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第94話 憎しみの感情

〈セラフ視点〉


 メイナーさんのレストランの清掃を手伝った。メイナーさんやここのレストランのシェフ、それと店長のお姉さんは兵士達に暴行を受けたようだが、ダメージは殆どない。


 僕は心配したが、メイナーさんもここのシェフも、店長のお姉さんも僕の料理を味見して食べていたことを思い出す。


 僕はホッとしたが、仮にこのような状況があと何日も続くようであれば考えなければならない。


 この綺麗なレストランが荒らされていた光景とメイナーさんやシェフが暴行を受けたのを知った瞬間、僕は始めに心配をしたが、次に押し寄せた感情は憎悪だった。このような行いをした者達に憎しみの感情を抱いたが、僕はそれをぶつける対象を具体的には知らない。だからか、心配する気持ちが先んじて、この憎しみは徐々に消えていった。


「セラフ君、このようなことに巻き込んでしまって本当に申し訳ありません」


 メイナーさんが上の階から下の階へと下りてきた。上で少し事務作業をしていたとのことだ。


 僕は言った。


「いいえ、どうせ街は封鎖されてますし、僕らの買い物も済んだところなので、やることがこれといって何もないんですよ」


 メイナーさんは、僕に申し訳なさそうな表情を見せる。


「お心遣い、感謝申し上げます……」


 メイナーさんはそう言って、自分も店内の整頓に着手する。僕は尋ねた。


「あれ、スミスさんは?」 


「スミスなら、街へ赴いて食料を調達しておりますよ。この封鎖状態からして、どこのお店も高値で食品を売却していると思いますが、我々が食べる分を何とかして手に入れねばなりません。勿論、セラフ君やジャンヌ殿の分も買い付けに行っていますのでご安心ください」


「そんな、僕らの分まで……」


 正直言って、僕らはジャンヌの魔法でいつでもこの封鎖された小都市から抜け出すことが可能だ。


 メイナーさんの気遣いに罪悪感を抱いている途中で、そのジャンヌがここへ帰ってきた。


「セラフ様……」


 僕はメイナーさんに会釈してジャンヌの元へと向かった。


「どうだった?」


「はい。直にこの封鎖状態は解除されるでしょう」


 僕は安堵した。


「そっか」


 そして続けて尋ねる。


「結局、誰を探していたの?」


 ジャンヌは答えた。


「…それが、何人かに尋問をしたのですが、木っ端の兵士達は男女の2人組であることしか知らされていなかったのです。その兵士達を統率する部隊長と都市長ぐらいしか知らないようでした」


 ジャンヌは少し間を置いてから続けて説明する。


「その部隊長に話を訊こうと思った矢先に、ここバーミュラーの騎兵隊隊長であるアクセルという者が、粗暴な兵士達を捕らえるとのことでしたので、暫くその様子を見て退散しました」


 聞いたことのある名前だった。


「アクセルさんって誰だっけ?」


「ヌーナン村にも訪れたことがある者と記憶しております」


「ああ、あの人か!?」


 僕はリュカを利用して大量の帝国兵を殺してしまったことに罪悪感を抱いて、その時のことをあまり覚えていなかった。しかしデイヴィッドさんがそのアクセルという騎兵隊隊長に作戦を伝えて、残る帝国兵を討ったということは何となく覚えていた。


「そのアクセルという者が、ここを襲った兵士や街の者に乱暴を働いていた輩を捕縛しておりました。また、木っ端の兵士達は標的であるその男女の2人組を有力貴族ではないかと予想立てておりましたので、恐らくは一昨日に行われた王弟の反乱によって王都より逃げ出した反王弟派閥の有力貴族なのではないでしょうか?」 


「なるほど……」


「アクセルや都市長のロバート・ザッパはインゴベル国王陛下を支持していると思われますので、王都よりやって来た兵士達の意向と齟齬が生じ、このような封鎖、及び強引な捜索になってしまわれたのではと愚考します」


「じゃあさ、そのアクセルさんやロバート・ザッパ様が王都よりやって来た兵士を捕らえているのって、自分達は王弟派閥ではなく、国王派閥であると言ってるようなものだよね?」


「そうかと思います」


 そうであるならば、今後父さんの標的に、ここ小都市バーミュラーが加わることになる。僕が今後の動向を考えていると、入口から買い出しに行っていたスミスさんが戻ってきた。


「ザッパ都市長が動き出したぞ!!」


 ジャンヌの情報通りにこの小都市が動き始めた。


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〈都市長ロバート・ザッパ視点〉


「こんなことをして許されると思っているのかぁ!!?」


 ヴィスコンティ卿がわめき散らす。都市庁舎にある客室に卿を幽閉した為に、騒がれるのも無理はない。


 私は言った。


「最後の宿屋を調べましたが、そこに王女殿下はいなかった為に、封鎖を解きました。つまり、この都市に初めから王女などいなかった可能性が高いのです」


「そ、そんなこと!Aランク冒険者のことを信じられないのか貴様!?」


「閣下も信頼していない様子じゃありませんでしたかな?」


「くっ…それは……」


「それに数々の強引な捜索によって民達が我々を不審がっており、このままでは暴動の恐れがありました。今、帝国による侵略にあえば、この小都市は簡単に攻略されてしまわれます。それだけはエイブル陛下も本意ではないかと」


「このことは、エイブル陛下に報告させてもらうからな!」


 私はヴィスコンティ卿の部屋を後にした。


 これで良い。最初からこうすべきだったとは思わないが、これだけやってもマシュ王女殿下の居場所がわからないのは、あの護衛のファーディナンドが上手く立ち回ったからであろう。


 今から、王女殿下を保護することも可能だが、ファーディナンドはそれを信じない。せめてこの封鎖を早々に解除することが、今の私にできるマシュ王女殿下に対しての精一杯の行いだ。 


 ──それにしても……


 私はヴィスコンティ卿の部屋から歩き、今まで宿屋の男女2人組の男の方を収容していた地下牢へと向かった。


 ヒヤリと冷たいこの空間にいるのは、フースバル将軍より派遣された兵士、その数凡そ200名。部隊長のコーディーが固く閉ざされた鉄格子の向こうにいる。


 コーディーは私に言った。


「わ、私や他の兵をどうするつもりだ!?」


「全員捕らえることができたら、糧食を持たせ王都へと帰そうかと思っていたが、残りの300名が行方不明なのだ。何か知らないか?」


「う、嘘をつくな!?食料が足りないからといって、口減らしのために殺したのではないのか!?」


「お前らのようなことを私達がするわけないだろう?しかし、本当に知らなそうだな……」


 私は眉をひそめる。

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