其ノ六 神器の力、絆の勝利
霞ノ郷を発つ、その朝
一行は霞王に別れを告げ、山を下り始めた。
朝日が山々を照らし、鳥たちの声が澄んで響く。
「やったああああ!」
隼人が突然叫んだ。
「俺たち、やり遂げたぞ!」
「うるさいぞ、隼人」
蒼馬が笑いながら言う。
「でも……本当に、よくやった」
蓮も笑う。
「ああ。みんな、よく頑張った」
紗江は新しく手に入れた鏡『瑠璃天糸鏡』を見つめていた。
「これが……私の神器」
鏡には、笑顔の自分が映っていた。
仲間たちと、戦いを乗り越えた自分が。
「紗江の鏡、すげえきれいだな」
隼人が覗き込む。
「ありがとう。みんなのおかげ」
紗江が微笑む。
葵は黙って前を歩いていた。
腰には、時を断つ刀・紫皇刀。
(この力で、紗江を守る)
振り返ると、紗江が笑っている。
その笑顔を見て——葵も、小さく笑った。
清之助が後ろから歩いてくる。
「皆様、本当にお疲れ様でした」
「清之助、お前も大変だったな」
蒼馬が肩を叩く。
「留守を守るのも、戦いだ」
「いえ……私は、ただ待っていただけで……」
清之助が俯く。
「でも、お前がいてくれたから、俺たちは安心して戦えた」
葵が言う。
「それは、とても大切なことだ」
清之助の目が、潤んだ。
「……ありがとうございます」
前夜――夜鴉の本拠
玄斎の前に、冥が跪いていた。
「何……?」
玄斎の声が低く響く。
「葵たちが、霞ノ郷に向かった、だと」
「はい」
冥が答える。
「厄介なことになった……」
玄斎が立ち上がる。
「霞ノ郷で神器を手に入れれば、私の冥幻は効かなくなります」
冥が、目を細めた。
「急げ、皆を連れてすぐに霞ノ郷へ向かえ!」
「御意」
冥が闇に消える。
玄斎は窓から月を見上げた。
「……間に合えば、……よいが」
山道――昼過ぎ
一行は順調に山を下っていた。
だが――
葵が突然立ち止まった。
「……来るぞ」
「え?」
紗江が振り向く。
その瞬間――
黒い影が、四方八方から降り立った。
夜鴉の忍び、数十人。
その中心に、冥が立っている。
「……葵。」
冥の声が低く響く。
「虹輝の神器が揃う前に、決着をつけるつもりだったが……」
「すでに七つが揃っているとはな……」
「冥……貴様か」
「だが、神器があろうとも――貴様の命、ここで絶つ」
冥が手を上げる。
夜鴉の忍びたちが、一斉に襲いかかる。
「!」
蓮が扇「翠水扇」を開く。
一振りすると、強烈な風が吹き荒れた。
うわっ!」
夜鴉たちが宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「すげぇ! 蓮、やるじゃん!」
隼人が鎖「碧風鎖」を振るう。
鎖が風のように動き、夜鴉たちの足を絡め取る。
「動けないだろ!」
隼人がにやりと笑う。
「そこだ!」
蒼馬が槍「黄雷槍」を突き出す。
雷が弾け、焦げた匂いが辺りに漂う。敵が次々と地に崩れ落ちた。
「これが、神器の力か……」
蒼馬が驚く。
「すごい……」
無刄が双刃「紅蓮刃」を抜く。
「来い」
夜鴉たちが襲いかかる。
無刄が紅蓮刃を振るうと、紅蓮の炎が地を這い、闇を裂いた。
「ぐああっ!」
炎に包まれた者たちが、転げ回りながら後退する。
「無刄、お見事!」
お蘭が簪「橙月華」を抜く。
月の光が刃となり、夜鴉たちを次々と薙ぎ払った。
「お蘭も、強くなったな」
無刄が笑う。
「そうね」
お蘭が微笑む。
紗江が鏡「瑠璃天糸鏡」を構える。
「これを……どう使うの?」
夜鴉が紗江に襲いかかる。
「紗江!」
葵が声をかける。
紗江は目を閉じた。
(心を映せ……)
鏡が光る。
次の瞬間――
夜鴉の目の前に、恐ろしい幻影が現れた。
自分が最も恐れるもの。
「うわああああっ!」
夜鴉が恐怖に怯え、慌てて逃げ出した。
「……これが、瑠璃天糸鏡の力」
紗江が驚く。
「紗江の瑠璃天糸鏡はある意味、無敵だな」
蓮が笑う。
葵が太刀「紫皇刀」を抜く。
冥が立ちはだかる。
「冥……お前のお陰で、私たちは強くなれた。心の繋がりもな。礼を言わせてもらうぞ」
「来い」
葵が構える。
冥が幻影を作り出す。
だが――
葵は動じない。
「もう、お前の幻は効かぬ」
葵が斬りかかる。
黒紫の刃が、冥の短剣を弾き飛ばした。
「なっ……!」
冥が驚く。
神器の力……いや、絆の力か……
ここまでとは……」
葵が冥の首に刃を突きつける。
「終わりだ」
だが、その時――
冥が苦し紛れに煙玉を投げた。
白い煙が辺りを包む。
「くっ……!」
葵が視界を失う。
冥が葵の背後に回る。
短剣が、葵の背中に迫る。
「葵様!」
お蘭が叫ぶ。
その瞬間――
隼人の鎖が冥の腕を捕らえた。
「させないよ!」
蓮の風が煙を吹き飛ばす。
蒼馬の雷が冥を打ち倒す。
無刄の炎が冥を包む。
紗江の鏡が冥の心を映す。
冥は、自分の過去――裏切られ、捨てられた記憶を見た。
「うっ……」
冥が膝をつく。
葵が刃を構える。
「これで……終わりだ」
刃が、冥の面を斬り裂いた。
面が割れ、冥の素顔が現れる。
若い男だった。
傷だらけの顔、悲しみに満ちた目。
「……なぜ、殺さぬ」
冥が呟く。
「殺す理由も、もうない」
葵が刃を納める。
「お前は、玄斎に利用されているだけだ」
「……」
冥は何も言わなかった。
やがて、立ち上がり、一言も発さずに夜鴉たちを連れて闇に消えた。
戦いの後
一行は、疲れた様子で座り込んでいた。
「やったな……」
蓮が笑う。
「ああ。俺たち、勝ったぞ」
隼人が拳を突き上げる。
お蘭が微笑む。
「みんながいたから勝てた」
無刄が言う。
「そうだな」
蒼馬が頷く。
紗江が涙を拭う。
「みんな……ありがとう」
葵が紗江の頭を撫でる。
「紗江も、良くやったな」
清之助が少し離れた場所から、その光景を見ていた。
(素晴らしい)
(こんなにも強い絆があるなんて……)
清之助は、心から彼らを尊敬した。
江戸へ
一行は再び歩き出す。
夕日が、長い影を伸ばしていた。
「さあ、江戸に戻ろう」
葵が言う。
「ああ!」
みんなが笑顔で頷く。
「加賀屋の女将さん、心配してるだろうな」
紗江が笑う。
「きっと、たくさん仕事が溜まってますよ」
お蘭が笑う。
「頑張らないとね」
隼人も笑う。
その笑い声が、静かな山道にいつまでも響いていた。
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