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第95話 ご褒美

〈セラフ視点〉


 封鎖が解除され、小都市バーミュラーに多くの者が出入りするようになった。僕らも直ぐにヌーナン村へ帰ろうかと思ったが、メイナーさんは「これは解除すると見せ掛けて、少し離れたところで検問を張っている可能性もありますね」と言って、僕らは時間を置いてからバーミュラーを出ることになった。


 僕とジャンヌはまだ捜索の容疑者である可能性が高かったので、メイナーさんの指摘に乗った。しかし、メイナーさんは別に容疑者でもないのにどうしてそんなにも慎重なのだろうかとも思ったが、確かに、自分の店が襲われたのだから何か目をつけられ、更なる妨害をされる危険性もなくはない。 


 僕はそう結論付けて、ジャンヌと共にメイナーさんのレストランの復旧を手伝った。

 

 粗方復旧の目処が立ったところで、スミスさんの買ってきた食材で夕食を作ることとなった。僕はその食材の中に牛肉があるのを発見する。


 もしかしたらまた粗暴な兵士やヌーナン村までの道中で野盗に襲われるかもしれない。だから僕が調理をして、それを皆に食べてもらい、バフをかけられればと思った。


「あの、この牛肉、少しだけ僕が調理に使っても良いですか?」


 メイナーさんは言った。


「ええ、構いませんよ?」


 僕はジャンヌと共に厨房へと向かった。 


「ねぇジャンヌ?この牛肉をこの位の太さに切ってくれる?」


 僕は親指と人差し指で、肉の厚さを示した。ジャンヌは言った。


「か、かしこまり…ました……」


 ジャンヌの様子が少しだけおかしかった。僕は尋ねる。


「ん?どうかしたの?」


「えっと……そのぉ……」


 ジャンヌはソワソワとしていた。何か言いたいことがあるのに言いづらそうにしている。


「何か言いたいことがあるなら言ってみて?」


 僕は首を傾げて、ジャンヌの目を見た。するとジャンヌは躊躇いがちに言った。


「セ、セラフ様のご要望通りに…その……お肉を切ることができたら……」


「できたら?」


「私の頭を撫でてはくれませんか?」


 ん?ジャンヌさん?


 僕は一応尋ねた。


「ど、どうしてそんなことを?」


「申し訳ございません!!出過ぎたことをお願いをしてしまって!!」


「ち、違うよ!ただどうして頭を撫でてほしいのかを訊きたかっただけだよ!僕はジャンヌのことをもっと知りたいから!!」


 ジャンヌは僕の言葉を受けて何故か目を潤ませた。そしてムズムズと口を震わせてから述べる。


「セラフ様に良い子、良い子してもらいたいのです……」


「えっと、そうすればジャンヌは嬉しいの?」


「はい!とっても!!」


「わ、わかったよ……」


 僕はジャンヌの頭に手を伸ばそうとしたが、ジャンヌは言った。


「セ、セラフ様!まだ私はお肉を言いつけ通りに切っておりません!!」


「あ、あぁ!そうだったね!?でも頭を撫でるくらいいつでもできるよ?」


「あぁ、なんたる寛大な御心なのでしょうか……ですが、セラフ様?ご褒美で頭を撫でて頂く方が私は、その……特別な感じがして……」


 ジャンヌがクネクネとし始めたので、僕は言った。


「じゃ、じゃあお肉を切ってからね!」


 ジャンヌは歯切れの良い返事をして僕の支持通りに風属性魔法を行使してお肉を切った。


「そうそうこんな感じ!!ありがとう!!」


 僕はジャンヌに目を合わせると、ジャンヌは僕の前に跪き、上目遣いとなって僕の頭なでなでを待っていた。


 僕はジャンヌのアッシュブラウンの髪に手を添えた。その瞬間ジャンヌはビクリと身体を反応させる。


 僕ら以外誰もいない静かな厨房。僕はなんだか緊張してしまって、普段リュカやオーマにやっているなでなでをなかなかできないでいた。するとジャンヌが頬を紅く染め、潤んだ瞳を上目遣いにして僕に吐息混じりにこう言った。


「セ、セラフ様…は、早く……♡」


 語尾の♡は僕のイメージだ。何だか急にいやらしいことをしているような雰囲気となってしまった。


 ──ええい!こうなりゃやけだ!!


 僕はジャンヌの頭を撫でた。


「ぁ……うぅ……」


 何かに苦しむような声を吐息混じりに漏らすジャンヌさん。僕は思った。


 ──あれ?これいつまで撫でれば良いんだ?


 リュカとオーマにしている時はどのくらいの時間やっていたっけ?彼女達より短いとジャンヌが不満を抱いてしまう恐れもある。だからなるべく長く撫でた方が良い筈だ。


 しかし次の瞬間、メイナーさんやスミスさん、シェフと店長さんの4人が厨房へと入ってきた。


「そういえばセラフ君──」


 僕はジャンヌの頭に手を添えながら、4人の方を向いた。4人は黙り、何か見てはいけないものを見てしまったかのような表情をして、厨房から出ていった。


「ち、違うんです~!!変なことをしていたわけじゃないんです!!」


 僕はメイナーさん達を追いかけた。何とか誤解を解くと、メイナーさんは醤油の瓶を掲げた。1瓶だけ無事であったことを僕らに知らせようとして厨房へ入ってきたようだ。


 僕は提案する。


「じゃあこれで、ステーキを作ります!!」


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〈マシュ王女視点〉


 今朝、このレストランに兵士が来た時には、肝を冷やした。ファーディナンドは常に剣の柄を確め、いつでもそれを抜けるように緊張状態を保っていた。


 しかし兵士達の目的は食料の確保であり、このレストランに私がいるなんてことは、思ってもいなかっただろう。


 もう封鎖も解除され、強制的な捜索は中止されたとのことだ。


 しかし、今までの街の騒ぎや不平を言う民の声が私の心を締め付ける。メイナー氏やファーディナンドは黙っていたが、私を捜索する為に、多くの人が傷付いたことだろう。


 このレストランに訪れた兵士達の行動を見ればわかる。きっと捜索と言いつつも、暴行や虐待のようなことが行われていた筈だ。ファーディナンドやメイナー氏の様子を見てもそれがわかった。


 しかし小都市の封鎖も解除されたとのことなので、これ以上誰かが傷つくことはないのだろうと私は少し安堵した。


 今まで王女としてたくさんの人前に立ってきた。その者を見れば誰がお父様の派閥で、誰が叔父上の派閥かがわかる。お父様の派閥に属している者でも、私をただの駒としてしか見ていない者や甘言を口にし、私を利用しようとする者もわかるようになった。

 

 お父様やお母様以外で私のことを本当に思ってくれる者はバルカやファーディナンドとメイナー氏くらいである。


 ──あと、セラフとジャンヌも…あぁ、でもジャンヌはセラフがそうしているからそうする、みたいな感情かな?


 するとノックが聞こえた。


「どうぞ」


 扉よりファーディナンドとメイナー氏が姿を現す。


 メイナー氏は言った。


「失礼します。殿下、夕食のご準備ができました」


 もうそんな時間か。メイナー氏は続けて言った。


「つきましては、階下にいる者達のご紹介をさせて頂きます」


「紹介?」


「はい。今夜、殿下とファーディナンドは私達とヌーナン村へ向かって頂きます。そしてその村の宿屋で殿下とファーディナンドには少しの間、働いて頂こうかと考えております」


「え、宿屋で働く?」

 

 私の反応を気にしてか、ファーディナンドは言った。


「や、やはり殿下が働くのは──」


 私は言った。


「働くわ!!働かせて下さいませ!!」


 一度、お店の従業員を経験してみたかったのだ。


 私の反応を見てメイナー氏は驚きと安堵の声を漏らし、口を開いた。


「提案を受諾して頂き、誠にありがとうございます。階下にはセラフ君が来ております」


「え?セラフが!?」


 私は何故だか、心を踊らせた。


「セラフ君は、殿下とファーディナンドが働く予定の宿屋の副店長なのでございます」


「え!?そうなのですか!?」


「はい。ですから既に知った仲ではありますが、改めて私の方からセラフ君達にご紹介したいのです」

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