第25話:フィアの直感、セレナの警戒、エリスの調査、ミュリスの恐れ
その日の放課後、学園は夕陽に染まりながらもどこか落ち着かなかった。
空気が微かに震え、結界の膜がかすかに波打っている。
四人の少女は別々の場所にいた。
しかし彼女たちの胸を満たす感情は、同じ“不穏”だった。
●フィア――光の揺らぎを読む者
フィア・ルミナリエは、研究塔の頂でひとり杖を握っていた。
夕空に浮かぶ結界の膜が、淡い光を散らしている。
しかし今日は、その光がどこか歪んで見えた。
「……この乱れ、自然じゃない」
彼女は光魔法を展開し、結界の層を細かく観察する。
通常なら均等に広がるはずの光の流れが、
まるで何者かに触れられたように揺れている。
(影の魔力……? でも、これはもっと冷たくて……狙いがはっきりしてる)
胸がざわつく。
リオが暴走した時に感じられたあの“圧”とは違う。
これは外から侵入しようとする“他者の力”。
「リオ……やっぱり何かが近づいてる」
風に乗った光の揺らぎが、彼の名を告げているように思えた。
●セレナ――剣に伝わる“殺気”
セレナ・ヴァルクレアは寮の裏手でひとり刀を磨いていた。
金属に布が触れるたび、刃が淡く光を返す。
その瞬間――
「……っ」
刃が震えた。
風を読むことに関して、セレナの感覚は誰より鋭い。
彼女の周りを吹き抜ける空気が、一瞬だけ緊張した。
(殺気……しかもかなりの腕だ)
学園外の森。
その奥から、鋭い刃のような魔力がかすかに漏れている。
普通の生徒では気づけないほど微細な、しかし確かな敵意。
「来てる……誰かが」
セレナは無意識に刀を握りしめた。
(もし学園に誰かが侵入するつもりなら……
その“目的”は、リオしか考えられない)
胸がきゅっと痛む。
「リオ……私が守る」
夕日を浴びた彼女の横顔は、静かな決意に満ちていた。
●エリス――王家の情報網が捉えた異常
王宮の特務通信室。
エリス・フォン・ルミナスは、机に並ぶ魔導通信石を前に顔色を変えていた。
『帝国軍内部で動きあり。
ガルディナの監視兵が複数、アルケディア学園付近へ潜伏』
「……どうしてそんな……」
通信担当の術士が声を潜める。
『どうやら“黒髪の少年”が関係しているとのことです』
エリスの胸が跳ねた。
(また……リオが……)
彼は何も悪いことをしていない。
ただ生きているだけなのに。
それなのに、世界が彼を狙う。
怒りと不安が入り混じり、手が震えた。
(帝国まで……! そんなの、リオが耐えられるわけない……)
「……追加の結界布陣を要請します。
今すぐ学園周囲の監視を強化して」
『しかし殿下、これは王族の私的判断になりますが……』
「構わないわ。
リオを……皆を守るためよ」
強い瞳で命を下す。
王家の力を使うことに迷いはなかった。
●ミュリス――“監視強化”の命令と恐怖
寮の影。
ミュリス・ナハトは、人目を避けてひとり膝を抱えていた。
魔族評議会からの通信が、胸の奥を重くする。
『少年の行動を逐一報告せよ』
『監視を強化する』
『決断の時は近い』
「……いや……やだ……」
リオのことを“監視対象”と言われるのが怖かった。
彼を“危険物”扱いされるのが、もっと怖かった。
(リオは……そんな存在じゃないのに……)
小さな身体が震える。
胸の奥の魔族の血が、彼の危険を告げているのではない。
――彼を失う予感を告げていた。
「やだよ……リオがいなくなるなんて……絶対に!」
ミュリスは目元を袖で拭った。
(守る……何があっても)
●四人が集う夕暮れ
放課後、たまたま学園の中央庭園で四人は鉢合わせた。
偶然――けれどそれは、避けようのない必然のようにも思えた。
「――あなたたちも……感じてたのね」
フィアの言葉に、エリスが静かに頷く。
「帝国が動いてる……。
しかも学園に向けて」
「森の奥に、明らかな殺気がいる」
セレナが剣の柄に手を添える。
「魔族の監視も……増えてる」
ミュリスが怯えたように呟く。
四人は互いの情報を照らし合わせるまでもなく――
一つの答えに行き着いた。
「「「「……リオを中心に、何かが動いている」」」」
風が強く吹き、木々がざわめく。
不吉な気配が、確実に学園を取り囲み始めていた。




