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第97話 戦に向けての準備

〈帝国宰相マクベス視点〉


 火龍があしらわれた玉座に座するヴィクトール皇帝陛下がオレンジがかった金色の髪を振り乱しながら仰った。


「四騎士トーマス・ウェイドと同じく四騎士ヴェスパシアン・ショウに命ずる!トラヴェルセッテ山脈の西方、バロッサとシュマールの国境に合わせて6万の兵を起こし、いつでも侵略できるように準備しろ!」


 トーマスとヴェスパシアンは了承の返事をする。


 この両名の率いる軍は、シュマール王国の内乱によって生じた隙を突く為の軍である。現在シュマール王国は王弟エイブルの反乱によって、インゴベル国王は王都より北西に追い出される形となった。


 つまり国が二分されたにも等しい。


 そしてこれを機に各国はシュマール王国に攻撃を仕掛けるだろう。一番動くと思われる国がバロッサ王国だ。


 インゴベル国王は王都より北西へ逃げたが、その更に北西にはバロッサ王国の領土がある。つまりインゴベル国王は南東に王弟エイブル、北西にバロッサと挟まれた形となる。


 バロッサは、シュマール王国の領土を侵略する絶好の好機なのだ。そしてバロッサが動き出せば今度は我々が動き出す。シュマール王国の領土とバロッサ王国の領土を侵略する。これと同じ動きをハルモニア神聖国もするだろう。


 一国の兄弟喧嘩が、まさか世界を巻き込む大戦に突入するなど、昔の人間ならばこんな話を信じないだろう。


 この大戦によってインゴベル国王は恐らく表舞台から降りる。しかしその終わった後、力を持つのがハルモニア神聖国であると我々帝国は判断を下した。


 それがあの魔の森の存在である。


 先のバーミュラー侵攻が失敗に終わったのはハルモニア神聖国のせいである。もしかするとハルモニアは王弟エイブルと密約を交わし、今回の大戦ではシュマールの領土を侵略せず、バロッサの領土を侵略する可能性もあった。


 そこで皇帝陛下はもう一つ任務を与える。


「そして四騎士ドウェイン・リグザードに命ずる。ハルモニア神聖国の支配する魔の森にて7千の兵を引き連れ、三大楽典のリディア・クレイルを撃破せよ」


 熊のような体格をしたドウェインは、声を発した。


「御意に」


─────────────────────

─────────────────────

 

〈セラフの父エイブル視点〉

 

 想定の範囲内ではある。


 インゴベルがロスベルグに逃げ仰せた。そしてその妻のイナニスを捕らえた。その娘マシュは現在行方不明であるが、捕まえるのも時間の問題だろう。


 私からわざと暗君インゴベルの捕縛作戦の情報を漏らし、奴が王都を脱出できるように取り計らってもよかった。


 国王が民を置いて逃げ出す。


 その様を見られてとても愉快だったが、しかし本意としてはシュマールの領土を侵略されてしまう恐れのあるこの作戦に、私は難色を示していたのだ。


 だから自分からインゴベル派閥に私の作戦を漏洩させることはしなかった。しかし、情報が漏れた。


 ──一体誰が?


 六将軍改め、四大将軍のカイトスが漏らしたのはわかっている。


 ──しかし、その前から情報が漏れていた……


 最も密偵だと疑わしかった四大将軍のヒクサスをこちら側についた時からつぶさに監視していたがそんな様子はなく、インゴベル派閥の筆頭であるバルカをもヒクサスは殺している。


 ──となると裏切り者は……


 私はウィンストン・ヴォネティカットに目を合わせる。ウィンストンは言った。


「帝国との国境、トラヴェルセッテ山脈の西方にゴルドー・グランシオン。同じく帝国との国境トラヴェルセッテ山脈の東方にはロバート・ザッパ、ハルモニア神聖国との国境に近い都市トランボにはヒクサス・ロクスとバルカ将軍の残党。インゴベルのいる北西ロスベルグにはカイトス・リンゼイとフースバル・テイラーの配置が確認されたとのこと……ん?何か?」


 書類から顔を上げたウィンストンは、私に問うた。


「いや、気にするな……」


「ヌーナン村はどうするの?兵は出せないわよ?」


「下らんモノの為に兵など派遣できるわけがないであろう?下らんモノには下らんモノをぶつける。それで十分だ」


「あら、そう?」


 その時、この王の執務室の扉を叩く者が現れた。ウィンストンは例のごとく姿を隠す。

 

「入れ」


 執務室が開かれると、衛兵が入室し、報告する。


「元王女、マシュの捜索をしていたAランク冒険者ミルトン・クロスビーとそのパーティー達が帰還致しました!」


 マシュを捕らえたか。


「わかった。丁重に扱うように言って聞かせろ」


 マシュ。我が息子ハロルドの花嫁としては、申し分ない血を有している。


「そ、それが──」


 衛兵が続けて口を開こうとしたが、扉の外が何やら騒がしい。そして執務室の扉が、今度は荒々しく開かれた。


 帰還したばかりのミルトン・クロスビーが膝を曲げてこの執務室の扉をくぐってきた。無理矢理入るミルトンを制止させようと衛兵が2人がかりで止めていたが、ミルトンは意にも介さない。先ほどまで私に報告をしていた衛兵を横切り、ミルトンは私の前に立った。


 私は衛兵に指示する。


「心配いらん。お前達は下がっていろ」


 3人の衛兵が執務室から出ていったのを確認してから私は尋ねる。


「何のようだ?」 


「マシュ王女の居場所はわかったが、捕らえ損ねた」


「は?」


「ウィンストン、いるんだろ?出てこいよ?」


 ウィンストン・ヴォネティカットが姿を現した。ミルトンに微笑みながらウィンストンは尋ねる。


「何か用?」


「ケルベロスが言うことをきかなくなったぞ?」


「ん?」 


「とぼけるな。今回の件、お前が関わっているんだろ?」


 ウィンストンはまだ余裕な雰囲気で、ミルトンに話の先を促す。 


「続けて?」


 ミルトンは私に視線を合わせてからウィンストンに視線を戻して尋ねた。


「良いのか?聞かれてしまっても?」


「ええ、構わないわ」


「王女マシュを逃がしたのはお前だろ?」


「何故そう思うの?」


「お前らの狙いが何なのか知らねぇが、マシュの逃げた先、小都市バーミュラーに化け物がいたぞ?」


「化け物……?」


「ああ、あの殺気はお前ら四執剣よんしっけんの誰かに違いねぇ。ケルベロスが言うことをきかなくなったのもお前らの誰かがバーミュラーにいたからだ」


 よんしっけん?何のことだ? 


 ウィンストンは暫く考えを巡らせてから言った。


「…私達は、関係ないわ……」


「じゃあ誰が?」


 ウィンストンは殆ど独り言のようにして呟いた。


「ランディル…ランディル・エンバッハの仕業ね……」


「は?」


 ランディル・エンバッハは放蕩の魔導師と呼ばれている存在である。


 私は言った。


「説明しろ」


 ウィンストンは私とミルトンに説明した。


「ランディルは放蕩の魔導師と呼ばれているけれど、正確に言えば龍の使いね。私達の計画を常に邪魔してきた……」 


「龍の…」

「…使い?」

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― 新着の感想 ―
各国の思惑に数奇な運命の出会いと、伏線が絡まってきてだんだんよく分からないことになってきたと感じました(汗) みんながみんな勘違いしているだけで、誰も状況を理解してないせいかな? ここは是非、セラフさ…
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