静かに観戦するだけのはずだったのに……
――また巻き込まれるんだろうな)
遠くの空で結界がかすかに揺れた。
その震えが、僕の身体の奥まで響いていた。




